埋められる外堀
謁見の間。
それは国において最も華やかな演出が施される場だろう。
輝かしい功績を成した者を称える為、又は外交において他国の者に侮られぬ為。
この国ナーガディアンにおいてもその点には多分に漏れず華やかさをこれでもか、と含んだ一室である。
リュートは今入り口からアルバトロスが座る玉座へと伸びる赤い絨毯の上を歩いている。そして事前に着るように申しつけられた黒を基調とし青、白、赤で紋様が散りばめられ、その荘厳さを伝えるかの様ないかめしいコートを身に纏っている。その表面には漆黒の鱗で覆われているようにも見える。普段身につけている黒のコートよりも質も良く防備の面でも優れているだろう。
(どうしてこうなった)
そう、なんで俺はこんな所にいるんだよ。目立ちたくなんて無いぞ俺は!等とこっそりとぼやきながらリュートは一人が赤絨毯の上を歩いている。
大剣を下賜するに辺ってアルバトロスは条件をつけた。
1つ。大剣の下賜は謁見の間にて行う事。
2つ。王女の護衛に辺りこちらが用意する服を身につける事。
そう条件を提示されたリュートは承諾し今に至るのだがリュートの心中は平静……所の話しではなかった。
その謁見の間には件の国王アルバトロス、王女アリアを始め執政官や騎士が大勢集っていた。リュートは知るよしも無いが参加が可能な者は全て集められていたのだ。
そうして好機の的となっているのだリュートがぼやくのは仕方がないだろう。
周りを見ればこそこそと皆小声で話している。その目には好意の目、好奇の目、そして僅かばかりの嫌悪の視線がリュートを貫く。
もはやリュートの目はやるせない表情を映し出し半ば投げやりである。やはり受けるんじゃ無かったか……そんな気すら起こしている。
何故このような儀式のような物が必要かリュートには分からなかったが。この国も一枚岩ではないのだな。そう頭の片隅で思いながら玉座の手間まで歩を進め、王を見る。
庭師の姿でいたときとは違いその顔は威厳にみちている、なるほど立場を考えちゃんと顔を使い分けている訳だ、そうリュートは思う。俺にはできないがな……そう考えながら。
そして跪く。権力者に媚びへつらいはしないがこれは儀式の一つ。礼儀として行わなければ国王の顔に泥を塗る。遠い昔作法についてもある程度手ほどきを受けておいてよかった。今は傍にいない老人の顔を思い浮かべながらリュートは思った。
「この者。ダイガルにおける異変にて多大な貢献をした者である。領主の悪事を暴き、我が国へと助力を求めた虎人を助ける為寡兵を持って10倍を超える領主の軍を止め。その義を持って虎人達を救った」
王の傍仕えが書状を開くと功績を読み上げる。
「我が国は人材に不足している。亜人としても強力な力を持った虎人はこれから我が国へと多大な貢献をしてくれるであろう」
「我が国の繁栄とダイガル領主の裏切りにより貶められる筈だった国を救うという功績を称えて宝剣カタルシスを下賜する事とする」
そう言って巨大な幅広の剣を二人の騎士が持ちリュートの元へ運んできた。
明らかに巨大なそれは180を超えるリュートに迫る程の大きさだ。
その巨大さ故か鞘は無く。銀色の刀身に黒色の紋様が浮かび刀身の根には魔力の伝達を良くする為か中心に巨大な魔石が一つ。その魔石を十字に囲むように補助的にやや中心より小ぶりな魔石が埋め込まれている。
重量があるせいか二人で支えながら運んでくる。
「ありがたく」
そう言ってリュートは大剣を両手で受け取ると柄を持ち、ぐっと持ち上げる。
その大剣はまるでリュートにあつらえたかのように手に馴染み。重さも丁度よかった。
ほう……そう漏らし。かつて失った大剣を超えるであろうそれを持ち胸が疼くのを堪え背中へと納めた。
ただ大剣を背負っただけの事。ただそれだけの事だが周りからはどよめきが起こる。
新たな大剣を得た興奮を置いてけぼりにリュートは胸中に冷たいものを感じた。
茶番だ。
そうリュートは思う。何の為にこの儀式を行ったのか?先の口上も取ってつけただけだ。国への多大な貢献などそこに有るはずも無く。功績を得たから下賜するのではなく、下賜する為に功績をつけた。内容からしてもありありとその場の者は分かっている。だがしかしそれでも誰も意を唱える者はなくその場にある何かを見ている。
分からない。その感覚は不快だ。かつてグレイと言う青年は分からないまま前へと進み失敗した。リュートはその分からないと言うことは好きではない。だがここで明らかにする事はできないだろう。敵意が無いのは分かるがいずれ明らかにする。そうリュートは心に決めた。
そうしてリュートは新たな相棒、大剣カタルシスを得るのだった。
「あまり機嫌が宜しそうではありませんね?」
ぽつりと目の前にいる金髪の美少女から高く美しい声が漏れた。
綺麗な声してるなこいつ。
そんな事はどうでもいいのだが。少なくとも先ほどまでの嫌な気分を洗い流しすような声に少し気分が良くなった。
大剣の下賜の儀が終わった後、リュートはアリアの部屋へと案内されていた。
そこには既にアリアの他にリリスが連れて来られ、二人で笑いながら話しをしていた。
そこへ案内されてやってきたリュートを見たアリアがそう訪ねたのだ。
「ああ、そうだな。姫さんには悪いが少々さっきの茶番にはうんざりした」
「それは……申し訳ありません。何せ宝剣を与えるとなるとそれなりの事はしないと行けないものですから」
別に姫さんが悪い訳ではないのだがアリアは申し訳そうに告げた。
大人げないな俺は。
15の女性に謝らせたのである。場合によってはひんしゅく物だ。
何か意図があるとすればアリアは知っているか?そうリュートは思う。その可能性は十分あるだろう。そして話せる事なら既にアルバトロスが話している。ならアリアに話しても無駄だろうとリュートはその話を切る事にした。
「いや、すまん姫さんが悪い訳じゃない。俺がまだまだ子供だと言うことだ。それよりリリス。良い子にしてたかい?」
「うん! お姉ちゃんとお話してたの!」
アリアの膝のうえでそう述べる。
その顔は満面の笑みといった所。本当に楽しそうだ。
「そうか。お姉ちゃんは優しいか?」
「うん、とっても優しいし綺麗だよ!」
「まぁ」
手を口にやり品良くアリアは笑いながらリリスの頭をなでた。その顔に裏があるようには見えない。
少なくともリュートにはそう思え、一先ずリリスを害する事はないだろうと判断するとアリアへと告げた。
「それじゃあ依頼が終わるまでは俺がお前の護衛をする。期限は一月毎に更新だな」
「は……い、よろしくお願いいたしますリュート様」
緊張しているのか恥ずかしいのか。ここにナターシャがいれば目つき怖いのでは?等と言われたであろう事にリュートは気づかない。
「ああ。様付けは入らない、というより姫さんが平民を様付けで呼んでどうするんだ?」
「あ……すいません。それじゃあ周りに人が居る時は呼び捨てにさせていただきますね?」
そういう問題ではないのだが……そう思いつつもいつか似たようなやりとりをしたな。そう思いそのままにすることにした。
「まぁいいさ。で、かといって俺がずっと張り付く訳にはいかないだろう。これからどうするか行動を決めておきたいが?」
「は……はい、就……就寝時以外は私を護衛してください。就寝の時はキファさんが私と共に部屋で過ごす事になっています」
「分かった。キファはもうすぐ来るのか?」
「はい、今は着替えに行っております」
着替え……まさか……
「キファにもこんな服を用意したのか?」
「よ……よくお似合いですよ?」
何故か声がうわずっている。
言われ再度自分の身なりを確認するがいくらなんでも尊大過ぎる服だろう。
「あ、もう着てたんすね~」
間延びした声。
その声に振り返る。だがそのキファを見てリュートは絶句する。
「あ! 似合います? 結構気に入ってるんすけど」
どうどう?似合う?等と言った表情と声でリュートへと告げてくる。
そういうキファの服は白を基調とし黒の混じるジャケットにショートパンツ。ジャケットの胸には虎を象った紋章をつけている。
「あぁ 似合ってはいるが……」
どこからどう見ても軍服だった。
「ああ、そう……でしたそれでリュート様に見て頂きたい物があるんですよ」
そうアリアは良いリュートの手を引いて部屋を出る。キファとリリスは後ろを着いてきている。どうでも良いが緊張はするのに手は引くのか等と思いながら。
そしてアリアに引かれてそのまま歩いて行くと
兵の訓練所だろうか。
広大なグラウンドにキファと同じ白色の軍服に身を包んだ男達が訓練をしている。
二本のショートソードを模した木剣を握り1対1で打ち合っている。
その数は20人程。
内一人は隊長格だろうか。一人白を基調とはしているが他とは違い装飾が施された服を身につけた者がこちらへと歩いてくる。
片目が眼帯で覆われている。
「久しぶりだな、といってもほんの少し前か?」
「ダガー、どうしてここにいる?」
そうリュートは目の前にいる虎人の長。
いつもの人の悪い笑顔を浮かべそうダガーは告げてきた。そして事の顛末を話していく。
「ああ、国王に挨拶に行ったらな。こうなった」
「どういう事だ?」
「虎人20人で軍隊といっても少なすぎるがな。そこのお姫さんの親衛隊って形になるらしい、一応白双牙って名前もあるらしいぞ」
リュートは唖然としている。それを目にしながらダガーは笑いながら告げる。
「白双牙の隊長が俺、因みに総指揮の権限はお前さんでキファがお前との伝達役」
「俺がか?」
「ああ、だから俺らは話しに乗った。忠誠を誓う主様が上に立つならなんら問題はねぇからな」
そういって片目を細めまた笑う。してやったりと言った顔だろうか。
リュートは頭痛を感じたような気がし、額を手に頭を垂れる。何が起きてるかはまだ分からないが外堀を埋められているようだ。
僅か20名では戦争等できようも無いが隊を作りリュートをそこに据えるとはどういう事なのだろう。
そうなると残り一人も何かしらあるのではないか?そう考えたリュートは口を紡ぐ。
「ナターシャは?」
「私はここです!」
と後ろから声がする。振り返り見ると白と赤を基調には変わりないが制服では無く騎士の服を身に纏っている。相変わらずスカートだったが……
「それで……お前はどうなったんだ?」
「はい、私は準騎士としてリュート殿に傍仕えすることとなりました」
「俺は騎士ではないが?」
「はい、ですが陛下はリュート殿に仕えた後騎士にすると」
何故こうなっている。リュートは考える。先ほどの儀でもリュートは功績の為剣を下賜すると建前をつけている。そこに騎士にする云々と言った話しはない。その為国に忠誠を誓って居るわけでもない。にも関わらずアルバトロスは小さくとも隊を与え準騎士を使わし騎士と同等の扱いをしている。
待遇が良い所の話しではない。護衛といえど一兵の一人としてみるならなんの実績もない傭兵。そんな者にこのような待遇をしてどうしようと言うのか。
「おお、居るようだな」
考えている内に時間が立っていたようでアルバトロスがこちらへと向かって来る。
そして睨むリュート。
「おい、色々とよく分からない事態なんだがどういう事だ?」
「うむ。聞きたいだろうと思ってきたのだよ」
謁見の間とは偉い違いだ。その笑顔は王ではない。
「それで説明してくれるか?」
「そうだな、単純に言うと1千人を簡単に一人で打ち倒す者を敵に回したくはない」
「信じてるのか?」
「信じておるとも。敗れた兵士達からの言質もとっているしな」
「で?」
「我が城内で帯剣する為には騎士かそれに準ずるもの、兵士で無ければならぬ」
少々芝居がかったような声で残念ながら、と見えるような仕草でそう告げてくる。
「だがそうなると弊害が出てくる。誰か他の騎士や隊長がお前に命令するとも限らぬからの」
「そこでだ。お主は我が国の客将と言う形で迎え入れた形となる。そして形ばかりかもしれぬがその隊をお主に預ける。護衛するに当たって人手が居る事もあるだろう一人では護りきれない事もあるやもしれんしな、無論契約は契約だ。1月事に更新するかどうか判断してくれて構わない」
その話しには納得できる。いくら強かろうとも分断されれば終わりだ。ならば手勢は多い方がいい。
「分かった」
まだ腑に落ちない事はあるがそれ以上は話さないだろうとリュートは一先ず納得する事とした。
「うむ、ではこれからよろしく頼んだ」
「ああ」
そう言ってアルバトロスは去って行くのだった。




