~エピローグ~残った謎
「ねぇ? あれ、何だったの?」
誰とも無くそうレティが口を開いた。
目の前には意識の無いグレイが居る。里へとグレイを連れて戻り、ベッドへと寝かせると皆グレイを見て安堵の息を着いていた。
目の前で心臓を刺されたのだ。寝顔を見ているだけで死んでいるのでは?そう思わずに居られず少女達は何度も呼吸や脈を確認し、その度に安堵の息をついた。
何度となく繰り返される光景、だがようやく満足したのだあろう、最大であった心配の種が消え、今度は少女達の心中にあのグレイの姿が気になり出したのだ。
あれはグレイ、それは分かる。だけどあの姿は何?
これが少女達3人の共通する疑問。
心臓を貫かれれば姿を変え空を飛び砦を消滅させた。
そう、事実はそう。だが納得できる訳もない。そんなものは現実に存在しない。だがいくら考えても結果は変わらない。夢では無かったのだからと。
そんな折りにレイスだ。
レイスは何か知っているようだった。
それを思い出したレティがグレイの様子を見に来たレイスに言い放ったのだ。
だがレイスは言い渋る。だが言いたくない、という訳ではないようだ。考えがまとまらない、そう苦心しているような顔だった。
「グレイ様!」
とレイスが何かをしゃべり始める前にセレスが口を開いた、グレイが目覚めたのだ。
ここは?
そう訪ねようとしたグレイに三人の少女がグレイへと抱きついた。
離れろ!そういつもなら言っただろうがその時は言えなかった。皆が涙を流してる事にい気がついたからだ。
三人のしたいままに任せ一人状況を整理していると違和感に気づいたたのだろうレイスの方へ首を向け訪ねた。
「どうして俺は生きている?」
それはそうだ心臓を貫かれたのだから。
だがレイスから返事はない、レティ達三人に今度はグレイ。レイスはどうしたものかと困り果てて居たがやがて口を開いた。
「色々と複雑でのぉ、グレイ、お主を連れて行きたい所があるんじゃ。そこで見せたいものがある。そしてそこで今お主達の疑問も解決するじゃろう」
何がなんだかさっぱり分からない、グレイは心臓を貫かれ生きてここに居る、だがレイス以外に状況を理解できているものなどここには居ず、否応なく先延ばしをすると言う事となった。
夜の闇に炎が舞い上がり辺りを明るく照らしている、砂浜を濡らす波の奏が耳に優しい。
共に踊り、歌い、喜びを噛みしめる里の者達。
宴だ。
作戦は上手く行ったとは言えなかったが砦そのものが消失、その事実は里の者に安堵した。亜人を狩る、神聖ミクトランテ帝国といえど砦を落とされる所か消失させられた。その事実は少なくともすぐに戦端を開かせるものではないだろう。後日原因不明の砦の消失とその損失。二つの要因によって神聖ミクトランテ帝国は人魚の里への手出しを躊躇せざるを得ない状況となる。
それを知らずとも里にいる者達はこれで時が稼げた、そう思っている。時があれば足りない食料を確保し、干し物でも作れば里の移動を行う事ができるだろう。
その一先ずの勝利為の宴だ、沈鬱だった里の者を元気づける為にも必要だったのだろう。
また、里の長であったガランの裏切りはグレイ達によって隠された。同族が裏切った、等と後の祭りとなった今では里の者を暗くさせるだけだろう、だからグレイ達と共に戦い捕らえられたセレスを護る為に散った。そうなっている。
そうしてグレイ達は今、里の者達から歓待を受けていた。
決して根は明るい、とは言えないグレイだがこうした歓喜による騒がしさは好んでいる。皆が騒ぐのを見ながら一人様子を見て楽しんで―――
「グレイー」
いられなかった。
「グレイ!」
「グレイ様!」
三人の少女達が傍から離れない。
死んだと思った矢先なのだから仕方がないのだろう。
が、扱いに困る。
三人の少女達は一度はグレイが死んだと思ったのだ、その少女達によるグレイの介護という名目の甘えぶりは半端ではない。勿論あれこれと手を焼いてくれているのだが。
だがそう、三人の思春期を迎えた少女達が初めて好いた男は他に二人も好意を寄せられている。その事実は徐々に波紋を広げていく。
だがそれだけならまだ良かった。グレイが本当に困るのはその後だった
「アイシャ!ちょっとひっつき過ぎじゃない?」
「ぴとっ」
「ぴとっ……じゃない!」
「レティさんは焼き餅焼きなんですね」
「セレスだって張り合うようにくっついてるじゃない!」
「こ……これはその……」
徐々に彼女達の温度が上がっていく。その炎は目の前で燃えさかるたき火を上回るかもしれない……
「もう!!でもグレイもグレイだよ!はっきりしないのが悪いよ!誰が一番好きなの?」
レティが爆弾を落とした。
困った。
何故こういう話しになったのかはさて置きグレイはこういった話しは得意ではない。
グレイも男であり丁度思春期と言った年頃だろう。女性に興味が無いわけではないし、三人からの好意には嬉しくもある。
勿論グレイも好意は持っている、だがそれは少女達が望む好意であるかは疑問なのだ、信頼と言っていいかもしれない。
家族を失った悲しみ、奴隷となって過ごした過酷な日々。
それらはグレイがどう思っていようとも蝕み、大切な者を作るのを躊躇させているのかもしれない。
結果グレイは思春期にあるにも関わらず恋愛の一つもせずに過ごしてきた。気持ちを知りつつも放っていた、にも関わらず未だ好意の目を向けてくれる相手など希であろうし、だからこその今だろう。
「黙ってちゃ分からない」
アイシャが業を煮やして問い詰めてくる。
「グレイ様、こういう時は正直に告げて欲しいものです」
セレスが言う、さすがに歳上といった所か、グレイに指標を与えてくれる。
「……あ~~」
そうだな、そう思いグレイは考える。
奴隷の頃から慕っていてくれたレティ。
バンパイアの一件で彼女の父親から託されたアイシャ。
里の為に身を粉にして護ろうとしたセレス。
三人共に自分にはもったいない。そう思う。
だがグレイには懸念があった、身体能力は人のそれではない。また心臓を刺され未だに生きている。そこから今考えられる事は。
――俺は人でも亜人でもないのかもしれない。
それが躊躇させた。
そうしてグレイは一つの結論をだした。
「三人の気持ちは嬉しい。だが俺自身今までそういう事を考えてこなかった。だから少し時間が欲しい。考える時間と、それと俺自身の事を知りたい。幸いレイスが俺が何者なのか教えてくれるんだろう? だからその時まで待って貰えないか?」
そう、グレイ自身が何者であるか。全てはそれからだ。
三人の少女達は各々が考えその応えを受け入れるのだった。




