リュートと言う少年、リリスと言う少女
「あなた達は?」
そうグレイ達に訪ねる少年。
歳の頃は10に届かないだろう。黒い眺めの髪に黒いローブを纏っている。
ローブには紋様が描かれ、銀の細工を胸につけ、周りの子供達とは少々趣の異なった格好をしている。
その目が快活さを物語っているのだろう、明るい雰囲気を身に纏いこちらの応答を待っている。
「旅の者じゃよ。少々道に迷ってしまっての、ここで宿が取れれば良いのじゃが」
「ここに旅人が来るなんて珍しいですね! 僕の知ってる限り初めてです!」
少年が目を輝かせて答える。
「あ、ただそんな村なので宿はないんですよ」
「お兄ちゃ~ん」
少年へと声を掛け一人の少女が手を振りながらこちらへ向かって来る
そうしてローブの少年に抱きつきグレイ達を見るとローブの少年に隠れてこちらを伺いみている。
「あ、こら、ちゃんと挨拶しなさい」
「うん」
そう少女に言うと少年はこちらを向き告げる。
「僕はリュート、この子は妹のリリスです」
「お兄ちゃんの妹のリリスです!」
おずおずとこちらを見ながら少女が挨拶をする。
「よく言えたね、偉いよ」
そう言って少年は少女の頭を撫でる。
「うん! リリス頑張ったよ!」
微笑ましい光景。普通ならそうだろう。
だがグレイはここで違和感を覚えた。
その少女の姿。
腰まで届く白髪に愛らしい青い目。少年へと向ける甘えそれらがグレイの記憶と重なる。
似ている。
グレイの妹だった者に。
髪の色こそ違うものの、他はピタリとグレイの記憶にある少女と重なる。
グレイの最も古い記憶、そしてバンパイアロードの魔法で見た少女の姿。
その姿がかぶる。
似すぎている……
状況を考える間もなく少年が告げた。
「そうだ、それでは家に泊まっていきませんか? この村には旅人が来ることもなかったので宿もありません。私達の家であれば父上と母上も許可してくださると思いますから」
「そうじゃの、それではご厄介になれるかご両親に伺い立てて貰えるかの?」
「分かりました、まず大丈夫だと思いますから着いてきて貰えますか?」
「うむ、分かった世話になるの」
そうレイスが告げて皆でついて行く。
道行きがてらグレイはレイスに聞いた。
「じいさん、どういう事だ?」
「何がじゃ?」
「いや、その……あの少女、死んだ妹とうり二つなんだ」
「ふむ、わしにもその辺りは分からん。何かあるかもしれんから少し様子を見るべきじゃの」
「あのねグレイ」
「どうした?」
「あの子グレイに似てないかな?」
「うん、すごく似てる」
「そうです、あの少年。グレイ様とどことなく似ているんです、目元は全く違いますけどねグレイ様は睨むような鋭い目つきですから」
そう言われグレイは少女と手を繋ぎながら歩く少年の背を見る。
グレイは気がつかなかったが少女達の言うように少年はグレイと似ている。
そして妹とそっくりの少女。
「着きました、今母上が中に居るはずなので聞いてきますね、暫くお待ちください」
少年が家を背にこちらへと継げ、少女と共に家へ入る。
暫く待っていると一人の女性が中から出てきた。
「あら、リュートが言っていた旅の方ですね。何もない家ですが歓迎します。さぁ、中に入ってください」
その女性はグレイの記憶に残る母の姿だった。
黒パンをほおばり、スープに口をつけた。
記憶には無い、ない筈だが懐かしい味が広がる。
今グレイの目の前には家族の団らんが広がっている。
日が暮れ、戻ってきた少年少女の父、アリウスを交え歓迎を受けた後、その妻エレスティアラの作った夕食を皆で囲んでいる。
「ふむ、旅の者とは珍しい事があるものだ、何も無い所ですが何日でもゆっくりして言ってください」
「うむ、ありがたい話じゃが良いのかの?」
「息子達が喜んでおります、外の世界を知る事などできないものですからな、だから色々と外の世界を聞かせてあげたいのもあるのですよ」
「それくらいなら容易い事じゃ、老人の長話で良ければの」
「ほう、どこの世界でも老人は話が長いのですな」
レイスとアリウスが大人同士で色々と話している。
「リュート君とリリスちゃんは幾つなのかしら?」
「僕は7つになりました。妹は……」
「6歳なの!」
「それでその……どうして僕たちは抱っこされてるんですか?」
「大人の事情」
「抱っこ好き!」
「リリスちゃんは良い子だね~」
アイシャとレティがそれぞれリュートとリリスを膝へと座らせて頭を撫でている。
「二人しかいないので仕方がありませんが私も抱っこしたいです……」
セレスは悔しそうに告げている。
「さぁ、沢山食べてくださいね」
そう言って少年達の母エレスティアラがグレイへと食事を勧める。
「はぁ……あ……ありがとうございます」
「いえいえいいんですよ。家族が増えたみたいで嬉しいですから、沢山食べてくださいね? 育ち盛りですから沢山食べないと大きくなれませんよ」
そう言われてどんどん皿へと追加されていく。
既に腹は膨れていたグレイだったがひたむきい料理を口に運んでいる。
「ふふふ、なんだか大きな息子ができたみたい」
その言葉は何故かグレイの心に暖かく広がっていく。
「それでリュート、今日のお勤めもちゃんとやってきたか?」
そうアリウスが切り出した。
「はい、ちゃんとお勤めしてきました」
「お勤めって?」
レティが口を挟む。
「ええ、この子は村の中でも特別な子でしてな、子供の頃から仕事があるんですよ」
「へぇ~リュート君は偉いね。どんなお仕事をしてるの?」
訪ねられたリュートがアリウスの顔を見るとアリウスが答えた。
「申し訳ない、村特有の事でしてね、村の外の者には言う事ができないと思います。ただ村の端には神殿があるのですけどね、そこで勤めがあるんです」
「その神殿には近寄ってもいいのかの?」
「構いませんが中には入れないと思いますよ。村人の中でも中に入れるのはリュートだけなんです。リュートで無ければ扉が開きませんから」
「そうか、では明日様子を見に行ってみるとするかの」
「それでは食事も終わったことですから寝床を王用意しましょう」
そういってエレスティアラが部屋の奥へと入っていった。
寝床へと案内された5人が部屋にいる。
既に布団へと籠もり寝息が聞こえる。
そんな中グレイはなかなか寝付けず、起き上がるとそのまま外へと向かった。
虫の鳴き声が耳に広がり空には星空が浮かぶ。深い谷の奥地であろうともちゃんと空は見えている。
「眠れないの?」
レティはグレイが外を出るのを見て追いかけて来ていた。
「ここがグレイの故郷なんだね」
「そうみたいだな」
「でもあんまり喜んでないのかな?」
「嬉しいさ、嬉しかった……か、どう考えてもおかしいからな」
色々とグレイの心を乱す事が多すぎた、だが布団へと入り一人静寂の中考えている内にグレイも冷静になってきたようだった。
「滅んだ筈の村、そこはまだいい、俺が知らないだけで滅んでなかった可能性だってある、だがあの家族はおかしい」
そう、記憶では彼らは間違いなく死んでいる、父は兵士に刺し貫かれ、母は目の前でグレイ達を庇いながら切り伏せられたのだ。
違う点もある、少女の髪の色にグレイに似ていると言う少年。
「俺の願望が夢でも見せているのかもな……」
その光景はまるでグレイの願望を再現して居るかのように。幸せな家族の光景を俯瞰している。と言った状況に近い。
そうしてグレイは考える、ここ最近のグレイは頭の中へと意識を持っていきがちになる。
そうあれこれ考えているとレティがグレイへ近づいた。
一瞬の事。
意識の全てを自分の内へと追いやっていたグレイはその接近に気がつかなかった。
レティが考え込み始めたグレイを見て近づき。
一瞬の口づけを交わしたのだった。
「っは?」
呆然とするグレイへとレティが告げる。
「あんまり考え過ぎちゃだめだよ?」
顔に朱を浮かべながらレティは続ける。
「だから不意打ちなんてされるんだよ~?」
「だからってお前」
「最近ずっと二人っきりってなかったもん、これ位いいでしょ?」
これ位って……
そうグレイは続けたかったがレティは表情を真面目に変えて尚も続ける。
「何が起こってるかは分からないけどレイスはここにグレイの秘密を教えに来たんでしょ? だから今起こってる事もちゃんと見てじっくり答えを出して行こうよ、グレイならできるよ。それに――」
「私や、たぶんアイシャセレスだってグレイが何者でも構わないよ。私はグレイに助けられた、救って貰えた、私達の前に立って痛みや、辛い事や、そういう物から護ってくれた。だから……だからグレイの事を好きになったんだから」
「だからね、グレイが何者でも私達の気持ちは変わらない、ずっと傍にいるよ?」
沈黙が辺りを支配した後、グレイは呟いた。
「そうか……ありがとう……」
「う……うん、それじゃあ私先に戻ってるね、グレイもちゃんと寝ないと駄目だよ?」
「ああ……分かった」
そうしてレティが戻り、グレイは暫く星を眺めた後、部屋へと戻って行った。
後ほど同じ部屋であることに気がついた二人は先ほどまでとは違った意味で眠れぬ夜を過ごす事となるのだった。




