そこにある何か
兵士達がグレイの心臓を刺し貫いている。
その光景が4人に悲痛な声を上げさせた。
「「「「グレイ!」」」」
少女達は目を見開き叫ぶ。
徐々に現実が彼女達を飲み込む。涙はあふれ手が震え崩れ落ちていく。
例えこうなる現実が濃厚だったからと言ってもそれを受け入れられる程少女達は強くはなかった。
だがその崩れ落ちる少女達の傍で老人は一人刮目していた。
レイス、彼はただじっと黙りグレイを見やっている。
(始まってしまうのかの)
レイスはそう嘆き、一人天を仰いだ。
だが少女達や老人がいかな想いを抱いていようと現実は過ぎていく。
グレイが口から血を吐き、両膝を地へとつける。
死が頬を撫でる最後の瞬間。そう言えるだろう。
少女達、老人、そして兵士達、全てのものが終わった。そう考えた時にそれは起こる。
両膝を尽き今にも地に倒れそうなグレイから白と黒の靄が吹き出し体を包み込んでいく。
体に纏わり付くようなそれは、最初は薄く、そして徐々に濃密にグレイの体を球状へと覆って行く。
兵士達は驚き少女達は既に思考が追いついていない。
魔法?
グレイの敵として戦う兵士達はこれが最後の足掻きかもしれない、そう脳裏に掠めさせた。
その前に止めを、そう兵士達が近寄ろうとした時、黒と白が混じり、渦巻く状態で球場となったそれが宙に浮く。
「あぁああああああああああああああああああああああ!!!」
絶叫が聞こえる。
白と黒の入り交じる玉から光りが漏れ出し、その場にいる者全て視界を奪い、爆風が周囲に荒れ狂う。
あまりの光量を受けその場の者達は視力を奪れた。
目を開けていられたものはいなかっただろう。
だが徐々に視力が戻り、その場の者達は目を細め爆心地を見る。
その前には何かが佇んでいる。
――人?
疑問だ。
なぜなら目の前にいるのは人――と言っていいのか分からない生き物がいる。
四肢がある。
顔もある。
だが手から腕に掛けて銀色に輝く鱗の様なものがびっしりと張り付いている。
背中からは一対の巨大なコウモリの様な黒い翼をはためかせている。
額から角の様なものが飛び出ており、その顔から胸にかけて黒い入れ墨のような紋様が浮かぶ。
そしてその瞳が人とは思えぬ爬虫類を彷彿とさせる。
その人の様な、人では無いような生き物が突然現れたのだ。
亜人には種族専用の固有魔法がある。
だが姿を変えるような魔法はかつて存在しない。いや、しなかった筈。その場に居る兵士達に分かったものは居なかった。
だからこそ兵士達は戸惑う。亜人ですら無いかもしれないと。
だが兵士達の戸惑いなど無い物とばかりにその生物は翼を広げはためかせると宙を浮く。
「離れるんじゃ!」
その光景を見たレイスが叫んだ。
少女達は何が起こっているのか分からない。
兵士達は戸惑うばかり。
――あれはグレイ?
少女達はそう思うが事態が急変しすぎている。
「早く!」
そんな戸惑いを隠せない少女達をへとレイスは声を荒げ指示を出し、その場を走り去さったのだった。
「なんなんだあれは!?」
裏切った亜人、ガランが叫んだ。
だがその場に分かる者は居ない、居ないまま事態は変化していく。
空へと昇るその生物が両手を兵士達へと向けている。
その手からは徐々に光りが生まれ大きさを増していく、遠目からでも明らかに分かる巨大な球を形成している。
まずい。ガランは思う。恐らくは魔法。だがあれほど強大な魔力の塊等見たこともない。まだ死ぬわけにはいかない。裏切ってまで里を護ろうとしたのだ。逃げなければ。
そう判断しガランは砦の外へと走り始める。
だが突如目の前が光で包まれた。
その光はガランを包み、兵士達を包み。砦全てを包んでいた。
そしてその光景がその場に全ての者の最後に見たものだった。
「何が起こったの?」
レイスに言われるがまま距離を取ったままのレティ達は砦の方角を見ていた。
空へ浮かぶグレイだと思われる生き物がが巨大な光を解き放った。
光が砦を内、爆発した。
その光量で目を閉じるも遅れて耳をつんざく雷鳴が轟き爆風が体を打つ。
それはまさに神が振るう天からの裁きのようだった。
そしてまさにそれだけの事が起こったのだと少女達は理解する。
徐々に戻った視界の先、砦が合った場所には何もない。
いや、正確にはあった。
砦がなくなった代わりにそこには大きな穴が一つ。
隕石でも振ったかの様な巨大なクレーターが砦にあった場所にあったのだ。
そして光を放ったグレイかと思われる生き物が消えている。
「終わったようじゃの、皆、砦のあったところへ戻るぞ」
レイスがただ淡々と告げた。
理解の及ばぬ少女達。だが案ずるはグレイの身、レイスに言われるままに砦へと戻る。
おそるおそるレイスと少女達は砦の方へと歩いて行く。
あの生物の姿は無い、兵士達の姿もガランの姿も無い。
そこに有ったのはただ一つ。
倒れて動かないグレイの姿だった。




