少年は暗殺者
レイスが奴隷を扇動している頃、グレイは監視員が住まう館にたどり着いていた。
まだ日は登力っておらず辺りは薄暗い。
周囲の空気の振動を止める魔法が音を止め体内の魔力を読む魔法で監視員を見つける。
一人でいる監視員を選びだすと。音も無く背後から飛び着くグレイ。
そのまま両手で頭を挟み込み電磁波――ライオットと名付けた魔法を流し込む。飛び着いた重みで倒れた監視員はビクビクと魚がのたうつように振るわせやがて動かなくなる。この方法なら血痕が残る事はない。
本当なら魔力を温存して首を折りたい所だが如何せんグレイの体では首まで飛び上がるしかなく、首を折るまでに何があるか分からない。なら手を添えるだけで済む魔法の方がリスクが少ない。そう思い選んだ方法だが……
動きが気持ち悪い。
初めて人を殺したグレイが思ったことはその程度だった。
まだ少年、倫理観ができあがる前から奴隷となっていたグレイにとって自分に鞭を振るい続けてきた監視員を殺す事になんら感情が動く事はなかった。
レイスから殺す事の忌避は聞かされているが今は構わないだろうと思う。
周囲を警戒しながらも監視員の腰についていた剣を剥ぎ取るグレイ。
少年の体には大きめだろうが身体能力からいっても差し障りない。グレイに取っては訓練に使っていた木の棒と変わらず軽く感じる。ただ長さがある分振った時の重心の移動を気をつけようと次の獲物を探す。
生来か、はたまた経験ゆえか、その鋭い瞳で周囲を警戒しながらも進む。
グレイは監視長だけを殺そうと思っていたがレイスの助力で考えを変えていた。
一人であれば後で敵が増えても戦えば済むと思っていたがレティシアがいる。レイスが乗った事でレティシアはそこに居るだろう、なら危険はすべて排除する。そう決めたグレイは一人、また一人と殺していく。
また一人殺して一息ついた時遠くから驚く声が上がる。
――しまった!
内心舌打ちをしながらも振り返った先には監視員が一人。
その場に転がる骸とグレイを見て動転しているようだ。
空気の振動を止める魔法は届いていない。魔法を放とするが駄目だと悟る、グレイの覚えている魔法からして敵まで届くのは稲妻を放つライトニングと重力を生む範囲魔法だがどちらもかなりの音が響く、そう思いとっさに奪った剣を投擲する。
「がっ!」
グレイの身体能力に任せて投擲された剣はまっすぐに監視員の喉を貫き音を立てて崩れる。その音で監視員に気づかれるか!そう身を強ばらせる。
魔力探知の魔法で辺りの動きを読むが慌ただしい動きはないようだ。
恐らく空気の振動を止める魔法を使うと気配が読みにくくなるのだろう。何をもって気配を感じるかは空気の振動が関係しているのかもしれないと考える。
先に気がつかれてしまう可能性があるのは気をつけるないと。そう気合いを入れ直す。
一息つき殺した監視員の元へ行き剣を引き抜く。血痕が飛び散ってしまった。急がないとまずいが幸いにしてすでに見回りは全員殺し終わった所、後は各部屋で眠る監視員達を順番に殺して回るだけだが時間がない、レイスの事もあり先に首輪をどうにかしようと部屋に魔力反応が一つしかない部屋へと向かう。
館の最上階の部屋、根拠は無いと思うがレイスが「馬鹿と地位の高い者は高い所にいたがるものじゃ」と言っていたのを思い出し迷いなく上がっていく。
「ぐ…がぁ」
寝ている監視員の首から剣が生えている。
たどり着いた部屋。そこで一人豪華なベッドに眠る男ののど元へとそのまま剣を突き放ったのだ。
口から血をあふれさせ苦悶の声を上げながら絶命する男。
死んだのを確認し様子を見ていると、首輪がばきりと音を立てて外れた。
どうやら監視長で合っていたらしい。
――これで助かる。
首輪が無くなった今、生存確率はぐっと上がった。山場は超えた筈。
そう思い立ち去ろうとすると魔力反応が集まってきている事に気がつく。
――見つかったか。
逃げ場の無い以上できるのは戦う事だけだ。
そう思い剣をぎゅっと握りしめると覚悟を決めた。