山賊②
「で、この辺りが山賊の住処だと思うが」
領主の館を出たリュート達は山賊住まうという西方の森へと入り探索していた。
虎人は森を好む。
その卓越した素早さを生かすにはうってつけの場所。さしずめ森のハンターと言った所だろう。
地の利は向こうにある、そう考えるリュートは魔力探知の魔法を利用し慎重に足を進めている。
何時間も慎重に歩きようやく。人が密集している場所を探し当てていた。
「見つかりましたか!」
歩き疲れたであろうナターシャは小さく、しかし喜色を上げる。
赤と白を基調した制服は若干汗ばみ気持ち悪そうである。
だがその顔はお澄ました顔を崩さず。「私は全然つかれてませんよ~」とでも言うように胸を張りきりっとした表情を崩していない。
しかし傍から見ればその頭に葉っぱを乗せたままそのような顔をされても戯けて見えるだけなのだが彼女は気づかない。
「山賊さん捕まえます!」
シュタっ!とどこで覚えて来たのだろうかリリスは敬礼をする。
こちらはナターシャと違い全く疲れていないのか森の探索を楽しそうにしている。目を離すとリリスが色々と興味をもってあちこち行ってしまう為より時間がかかってしまったのはご愛敬であろう。
「そうだな、リリス、でもね捕まえるかどうかはまだ分からない。いいかい。もし討伐すると言うことになれば俺が右手を挙げるから攻撃はそれからにするんだよ? それまでは攻撃しちゃ駄目だ、例え向こうが攻撃してきてもね。ナターシャもいいな?」
いつもながらリリスへ告げる声とナターシャへ述べる声には違いがある。
私にも優しくしてください~!と内心思うがそこはナターシャだ、外と内を完璧に分けている……つもりである。
「分かりました!」
「あい!」
ナターシャも何故かリリスに習って敬礼をする。流行っているのか。
そうリュートは思ったが特に突っ込まない事にしておいた。リュートにとっては最早子供二人を預かる親の心境だ。
そうして打ち合わせを行いつつ三人は歩いて行く。
森の道無き道をリュートは迷わずに人の反応がある方角へと進む。
もっとも近い人の形を取った魔力反応、それが恐らく山賊の一味だ。
「すんすん」
「どうしたリリス?」
「あのね、猫さんの匂いがするの」
リリスは狐人と言われる種族だ。
その嗅覚は一般の人間よりも優れている。
風下だったのが幸いしたのだろう、虎人が猫だとすると今向かっている相手は目的の相手で間違いと判断できる。
「狐人というのはそんな事ができるのですね」
純粋な人族であるナターシャには分からない感覚だ。驚きを隠せない。
「うん! お兄ちゃんが前にいるとね! 凄く良い匂いがするんだよ!」
「それは……羨ましいです……」
そう言うとナターシャが顔を赤らめる。
ナターシャはリュートに服を借りた時の事を思い出しているのだろう、身悶えている。
「人の匂いで遊ばないで欲しいんだが、そんなんで良ければ後で嗅がせてやるから今は気持ちを切り替えろよ」
「本当ですか!?」
リュートは冗談で言ったのだがナターシャは本気と捕らえたようだ、
その目はかつて見た少女達の本気の目と重なり苦笑を浮かべた。
「まぁ構わんぞ匂い位減るもんでもないし」
ここがかつての青年と違う所だろう。
どうやら彼は羞恥と言う言葉を過去に捨て去ってきたようだった。
そう、こんな事で動揺するリュートでは無かった。だが……
ぼそっとリュートは「夜な夜な人の匂いを嗅ぐ変態騎士か……」そう呟くとナターシャはショックを受けて項垂れていた。
「お兄ちゃん。猫さん近づいてきたよ?」
ナターシャで遊ぶリュートを尻目にリリスが告げてきた。なんと言うことだろう。いつの間にかリリスが一番真面目に仕事をしていたとは。
「ああ、様子を見よう。さっき言ったことを忘れないように」
こちらに気配で気がついたのだろう目視できる所まで少女が近づいてきた。
少女、先頭で指揮を取っていた金髪の少女だ、恐らく斥候か何かにきているのであろう暫くこちらを警戒した後近づいてきたのだ。
「あんたらは何者だ?」
「旅の者でな。どうも迷ってしまったらしい」
まいったまいった、と戯けてリュート少女へと告げる。ナターシャとリリスには黙っているように言ってある。
「旅? どうしてこんな所で?」
「ナーガディアンに行く途中でな、俺と妹が亜人でな、迫害されてきた。もう一人の黒髪は俺の嫁だ」
びく!っと後ろでナターシャが反応した気配がする。ナターシャが嘘のつけない性格だと知っているリュートどうかばれませんように。と後ろに冷たい汗を掻きながら少女と対峙している。
「そうか、実はあたいらもそうなんだよ。だが近くにあるダイガルの領主に挨拶には行くな。あそこはナーガディアンの領地だがあたいらは数が多かった為挨拶しにいったんだけどね。受け入れを拒否され追われてきあげく、兵士達があたいらを狙っているんだよ」
あ~あんたらもなんだね~、と自分達の状況と似ていたからだろうか少女は同情の顔を向けながら素直に事の顛末を話していく。
「そうか、わざわざ教えてくれてありがとう、ではこれから王都へと行くのか?」
「それがそうも行かなくてな子供達が流行病で倒れちまったんだよ、それで移動できなくなっちまってね」
「そうか、大変だな」
「ああ、何の亜人かは知らないけどここであったのも縁だからね。疲れてるだろうし集落に来なよ。飯くらい食わせてやるよ」
人の良さそうな笑みで少女はそう提案してくる。
「ああ、それは助かる、嫁が無理をしていたからな。休めると助かる」
「そうか、こっちだ。ついてきてくれ」
そういって少女は先を歩き始めるとリュートはリリスと手を繋ぎ。ナターシャに声を掛け――
「嫁……嫁……私が……嫁」
――られなかった。何やらぶつぶつとつぶやきながら頬を蒸気させ、どこか桃色の世界へと旅だっていたようなのでリュートはナターシャを放っておくにした。
そのまま少女へとついて行くと森の中開けた場所へとでる。
森を伐採し広場を作ると共に小屋を建てたのだろうそこは幾つかのほったて小屋が散らばっている。中心にはたき火の後があり、そこで食事を取っているのだろうか鍋等の調理道具が置かれている。
ふむ、とリュートがそう辺りを見渡すと周りには多数の魔力反応、隠れるように配置されている。
恐らく遠距離から狙っているのだろう。
そうしてリュートが案内されるまま歩いているとぞろぞろと人が出てくる。
恐らく皆虎人なのだろう、その手には襲撃に備えそれぞれの得物を携えこちらを見据えている。
「さぁ、こっちだ」
そう言われるままにリュート達は歩いて行く。その集落の中央へと。
隠れた人々がリュート達へと取り囲むように動き退路を塞ぐと顔を表す。
包囲の完成だ。
「キファ? そいつらは?」
少女の名だろう、その名を呼び虎人の女が前にでてくる。恐らく彼が虎人を率いる男性、ダガーだろう左目に眼帯をしている。遠目では分からなかったが縦一文字に刃物の傷があり、そのせいで失明したのであろか、だがその眼帯と傷のせいでいかにも粗野と言った印象を受ける。
「兄貴、こいつらも亜人でナーガディアンまで逃げ延びてきたそうだよ」
「そうかい、なぁあんた。同じ亜人のよしみで逃がしてやりたい所だがな、そうも行かないんだよ」
残念だがな、その顔は他意なくそう見える。見た目とは裏腹に気の良いものなのかもしれないとリュートは一人思って居た。
ナターシャが警戒して剣に手を掛けている。
も~何やってるんですか?と言わんばかりにリュートを見ている。
なぜならリュートとリリスは特に警戒するわけでもなくのんびりと構えているからであろう。
「馬鹿なのか? その女は良いとしてそこのお前とガキ。のんびりと構えすぎじゃないか?」
若干のあきれ、おいおいといった表情でリュートを見ている。
「あぁそうだな。馬鹿なんだろう」
リュートは特に何か含む訳でもなく。ただそう答えた。
「お兄ちゃんは馬鹿じゃないよ?」
リュートと手をつなぐリリスはそういう。リリスはリュートが傍に居れば安心するからか全く意に介していないようだ。そんなリリスの頭をリュートは撫でながら告げる。
「とりあえず大人しくしてるから飯だけは保証してくれると助かる、武器も明け渡す。ただこの二人は少々不安がると思うしな、俺が見える場所に置いてくれると助かる」
「ふ~ん、俺らがあんた達を害さないとでも?」
「さぁ、どうだろう。そこの少女、キファだったか、から聞いた話は本当だと思うしな。子供達を置いて行かないでここで護ってるような者が利益にもならないのに人は殺さないと思っている。こちらには子供と言えるリリスもいるしな」
「子供の話しが嘘だったらどうするんだ?」
「それはないな、そこの小屋、子供が15人程寝込んでいるだろう」
そういってリュートは指で小屋を示す。
「そうかい、魔力探知の魔法も使えるんだなあんた」
「俺達が斥候の可能性を考えて外へと出したくないんだろう。俺達は大人しく捕まる。だから衣食住だけは約束してほしいな」
これから告げようとして居たことを全て言われたからだろう。ダガーはため息をつきながらリュートへと告げる。
「馬鹿といったのは謝る。お前さんやりにくい」
やれやれとリュートを見ながら述べた。
「そうか。なら案内してくれ、ナターシャ、リリス武器をここに置くんだ」
そう言われ二人は武器を地面へと置くリュートも背中の木剣を床へとおいた。
「拘束はするか?」
自分から拘束するかどうか聞いてくる等頭がおかしいのだろうか。
ダガーはそれがつぼに入ったのだろう。笑いだした。
「いや、お前さん面白いわ。拘束はしねぇよ。その代わりお前さんらは牢屋に入って貰う。似たような事があって何人か捕らえてるがな。心配しなくてもちゃんと飯は出す。暫くは辛抱してくれ」
「そうか、後でもっと詳しく話しをしたい。牢屋まで来てくれるか?」
虜囚が人を呼びつけるとは何事だろうか、あり得ない。武器を突きつけられ全く動じていない事といいその変な男をみてダガーはおかしくなってくっくっくと笑いを零す。
「分かったよ、後で話しに行ってやるよ」
「そうか、すまんな。それじゃあ案内してくれ」
決して虜囚が取る態度では無いだろう。泰然と武器を持った虎人の中を歩いて行くリュート。
リリスもリュートと手を繋ぎ機嫌は良く、鼻歌交じりに歩いている。一人ナターシャだけびくびくとしていたが……
リュートが入れられた場所は環境としては悪くない。と言うより木造の建築物に丸太を立てて作った檻の中と言った所であろう。風通しも悪くは無く熱気が籠もる事はないだろう。中には2人、同じように捕らえられているものがいるが安定しているようだ。事情を聞いて大人しくしているのだろう。
「あなた方もここで?」
「ええ、虜囚になって5日ほどですね。抵抗しても勝てませんし、事情を聞いて大人しく籠もっている所です、早く終わってく貰えればいいんですけどね」
「そうですね、無事終わる事を祈りましょう」
「そ……それで……リュート殿……この後は……?」
ナターシャはおそるおそる聞いてくる、リュートは騎士を目指す者がこんなに気が弱くていいものか、とも思ったが彼女が落ち込みそうなので口に出すのはやめておいた。
「そうだな、事情を聞き次第だが今の所依頼通りにこなすつもりは無いな」
「そ……そうですか……」
ナターシャは名を上げることを目的としている。だからこそ依頼通りには行かない事に落胆してしまうのだろう。
「で、ですが確かに受け入れを拒否され、子供達を護る虎人達を討伐する気にはなれません」
リュートが自分の声を聞け、そういったのを思い出したのだろうか。ナターシャは力強い声でそう言う。
「こういう事もあるのですね。自分の内なる声が任務をこなすな、そう言うことが……こんな時はどうすればいいんですか?」
「それはな――」
―――☆―――☆―――☆―――
「来てやったぞ」
ダガーは目の前にいる男へと話し掛けた。
斥候でもするのだろうか全身黒の服に黒いコート狼のような顔と髪は精悍さを伺わせる。
「あぁ助かるな、色々ともっと事情を詳しく知りたい所だったからな」
黒男(ダガー命名)はそう告げる。
とらわれの身なのに自分の身よりも事情を聴きたがるとは不思議な奴だ。ダガーはそう思う。今までの者は我が身を案じてばかりだったのだから。
「ああ、いいさ、俺らも今は暇だしな。しっかしお前さんのあの木剣なんだ? 重たすぎて運ぶのが大変だったぞ。あんなので殴られたら木剣でもいっちまうな」
虎人でもあんな重さの武器は扱えない。何者だろうかこいつは。そうダガーは思っていた。
「すまないな」
「まぁ謝る必要はないけどな、武器を奪ってるのはこっちな、それで何が聞きたい?」
「そうだな、子供達の容態はどうなんだ?」
へぇ、ダガーは内心思う。真っ先に牢屋に押し込めた者達の子供を心配をするとはやはりもって不思議であった。
「そうだな、発熱が止まらず嘔吐している、腹に痛みがあるようだな。俺らは医者じゃないから詳しくは分からない。しかも医者に診せようにも金がないんだよ。なんとかダイガルの領主に打診して貰えないか交渉してみたんだがな、やっぱりと言うかなんというか一蹴されて追い払われたって訳さ」
ダガーは一人ダイガルでの出来事を思い出すと悔しげな表情と共にそう述べる。よほど嫌な出来事であったのであろう声ににじみ出ている。
「そうか、所で俺は実はダイガルに一時いたんだがな、あんたらが襲撃した所をみた。街の人が食料を分け与えてるように見えたんだが?」
こいつは自分の身が惜しくないのか?
自ら山賊だと知っていた。そう告げているのだからたまったものではない。
「お前さん、ここでそれを言うか? ほんと変なやつだな。まぁ事情を知ってる者が何人かいるんだよ。話し合って食料を分けてくれる事になったのさ、領主のように俺らを追い出す者もいたが助けの手を差し出してくれるものもいた」
そういってダガーが苦笑いを浮かべながら黒男へと告げる。
「おしむらくは前者の者の地位が高かったことだな」
「違いねぇ」
ダガーは皮肉を顔に浮かべながら呟いた。
「それでお前らはこれからどうするつもりなんだ?」
「そうだなぁ。医者を呼ぶにも金はない、子供が寝込んで移動はできない、いつ兵士達がくるか分からないから人も減らせない、しかも俺らはお尋ねものになったみたいだからな、冒険者の討伐が何度か来た、勿論返り討ちにしたけどな。斡旋所を利用するのも虎人と言うだけで難しいし今更ナーガディアンに誰かを向かわせた所で無駄だろうな。お陰で八方塞がりだ」
そう事態は悪い方向へと進み道が閉ざされた。
今では王都へと言っても治療さえ受け付けられない可能性もある。
「ほぅ、子供達を見捨てれば助かる道はあるが?」
「お前さん本気で言ってんだったら殺すぞ? 落ちぶれても虎人は誇り高い、子供を見捨てる大人がいるなら俺が殺す。見捨てる位なら俺らはここで死を選ぶよ」
ダガーの残った片方の目が本気の意志を伝える。だが悪びれもせず黒男は告げた。
「そうか、すまんな。どう反応するか試してみただけだ。聞きたい事が聞けた、ありがとう」
その言葉を聞くとダガーはため息をついた。
「本当に変なやつだなお前さん。会い方が会い方ならお前さんとは酒でも交わして話したいもんだけどな、俺はいくぞ。そうだ、俺はダガーだ、お前さん名前は?」
「リュートだ。そうだな、いつか共に飲もう」
そう立ち去るダガーへリュートが告げると振り返らないまま手を振って去って行った。
―――☆―――☆―――☆―――
「どうされるか決まりましたか?」
ナターシャはこれからの先行きが不安だ。だがリュートが行くのだから私も。そう覚悟は決めている。
「ああ、だいたい俺の中で方針は決まった」
「と言いますと?」
「お前、領館の様子には気づいたか?」
なんの事かわからない、そういう表情でナターシャは首を振る。
「殺気立っていた。色々聞き耳を立てて居たんだがな、出兵の準備をしてる最中だろう」
そんな事全く分からなかった。そうナターシャは思う。やはり自分はまだまだなのだろう。そう思いながら話しを続けた。
「それでは攻めてくると言うことですか?」
「ああ、後何日かかるかは知らないが、斥候がここを見つければ攻めてくると思う」
「そうですか……」
「まぁその時を待とう。色々と動くには良いタイミングだろう」
そういってリュートはごろん横になり目を瞑り眠りだし、リリスも真似して横になる
肝が太いのか楽天的なのか、自ら決めた師匠は普通の神経をしていないと改めて思うナターシャだった。




