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歩みゆくは魔王か英雄か  作者: mebius
リュートと言う男
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ナターシャ③

 「弟子にしてください!」


 ナターシャはリュートに頭を下げていた。さして難しい依頼ではなかった筈の依頼を失敗し、このままでは駄目だと思ったナターシャはリュートへ師事を願いでる。


 因みに服は何時もの制服ではなくリュートのシャツにズボンを借りている。長身のリュートの服は手も足もあまりだぼついているのだがそんな事を気にしていられなかった。少々服から香るリュートの匂いには意識を取られたが……そんな服装のせいか締まらない。


 だがそうして頭を下げている。


 「だが、ただ初陣だからだったと言うだけだろう、慣れの問題だと思うがな」


 それもあるだろう。だがリュートが瞬く間に50匹もの魔物を切り捨てたのには違いないないだろう、しかも木剣でだ。あれだけの力があれば騎士になるのも容易いだろう。今は力をつけないといけない。そう彼の強さの一端を知ったナターシャは何度も頭を下げる。


 「今のままでは駄目なんです! どうかお願いします!」


 弟子にして貰えるまで動きません!その目が物語っていた。


 「まぁ、いいか。忙しい訳でもないしな」


 別にいいか。それくらいの感覚でリュートは告げた。


 「あ!ありがとうございます!!」


 「ああ、それじゃあ行くぞ」


 「と……どこへですか?」


 ナターシャに心辺りはない。だからその言葉の意味が分からず目をぱちくりと何度も瞬きをしている。


 「何って、服を買いに。お前あの制服しか持ってなかったろう。ところどころほつれてたしな。修復に出す、それといい女がいつまでも同じ服だけ着てるのも嫌なものだろう」


 いい女と言う部分にぴくりと反応し頬が緩むのを感じる。


 「お兄ちゃん、お買いもの?」


 「ああ、そうだ、リリスの服も買おうな」


 「やった~!」


 リリスはぴょんぴょんとその場で飛び跳ね喜びを体で表現している。


 「い……いいのでしょうか?」


 「構わん。俺の服じゃでかすぎて訓練すらできんだろ」


 「何から何までありがとうございます」


 「いいさ、その代わり馬車馬の如き働いて貰うからな」


 そうリュートは冗談交じりに笑いながら告げた。


 「は……はい!」


 そのままナターシャはリュートに連れられ三人で服屋へと訪れた。



 こ……ここは!


 女性服を専門に扱っている所なのだろう。だがナターシャには馴染みの深い服がある。貴族が来るような高級店。

 そういうお店だろう。一介の冒険者が来るようなお店ではない。ナターシャ自身貴族として没落する以前はこういったお店も利用して居たが今では見るだけだ。それが今店の中へと入り服を買うと言うのだから喜びも大きい、だが高すぎるのではないか。そう思う。


 おそるおそる値札を一つ取ってみてみる。


 ひえぇえええええ!!!


 ナターシャの心は凍り付いた。


 「す……少し高すぎるのではありませんか?」


 「そうか? 女には良い服を買い与えろとステラのばあさんに言われてな、よく分からんがこの店が良いというのでリリスの服はいつもここで買っている。店の者とも今では顔見知りだしな」


 常識があるのかないのか。一般庶民では手が出ないようにお店を平然と贔屓にしているのだ。その癖家は小さい。倹約家なのか浪費家なのかすら判断がつかないだろう。


 実の所リュートは無頓着なだけである。必要であれば使うし無ければ使わない。服に関してはリリスが喜ぶから気にせず使っているだけというだけなのだ。


 「しかし私には少々敷居が高いようなのですが……」


 そう!どれだけの黒パンが買えると思って居るのですか!ナターシャの胸中は黒パンでいっぱいだった。


 「気にするなといっただろう。お前のはリリスのついでだ。リリスと一緒に物色してこい。3~4着もあれば着回せるだろ」


 「はい……分かりました」


 気が引ける、気は引けるが嬉しいとも思う。そうしてナターシャはリリスに手を引かれ服を見ていく。


 「あら、リリスちゃん、お買い物?」


 「うん! お兄ちゃんが服を買ってくれるって」


 「良かったわね~。 お隣の人は?」


 そう言って店員はナターシャへと目を向けた。


 「お姉ちゃん! お姉ちゃんの服も買うの」


 「あら? リュート君の彼女さん?」


 似合いだと思ってくれてるのかな?そう思いながらもナターシャは否定するしかない。


 「い……いえ、居候で……弟子になりました」


 「そうなの。彼を狙ってる人は多いから気をつけてね。勘違いさせると後ろから刺されちゃうわよ」


 「は……はぁ……」


 そういえばリュートには特定の人はいないのだろうか、そうナターシャは思う。斡旋所の受付嬢も何やら頑張ってそうだが本人に浮いた感じはない。だが長身にその風貌、強いという事もあるし、服を買うと高級店へと連れて行く。狙われるのも頷ける話だろう。だがどうにもリュートは人を踏み込ませないような気がする。ナターシャの思い込みかもしれないが。


 「お姉ちゃん。これどうかな?」


 そういってリリスは薔薇色のワンピースを手に取り自分へと当てている。


 「ああ、白い髪によく映えて良いと思う」


 「うん! じゃあこれと~」


 リリスに悩むと言う言葉はないようだ。次は~等と言いながら次の商品を探しに行ってしまった。


 「あなたも服を買いに来たんでしょ? 色々手にとって見てね。リュートの連れてきたお客さんだからサービスするわよ」


 そういわれナターシャは値段に恐怖を覚えながらも服を選んで行くのだった。







 「本当によかったのでしょうか?」


 家へと戻ったナターシャがそう呟く。リュートの前で小さくなっている。


 「なんだ? 必要だったのだろう?」


 「ですが3~4着と言われていたのに」


 ナターシャとリリスの目の前にはそれぞれ7着ずつ服があった。


 「構わんだろう、服はあって困るものじゃない」


 あの後店員さんのサービストークに乗ってしまったナターシャとリリスは次々と服を選びいつしか言われていた限度を超えて服を選んでしまっていた。


 そしてリリスが一言。


 「お兄ちゃん、買って~」


 そうおねだりされたリュートは値段を気にする事もなくさっさと買ってしまったのである。


 そう、リュートは妹に甘い。見た目の怖さとは裏腹に妹にはとんでもなく甘い男だった。勿論ナターシャの分も即決で買ってしまっていた為女にも甘いのかもしれないが。


 これが店員さんがサービスすると言った意味か……

 そうナターシャは思う、値段を気にする事もなく即決で払う男……


 上客に違いない!!


 ちなみに服14着で金貨5枚と銀貨6枚

 

 (黒パン1120個!!!)


 とすっかり貧乏癖がついたナターシャが頭の中で叫んでいたのは言うまでもなかった。

 そうしてる内に目の前ではリリスが買ってきた服を着替えリュートに見せている。


 リュートは可愛い、や似合ってるよ。と一般的に言われる男としてはあまり褒められたない口上なのだろうが、リリスは嬉しそうだ。


 その後何故かナターシャもそのファッションショーへとつきあう事となり、さらに店員に進められていつの間にか買ってしまった胸を大胆に開けた服やパンツが見えてしまいそうになる程身短いスカート等をリュートに見せる事となる。


 だがリュートはリリスを褒めたような言葉で同じく褒める。それは普通なら不満だろうが何故かナターシャは嬉しくなってしまう。


 いかん!やられ始めている。そう思いながら自重する事を心に決めたのだった。

 

 




 それじゃあ訓練でもしてみるか。


 そうリュートが告げナターシャとリリスは今斡旋所の裏手にある訓練場までやってきた。

 リリスは既に訓練が決まっているのか自分の前で火の球を大きくしたり小さくしたり赤色から青色へと変色させたりしている。

 いつもはお兄ちゃん、お兄ちゃんとリュートについて回っているが訓練の時ばかりは真面目にやっているようだ。


 そして今ナターシャの目の前には巨大な木剣を背負ったまま右手に長剣を模した木剣をもつリュートがいる。


 「まぁ訓練と言ってもだな。お前の場合騎士学園で剣術を学んできたんだろう?」


 「はい、そこで長剣の扱いを学んできました」


 「なら俺がいちいち指図する必要もないな」


 「そんな! 私はリュート殿の弟子! リュート殿の剣術を教わりたいです」


 さぁ!だから私に教えるのです!ナターシャはそんな面持ちだ。


 「とは言ってもな、俺の剣術なんて我流だし、何より剣術なんて大層な名前が必要なのかすら俺には分からん」


 剣術を馬鹿にしている。とも取れそうだがナターシャは続きを促す。


 「と言うのは……?」


 「振りやすければいいんだ、力が乗ればいい。早く振れればそれでいい。正確に打ち込めればそれでいい。剣の動きだってパターンがあるからな。後はどう自分の体を動かせば力が乗るか、速度が出せるか。それを振りながら自分の体で感じ取るだけだろう? 後は相手の隙を作ったり作るための技術くらいじゃないのか?」


 簡単だろ?そうリュートの口は言ってるが、それができれば苦労はしない。

 だが体で感じる、言ってしまえば簡単だがそれが正しく感じ、実行できるなら天才だろう。


 「は……はぁ……」


 「なんだ納得できてなさそうだな」


 「いえ、それができれば苦労はしないかと……」


 「そうか……?」


 「はい……」


 自分とは違うのだ、リュートは人に剣を教えた事がない、だが考えれば結局至るのではないだろうか。そうリュートは一人思っていた。


 「まぁなんだ。剣術を今更教えた所でたいした意味はないだろうと思う。だから訓練するのは別の所だ、この間ナターシャは魔物を見て恐怖を感じた。だから恐怖になれさせようと思う」


 そう、恐怖のあまり尻餅をつき危うく死にそうになったのだ。恐怖になれる必要があるのは分かる。


 「はい、よろしくお願いします」


 ナターシャの目は真剣だ。力強い声と共に剣を抜く。


 「そういう訳で今から俺が攻める、防ぎきれば今日の訓練は終了だな、では始めるぞ」


 そういってリュートは剣を肩に背負う。大剣を扱う時の癖なのだろう。そう思いながらナターシャは剣を中段に構えると突如悪寒が襲う。


 え?え?


 肌が泡立ち心臓がバクバクと警鐘を奏でる。足ががくがくと震え今にも尻餅をつきそうだ。


 リュートの気配がナターシャの辺りを覆い尽くした。日頃柔らかい雰囲気だったそのリュートの雰囲気は今では全く別のものとなっていた、そしてその恐怖はガルムンヴォルフの比ではない。


 まだ構えすら取っていないのにもかかわらず対峙しているだけで体力を奪われる。じょじょに息が荒くなり頬に冷たいものが頬を伝う。


 そうしてる内にリュートが木剣を下段へと下げる。一瞬リュートから爆発が起こったように錯覚し……


 ナターシャは意識を失った。


 「おい? 起きろ」


 「は……はひ!」


 目を開けるとリュートの顔があり、きょとんと目を合わせた後言葉の意味を理解し飛び上がるようにナターシャは起きる。


 「おまえ……打ち合う前に気絶するってどういう事だ?」


 「そ……その……怖すぎました……」


 あんなの耐えられません!!

 そう心の中で叫ぶナターシャ。


 そういうとリュートはため息をつく。大丈夫なのだろうかこの子は。そう思ってる顔だ。 


 「あ……あのリュート殿……」


 その顔を見たナターシャは言わずには居られない。


 「なんだ?」


 「さっきの私の様な事……他にもありませんでしたか?」


 ナターシャは確信していた。


 「ん、一度有ったかな。 チームに誘われて断ったって話しただろ? その時にこじれて向こうが剣を抜いてきたんだがな。確かその時今のナターシャみたいに倒れてたな」


 「他に、誰かと争った等の理由で対峙した事はありますか?」


 「ないな、そうそう諍いなど起こらん」


 やっぱり……。


 そうナターシャは思う。

 この男、リュートは知らないのだ。対峙した相手にどれだけの恐怖を与えるのか。


 「分かりました……」


 「何が?」


 「リュート殿、リュート殿が放つ殺気に耐えられるものはそうは居ないです。先の話も確かAランクの冒険者の話ですよね? そんな者達がリュート殿の殺気に当てられただけ気絶したのです。並の者では対峙するだけで意識を失ってしまうかと……」


 初めて気づいた。そんな顔をしながらリュートが驚いている。

 そんな表情をするリュートを見てナターシャは本当にこの人を師匠にしてよかったのだろうか……そう思うのだった。





 その後の訓練は苛烈を極めた。主に精神的に……だが。

 殺気を緩めつつ手加減をしながらリュートが剣を振りそれをナターシャが防ぐ。

 それはいいのだがたまにリュートが加減を間違えるのか、殺気により意識を失い。時折人を超える膂力でナターシャが吹き飛ばされる。


 幸い怪我一つしていないのだが吹き飛ばされる度に「あぁ私は星になるのか」と思ったり殺気で意識を失う瞬間の恐怖でナターシャの精神は既にぼろぼろとなっていた。怪我はしていない……だが何度死ぬかと思っただろう。


 その結果。


 「あ~、なんだ、だが恐怖はある程度克服できたんじゃないか?」


 「ハイ。モンダイアリマセン」


 「そ……そうか明日にはまた依頼を受けてみよう」


 「ハイ。モンダイアリマセン」


 「じゃ、じゃあ今日は帰って飯にしよう」


 「ハイ。モンダイアリマセン」


 ナターシャが壊れた。


 何やらリュートは今見てはいけないものを見ているような気がする。


 ナターシャの目には光りがない。

 能面のような無表情にナターシャはカタコトで言葉を繰り返している。


 そしてナターシャはその日一日壊れっぱなしで 「ハイ。モンダイアリマセン」を繰り返すのだった。



 翌日。


 「よし、今度こそ依頼を達成するぞ」


 「はい!よろしくお願いします」


 「準備はできたのか?」


 「大丈夫です準備もできています」


 その声は力強い。だが……


 「ねぇお姉ちゃんどうしてリリスの後ろに隠れてるの?」


 「そ……それは……」


 そう、次の日目が覚めた後のナターシャは終始このようになっていた。


 リュートに見られるとリリスの後ろに隠れている。体の大きさが違うのだから所詮隠れきれていないのだが。


 その姿を見てリュートは嫌われたものだな。そう思う。昨日の訓練の恐怖が身にしみてしまっている等とは全く思えないでいた。師匠とは嫌われるものだ。そう聞いた事があるリュートはその言葉に従いそのまま勘違をする。理由は全く違う事にリュートは気づかない。


 「まぁいい、それじゃあこの依頼を受理して貰ってこい」


 「分かりました!」


 声は元気が良いがリュートが手渡そうとした依頼書をリリスの後ろから手を伸ばしぷるぷると手を振るわせて受け取る。さすがのリュートも少し胸が痛んだ。



 大丈夫かこいつ?


 そう不安になるが討伐依頼は乗り越える必要がある。


 ぷるぷると震えるナターシャを連れリュートとリリスはガルムンヴォルフを探す。


 「おい、居たぞすぐ見つかる位置にいてよかったな」


 「お姉ちゃん頑張って~!」


 「はい! がんばります」


 そう言うがナターシャの足はぷるぷると震えている。


 やがてナターシャの目の前にガルムンヴォルフの群れが見つかる、こちらへと気づいたガルムンヴォルフはすぐにこちらへと駆けてくる、数は9匹。この間に比べれば少ない。


 だが今のナターシャの心境は荒れ狂っている。

 前門の虎後門の狼、正しくは前門の狼後門の竜なのだが……


 後ろには逃げられない。後ろには何よりも怖いものがいるのだから。

 アレは怖い……目の前を60キロを超える巨大な木剣が飛び交うのだ。しかも振る本人は笑顔で……

 まさしくそれは恐怖以外の何者でもない。


 下がったら殺される!!事実ではそうではないのだが今の壊れ気味のナターシャにはそうとしか考えられなかった。


 そのナターシャはこちらへと駆けてくるガルムンヴォルフへと踏み込む。


 うわぁああああああああああああ!!!


 最早やけくそである。だが、かといって今まで染みこんだ動きが無くなったわけではなかった。

 前回の失態とは打って変わって華麗な足取りでガルムンヴォルフの攻撃を躱し様剣を突く。


 お前達のせいで!お前達のせいで!!


 ぎゃぅっと声を上げながらガルムンヴォルフは串刺しにされ、一匹、また一匹とナターシャの怒りの矛を受ける。

 今ガルムンヴォルフの前には美しくも狂気に満ちた一人の女性剣士がいた。 

 そんな狂気に彩られたような顔でナターシャが狂ったように剣を振りガルムンヴォルフは死に絶えていく。


 その狂った様に戦う姿を後姿を見てリュートがぽかんとした顔となり、リリスは怖がっていた。


 そうしてナターシャは無傷でガルムンヴォルフ9匹を討伐し、冒険者となって初めて依頼を成功させたのだった。



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