神殿へと
村が消え後に残ったのは村だったもの、その残骸だった。
炭となった木が転がりなんとか形を保った建物も朽ち果てている。
グレイ達はその内なんとか寝泊まりできそうな家を見つけると気を失ったリリスを連れて横に寝かせた。
「しかしこれはのぉ」
レイスが神妙な面持ちで声を漏らす。
「ねぇグレイ?」
「なんだ」
「リリスさんってグレイの一つ年下で間違いないんだよね?」
「そうだ、その筈だがな」
皆が驚くのも無理はなかった。
グレイの妹である筈のリリス。
彼女はグレイの一つ年下である。
だがそれにもかかわらずリリスの姿はそのまま。
未だ6歳、先ほどまでの姿そのままだった。
「どう見ても一つ下には見えませんわね」
「うん。妹と言うより娘?」
「なっ……」
15歳程の年齢で6歳の子供である。
どう考えてもグレイは納得できない。
――それは俺が老けて見えると言うことか?
そう訪ねたい所だがグレイは聞きたくない返事が返ってきそうで自重することとした。
「ふむ、結界の中は時が止まっておったか、はたまた、彼女自身が成長を止めてしまったのかもしれんの」
「そんな事がありえるのか?」
「うむどちらもあり得る、結界の魔法はちと特殊でな時間が止まる魔法もある、じゃが成長を止めていたと言うのもあり得る話じゃ、魔力は生命の源じゃからの、魔力のほとんどを永遠とつぎ込んでおれば成長しない、そういう可能性もあるかもしれん」
どちらにしてもリリスが当時のままの姿と言うのは変わらない。
「……ん」
「グレイ、起きそう」
そう言うとグレイがリリスの顔を見る。
リリスがゆっくりと瞼を開け、目を開く。その目の先はグレイの目をまっすぐ捕らえた。
「ここは?」
目の前にいる者が兄だとは分からなかったのだろう。
不安そうな顔でこちらを見た後周りを見渡すリリス。
どう話していいか、そう迷うグレイを見てレイスが声を上げる。
「お嬢ちゃん、目覚める前何があったか教えてくれんかの?」
質問をそのまま返されたリリスは疑う事も無く答える。
う~んと唸り声を上げながら思い出しているのか、段々と表情が暗いものとなっていく。
徐々にリリス目からはボロボロと涙があふれ出す。
「……ひぐ」
リリスは言葉にならない声を上げ、グレイはそんなリリスを抱きしめた。
拒絶はされなかった。兄だと思っている訳ではないだろうが。
幾分かの時が過ぎリリスは段々と落ち着きを取り戻して来た。
グレイが頭を撫でながら優しい声音で話す。
「大丈夫だ、辛い事があったんだろう? 辛い事だと思うがお兄ちゃん達に話して欲しい大事な事なんだ」
「うん……」
リリスはコクっと一つ頷きを入れゆっくりと話し出した。
「村に兵士さん達が沢山やってきて……パパとママが庇ってくれたの……でもパパとママが死んじゃって……リリス怖くなって目を瞑ったらいつのまにか眠っちゃってたの……」
「うんそれで?」
「それでね、それで起きたらお兄ちゃんが居なくなってたの……」
「そうか……」
その時にグレイは連れて行かれたのだろう……何故俺が?そう思わずには居られないが今はリリスを、とグレイは大人しく話を聞いていた。
「それでパパとママをお墓まで運んで……前に死んじゃった人をしてたみたいにパパとママを穴にいれたの……」
「その後は分かるかい?」
「えっとねずっと神殿の近くで眠ってたんだけどお腹が空いてつらかったの。それでね、神殿から出る赤いお水を飲んで我慢してたんだけどね、もう動けなくなっちゃって眠っちゃったの、そしたらね、目の前にお兄ちゃん達がいたの」
「そうか……辛い思いをさせたね……もう大丈夫だ、お兄ちゃんが傍にいるから」
「お兄ちゃんが?」
「そうだ……リリス、俺はリュートだよ、分かるかい?」
「う~ん」
分かる筈は無いだろう、あれから何年も経っているのだ。時間に取り残された少女が成長した兄をそのまま兄と認識するのは無理がある。
だがリリスは頭を横へコクンと倒すともぞもぞとグレイの胸に顔を押しつける。
「すんすん……すんすん」
「何をしているんだい?」
まさか妹はおかしくなってしまったのか?そうグレイが思い始めた矢先。
「お兄ちゃんの匂い!」
「に……匂いで分かるのか?」
「うん! リリスはきつねさんの亜人? だから匂いに敏感なんだって!」
「そ……そうか……」
兄の判断の仕方が納得いかないものもあったが無事兄だと認識されたグレイはリリスを強く抱きしめた。
「う……ん……苦しいよお兄ちゃん」
「す……すまん」
そういってグレイが腕をほどき解放するとグレイは話始める。
奴隷になったこと、レティ達と出会ったこと、ここまでの道のりを10年近くが経っているだろう事はあまり理解できていなかったようだが。
「だからこれからは傍にいるよリリス」
「ずっと一緒?」
「ああ、これからはずっと一緒だよ」
そういうと満面の笑みを浮かべ、トコトコとグレイに近寄りグレイに抱きついた。
リリスの頭を撫でながらグレイは思う。
護ろう。
今度こそ大切なものを。
そう決意を胸にした。
「うむ、家族の対面も終わったことだしの、神殿の調査だが明日行う事にしよう。今日はここで一泊していこう、グレイもリリスと話したい事があるじゃろうしの」
そう言ってグレイ達はその場で一泊をする事となった。
次の日グレイが起きると何時もグレイよりも早く起きているアイシャとセレスが起きていない。リリスもまだ眠って居る。
そういう事もあるか、そう思ったグレイは一人外へ出るとレイスとレティがそこにいた。
「起きたかグレイよ、実はのアイシャとセレスには眠って貰っているのじゃ、神殿に入る件じゃがの三人で入りたいのじゃよ」
「何故だ?」
「うむ、説明が難しいがのここにいる三人は神殿に何かしらの関わりを持っておるのじゃ、神殿の奥はその関わりを持つものを避ける為の罠があるからのじゃから三人で入る」
グレイは色々と訝しむもそれに納得する、今回の一件、レイスは色々と隠し事をしている、それに気づいては居るがレイスへの信頼。その一点がグレイを後押しした。レティも同様なのだろう。
「分かった。それじゃあアイシャとセレスには後で伝えよう、怒るかもしれないが事情があるなら仕方がないだろう」
「うむ、それでは参ろうかの」
そうレイスが言い、三人は神殿を目指す。
道中誰かが口を開くでも無く。ただ無言で歩いている。
話したくない訳ではないのだがレイスから僅かに重い空気が伝わるのだ。
緊張?
あまりレイスから感じたことの無い気配に関心をよせつつ歩いて行く。
そうして何か話す訳でも無く目の前には以前みた神殿の門がある。
「さぁ、グレイよ、その緋石に触れるのじゃ」
促されるままグレイは門の中央にはめ込まれた緋石へと触れると。
緋石が光りその光りが門に描かれた紋様へと伝っていく。
全てに光りが行き渡ると門を音を立て勝手に開いていった。
「うむ、中にはいるぞ」
そういってレイスと共に中に入る。
目の前に広がる景色は……
赤。
神殿の中央まで石作りの道が走りその周囲には赤い水で満たされていた。
リリスの言っていた赤い水。これがそうなのだろう。グレイはそう考えながら中央まで歩いて行く。
中央には台座から一本の腕の様なものが伸びそのその手……三本の爪のように伸びた手が赤い球を掴んでいる。
「その球を捕るのじゃ、そうすれば神殿の奥へ行く道が現れる筈じゃ」
グレイは言われるがままその台座から赤い球を抜き取る。
何も起こらない……
そう思った矢先地鳴りがする。
地がうなるような音を上げながら徐々に赤い水の水位が下がっていく。
そうして徐々に徐々に神殿に満たされた赤い水が消え、その水が満たされていた場に地下へとゆく階段ができていた。
「うむ、それでええの、では奥へ行こうとしよう」
そうレイスは言い三人は地下へと降りて行く。




