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歩みゆくは魔王か英雄か  作者: mebius
青年のゆく先
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リリス

 さて、どうしたものか。


 広場で遊んでいるリュートとリリスを視界にグレイは考える。

 リリスは生きている。それが分かっただけでも僥倖だろう。


 だがこの後は?


 そうグレイは思っていた。

 神殿には魔法が張られ立ち入る事ができない。

 しかしこの魔法は恐らく敵ではない。その判断は今の所なかった。


 全てはリリスの白髪に集約される。


 最初はただグレイの願望が具現化するような魔法を受けているのでは?

 そう考えた事もあるがリリスの髪の色だけ別にしておく理由はない。


 他は全て記憶と一致するのに……だ。


 その状況がリリスの違和感を浮き彫りにしていく。


 「なぁじいさん、俺はこの魔法がリリスの願望、夢の中を表していると考えている。リリス本人の魔法か、はたまた別の存在によるものかは分からないがリリスの目を覚まさせる必要があると思う」


 「うむ」


 「リリスのあの姿が本物かどうかは怪しいがリリスに俺の事を話してみるのが良いと思ってるんだがじいさんはどう思う?」


 「それで良いと思うぞ、恐らくこれは結界じゃ、わしらはリリスの張る結界の中でリリスの願望を見ておるのじゃろう。じゃから術者である本人の意志がそこにあると見てええと思うの」


 「そうだな」


 「グレイ……」


 少女達三人がグレイを見ている。


 「ああ、大丈夫だ、任せてくれ」


 そういってグレイは一人白髪の少女の元へと向かう。何よりも残った自分の肉親の為だ、誰よりもグレイがやらなければ行けない。そうグレイは思う。


 「あぁ! グレイお兄ちゃんだ!」


 気づいたリリスはグレイへと指を向け、リュートはグレイへと頭を下げる。


 「リュート、少しリリスと話したいがいいか?」


 「ええ、分かりました。リリス、お兄ちゃんは少し散歩に行ってくるね?」


 「うん! 行ってらっしゃい」


 親しみの籠もった声を上げリュートを送り出す。

 微笑ましい光景だが事情を理解しだしたグレイにはそれが悲しい光景に見えてしまう。


 「どうしたのグレイお兄ちゃん?」


 「いや、何でもない、それでなリリス、お前は今幸せか?」


 「うん! お兄ちゃんが居てパパとママが居て、みんなで楽しく過ごせて幸せだよ」


 例えそれが嘘でも。


 そうグレイには聞こえてならない。


 そうか、とグレイは頷き話を続ける。


 「でもなリリス、夢からは覚めないと行けない」


 そういってグレイはリリスの手を取る。優しく、傷つけないように。


 「何?何を言ってるの?グレイお兄ちゃん?」


 「俺の本当の名前はリュートだ、リリス」


 そうしてグレイは記憶を失って以来、初めて自分本来の名前を名乗った。


 「グレイお兄ちゃんの名前はお兄ちゃんと同じなの?」


 「違う、名前が同じなのではない、リリスの兄が俺だ」


 「嘘、だってリリスにはちゃんとお兄ちゃんが居るよ?」


 「ああ、だがお前の兄は俺なんだ、リリス、墓地に行ったことはあるかい?」


 「ううん、墓地には行っちゃ行けないってお兄ちゃんが」


 「そうか、墓地にはな、父さんと母さん、そして俺の墓があった」


 辛い思い出を思い出させようというのだ、残酷に見えるかもしれないだろう。或いは嘘でも良い、夢の中ででも幸せを感じられるならそれでいいじゃないか。そういう判断もできるかもしれない。

 だがグレイはそれを良しとしなかった。今目の前にはたった一人の家族がいる。妹が生きている、なら現実で幸せになって欲しい、外の世界で幸せを掴んで欲しい。そのグレイの判断が冷酷なまでに現実を突きつける。


 「分からない……分からないよ」


 「お前は知っている筈だよリリス、墓を作ったのは――」


 「やめて!! 聞きたくない」


 リリスが耳をふさぐ。


 その様子を見たグレイはそっとリリスの手を取り耳から外すとリリスを抱きしめた。


 「辛かっただろうな、今まで一人でいたのか? 忘れたかったんだろう」


 「止めて……止めて……止めて……私は一人じゃない! お兄ちゃんがいる! パパとママがいる!」


 「これからは傍にいる。だから現実に戻るんだ」


 「嫌だ……嫌だ嫌だ嫌だ……お兄ちゃん……お兄ちゃん助けて……」


 

 ふと気がつくと隣にはリュートが立っていた。


 「お兄ちゃん……お兄ちゃん助けて……」


 手を差しのばすリリス、リュートはその手を取ってリリスへと告げる。


 「話は聞いたよ、リリス」


 「うん……お兄ちゃん」


 「いいかいリリス思い出して。ここは桃源郷の結界、リリスの願望を映し出しているんだよ」


 リュートが真実を話し出す。


 「滅び去った亜人の楽園、そこに漂った残留思念、村人達から抜け出た魔力、それらが集まってできたのが僕だよ」


 リリスが目を見開く、兄と思っていた者、そして助けを求めた相手が自分は兄ではないと告げ、突き放そうとしているのだ。


 「その結界は村の幻を作り出したんだ。リリスの魔力が僕を巻き込みその場で最も魔力の大きかった僕はリリスの守護者として君の兄の姿をかたどった」


 リリスに与える衝撃は計り知れないものだろう。


 「お兄ちゃんも何を言ってるの?」


 「良いかいリリス、どの道もう限界なんだ、僕と言う存在は死んだ村人の残留思念にすぎなかった、それでも今までリリスが死なないようにと残った魔力とリリス自身の魔力を使って持たせてきた、でももうその為の魔力も尽きようとしているんだよ」 


 「嘘だ……嘘だよね……お兄ちゃん」


 「君の本当お兄ちゃんはそこに居るよ」


 そういってリュートはグレイへと向きなおる。


 「僕は無くなった村人の思念、覚えています。リュート、今はグレイさんですね」


 「ああ、村人の思念というのは……?」


 「ここの村人、目的を遂げる事なく滅びてしまったこの村の人達の情念が死した後も漂っていたのです。その中には貴方とリリスのご両親も含まれています」


 「父さんと……母さんの……」


 「そうです。だからこそリリスの魔力に引かれて結界に巻き込まれたのでしょう、リリスが空間を扱う魔法を得意としていた事もありますが」


 両親の意志がリリスを護っていた。そういう事なのだろう。


 「そうか……亡くなった後も家族を護っていたのだな」


 死して尚子供を護る。その事実はグレイの胸を深く打つ。


 「ええ、ですがもう限界です。そしてそれに合わせるかのようにグレイさんがここに来たのは運命かもしれないですね」


 運がよかった……そうなのだろう。運命等に振り回されたくない、そう思うグレイはそう考えてしまう。


 「今のリリスはずっと夢を見ていたようなものです。だから僕が消え結界が消えれば夢が覚めるようにここでの出来事も忘れているでしょう」


 「そう……か」


 「どうしましたか?」


 「なんと言っていいか分からない……村人が、両親が今までリリスを護ってくれていた。そのお陰でリリスと再び会うことができた。だがその感謝を口で表現できない」


 ありがとう。その言葉では足りなさすぎる。そうグレイは思う。


 「いいんですよ。感謝される為にやっていたわけではありません……それにここへグレイさんが戻ってきた事が良い事かどうかなのも分かりません」


 「それは……?」


 「直に分かります、死した者が先の未来を語るのは皮肉にしかなりません」


 「そうか……」


 「ではそろそろ僕は行きます。くれぐれもリリスちゃんの事、お願いしますね?」


 「そんな……お兄ちゃん……」


 そういってリリスの頭を撫でるとリュートの体が透けて行く。

 それと同調するようにの用に村が透けて行く。


 そうしてその場に居る生者を残しながら。


 リュートと村は陽炎の様に消えて行った。


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