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歩みゆくは魔王か英雄か  作者: mebius
奴隷からの脱出
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檻を壊す少年

 目の前には少年が佇んでいる。

 12歳ほどの少年。ぼさぼさの長い髪に鋭い眼光が光っている。

 十人の監視員達は少年――グレイを見ている。


 監視長の大部屋。そこに血の滴る剣を持ちぼろぼろの奴隷服を身に纏い監視員達を睨んでるのだ。その少年はこの場にいてはならない者。

 

 その少年を知らない監視員はいない。大人の奴隷に混じりただ一人肉体労働要因にまかなわれている奴隷少年であり、有名でもある。


 少年には何度も鞭打ちを与えた、何度も何度も。それこそショック死を懸念する回数を超えて鞭打ちを与えた事もある。


 だが少年はいっこうに従順にはならなかった上、今は取り囲む事になっている。どうやってここまで入ったかは分からないが監視長を殺したのだ。現に首輪が外れている。


 少年が右手の剣をだらりと下げると腰を落とす。少年とは思えないその怒りの眼光が監視員達には不気味に映る。


 数の利はこちらにある、相手は少年。少々力が強いと言った所でたかがしれている。負ける要素はない筈なのにあの眼光を見ているだけで肝が冷えてくる。


 「おっおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 一人の監査員がその眼光に耐えかねたように雄叫びを上げて少年へと飛び出すと堰を切ったように次々と監査員達は少年に躍りかかった。








 少年――グレイは耐えていた。

 

 何に?


 怒りだ。


 何年耐えて来ただろうか……

 

 怒りに打ち震え、歯を食いしばり、脳裏に焼きついた家族の死を何度も何度も反芻した。何度も何度だ。

 レティシアとレイスに出会い、思い起こす回数は減ったもののそれでも何度も思い出した。



 今……壊す。


 すべてを壊す。


 自分を取り巻くこの世界を壊す。


 怒りですべてを塗りつぶす時だ。

 

 壊れて地面に落ちた首輪を見やる、自由だ。


 力は身につけた。後はこの胸の奥に溜まる黒い塊をすべて外に出し切るだけだ。


 首輪の外れた獣が今解き放たれた。


 


 


 

 「おっおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 一人が飛び出してきた。


 ライトニング。


 飛び出して来た一人を先制する、鉄製の鎧にはよく通る筈だ。


 光雷が迸り飛び込んで来た監視員がへとぶつける。監視員は後方へと大きくとばされ絶命する。まずは一人。


 多対戦では先制し流れを作る。レイスの教え通りに力を振るうグレイ。


 絶命した監視員の様子を見て蹈鞴を踏む監視員達へと飛び込む、立ち直る隙は与えるつもりは無い。


 飛び込み様にのど元へと一突き、グレイの身長では薙ぐのは駄目だ、肩部の鎧へと当たってしまう。高さが足りない。――二人


 ――足だ!


 すぐさま引き抜いた剣を隣に居る監視兵の太ももへと振るう。大人を超える膂力は少年とは思えぬ力で両足を切り飛ばした。


 「があぁ…」

 

 足を切り飛ばされれ前のめりに倒れて来る。その首を一閃。――三人


 左手にため込んで居た重力の魔力を解き放つ。


 グラビトンハンマー。


 瞬間的に増加した重力がハンマーとなって監視員達を押しつぶす。


 ぐしゃり。


 鈍い音を立てて三人がつぶれる。――六人


 後ろへと周り込んだ監査員が剣を上段からの振り下ろし。


 振り向き様剣をぶつける。


 ぶつかり合った剣が鈍い音を上げ共に折れた。


 咄嗟に飛監査へと飛び着き頭を掴む、魔力を装填した両手からライオットを流し込む。――七人


 行ける。戦える。そう思うのも束の間、それは油断だったのか。突如背中が熱が走り苦悶の声を上げる。


 「ぐぅ!」


 背中を切られたのか背中を伝う熱い血潮。

 先の監視員に飛び着いたのが功を奏したのか、深手にはなっていない。


 飛び着いたままの勢いに任せ監査員を押し倒しながも前方へと転がり逃げるグレイ。


 剣は無い、手に込めた魔力量はまだライオットを出す程度にしか溜まっていない。


 目指すは倒した監視員の傍に転がる剣、だが前方にいる背中を切った監視員が邪魔だし、目標とする剣の傍には監視員が居る。


 魔力装填を続けつつ前へと地を蹴り踏み込むと監視員が横に剣を薙いできた。


 とっさに身をかがめると首のあった位置へと剣が空を切る。

 そのまま前転で監視員の横を飛び越え転がりながら剣を握り後方にいた監視員の足を切り裂く。監視員は痛みで身をかがめその隙に首をはね飛ばす。――八人。


 振り向きざま充填された左手からライトニングを放ち、背中を切った監視員を焼き尽くす――九人


 残るは一人。

 

 監視員達の返り血で全身ベトベトになったまま残る一人を見る。無論魔力装填をしつつ。

 最後の一人は怯えていた。ガタガタと体を揺らし九人の生き血を滴らせた少年と目があうと後ずさり。振り返り逃げ出した。


 グレンは逃げ出したのを見て剣を投擲する。


 後頭部へと剣が突き刺さり音をたてて倒れる――十人


 



 グレン以外生きてるものは居なくなり静寂が支配した。

 

 目をつむり両膝を突く。


 心臓がバクバクと脈打つのを感じる。


 体が熱い。


 まだ壊したりない。もどかしい。


 行き場のない感情耐え切れず両手に最大までためた魔力を解き放ちつつグレイは咆吼する。


 「あぁあああぁぁあぁあぁぁあぁ!」


 両手から解き放てるだけの魔力を全て解き放つ。

 館全体を包み込む程の範囲にグレイの魔力が充満すると重力の重しが館をたたきつける。


 全てを跪かせるかのような重力の塊がグレイの黒い感情を糧に全てを飲み込んでいく。


 館全体から何か巨大な物を叩きつけたかのような音を立てて屋敷が揺れ最上階にいるグレイを巻き込みながら館が崩れは崩れた。





 薄く目を開ける。


 暗闇だ。


 館の成れの果てがグレイに被さり闇を作り出している。


 何もない、全てを壊そうとしたグレイの前広がるのは闇。


 グレイは瓦礫を払い除けて行くと光が漏れてくる。


 その光はまるでグレイを導いているかのようだ。


 無我夢中で瓦礫を押しのけて行くと光が広がりやがて照らされた視界が外の景色を映し出す。


 瓦礫の上へとたどり突いたグレイは仰向けに倒れる。


 空は白んじてきている。


 全力の魔力を放出したせいか体が気怠い。


 だがため込んだ心は軽い。一時的には過ぎないが黒い感情を全てはき出したかのようだ。




 ――これからどうする?このまま壊せるだけ壊してどこかで野垂れ死ぬか。


 ふとレティシアとレイスの顔がよぎる。


 ――あの二人………ずっと傍にいてくれた。


 グレイの世界はこの島と村で終わっていた。たったそれだけの小さい檻の様な世界。それが今日壊れた。


 ――二人を見て決めよう。


 そう考えグレイはゆっくりと立ち上がると船着き場へと歩きだした。


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