王城での対話
目の前には王城が控える。
依頼斡旋所を出たリュート達はそのまま王城を目指した。王都ナーガディアンの中心そこに王城がある。建国以来王城を護ってきた城壁はやや古ぼけてはいるがそれが趣を醸し出している。
勿論王城はかなりの面積を誇るのだが、その大きさは他の国と比べれば小さい。
かつての共にあった家族と旅をしたリュートは他国の王城を目にした事がある。
その王城は今目の前にする王城よりも一回りも二回りも大きく荘厳に見えた、それと比べればナーガディアンの王城は簡素とも言えるかもしれない。
だがその質素さがリュートには好ましかった。王城の大きさはそのまま国の権威を象徴する、だがこの国はまるでこれ以上は必要ない。必要なものを必要なだけ、分不相応なものは必要ない、そう主張しているような気がする。
と、色々と王城を見た感想を頭に思い浮かべながらリュートはそのまま城門に佇む兵士へと声をかけた。
「すまないが依頼を受けて来た。面会をお願いできるか?」
依頼書を兵士へと渡すと兵士は「分かりました。確認しますので待っていてください」とそのまま中へと入っていった。リュートの知っている兵士よりも随分と丁寧に対応してくれた。
「お城に入れるの~?」
入ってみたかったのだろうかそうリリスは目を輝かせうきうきしているようだ。
「ああ、多分な。依頼されたんだし話しを聞きに来いと言うことだしな。そうだろう」
リリスの頭を撫でながら答えると今度はナターシャが呟いている。
「王城……騎士になればここが私の職場に……」
ぶつぶつと口元を緩めながらにやついている。
騎士になった自分を想像しているのだろう。
帯剣した剣の柄を握り締め一人妄想に耽っている。
そんなナターシャにリュートはしっかりしろ……などとは言わない。いつまでも構って貰えると思うなよ。とばかりに目を背け言葉は掛けない。
「それで、あたいらも一緒でいいんすかね?」
キファは王城にはさしたる興味がないようでリュートへとそう告げる。
「どうだろう。兵士が戻って来たときにでも聞けばいいだろ」
「そうっすね」
質問事態さほど気にしていなかったのかのようにキファは軽く答える。
だがキファの心中はそうではなかった。
リュートに忠誠を誓ったからこそリュートの身に何かあれば体を張らなければ行けない。
情報が不明確なまま王宮へと入るのだ、しかもダイガルでの一件が今回に繋がっている事は想像に難くない、
リュートの力は知るところだが何かあればリュートにもダガーにも顔向けできないと一人飄々としながらも警戒を緩めてはいなかった。
「依頼書の確認が終わりました。こちら案内しますから着いてきてください」
戻った兵士がリュート達へと告げた。
「この子達もいいか? 仲間でな」
「ええ、構いません。では案内します」
兵士はそう言って歩きだすとリュート達はついて行く。
城門の中へ入れる。とリリスとナターシャは喜んでいる。
そして、中へと入ると一瞬の内に中の広さに驚愕すると驚きに目を輝かせていた。
他国と比べて小さいといえど王城だ。かなりの広さがあるだろう。
色とりどりの花が開き整備された道沿いに華やかに花が立ち並ぶ、リリスは勿論ナターシャは騎士を目指しているが女性であることに代わりはない。その華やかさに目を奪われている。
王と話すのなら謁見の間であろう。だが案内する兵士は王城へと入らず庭へと歩きだす。そのまま案内されるまま進んで行くと一人の男が庭の手入れをしていた。
「陛下! 客人を連れて参りました」
その庭の手入れをする男へと兵士は敬礼する。
「おお、そうか、ありがとう。下がって良い」
「は!」
そう言って兵士一礼するとその場を立ち去っていった。
陛下?
ナターシャとキファは陛下と呼ばれた庭師を見る。
その男は体に庭師が着るようなエプロンを身につけ邪魔になるのだろう長い髪を後ろでくくっている。歳は40を超える程だろうか皺ができはじめているのだろう顔からは穏やかさがにじみ出ている。髭が威厳を訴えてはいるが如何せん身につける服が庭師の服だ。とても陛下と呼ばれる者の姿とは思えなかった。
「はは、国王にみえんかね? 余もそう思う」
笑顔でそう4人に告げる。
「王さま~?」
リリスはこてんと首を傾け国王と呼ばれた者に訪ねる。
「ああ、そうだ余がこの国の王アルバトロスだ。依頼をの件で来てくれたのだな。さぁ立ち話しもなんじゃ。そこにある椅子に座るが良い。直に娘も来る」
そういって庭の中央、テラスの様になったそこを指さすとリュートは背負った木剣を下ろすと従い席へと着いた。
それを見たリリス、ナターシャ、キファが順次席に着きリュートに向かい合う形でアルバトロスが席へと座った。
「今茶を用意している。それがくるまで庭の眺めでも見るといい」
言われ、リュート達は庭を眺めている。ナターシャは一人だけいつか騎士へとなった事を想定してか。アルバトロスの顔を目に焼き付けようとしていた。
「お父様?」
そうしてる内に一人の少女がやってきた。ナターシャやキファよりも若干年下だろうか、艶があり腰まで伸ばした綺麗な金髪に碧眼。整った顔立ち。雪の様に白く透き通った肌がその顔と相りまだ蕾である少女にもかかわらず男の視線を縫い止めてしまうだろう。その線の細い体やおっとりした目元は世の男性から護りたいと思わずには居られないだろう。
そんな少女は豪奢な白いドレスを着、その手にはお茶の用意でもしてきたのだろうかティーセットを持っていた。
「うむ。皆に茶を。隣に座りなさい」
「は……はい」
そういってリュート達へとおそるおそるお茶を差し出した後ぺこりと会釈をした後アルバトロスの隣へと座った。
「娘のアリアだ。見て分かると思うが少々恥ずかしがり屋でな」
そう紹介を受けると確かにアリアは恥ずかがりなのか顔を赤くし俯いている。
「しかし王女が給仕をするとは変わった国だな」
リュートは物怖じせずに訪ねる。なんでため口なんですか!と言わんばかりにナターシャが顔を驚愕に染め、目を見開いていたが……
それを見るアルバトロスが答える。
「口調は気にすることはない。そうだな。他の国ではそうは行かないかもしれないがね。この国では割と自由だ、娘が給仕の真似をできるくらいにはな」
「そうか、つくづく変わった国だな」
「ああ、そうだろう。だが余は気に入っている」
くっくっくと笑いながらアルバトロスは答える。
「俺もだ」
それを見たリュートも笑顔になる。含みはない。心の底からそう告げた。
「うむ、それで依頼の話しだがな。書かれている通り娘の護衛をして貰いたい」
隣に座るアリアは一瞬ビクっと反応し身を縮こまらせている。緊張を深めてしまったのかもしれない。
「詳細も何もあったものじゃない依頼だったが詳しく聞けるか?」
「特筆すべきものは何もないのだ。ただ娘の身の危険があれば護って欲しい1千人を一人で倒すような男だ。それだけの強さの者が娘を護るなら安心できるだろう?」
(やはり知っていたか……)
「危険が迫っていると言うことか?」
アルバトロスはその言葉を受け一人考え込んでいる。話すべきか。そう思ってるのかもしれないとリュートは勘ぐる。やがてアルバトロスはゆっくりと語りだした。
「間もなく戦争が起きる。いやもう水面下では起こっているとみていい」
その答えにナターシャとキファは驚愕する。キファは特にそうだろう。未だこの国へ安住を求めて辿りついて日は浅い。戦禍に巻き込まれるかもしれない。長く放浪の生活をしてきたキファは安住の地を失する。それが怖いのであろう。
「ミクトランテ帝国か?」
リュートは驚く事なくアルバトロスに訪ねる。予想はしていた。と言うことだろうか。
「うむ、5年ほど前からミクトランテ帝国は辺りの国々を侵略している。徐々にその侵略を進め、今ではこの辺境の国にまで届くようになっている」
ナーガディアンは大陸の中でも辺境大陸の地図上最北西へと位置する。周りにある周辺諸国も小国が並び、経済面、技術面共に東に位置するミクトランテ帝国。さらにその南へと位置するアルトリーゼ国の二大大国には及びもつかないだろう。
「ミクトランテ帝国はアルトリーゼ国と小競り合うように争っていたのじゃがな5年ほど前から西方へと手を伸ばし始めた。そしてその勢いは止まらず数多の小国を呑み込み辺境であるナーガディアンまで呑み込もうとしている」
リュート達は黙って相づちを打ちながら先を促す。
「それでじゃ、一度アリアが攫われそうになった事がある。その時は事なきを得たがまた無いとも限らん。だからお主に依頼したというわけだ」
「戦争に参加する事は?」
「そこまではいわん。戦争は戦争屋に任せておけば良い。余や騎士、兵達の仕事だ」
「そうか……」
それを聞くリュートは一先ず安心はするがこの依頼を受けるかどうかは迷っていた。護衛となると自由が制限される。リリスへと時間を掛ける事も少なくなってしまうのだそれがリュートには懸念であった。
「あまり良い顔はしておらんな。所でお主武器はその木剣だけなのか?」
アルバトロスはリュートの傍に置かれた木剣を見てそう告げてくる。
「ああ、大剣が得意な得物なんだけどな。これくらいの大剣はまず手に入らないのと魔力に耐えられる剣がないんだよ」
成人となったリュートの魔力は途方も無い魔力と身体能力を持っている。その力に耐えられる武器が無いのだ。
「では報酬の前金として大剣を与えよう。お主に合う大剣がある」
「お父様? まさかあれを下賜するのですか?」
アルバトロスがそういうとアリアが驚いたように声を上げる。
「ですがあれは建国以来の宝剣では?」
「扱える者がいない宝剣などあっては仕方がない。この者以外に振れるものなど居ないだろうからな」
「ですが……」
「いいのだ。アレはこの者の手にこそ収まるべきものだ」
そうアルバトロスは力強く言う。そこに何か感じたのかアリアは考えた後、首を縦に振った。
「分かりました。お父様がそういうのでしたら」
「ああ、可愛い娘に一騎当千の護衛がつくのだ。それくらい安いものだろう」
「それでどうだ? 引き受けてくれないか?」
「聞くが今周りにいる者は俺の仲間だ、俺が護衛になると王城で生活を余儀なくされるんだろう? 他の者はどうなる? 特にこいつは俺の妹だ。まだ手もかかるし放ってはおけない」
「うむ、それなら娘の友として傍に居てくれれば良い。娘も年頃だが城の中に閉じこもりっきりで友人もいないからな」
「お友達~?」
「ああ、そうだ。娘と仲良くしてくれるか?」
「うん!」
そういってリリスは席を立つとアリアに挨拶した。
「リリスです。よろしくおねがいします!」
明るく無邪気な声でそう挨拶する。
受けたアリアはくすりと笑うと緊張が少し解けたのか、ほほえみながら同じく席を立ちリリスへと返礼した。
「はい、アリアです。よろしくお願いしますリリスちゃん」
そういってぺこりと挨拶する。
「ふむ。概ね好感触だと思うのだがな。どうかね? これでも引き受けてくれんかね?」
そういってアルバトロスはリュートへと訪ねた。リリスへとリュートは訪ねてみるが「アリアお姉ちゃんと一緒に居られないの?」 と上目使いで応えて来る。すっかり外堀を埋められてしまった。そうリュートは思わずには居られないが。悪い話しではない。探しても見つからない自分の武器を得られるかもしれないしリリスも一緒だ。
「後一つ条件をつけても?」
「ふむ、以外に欲が深いな、言ってみたまえ」
本当にそう思ってる訳ではないのだろう、茶化すように笑いながらアルバトロスが返す。剣はリュートが望んで条件がついたわけでもないのだから。
「こっちの黒髪、ナターシャだが騎士を目指している。実力は冒険者でCランク相当だが騎士見習いからでもいいから使って遣って欲しい」
その提案にナターシャが驚く。まさかここで自分の夢を後押しして貰えるとは思ってなかった。
「ふむ。我が国は人手が不足している。こちらとしては願ったりだがナターシャ殿はそれで良いのか?」
「は……はい! まだまだ未熟なれど騎士を目指しております。よろしければ末席に加えて頂ければ……」
そういうと若干ナターシャの目が潤んでいるようにも見えた。感激に打ち震えているのだろうこっそりと拳を硬く握っている。
「よし分かった。それでは騎士見習いとして働いて貰う、それで依頼を受けて貰えるか?」
「ああ、分かった依頼を受けるよ」
だがリュートは懸念した。都合が良すぎる。ほぼこちら条件を飲みこちらが動けるように国王が環境を整える。いくら強いといってもたかだか一人の男、それも書面でみただけにすぎない男の為に。
アルバトロスはじっと木剣を見ていたが何かあるのだろうか。
しかしリュートとてこの国は気に入っている。亜人にとって理想とも言えるこの国がなくなるのは困る。
リュートは過去亜人としての苦労を味わった二人の少女の顔を思い浮かべ。この依頼を受けるのだった。




