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歩みゆくは魔王か英雄か  作者: mebius
リュートと言う男
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山賊③

 ダガーは広場で一人考え事に耽っている。

 これからどうする?

 虎人達の長として強がってはいたが内心は不安だった。一歩間違えれば一族皆が死んでしまう。失敗するのではないか?その不安を隠しながらダガーは一人決断してきた。だがその強さが災いしてか頼れるものはいない。良い方法が無いか一人で考えては答えは出ずむしゃくしゃする。毎日がその繰り返しだった。


 そうして広場で一人悩んでいると斥候に出ていたキファが焦った様子で戻ってきた。


 「兄貴!」


 ダガーを見つけるとキファは息をつぐ暇なく告げる。


 「兄貴、まずい。軍がくる! ここを逃げないと!」


 ついに来たか……

 ダガーはこの時が来るのを恐れていた。だがそれは現実のものとなった。

 そんな恐れはおくびにも出さず、ダガーはキファへと告げる

 

 「俺らは逃げん。ここには病気の子供達も沢山いるんだ、ここで逃げれば子供の命もない」


 「だけど勝てる訳が……」


 キファの顔は不安を如実に物語っている。

 そう勝てる訳はない。ただの山賊で戦えるものすら少ない。そんな状況で勝つ事はできない。実の所兵士百人程が襲ってこればそれでお仕舞だろう。


 「やるしかないんだ」


 その言葉は誰へと向けたものだったのか。


 「子供達を隠し、俺達が囮になって子供達を生かすんだ! いいな!」


 キファは覚悟を決めたのか決意に満ちた目をし首肯返した。


 「行くぞ!」


 「皆に戦の準備を!それと牢屋に入れた者達を逃がせ。もう意味はない」


 あいつとは一度酒でも飲んでみたかったもんだがな。

 そうダガーは牢屋で話した変な男を思い浮かべると一人笑い。そして戦場へと向かった。




 ―――☆―――☆―――☆―――




 「何やら外が慌ただしいな」


 「そうですね。何かあったのでしょうか」


 リュートは横に寝そべりリリスに添い寝している。

 ナターシャはこんな所ではしなくていいのだろうに、師匠の前だからと言って正座を貫いている。


 「始まったんだろうな」


 そういってリュートはリリスを起こす。むにゃむにゃとリリスが起き上がり目をごしごしと擦っている。


 「今から虎人と領主との戦が始まるだろう、それでだ、リリスとナターシャはどうしたい?」


 「私ですか?」


 訪ねられたナターシャは考えている。


 「リリス領主さんが悪い人だと思う!」


 そうか、そういってリュートは笑みを浮かべるとリリスの頭を撫でた。


 「わ……私は……領主を討つべきだと思い居ます」


 「それじゃあ依頼と全く違う事をすることになるぞ? 場合によっては処罰の対象になるかもしれない、と言うか普通に考えるなら十中八九処罰されるな」


 「ですが、虐げられているものを救うのが騎士だと私は思います、例えそれで自らが処罰されるとしても」


 その瞳は決意に満ちている。それが自らの答え。

 リュートはその瞳をみて納得した。

 自分で決めた道。その道を進める事は尊い事だ。リュートはそう思っている。


 「そうか」


 そういってリュートは深く頷き立ち上がると体をほぐすように手を組み伸ばすと飄々とナターシャへと告げた。


 「じゃあとりあえず出るか」


 「どうやってですか?」


 キョトンとした目でナターシャがリュートを見ている。そんな事ができるなら早くやって欲しいものだろう。


 「こうやってだ」


 そうリュートは告げると丸太で囲まれた檻へと回し蹴りを放った。



 リュートの馬鹿げた身体能力から繰り出される蹴りが丸太へとぶつかるとべきべきと音を立て、丸太が……



 ふっとんだ。



 「へ?」


 ナターシャや周りにいた虜囚達がその光景を見て呆然としている。

 ナターシャの呆然とする顔は面白い。少々くせになりそうだな、そうリュートは思いながら先を続けた。


 「これで人が通れるだろう」


 「お兄ちゃんすごいすごい!」


 「ああ、凄いだろう」


 さわやかな笑顔でリリスへとそういうと頭を撫でる。


 「じゃあ行こうか」


 そういって外を出る二人を見てナターシャは


 めちゃくちゃだ。


 そう思うのだった。




 ―――☆―――☆―――☆―――




 「それで敵の数は?」


 ダガー達は森を下ると、ダイガルへとと続く一本道に陣取っている。

 森を出た平原、ここならば敵を一望できる。


 「大体1千人程のようです」


 「1千人だと!」


 いくら虎人が一般的な人間よりも強いとしても1000人は明らかに無理な数字である。

 実際の所キファ達虎人の中で戦えるのは僅か20人ほどしかいない。

 そしてたった20人で子供達を逃がす為森と言う地の理を捨て、このような場所に陣取ったのである。……自らが全滅し子供達を逃がす為に。


 「はい、そうです……それで子供達はなんとか森で見つけてあった洞窟へと移動させました。そこにまだ若い者も置いて来ました。運が良ければなんとか生き延びる事ができるかもしれません」


 そう斥候に放った虎人が告げた。


 「そうか……ご苦労」

 

 「兄貴、奴らが来たよ。もう直ここを取り囲むと思う」


 最早生きて帰れる術はないだろう。覚悟を決める必要がある。そうダガーは目を閉じ気合いを入れると他の者を叱咤する。


 「いいか、俺らは囮、ここで全滅する必要がある、逃げれば捜索に移った兵士が子供達を見つけてしまう。それだけはあっちゃならねぇ。おまえら覚悟はできたか?」

 そう言って片目で一人一人の顔を見ていく。その顔は


 「お頭、俺達はもう覚悟はできています!」


 「やってやりましょう! 一人でも多く殺してやります!」


 まさしく決意を秘めた目。ここで虎人達は死する。家族の為に、子供の為に。

 その思いを秘めた瞳は鋭く皆の顔は引き締まっている。

 それはダガーの残る瞳と同じ目、決意は伝播し。そして一つとなった。


 その目を見てダガー皆へ告げる。

 

 「良い覚悟だおまえら――」


 「お! なんとか間に合ったみたいだな」


 その決意の言葉を遮り、間の抜けた声が響いた。

 なんとも緊張感の無い声。

 明らかに空気の違うその声が辺りに静寂を作った。


 そう、例の三人……逃がせと命じた筈が何故かここにいる。


 「おまえ! どうしてここに!」


 静寂を破るはダガー、何しにきたんだこの野郎!そんな胸中だ。


 「いやな、俺の妹が領主をやっつけようと言うから手を貸しにきたんだよ」


 「な……おまえ! 相手は1千だぞ!」



 ふざけるな!

 ダガーは憤りを感じる。

 そんな事で命を捨てる者などいない。

 間もなくここには1千もの兵がくるのだ。


 「いや、ふざけてないさ」


 こんな状況だと言うのにリュートは焦る所かのんびりとしている様子だ。だがその声には力があり、何故かその言葉がダガーを押しとどめる。


 「あ……あぁ?」


 「お兄ちゃん、敵さんいっぱい?」


 「そうだよ。リリスは危ないからあっちに行ってなさい」


 「やだ! お兄ちゃんが見える所がいい!」


 「そうか、仕方がないな、おい、ナターシャリリスを連れて後方で控えておいてくれないか?」


 「で……ですが……」


 勝てる訳がない……ナターシャと呼ばれた女もその表情は強ばっている。

 1千だと今知ったのだろう。その顔は不安げだ。


 「まあ任せておけ」


 何をどうすれば任せられるのか1千もの兵士が攻めてくるというのに。そうナターシャの胸中で叫び狂っている。


 そう話している内に兵士が見えて来た。既に1000人が隊列を組みこちらへと規則正しい動きで


 1千人、対するは23人


 その物量差が否応にもその場にいるほぼ全ての者に死を連想させた。その場の二人を除いて。

 ダガー達虎人とナターシャは息をのむ。その圧倒的なまでの数と言う暴力が放つ気配。軍気とでも言うべきか、否応にもダガー達を圧迫する。


 「おお、来たか。仕事で来た所悪いが、全滅して貰うぞ」


 リュートが前へと進むと軍勢へと告げる。どういう肺活量をしていくのか。

 さして声を張り上げる訳でもないその声はその場の者全員へと聞こえる。


 その不敵な態度と言葉にあっけに取られたが兵士は状況を思い返しリュート達を嘲笑する。


 「はっ! 頭が行かれたのかこいつ。さっさと殺してやるから安心しろ」


 軍を率いる長だろうか。先頭に立つ一人豪奢な兵装を身につけた者が告げた。


 何挑発してるんだ!(ですか!)


 ダガーとナターシャを始めその場の者は皆同様に思ったという。


 「おい!」


 ダガーはリュートを見るとため息をつき諦めの混じる声で呼びかけた。

 

 「なんだ?」


 「もういい。気持ちは嬉しかったが前まで死ぬ事はない。さっさと逃げろ。三人くらいなら逃げられるだろう」

 

 こんな事で赤の他人が死ぬ事ではないのだ。

 死ぬのは虎人だけでいい。 

 そう思っての進言だった。


 だがそんな思い等我関せずとリュートは身の丈ほどの木剣を抜きダガーへと告げた。


 「お前死ぬ気だろう? そしたら約束が果たせないだろう?」


 約束?

 ダガーに心辺りはない。


 そういうとリュートは左手を挙げる。既に魔力が装填されていた左手から恐ろしい程の巨大なプラズマ級浮かび上がり、それが別れていく。その数はおよそ200程。


 突然の出来事に兵士達は戸惑う。

 それほど一瞬の内に回りには紫のプラズマ球が辺りに浮遊している。


 そしてその手を兵士達へと向けると一斉に200ものプラズマ球が兵士達を襲う。

 相手を殺さない程度にまで威力を分散させたプラズマ球は兵士達へと次々と襲いかかる。

 直撃を受けた兵士達は叫び声を上げ倒れて行く。


 その光景に周りのものが呆然とみるも柄の間リュートはそれを皮切りに木剣を片手に握ると地を蹴る。

 瞬く間に兵士の群れへ飛び込むと巨大な木剣を横薙ぎの一閃。


 

 たった一薙ぎ。

 それだけで密集した4~5人がべきべきと音を立て吹き飛ばされた。


 そして次の瞬間にはまるで時間でも早まったかのように一瞬の隙に別の兵士の前へと踊り出ると再度横殴りの一撃を放つ。

 だが兵士とて無能ではなかった。なんとか体勢の間に合った兵士が剣の腹で防御しようと剣を木剣へと合わせる。


 だが。


 その行為に何の意味はなく剣は折れ兵士の体は音を立て宙を舞った。




―――☆―――☆―――☆―――


 「おい!」


 虎人の長、ダガーはナターシャへと声を張り上げる。


 「うむ。なんだ?」


 「あれはなんだ?」


 「……私にも分からない」


 二人の目の前には想定を大きく超えたものが視界へ映し出されている。

 ただ一人木剣でもって兵士を蹴散らしていくリュート。


 その顔には笑みが浮かんでいる。

 その笑みは戦う者の凄惨なそれではない。

 穏やか、と言って言える程の笑みだ。


 兵士達の群れのなか。まるで散歩するような顔で木剣を振るっているのだ。


 それだけの余裕。

 その顔はまだまだ余力を残している事を物語っている。


 そしてそれが成す事実。


 そんな事ができるものは知らない。

 


 数ある英雄譚その中には似たような詩はあるだろう。

 曰く単騎で敵1千を足止めした。

 曰く単身敵軍へと飛込み名だたる騎士を討ち取った。


 そして今目の前では謳われる一節のような光景が繰り広げらている。


 だが英雄譚とは誇張されるものだ。人を楽しませる為に。

 名声を大きくする為に。


 だからこそダガーは信じられない、目の前に映るものはなんだ、と。

 そうしている内にも黒衣の男、リュートはものの数分で半数近くの兵士を打ち倒している。

 遠目でみてもかすむ程の動きで兵士達を翻弄し、軽々とその巨大な木剣を薙ぐ。

 その一閃はもう何度目になるだろうか、兵士達を成す術もなく吹き飛ばしていく。

 

 英雄。


 物語ではない。今目の前に映る黒衣の男は滅び行く虎人を救う為武器ともいえない木剣でただ一人敵を圧倒しているのだ。


 その映像は英雄譚所ではない。

 足止めですらない。


 ただ一人で千を正面から圧倒しているのだ。


 その姿を見てダガーは想う。


 ―――もしこれで俺らが助かるのなら。


 ダガーは一人胸中で一つの決断をしていた。

 




―――☆―――☆―――☆―――





 


 その光景を見た兵士達は呆然とする。


 あり得ない光景。

 痩身、そう見える黒ずくめの男が身の丈程の幅広く巨大な木剣を軽々と振る。


 そしてそれが織り成すは吹き飛ばされる味方陣。


 それはまるで人が成す所業ではない。


 兵士の目では捉えきれない、時折黒い影が見えたかと思うと男は現れ、木剣でもって兵士をなぎ倒す。


 それは何なのか。


 兵士達には理解できない。理解できないがゆえに兵士達は恐怖する。

 有るものは尻餅をつき、有るものは武器を捨て逃げる。


 そしてその恐怖は伝播する。他の兵士へと。

 人の群れとは良くも悪くも空気を生む。


 その光景を前に逃げ出す者が現れるのは仕方がなかった。


 だが。


 「わるいなぁ、逃がせないんだわ」


 黒衣の男が左手を掲げると先に放った巨大なプラズマ球を放つ。

 幾数にも分かれたそれが逃げる兵士達の背中を打ち、逃げ惑う兵士達は崩れる。

 

 

 一人の兵士は思った。

 

 魔王だ。


 漆黒の服を身に纏い一人で兵達を蹂躙する。



 振るう木剣はさながら魔王の鉄槌か。


 逃げる事すら許されない。

 兵士の士気は最早なく、

 立つ者の数も最早半数以下である。



 だが黒服の男は止まらない。縦横無尽に集団へと飛込み一薙ぎ。それだけで人の群れが吹き飛ぶ。


 そして、突如目の前に男が現れた。

 その顔には笑顔が浮かんでいる。


 そしてその笑顔を焼き付け、鈍い音を立てる自らの体の音を聞きながら兵士の意識は闇へと落ちたのだった。



―――☆―――☆―――☆―――



 爽やかな風が頬を撫で、熱した体を冷ます。

 だが先ほどまで目の前では確かに暴風が荒れ狂っていたのだ。


 ダガーは、虎人達は目の前で穏やかになった風を視る。


 右手に巨大な木剣を肩に背負い。

 横たわる兵士達の中ただ一人静かにそこに佇んでいる。


 黒衣の男は振り返る。虎人達へと向き直るとそのまま歩いてくる。


 その顔に浮かべるは微笑、

 起こした嵐が嘘のように、それは穏やかに微笑んでいる。


 そのまま目前まで歩いて来た男が言った。


 「おい、どうした? 皆顔が変だぞ?」


 目の前の出来事に驚かずに居られる者が居るというのだろうか。

 唖然と居った表情を浮かべる皆にそう男は告げた。


 「あ……あぁ……」


 ダガーが歯切れの悪い返事をする。驚きが未だ収まらない。


 「何を固まっているんだ?」


 自分の成した事が分かっていないのだろうか、

 男はダガーを見て不思議そうに訪ねてくる。


 「あ、嫌……助けてくれてありがとう」


 「お前なにいってんだ?」


 「え? そりゃおまえ?」


 「あれは邪魔だから蹴散らしただけだ」


 邪魔、ただその一言で済ませるのは傲慢なのだろうか照れ隠しなのか。

 後者なのだろう。ダガーと目を合わせず吐き捨てるように言ったのだ。

 ダガーはその姿が可笑しかった。

 

 「そ……そうか」


 「それより、約束な?」


 「や……約束?」


 何か約束したのだろうか……男が兵士達へ飛び込む寸前、「約束」そう言って居た。


 だがダガーに心辺りはなかった。

 まさか無理矢理約束と言って何か脅されると言うことだろうか?

 そう胸に不安が差し込みそうになった時、男は告げた。


 「酒だ!」


 「は?」


 「酒だよ、一緒に飲むと言ったよな?」


 一緒に酒でも飲んでみたかった。そう確かにダガーは言った気がするし思いもした。


 「酒か?」


 「ああ、約束だろ 邪魔は排除したんだから酒はお前が用意しろよ?」


 微笑を深くし、満面の笑みへと変えた男―――リュートはそうダガーに告げダガーも笑顔を返すのだった。



 



―――☆―――☆―――☆―――



 「ご苦労さん」


 リュートは虎人の集落の広場でたき火を前にナターシャへと告げてきた。


 「そうでしたね。私も疲れてしまいました」


 金輪際やりたくありません!とナターシャは裏でそう思いながら疲れた表情で返す。

 


 事の後ナターシャはリュートへと「殺したのですか?」と聞けばリュートは「嫌、全員気絶か動けなくしてあるだけだ」等と言うのだ。

 リリスが目の前にいるのに心に傷を負うかもしれん映像など見せられるか!との言だった。

 確かに1千人の骸が目の前に転がっていれば恐怖となるだろう。


 だがしかし!しかしだ!


 大変だった!

 その場のリリスを除く22人で兵士の武装を解いて回ったのだ。

 22人で動けない兵士の武装を解く。これは飛んでも無い重労働だった!


 事後処理があんなに大変だとは思わなかった。そうナターシャは嘆く。


 ナターシャが疲れ果てた理由はまさしくそれであった。




 そして一人武装の豪華であった隊長らしき兵士ををリュートは叩き起こし優しく告げた。


 「今度攻めてきたらこっちから領主の館まで攻め込むから。次は命は無い者と思えよ?」


 満面の笑みだった。


 ナターシャは知っている。

 あの笑顔は怖い。なまじ怒りをぶつけられるよりも怖いのではないだろうか。

 過去の地獄巡りの状況を思い出してナターシャは一人自分の体を抱きながら身震いした。


 そしてその想いは隊長も同じだったのであろう、恐怖を顔に浮かべながらコクコクと何度も頷くと。武装も放棄し1千人を連れて戻っていったのであった。



 「しかし領主はよかったのですか? 領主を倒さないと解決しないような気が……」


 ナターシャは疑問をぶつける。ナターシャはリュートへどうすれば良いか訪ねられた時領主を倒す。そう考えたのだから。


 「腐っても領主だからな、倒せば国を追われる。そうなれば虎人はナーガディアンに受け入れられんし、俺達も国を出る羽目になる」


 この国以外の亜人の扱いは酷い、ミクトランテ教徒による迫害、亜人だと言うことがばれれば狩られる、良くて奴隷と言った所だろう。


 「しかし領主が虎人を受け入れなかったのは事実。そのような者が領主としてのさばっているのは……」


 ナターシャには許せなかった。騎士を目指すナターシャの心がそのような不義は許せないと主張するのだ。

 

 「まぁ領主に関しては依頼人に報告するさ。なんせ国の使いが依頼人なんだからな。邪教徒と言うことにしておけば調査が入るだろう。俺達にできるのはそれ位だ」


 「リュート殿の力があってもですか?」


 「個人の力なんてものは大して役に立たん。できない事の方が普通は多い。ここで必要なのは個人の暴力じゃなくて権力の力だ、その力は強い いつかお前が騎士になって活躍すれば良くも悪くも知る事になるだろうな」


 そう話す二人の前に ダガーが酒樽を両肩に抱えて現れた。


 「お待ちどおさん。準備ができたぞ! たいしたもてなしはできないがな」


 「怪我の治療に使う為に用意してあった酒だからな、質は良く無いが度数は高い、これで我慢してくれや」


 「いいさ、酒の質よりも誰と飲むかだろう」


 そういってリュートは笑顔を浮かべる。


 「そういってくれればこちらも嬉しいな」


 そういってコップで酒をくみ取るとリュートへと差し出す。


 順次その場の残る20人へとダガーは酒を配っていく。

 リリスには果実を搾ったジャースを……だが。


 「さぁ!皆ここに居るリュートのお陰で俺らは助かった。そのリュートが皆と酒を飲みたいというのだ!皆ぶったおれるまで飲むぞ!」


 おぉおおおおおお!といった歓声の声を上げみなが手に持った酒を飲み干す。


 ダガーはリュートの対面へと座るとぐぃっと一息に酒を飲むとすぐ様酒をまた汲む。それをみたリュートも一気に酒をあおる。


 度数が高いのだろう、胸の奥がかっと熱くなり熱い吐息が漏れる。

 リュートの隣に座るリリスとナターシャもぐいっとあおっていた。リリスはジュースだが。


 「しかし、お前さん。変なやつだと思ってたが力まで変だな一体何者なんだ?」


 ダガーは気になり訪ねる、リュートの隣のナターシャもぴくっと反応している。


 言葉を聞いたリュートは笑みを緩めると星空を見る。


 「俺自身の事は良くしらないんだがな、俺は竜人と言う亜人らしい」


 「竜人……ですか?」


 ナターシャは気になり聞き返した。


 「ああ、俺以外にいるのかは知らない。だが末裔だとか、一人だけとかそんな話しは聞いた事ある。そもそもそんな亜人なのかどうかすら定かじゃなし他に見たこともない」


 「そうか……今では絶滅してしまった亜人も多くいるからな、悪かったな聞いて」


 ただ一人の種族。仲間が居ないと言うのはどういう思いなのだろうか。ダガーにもナターシャにも分からない。


 「いや、いいさ。寂しい訳じゃない、俺にはリリスもいるしな」


 な?っと言った様子でリリスへと訪ねるとリリスは満面の笑みでうん!と答えた。


 「リュート様!!!」


 ナターシャが声を荒げる。


 様?


 不審に思ったリュートはナターシャの顔を見る。顔が赤い。

 


 「リュート様には私が居ます! 一生忠誠を尽くします! ご主人様!」


 騎士はどうした?そう思うがリュートはナターシャの顔をじっと見る。


 「ええそうです! 未来の英雄を支える騎士! そして伴侶!」


 酔っ払っていた。完全にできあがっているだろう。

 見ればコップの中は空となっている。消毒にも使える程度数は高く、火をつければ燃えるだろう。

 それほどの酒を一息に飲み。ナターシャは完全に旅だっていた。


 目が据わり明らかに普段と違う、ナターシャはリュートの肩へとしなだれかかるとそのまま意識を失ってしまった。


 「お嬢さんはには強すぎたかね?」


 「そのようだ」


 リュートとダガーは目を合わせて苦笑する。


 しかし……忠誠ね。


 ダガーは思う。たった一人の竜人を目に。


 そのまま目をコップへと落とすと何やら考え込んでいた。


 「おい? どうした?」


 気になりリュートは訪ねるが答えない。


 答えないままダガーは新たに汲んだ酒をぐぃっと一息にあおると突如立ち上がり虎人達へと告げた。


 「お前ら! 俺はここに居るリュートに忠誠を誓う!虎人を救い。全滅し、やがて絶滅するしかなかった俺達を救ってくれたのはこいつだ! だから俺はこいつに忠誠を誓う!」


 静寂が支配した後、じょじょにどこからともなく声が上がった。


 「兄貴! あたいも忠誠を誓う!」


 「俺もだ! お頭! あっしらもついていく!」


 「俺もだ!」


 「俺も!」


 酔っているのだろうか。皆戦場で見た光景に想いを馳せながら声を上げる。


 「お! おい!」


 ダガーを制止させようとリュートは立ち上がりダガーを制止しようと立ち上がる。

 リュートは驚いていた。正直に言われると困る。

 今のリュートはただリリスと共に平穏に暮らしたいだけなのだから。


 「突然で悪いな。だが酔った勢いと言うわけじゃない。あの戦いの後ずっと考えていた」


 その表情は確かに真面目そのものだ。酔っている風でもない。


 「困るぞ、せめて皆に言う前に俺に聞いてから言うべきじゃないのか?」


 言葉を聞いてにやっとダガーは人の悪い笑みを浮かべた。


 「そうしたら断られるかもしれないだろう? だから事後だ」


 「だからってお前」


 「いや、頼む聞いてくれ。ここに居る俺らは命だけじゃない、俺らの子供達、虎人そのものを救って貰ったようなものだ。その恩を返させてくれ」


 そういってダガーはリュートの前で跪く。


 虎人は誇り高い種族だ。だからこそ受けた恩には相応の礼を捧げる。

 そしてダガーの返礼は一族からの忠誠だった。


 「いついかなる時でも、俺らはあんたを裏切らない。虎人の長ダガーの名にかけて誓う」


 「俺は何か事を起こすつもりはないんだぞ?」


 「構わない。これは俺らの気持ちだ。あんたに救って貰った命、あんたの為に使いたいだけだ」


 跪くダガーを見てリュートは見る。

 何か成したい訳ではない。

 だがそれでも良いと言うのなら仕方がないのだろうと。


 友人として接すれば問題はない……か


 そう思いダガーの想いを汲んだリュートは首を縦に振るのだった。






―――☆―――☆―――☆―――


 翌日、リュートはダガーへと声をかけると王都ナーガディアンへと向かうと告げ、病気になった子供を一人と供を一人連れてくるように命じた。

 声を掛けられたダガーは妹であるキファと子供を連れてきた。

 その二人とリリス、ナターシャを連れナーガディアンへと戻ったリュートは子供を医者へ連れていき治療を頼むと薬を作らせる。

 そのまま薬をキファに持って帰らせる事で子供達の病気を治したのであった。


 そこから話しのは早かった。

 子供の病気が治ると子供達をつれダガー達は王都ナーガディアンへと訪れる。

 既にリュートは国の使者へと話しをつけられており。依頼は破棄、虎人達はナーガディアン国へと迎え入れられる事となる。

 因みに領主の話を聞いた使者は使いを出しを調査がはいる。

 その結果邪教徒として認定された領主は地位を剥奪。この国から追われた。


 そうしてダイガルでの依頼は終息を迎えた。



 「何から何まですまなかったな」


 王都ナーガディアン、リュートの自宅へダガーは訪れそう述べた。


 「いいさ、これから返してくれるんだろう?」


 ダガーは感謝をつげ、リュートはそう答える。


 「ああ、俺らはこれからこの国で生活する為にまずは金を稼ぐ。俺らの力が必要になったらいつでも声を掛けてくれ」


 「ああ、分かった」


 声を掛ける事などないだろうがな。そう内心想いながらリュートはそう答えた。


 「って事で伝達でキファを置いて行くからな? こき使って遣ってくれ」


 そういうとキファがひょこっとダガーの後ろから現れる。


 「よろしくっす」


 そう告げると当たり前のようにリュートの後ろへと立った。


 「お……おい……?」


 「それじゃあ妹をよろしくたのんだぞ 主様よ」


 人の悪い笑顔を浮かべ眼帯の虎人は去って行く。



 やられた。


 強引な奴だ。そう思いながらリュートは隣に佇む少女と去りゆく眼帯の男を見て嘆くのだった。


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