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歩みゆくは魔王か英雄か  作者: mebius
リュートと言う男
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ナターシャ②

 「さて、じゃあ行こうか」


 そうリュートが二人の少女へと告げた。


 リュートの家へと転がり込んだナターシャが依頼の同行を頼んだ次の日、三人は家を出て依頼斡旋所へと向かっていた。


 皆が戦闘服に着替えている。


 リリスは黒と赤を基調としたドレス姿で杖を持っている。リュートは黒の上下に左手にだけ銀の手甲を着けこれまた黒の薄出のコートを羽織り自身の長身と同じくらいの巨大な木剣を背負っている。ナターシャは昨日同様制服だ。


 そんなナターシャはリュートの武装を初めて見たのだが違和感がある。

 

 「リュート殿……その木剣は?」


 恐る恐るナターシャは背に背負ったものを指さす。


 そう、その巨大な木剣だ。


 なんですかその非常識な木剣は!そうナターシャの心の声が叫んでいた。勿論相手は住処を与えてくれた家主である。その表の声の調子は完璧だ。


 「ああ、なかなか合うのが無くてな訓練用のものしか持っていない。何、中に鉛が詰まっているからな。簡単には折れんだろう」


 問題はその巨大さにあるのだが当の本人は何故木製の剣なのかと勘違いしたようだ。


 鉛……


 持ってみたいです!ナターシャは興味を引かれリュートに願い出てみた。


 「重いぞ、気をつけろよ」


 柄をナターシャへと向けるとナターシャは柄を握るそしてリュートが手を離すと……。


 「おも……」


 あまりの重さにナターシャが手を離してしまいそうになる。


 が、そこは騎士を目指す者の矜恃が許さない、意地でも持ち上げようと顔が赤くなるほど力み腰を落とし踏ん張ってみる。


 踏ん張るナターシャ

 地に剣先を着ける木刀


 これは戦いだ!


 だが女性としては背の高い方であるナターシャよりも長い木剣は地面へと着いたまま持ち上がる気配はない。


 踏ん張る為に息を止め力んでる内に汗は吹き出し顔がみるみる蒸気していく。白い肌と相まり最早だれがどう見ても真っ赤になっていた。


 その姿はまるで幼児がもてない物を持ち上げようとするが如し、少なくともリュートの目にはそう映った。


 「まぁそうなるだろうとは思ったが」


 そうリュートは言うとナターシャの握る木剣の柄の握ると片手でひょいと持ち上げ背中へ納める。


 荒い息をつきながらナターシャはどんな腕力をしているのだ!と心の中で叫ぶ。

 そう思わずにいられない、重い上に長いのだ。重心は遠く振る事すら困難だろう。現にナターシャには持ち上げる事すらできなかった。


 「ど……どれだけの重さなんだ」


 「63キロだ。欲しい獲物は大体60キロ前後の大剣だな」


 「ろく……」


 この人は人間を辞めた人なんだな!そうに違いない!ナターシャの心は既に投げやりだ。


 そんな重さの剣を扱える者等居ないだろう、だからこそ作られることなど有る筈も無く作れるものがいるかも分からない。ナターシャは世間知らずだったがいくらなんでもその馬鹿のように重たい剣を振るう者など目の前の男以外にはいないだろう程度には理解できる。


 「まぁナターシャが腕力を求めても仕方がないだろう」


 唖然とするナターシャを置きざりにリュートはそういってナターシャの腰にぶら下がる長剣を見る。何か言いたそうな顔だが何も言わず歩きだし追いかけるようについて行くとやがて昨日登録した依頼斡旋所へと到着し扉の中へと入る。


 中に入るとリリスがとてとてと依頼の張り出された掲示板の方へと走っていく


 「お兄ちゃん、お姉ちゃん早く早く!」


 早く依頼が受けたいのだろう、リリスは急かすように二人を呼ぶ。

 追いつくリュートは掲示板の前に立ちリリスをあやしている。

 ナターシャはここからが本番だ!と真剣な表情で依頼を一つ一つ見ていく。


 そこで気づいた。


 「私は昨日登録したばかりだし、Eランクなのだろう?どれが受けられるのだろうか?」


 「俺やリリスはBランクで同行するからな。同じチームとしてならBランクの依頼まで受けられる、だから高いランクの者を選んだ方がランクは上げやすいな」


 「リュート殿はBランクなのか?」


 「あぁ、そうだ、どうかしたのか?」


 「いや、なんでもない」


 (もっと上なのかと思った)


 馬鹿げた重さの木剣を軽々と扱い、昨日一瞬感じた悪寒と重圧。まさか冒険者とはアレの様に人間を辞めた物が集まる人種なのか? ナターシャの頭の中では既にはち切れんばかりの筋肉を内包した巨大な男を想像していた。むちむちとした筋肉で浅黒い肌。飛び散る汗が想像だと言うのに気分を害してしまう。


 そんな事を考えつつもナターシャは張り出された紙を見ながら一枚の紙を剥がす。勿論その顔は真剣そのものだ。


 「これはどうだろうか?」


 そういってリュートへと差し出す。


 ナターシャが手に取ったのはCランクの依頼、ガルムンヴォルフと言われる狼型の魔物。その討伐依頼だった。


 「ああ、それなら一人でも大丈夫な依頼だろう。受付へと持って行けばいい」


 「分かった」


 リュートに太鼓判を推され意気揚々とナターシャは受付へと歩む。


 「この依頼を頼む」


 「あら、貴方は昨日の、頑張ってくださいね」


 対応に出てきた受付嬢は昨日ナターシャの登録を行った受付嬢。だが昨日のように蔑んだ目ではない。


 「はい、ガルムンヴォルフの討伐依頼ですね。ですがこの依頼はCランクで今のナターシャさんが受ける事はできませんよ」


 残念ですが、そう声に表し受付嬢は答える。


 「それなら俺達がついて行くから大丈夫だ」


 そういって後を追ってきたリュートが受付嬢へと答えた。


 「あ! リュートさん! お久しぶりです また依頼を受けられるんですか?」

 リュートよりも少し歳上だろう受付嬢は笑顔を浮かべリュートへと挨拶をする、だがその顔は明らかに普段の営業用の笑顔とは異なる。節々から喜びが滲み出ている。


 「ああ、成り行きでな。 彼女へ同行する事となった」


 「知り合いなのか?」


 親しげに話す様子を見てナターシャは訪ねる。


 「ああ、この街へ来て金を稼ごうと冒険者になった時から無知な俺に手を焼いてくれた」


 「そんな、いいんですよ。今だって、言ってくれれば料理だって作りに行きますよ!」


 「そうか。今度お願いするかもしれないな」


 明らかに仕事外で世話を焼こうとする受付嬢をリュートは軽く流している。いや、本当にお願いするつもりなのかもしれないが。



 「はい! お願いされるのを待っていますね! あ、そうでした伝えておけと言われていたのですけどリュートさん今度Aランクの昇級を受けませんか?」 


 彼女がそういうとリュートは渋い顔を作り応えた。


 「いや、それはいいよ、これ以上ランクを上げる必要はないからな」


 「……そうですか。分かってましたけど残念ですね」


 明らかに落胆したように彼女は肩を落とす。


 斡旋所にてランクを上げるには一定以上の功績を納めた者が昇格試験を受ける必要がある。リュートはBランクとなりそれなりに稼げるようになるとランクを上げていなかったのだ。


 「そうですか……でも私リュートさんならSランク以上にも成れると思ってますから!」


 そう受付嬢は両手を胸の前で握り力説していた。


 「気持ちは嬉しいがな、現状なるつもりは無いよ。それより依頼の受理を頼むよ」


 このままではまた強引に説得されそうだとリュートは話しを変えた。


 「は、はい! 失礼しました、ちょっと興奮してしまって。すぐに行いますね。えっと、ガルムンヴォルフ討伐依頼を受理します」


 そう言って受付嬢が印鑑を押す。


 「ただ、気をつけてください。最近魔物討伐依頼が増え続けているんです、魔物が年々増加してるみたいですから、リュートさんも依頼を受けるのは一年以上ぶりなんですからね」


 「ありがとう、大丈夫だ、リリスも居るしな」


 「うん! お兄ちゃんはリリスが護るの!」


 リリスはリュートの腰にしがみつきながら無邪気に応える。


 「はい、リリスちゃんもお願いしますね、それではこちらの依頼書をお持ちください」


 そういってナターシャに受付嬢は依頼書を渡す、ナターシャ受け取ろうとするが……彼女が依頼書を離さない。それどころかグググっと紙を引っ張りナターシャを近づける。


 何事かと思いナターシャが彼女の顔へと目をやる。……笑っている。笑ってはいるが目はそうではない。


 「く・れ・ぐ・れ・も、よろしくお願いしますよ」


 ――テヲダシタラ……


 笑顔で受付嬢は話すがナターシャは何か別の事をお願いされている気が……寧ろ何か脅迫されている気がする。

 その佇まいから発揮される重圧は何か触れてはならない怨念のようなものが漏れ出ている気がするのはナターシャの気のせいだろうか。


 「わ……分かりました。大丈夫です」


 その聞こえない言葉の圧力に屈したのかナターシャがそう言うと彼女はようやく手を離してくれた。


 「何やってんだ? 早く行くぞ」


 そういってリリスと手を繋ぎながらリュートが外へと出て行く。


 ナターシャはリュート達へと追いつき隣を歩く、先ほどの事で気になっていた事を聞いた。


 「ランクを上げられるのに上げないのか?」


 「あぁ、Aランク以上になるとな名誉やらなんだやらうるさいし依頼の指名をされたりもする。国からの依頼も混ざるしな。メンツも上を目指してるせいかチームのメンバーの勧誘が酷い、俺にも来た事があったがかなりしつこかった」


 ナターシャには理解しがたい話だ、騎士を目指すナターシャにとって名誉は何より大事なものだだからリュートの考えには納得できなかった。


 「リュート殿は上を目指す気はないのか? 実力があるのなら名誉は受けるべきだろう」

 「そうだな、だがそれはナターシャの考えだ、俺はリリスと生活ができればそれで良い」


 しがらみなど邪魔になるだけだ、そういう意図があるのだがナターシャには分からない。ただ覇気がない。そう思わずにはいられない。だが世話になっているリュートを悪く言う事はできないと口を開くのを止めるのだった。


 「まぁそうだな、リリスが一人前になった時にでも考えるよ、それでいいだろう?」


 濁した、といえるのだろうか。ナターシャの不満を感じ取ったリュートは口に出していない彼女の言葉をくみ取って返事をした。


 「リリスはずっとお兄ちゃんと一緒だよ?」


 リリスがその言葉に寂しくなったのだろうかリュートの手をぎゅっと握りそう告げた。


 「ああ、そうだな」


 そういってリュートはリリスの頭を撫でる。仲の良い兄弟。ずっと二人だったのだろうか両親の居ない状況でリリスを育てているリュート。その経験だろう。ナターシャと歳は僅かに違うだけだろうがそこには確かな大人の顔があった。


 「まぁ、お前は騎士を目指してるだからな。目指す所はAランク以上だろう。Aランク以上の依頼にある要人護衛などで覚えば良ければ任官の誘いが来る事もあるだろう。その為には今日の依頼を上手くやらないとな」


 「そうか! そうなのだな!」


 そうやって騎士になるのだ。

 そうナターシャは気を引き締め依頼へと向かうのだった。



 ナーガディアン国を北へと出て街道沿いへと進んだ先の草原。

 そこにガルムンヴォルフが群れを作り商人達を襲う為、討伐して欲しい。


 それが今回の依頼。


 ナターシャは今回の依頼が初任務、そして自分の力試しと言う事もあり率先して一人先頭を歩く。気合いは十分。だが緊張感が生まれない。なぜなら


 「お兄ちゃん! 蝶々がいるよ!」


 「あぁ、そうだな」


 先頭を行くナターシャの後ろで手を繋ぎながらまるで散歩をするかのように歩く兄弟のせいだろう。


 ナターシャと違い明らかにのほほんとしたその光景が完全に緊張勘を打ち砕いているのだ。


 「もう少し真面目に索敵してくれ!」


 見るに兼ねてナターシャは振り返るとリュートへとそう告げた。


 「え? あ、ああ、大丈夫だ。ちゃんと魔力探知も使ってるしな」


 「うん、大丈夫だよ~!」


 二人の雰囲気は変わらない。


 「だからと言って……」


 「大丈夫だ、群れはもう補足している。このまま1時間ほど歩けば群れが見えて来るだろう」


 「は?」


 「だからそれまで敵は来ない」


 一体どれだけの距離が見えているのか。そう思わずには居られないが最早普通とは逸脱しているこの兄弟だ、何も驚くまい。そう心に決めナターシャは歩く。そうしてリュートの宣言通り1時間程歩くと敵が見えて来た。


 だが様子はおかしい。

 通常ガルムンヴォルフは5~10匹の群れを作り集団で狩りをする魔物だ。

 だがその群れはゆうに50匹ほどが居るだろう。


 「数が多い!」


 「そうだな、少し多いな。魔物が増えてると言っていたし規模も大きくなっているんだろうな」


 どこ吹く風と、なんら動じる事もなくリュートは告げる。


 「それじゃあ俺とリリスは後ろで見てるからな、頑張って討伐するんだぞ」


 えっ?ナターシャは驚かずには居られない。確かに同行して貰うとは言ったが手を出さないとは……いや、まだ普通の数ならいいだろう。だが50匹も居るのだ。手を貸してくれてもいいだろうに。


 そうナターシャは思うが実の所リュートはリリス以外と組んだ事はない。しかもリリスのお目付役と言うことで手を貸した事もなかった。


 そんな依頼のこなし方をしてきたリュートにとってはナターシャを育てる心づもりはあれ、手を貸すつもりはなく。そして50匹程度は大丈夫だろうと思っていたのだ。


 「おいおい、これくらいで驚いていてどうする、騎士になるんだろう?」


 そうだ!私は騎士になるのだ!この程度で怖じ気づいてはいられない。

 そうナターシャは思い気合いを入れ直すと一人前へとでてガルムンヴォルフと対峙する。


 だが50対1その圧倒的な物量差により足がすくむ。

 学園では良い成績で居たが実の所実戦はこれが初めてだった。

 騎士学園では貴族に怪我を負わせてはなるまいと実戦を行っていなかったのだ。


 50匹のガルムンヴォルフがこちらへと駆けてくる。

 その光景と魔物の群れが放つ重圧がナターシャを襲うと足をがくがくと震えさせついにはぺたんと座り込んでしまった。



 「ばか! 何をしている」


 声が聞えた、だが足に力が入らず心臓はドクドクと鐘のように鳴り響き頭が白く上手く考えられない。

 そんな中ガルムンヴォルフは止まってくれる筈もなく、のど笛へと噛みつこうと3匹のガルムンヴォルフが彼女へと飛びかかった。


 死んだ!

 

 目の前で迫り来るガルムンヴォルフがゆっくりに見える。

 目を見開いたままナターシャは死を覚悟した。


 が。


 ズル


 ナターシャのすぐ目前まで迫ったガルムンヴォルフが横ずれるとぶしゅっと赤い体液が飛び出し、ナターシャへと降りかかる。


 な……何が?


 その光景にあっけに取られているとナターシャは声を掛けられる。


 「まったく、何をやってるんだ」


 気がつけばすぐ隣にリュートが居た。

 巨大な木剣を肩に背負いあきれた顔でこちらを見ている。


 木剣で切った!!?


 決して切れ味は良くないと分かるそれで魔物を切る、それがどんな速度を持って振られているかナターシャには理解できない、現にナターシャはリュートの振るう木剣が見えていなかったのだから。


 呆然と応えられずにいるとリュートは続ける。

 

 「手間取る相手ではなかったと思うが、お前実戦は初めてだったのか?」


 木剣を肩に乗せたままへとそう告げてくる。


 「前! 前!」


 そうまだまだガルムンヴォルフは数多くいる、のんきに話している場合ではないのだ。ガルムンヴォルフ達は仲間を殺されたせいか唸り牽制し、今にも飛びかからんとしている。


 そんな状況にもかかわらずリュートは「はいはい」等とつぶやきながら左腕を水平に一閃させた。


 黒い……糸?

 ナターシャの視界に細い線がうっすらと映った気がした。


 無造作に左腕を振るう。

 たったそれだけの事で周りにいるガルムンヴォルフ達の体が横にずれた。

 その現象は間近にいたガルムンヴォルフを襲うと。波が伝わるかのように次々と回りにいるガルムンヴォルフ達へと伝播していった。


 そしてその場のガルムンヴォルフ達は全て体を二つに分け、絶命したのだった。


 リュートはさも何事も無かったかのようにナターシャへと再び訪ねた。


 「で? 初めての実戦だったのか?」


 何も分からない。呆然と白くなった頭では上手く考えが纏まらずただリュートの問いにコクコクと首肯するナターシャ。


 「そうか、まぁ仕方が無いと思っておくか、それよりお前血まみれだぞ? 少々匂うな」


 なっ!


 臭いと言われ喜ぶ女はいないだろう、だがナターシャはその衝撃で我を取り戻した。


 「も……もっと早く手を貸してくれていたらこんな事にはなってないだろう!」

 言ってしまった。

 ほっとしたせいかナターシャの目尻には涙が溜まりはじめている。


 「おいおい、それじゃあ意味ないだろう」


 そうだ、意味がない。しかも手を貸して貰ったのになんて言いぐさだろう。

 そう自分でも思うが言ってしまったのだ。


 「しょがないさ、初陣だったんだろう。次は上手くやることだな、ほら立て」


 そう言ってリュートが笑いながら手を伸ばすがナターシャは手を取らない。


 「ん? どうした?」


 「こ……腰が抜けてしまって……」

 ぺたんと尻餅をついた状態で恥ずかしそうに顔を俯けるナターシャ。頬は赤く染まっている。


 そういうとリュートは苦笑いへと変えナターシャの腰を抱き持ち上げた。



 肩へと。



 荷物を持つかのように肩に担がれたナターシャは若干の不満を覚えつつもそのままリュートに担がれ家へと戻るのであった。




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