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歩みゆくは魔王か英雄か  作者: mebius
魔王は壊し、英雄は護る
33/75

そして青年は膝をつく

 兵士達は己が目を疑っていた。


 ニヤニヤと少女の服が破れ去り露わになる肢体を目に焼き付けようと処刑台の方を見ていたのだ。


 だからこそ何があったのか分からなかったのだろう。


 突然組み敷かれていた青年の方から爆発音が聞こえる。


 


 次に兵士達が見た光景はドリアティス准将が宙へと吹き飛ばされる光景。


 何故?


 何故か処刑台には組み敷いている筈の青年の姿がある。


 何が起こった?兵士達には理解が及ばない。

 そんな兵士達を置き去りに青年がそのまま少女を縛り付けた鎖に右手をかざすと鎖が消し飛んだ。


 マーマンの男も呆然として見ている。







 セレスの目の前に青年の顔が見える。

 青年はローブを脱ぐとセレスへと被せてくる。


 「グレイ……様?」


 怖かった。怖かったのだ。一人捕らえられ。二日を過ごした。兵士達の目つきはいやらしくいつ自分が汚されるか気が気じゃ無かった。何度もグレイの事を思い出しては耐えてきた。


 「もう大丈夫だ」


 その想った相手が目の前にいる。優しく声を掛けてくれる。頭の中で何度となく助けて欲しいと、そう願った相手が目の前にいるのだ。


 グレイから受け取ったローブをおずおずと着るとセレスは横抱きにされた。


 抱かれているせいでグレイの表情がよく見える。だがその表情は表情らしい表情を浮かべていない。

 セレスは抱かれたまま処刑台を降り突き刺した大剣の所までグレイが戻ると下ろされた。


 「あの……グレイ様……?」


 何をしようというのですか?


 「いけ」


 有無を言わせない重厚な響きがあった。


 「は……はい」



 セレスが門へと駆けた。


 あっけに見ていた兵士の一人が声を上げる。


 「何をしている! 逃がすな!」



 そう言って兵士達が走りよってくる。

 だがセレスを捕まえようと走りだす兵士達へとグレイがそれぞれ手を向けると。



 巨大な雷光が迸り兵士達を飲み込んだ。


 また別の兵士達の体に巨大な穴が空いていく。



 黒い消し炭になり音を立てて崩れおちる。。

 顔、体、肢体にごっそりと大きな穴が空き成す術もなく倒れる。



 時が止まったかのような静寂のなか、セレスが門までたどり着くのを確認した後グレイは地面へと刺さった大剣を引き抜いた。




 グレイは兵士に告げる。静かに、しかし力強い声で。





 「かかってこい」




 決して大きくないその声が砦全体へと響き渡り。




 止まった時は動きだした。







 兵士達が押し寄せる。


 無理矢理に止められていた大瀑布が再び流れるようにグレイへと殺到する。

 鉄と肉で固まった雪崩の様な光景を余所にグレイは目を閉じて思いだしていた。


 かつてあったその村を、家族を。

 牢屋にあった少女達の瞳を。

 血を滴らせこちらへ謝罪し続ける少女の姿を。

 目の前で服を無残に切り裂かれ泣き叫ぶ少女の姿を。



 兵士が押し寄せる刹那の中、グレイの脳裏に焼き付いて離れないその光景を思い出し。目を開く。


 兵士達を見やる。

 その目には怒りか、戸惑いか様々な情念を映し出している。


 関係ない。


 兵士の想いなど知ったことではない。


 グレイは大剣――プロミネンスを手に一人押し寄せる兵士の中へと大地を蹴った。








 「がぁあああああああああああああ!」


 青年が吼え大剣を振る。

 巨大な大剣が周囲の兵士達を吹き飛ばす。


 竜巻のようなその人災が兵士達を巻き込み、蹴散らしていく。


 青年との距離が空けば稲妻が走り雷鳴が轟く。


 矢の嵐が青年を襲うも増加した重力が青年では無く兵士達へと振り注ぐ。


 たった一人の青年が3000もの兵士達に死を振りまいている。



 その光景をレイス達と合流しているセレスは見ている事しかできない。


 「すごい」


 そう自然と口から漏れた。陳腐かもしれないがそれ以外思いつかない。

 それほどまでの猛攻。


 「しかしまずいの」


 隣に佇むレイスが言う。


 「次第にだが押し込まれ始めている」


 そう、土台無理な話しだろう。一人が3000人もの敵を倒すのは。


 「助けないと!」


 レティが言う。見てはいられない。


 「無理じゃ、わしらが加勢した所で何もできん、足手纏いじゃ」


 「見てるしかない」


 アイシャが悔しそうな表情で告げ歯噛みしている。あの場にいるには力が足りない。それが悔しいのだろう。


 それはその場にいる全員が同じ気持ちなのだろう。

 その場の者は知っている。

 彼の悲しそうな目を。


 だからあのような姿を見ても怖いとは思わない。

 ただ彼に無事に帰ってきて欲しい、彼に死んで欲しくない。

 だからこそ手伝えないのが悔しい。









 グレイの体を徐々に疲労が襲う。

 魔力は既に尽きかけ、大剣が重く感じる。


 だが止まる訳にはいかない。


 そう、止まれば待っているのは死だ。

 黒い情念を糧にグレイは力を振り絞る。死を振りまき続ける。死神の鎌が自分へと向かわないように。



 兵士の槍を避け、なぎ払い。魔法を放つ。兵士が死に屍の山を築き上げる。

 しかしどれだけなぎ払っても四方から来る兵士が途切れる事はない。グレイを殺せと押し寄せてくる。


 もうグレイには時間の感覚がない。夢中で剣を振るグレイには分からない。どれだけ時間が経ったか。だがいつかは終わりがある筈、この群がってくる兵士達とて限りはある。

 だがまだまだ敵は多い。

 既に何度振るったかも分からないプロミネンスからは塗装がはげ、黒色の合間に銀色を映し出している。


 首を捻るが槍が首筋を掠める。ぎりぎりの攻防の、中大剣を薙ぎ首を跳ねる。


 何時まで立っても終わらない戦いにグレイの頭の中は白んじていく。


 黒い情念はもうない。どこかへ行ってしまった。頭の中は透き通りただ一念のみ。


 徐々に押し込まれ槍がかすり魔法が身を掠めながらもただ一念のみをもって剣を振る。

 

 護りたい。



 強く、強く想う。

 全てを、では無い、土台無理な話だ。

 その手に収まる分だけ、ただそれだけでいい。

 それがグレイにとってレティ達家族であり。助けを求めてきたセレスだ。


 が人は想いだけでは動けない、動きは鈍くなり、魔力は尽きる。

 そしてグレイの想いとは裏腹に薙いだ大剣を避けた兵士が



 グレイの心臓を貫いた。









 「ごはっ」


 吐血する。口から血が逆流して呼吸を止める。

 ぼたぼたと胸に空いた穴から血が吹き出す。


 呼吸は荒く大剣を持つ手に力が入らない。


 心の臓が体から失われ次第に意識が薄くなり膝には力が入らず地に両膝がつく。





 これで終わりなのか?





 「はっ……はっ……はっ……」






 待っているのは死しかないだろう。






 想いは強いだがそれでも。


 視界は黒に染まり。何も見えない。

 

 それでも青年は想う、何度となく。




  「「「「グレイ!」」」」



 声が聞こえる。


 その声のせいか、はたまた走馬燈か、グレイは大切な者達の顔を思い浮かべていた。






 護りたい…………

 護れるだけの力を…………






 そうして青年の意識は真っ暗な闇へ溶けた。

 闇に染まる意識の中、どこか遠くで何かの脈動を音を聞いた気がした。





 ドクン






 ドクン……






 ドクン……ドクン………





 ドクン……ドクン……ドクン





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