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歩みゆくは魔王か英雄か  作者: mebius
リュートと言う男
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不明瞭な依頼

 静寂の支配する部屋の中、一人の男が椅子へ座っている。

 部屋は大きく、趣向の凝った飾りが幾つも備わっている。


 顔に皺ができはじめた男は40の頃か、ウェーブの掛かった金色の長髪に威厳を思わせ、着る服は豪奢そのものだがそこに下品さはない。

 その豪奢な部屋、服装、それらに負けず劣らず男が放つ雰囲気は威厳と品格を伺わせる。

 


 実の所男は質素を好むのだが、立場を考えるとそうも言えずその豪華な服、豪華な部屋で仕事をこなす日々だった。

 そんな男の手には一つの報告書。それをじっと見据え身動ぎしない。

 机には既に幾つもの処理した書類の山ができ上がっていた。

 様々な案件が書かれた書類を全て短時間で終わらせていた男はその一枚だけはなかなか処理しようとせず何度も読み返していたのだ。


 不意にその書類を机へと置くとため息をつく。

 ダイガルでの山賊討伐の一件。

 男が読んでいるのはその顛末だった。


 領主を邪教徒と認定する為の調査結果、それは良い。

 だがそこにはにわかには信じられない情報が書かれていた。


 一人の男について。


 業を煮やした領主により兵1千が派遣された際、ただ一人虎人に味方をした男。

 曰く兵1千を前に単身立ちはだかりこれを撃破。

 

 特徴から先に国より依頼に出した冒険者の特徴と一致する。

 尚その際の死傷者はゼロ。

 


 兵士1千人を殺さずに打ち倒した男。



 そう、普通では信じる事はできない。

 だがその男はその情報には信じるに足りるだけの心辺りがあった。

 

 ――使えるかもしれん。


 男は背もたれへと体を預けると天井を仰ぎ見、考えなければならない未来へと想いを馳せる。


 これから立ち向かわなければ行けない困難。

 それを思うと食事も喉が通らない程暗い気持ちとなり不眠不休で解決策を模索していた。

 だが答えは出ず時期は差し迫ってきている。

 

 ――光明が射したかもしれん。


 男の想像通りであれば。



 男はそう思い立ち上がると部屋を出るのであった。





―――☆―――☆―――☆―――





 はっくしょん。と大きなくしゃみが出た。

 鼻をすすり、横になっていた男――リュートはソファーから上半身を起こすと座り直した。


 「あ、起きたんすね。今朝食作ってるんで待っててください」


 台所から声が聞こえてきた。

 ショートカットの金髪をゆらゆら揺らしながら告げて来た。

 少女達三人が台所で料理をしているのだ。


 肉を焼く香しい匂いがリュートに鼻腔をくすぐる。食欲を刺激されたのか寝起きにもかかわらず腹の音がなった。


 食事の用意ができるまでは直だろう。

 そう思ったリュートはそのままぼりぼりと無造作に頭を掻くと天井を仰ぎみ、こうなった状況を考えていた。


 このままではまずい。

 リュートはそう思っていた。


 何がだろうか?


 今の状況が……だ。


 リュートはその日家のソファーで寝ていた。


 虎人のキファを長であるダガーに押しつけられ、渋々家へと連れ帰る事となったのだがリュートは元々リリスと二人で暮らしていた為、その家は小さい。


 そう、つまり部屋が足りないのだ。


 この家に居間を除くと部屋が二つしかない。

 リリスとナターシャは同じ部屋で寝泊まりしていた。

 リリスは喜んでいたが……


 そしてまた一人増えた。

 キファが来たせいで部屋が足りなくなったのだ。

 仕方なくリュートはキファを自分の部屋で寝泊まりするように言った。


 キファは虎人、リュートに忠誠を誓った身だ。

 だから部屋を使わせて貰うなどできないと断りソファーで寝ようとしたのだが女にそんな事はさせられんと説得し渋々食い下がられるがなんとかキファを説得したのだった。


 ナターシャが「では自分が使います」と顔を赤くしながらのたうち回ったりもしたがその辺りは不吉な予感がしたので断っておいた。



 しかしながら問題は解決していない。

 物理的に今の家では無理なのだから。

 必要がなかったからこれまで家を移ってはいなかった。

 だが家を手に入れるのは相応のお金が必要となる。


 最近は出費がかさみ家を買うような大金はさすがになかった。


 「できたっす! 食べてほしいっす」

 

 キファなりの敬語がそうなのだろう、リュートに忠誠を誓っている為かそんな口調であれこれリュートの世話を焼いていた。


 そうしてキファが料理を運んでくる。既に彼女達はリュートの健啖振りを知っている。目の前に置かれる量はとても4人で食べきれる量ではないだろう量が置かれている。


 少女達3人が身にあった量の食事をする中リュートは一人がつがつとものすごい勢いで目の前の巨大大盛り朝食を平らげていく。

 

 キファやナターシャ、リリスは自分が作った料理をそんな勢いで食べて貰えるのが嬉しいのか皆にこにこしていた。


 そして少女達三人が食べ終わる頃にはリュートもその巨大盛りを平らげてしまっていた。


 食べ終わるとキファはリュートに黒茶を差し出してくる。少女達には何が美味しいのか分からないがリュートが好んで呑む苦いだけの真っ黒なお茶だ。リュート曰く香りがいいらしいが以前リリスが呑んだ時等は顔いっぱいに苦渋を出して苦い~等と言ってそれ以上口にすることはなかった。


 それはともかく、食後のお茶を楽しんでいるとキファはリュートへともう何度目になるか分からない言葉を訪ねた。

 

 「しかし本当にいいんすか? 主様の部屋を使っちゃって」


 くしゃみを聴かれたからだろうかキファは申し訳なさそうにリュートの顔を伺いながら訪ねてきた。


 「ああ、構わない」


 何度も受け答えしたものだ。キファもそれ以上は追求しなかった。


 「それよりな、今日から俺も本格的に依頼を受けようかと思う」


 「本当ですか?」


 その言葉にナターシャは目を輝かせる。

 今は普段リリスとナターシャが二人で依頼を受けてこなしている。

 その甲斐あってかナターシャはCランクへとなったがナターシャはリュートと共に依頼をこなしたかった。


 そこから何か少しでも何か学べ事があるかもしれない。そう思うからこそリュートの参加は彼女にとっては歓迎すべき事だ。


 「ああ、新しい家を買わないとな」


 その言葉はナターシャとキファにとって嬉しい言葉だ。


 一人前となったら出て行くと筈だったナターシャはずっと入り浸っていた。

 何度か打診したがその度に懇願され結局出ないままであった。内心迷惑がられていつか追い出されるのでは無いだろうか、なんて事もナターシャは考えていた。


 その上でキファが加わったのだ。キファは兄であるダガーから主、リュートの世話を任されたがリュートは渋々と言った様子だった。

 いつ追い出されても文句は言えない中、「家を買う」その言葉はつまり二人を受け入れると暗に指し示していた。


 「あたいも行くっすよみんなで稼げば早いだろうし主人の手伝いくらいしない駄目っすから」


 本当に受け入れて貰えたと、キファは気合いを入れた顔でそう告げ、すぐさま準備を、と駆けるようにして部屋に戻っていった。


 「みんな一緒!!」


 リリスは嬉しいと言わんばかりに顔を喜色で染めあげている。


 「ああ、準備しておいで」


 リリスの喜びようが嬉しいのかリュートは笑みを深めそう告げた。











 「依頼が受けられない?」


 依頼斡旋所へと到着した4人は依頼をもって受付へと向かったのだが受付嬢に依頼を受理できないと言われてしまっていた。ナターシャが受け付けのカウンターに両手をだん、っと突き。対面へと座る受付嬢に顔を近づけてそう言った。


 「はい、リュートさんが来たら指定した依頼のみ案内するよう指示されているんです」


 申し訳なさそうに受付嬢はそう告げる。彼女は日頃リュートさんは?とリリスやナターシャへと訪ねてくる受付嬢だ。

 リュートの希望通りにならない事を告げなければいけないのは本意ではないのだろう、目を伏せて悲しそうな表情で身を小さくしている。


 「指定した依頼……ね」


 リュートの脳裏にはこの間のダイガルでの一件がよぎる。

 あの依頼は国からのもの、そしてダイガルの領主への調査も入った。

 それに伴う状況調査は行われているだろう。


 とすれば国からの圧力かであると想像できる。だが理由は何だろうか?

 手の平で口元を覆いリュートは一人思惑に耽ると続けて受付嬢が口を開いた。


 「申し訳ありません」


 あまりに肩を小さくし悲しそうに言う受付嬢が不憫になったのか。耽るのを後回しにしリュートは返した。


 「いや、いいさ。仕事だろうしな。それでその依頼と言うのは?」


 「はい、これなんです」


 そう言って差し出す受付嬢からリュートは依頼書を受け取り目を通す。


 そこに書かれているのは一点


 王女の護衛。


 だが有るべき筈のものはそこになかった。


 期日、金額、詳細。そこに記載されるべきものが書かれていないのだ。


 この国ナーガディアンの王女。アリア=ナーガディアン。その護衛の対象となる人物はおおよそ人前に出る事はない。本人の意志かはたまた王の意志か王城からは出たと言う話しが耳に入ったことはなかった。


 そして所々不明瞭な依頼書。


 会って話しがしたいと見るべきか?

 だが前回のように国からの使者を使わせれば済む話しだ。


 つまりこれは王女、または王が個人的に面会したいと言うことだろうか?

 そうリュートはその依頼書から考える。


 リュートはあまり権力者には近づきたくないとは思って居る。

 自らの力が特異なものであるとは理解している。場合によっては利用しようと近づいてくる者がいるだろう。

 リリスの子育て、その一点のみが今のリュートの目的だ。権力者の善し悪しは別としてもあまり面倒事は押しつけられたくない。だがだからと言って、恐らくは王、それに準ずる者が圧力まで駆けてよこしたこの依頼。断れば何があるか分からない。


 そうしてリュートは定住したこの国の事を考える。

 ナーガディアン。この地は亜人が住むには良い国だ。唯一と言っていいのだろうかミクトランテ教を排除し、国の気風も悪くはない。国からの使者の対応も他の国よりかはずっと良かっただろう。だからこそ虎人達はこの地を目指したのだから。


 リュートから見れば善政と言える。

 ならそれを敷く国王もそれなりな人物である公算は高い。


 なら……



 会ってみるか。



 リュートはそう判断しこの依頼を受けるのだった。


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