墓
夜は明けグレイ達一行はリュートの家を出た後村を散策していた。
昨日は結局ゆっくりと見る訳にもいかず今日は神殿を見に行き、街を散策すると方針を立てていた。
村の様子は昨日と代わりなく、広場に出たグレイ達の目に入るのは子供達の遊ぶ姿に大人の女性達が楽しげに話す姿。
グレイは辺りを見渡すが村が焼けたような印象はない。
勿論およそ10年近くの時が経っているだろう。それだけの時があれば復興してもおかしくはない。
だがグレイの目に映る村の景色は既視感を与える。
魔法で体験した村。
そこに映る町並みとうり二つ。
その光景が逆に違和感を生む。
全く同じに作り直す事など不可能だろう。だとすれば村が襲われる前の姿をこの村は保っている。それだけ魔法で見た光景と似ているのだ。
「あ、グレイさん!」
声に振り向くとそこにはリュートとリリスが居た。二人とも昨日と同じ格好をしている。
「これからお勤めに行くのか?」
「はい、神殿に行くんです。一応神殿に行くのは僕が戻ってからでお願いします、そんあに長い時間はかかりませんから、良ければその間妹を見ていて貰えないですか? 妹はいつもこの時間から広場で遊ぶんです。」
「わかった、グレイに任せるとするかのわしらは暫くこの辺りを散策させて貰かの」
「はい、それではまた後で」
「お兄ちゃん! 行ってらっしゃい」
「うん、行ってくるよリリス」
そういってリュートはリリスの頭を撫で神殿へと向かっていった。
「グレイ、わしらは手分けをして村を見てくる」
「分かった、また後でな」
「うむ、それでは皆いくぞ」
「グレイ様、また後で」
グレイとリリスを残し皆は去って行く。
「グレイお兄ちゃん!」
リリスに呼び止められてグレイはリリスへと振り返り、膝を降り目線を合わせる。
「どうした?」
「一緒に遊んで欲しいの」
「ああ、いいとも」
そうしてグレイはリリスと広場で遊ぶ事となる。思春期待っただ中のグレイがおままごとにつきあう事となり恥ずかしかったのは仕方が無い事だろう。
それはさておき、グレイには一つ考えがあった。色々と過去と一致するこの村でこの少女だけが一つ違うものを持っている。
髪の色。
記憶や魔法で見た妹の髪は金髪だった、だがこの少女は白髪。
そこに何かあるのだろうか、そう思いグレイは少女を見ている。
「グレイお兄ちゃん?」
おままごとの途中で静かに考え事をし出したグレイをリリスが呼び戻す。
「ああ、すまん、ちょっとリリスに聞きたい事があるんだけどいいかい?」
「うん! いいよお兄ちゃん!」
いつの間にか呼び方がお兄ちゃんになっている。
「リリスの髪の色は元々白だったのかい?」
「うんとね、昔は違ったけどいつのまにか白くなったの!」
「そうか、いつ白くなったかは覚えてるかい?」
「ううん、忘れちゃった、思いだそうとするとね。悲しくなっちゃうの」
「そうか、それなら仕方がないね」
「うん!」
「今は悲しくないかい?」
「うん! あのね! お兄ちゃんが居るから悲しくないの!」
「そうか、いいお兄ちゃんなんだな」
「お兄ちゃん大好きなの」
そうか、とグレイは頷く。魔法で見た妹の性格とも似通っている。ここまでべったりだったかは定かでは無いが。
そうしてる内にリュートが戻ってきた。
「妹を見ていてくれてありがとうございます」
「いや、いいさ」
「おぉ、リュートが戻ったのか」
そういって戻ってきたレイスが告げる。
他の少女達三人も順次戻ってきた。
散策を終えたアイシャが口を開いた。
「グレイ後で見て欲しいものがある」
「何かあったのか?」
「うん、見た方がいい」
「うむ、なら神殿を見に行った後そこに向かうとするかの」
そうレイスが告げ皆で神殿へと向かった。
目の前には巨大な神殿がそびえ立っている。その全てが滑らかな石で建造されているその神殿は光を映し若干の光沢を放っている。
「なんとも巨大な建造物だな」
村の規模には似つかわしくないその建造物は村の中にあって異色を放っている。
「そうじゃの、これだけ巨大な建造物はそうないの、どちらかと言うと神殿というよりは遺跡の用にも見えるがの」
石で作られた建造物、だがその周囲には折れた石柱や瓦礫が散乱し、神殿の中は巨大な門で硬く閉ざされている。門の中央には様々な文字と何か巨大な生き物をかたどった壁画が描かれており門の中央に大きな緋石が埋まっている。
「ふむ、グレイ、あの緋石に触れてみるのじゃ」
そうレイスに指示されグレイが門に近づいて行くと
バチッ
電気が弾けるような音がなりグレイの体を門から遠ざける。
「これは?」
「ふむ、おかしいの、門の傍へ近寄れぬか」
続いてレイスが近づくが同様に弾かれる。レティ達三人も同様に。
「これは門を開ける事ができない、と言うより門へ近づけぬようになっておるの、恐らく魔法による阻害を受けているのじゃろう、じゃなければグレイが近づけぬ道理はないからの」
やはりそうなのか、そうグレイは思うが今ここでできる事は何もない。そう判断したグレイは神殿から去る事とする。
「とりあえず今神殿でできる事はないようだ。アイシャ、さっき見せるものがあるって言ってたな? それを見に行こう」
「わかった。着いてきて」
そうアイシャは言い、グレイ達はついて行く。
「それでここに見せたい物があるのか?」
その場所には幾つもの石がはかったように立ち並び石には文字が刻まれている。
墓地。
その場所を形容できる言葉はこれ以外にないだろう。
グレイが訪ねるとアイシャは首肯して墓の先を指す。
その場所には石でできた墓とは違い三本の木が立ち並んでいる。
グレイ達がその場まで歩いて行くと段々とそれが何か分かって来る。
その三本の木が立った場所も墓。
石作りとは違い木を削り出して作ってある。
だがその作りはお世辞にでも上手とは言えず全体的な形も対照的とは言いがたい。
グレイがその内の一つをじっくりと見る。
木の表面には読みにくいが文字が刻み込まれていた。
その文字は。
「パパアリウスここにねむる」
やはり……
そうグレイは思い息づいた。
己の父の死をここに突きつけられ。グレイの気持ちは沈んでいく。
残る墓も順に見ていく。
「グレイ様こちらは……」
そうセレスが悲痛な面持ちで告げてくる。
「ママエレスティアラここにねむる」
そして残るもう一つは……
「だいすきなおにいちゃんリュートここにねむる」
そうなのだろう。グレイはそう思った。
これで大方の事は分かった。
だが確認をしておくに超した事はない。
そう判断したグレイは、墓を……リュートの墓と書かれた木を引き抜き、穴を掘っていく。
他の者は何も言わない。何がしたいか分かっているのだろう。
そうして穴を掘り続け、人が埋もれるだけの広さを掘っていく。
そしてそこには。
何もない。
そう何もなかった。
リュートと呼ばれた少年はここには眠って居ない。
なぜなら今こうして墓を掘っているのがリュートなのだから。
グレイは無言で墓を出ると残る二つの墓へと向き直る。
そこに眠る三つ、いや、二つの墓を前にグレイが黙祷を捧げる。
それにならってレイス、少女達も目を瞑り祈りを捧げる。
グレイは墓へと目を向け、口を開いた。
「父さん、母さん俺は戻ってきたよ。一時は奴隷となり苦痛だっったけど、グレイと言う名前を与えられ。新たな家族を手に入れ……こうして幸せに生きてる」
「天国で見ているでしょうか? 不詳の息子と嘆いておられるでしょうか? 記憶を失い、復讐に生き、奴隷から解放された後は何も知らずのうのうと生きてきました」
いつしか告げる口調は変わっていた。
「そうやって安穏と生きている間、 父さんと母さんのもう一人の子供は辛い思いを過ごしてきたのかもしれません」
それは両親が知るリュートたらんとしていたのだろうか。
「父上、母上、遅ればせながらリリスは私が護っていきます。どうか天国で見守っていてください」
それとも彼の本心からの言葉だったからだろうか。
本人以外には誰も分からない事だったが。
そこにあった墓は三つ。
そして墓に刻まれる文字を見れば誰か墓を作ったかは自ずと分かる事だった。
そう墓へと新たな決意を表明し、グレイは村へと戻っていくのだった。




