砦へと
「グレイ! アイシャが目覚めた!」
仮眠を取っていたグレイが目を開ける。
「そうか……」
そう呟くとグレイは立ち上がりレティと共にアイシャの元へ。
部屋へと入ると既にアイシャがベッドから起き上がりレイスが隣で静かに佇む。
「大丈夫か?」
「うん」
頷くアイシャ、だがその瞳は悲しみに濡れている。
「そうか」
「グレイ……裏切っていたのはガラン」
予想はしていた。
出発前から見ていない。そして作戦内容を知っていたはグレイ達とガラン、盗み聞いた者の可能性もあるが第一候補だろう。そのおかげでアイシャは怪我をし、セレスは戻って粉い。許しがたい怒りがグレイを襲う。
だが何故アイシャは知っている?
「砦に潜入した後は上手くセレスを見つけた。怪我はしてたけど命は無事。でもその場にいたのは指揮官らしき人とガランだった」
「それで?」
「私を見つけたのもガラン。ガランはグレイを今回の件の主犯にして首を差し出す事でマーマンとマーメイドに手を出さないと約束した」
約束など守られる訳がないとグレイは首を振った。相手は亜人を狩る為に来ているのだ。邪魔を消すのに好都合だったのだろう。
「セレスはその人質。グレイが明日の正午に出てこなければセレスを処刑する」
「そうか」
グレイは頷きつつもセレスの身を想う、里の為にグレイ達の元を訪れ、里の為に捕まり、そして利用される。グレイは彼女の笑顔を思い出していた。
「グレイ」
「どうした?」
「ごめんなさい……セレスさん助けられなかった」
グレイはそんな彼女の頭を撫でる。誰にだってできる事とできない事がある。またアイシャを行かせたのはグレイだ、アイシャで駄目ならグレイでも無理だろうと。
「後は俺がやる」
「グレイ?もしかして行くつもりなの?」
レティがグレイに訪ねる。死にに行くような物なのだ。レティの目が驚きに満ち、だがすぐに納得した。
「そっか……グレイならそうだよね」
「ああ、よく分かってるな」
「そうでしょ~」
努めて軽く言ったがが口調には力がない。少しでもグレイを元気づけたかった。
「大丈夫かの?」
「……明日まで少し一人にしてくれるか?」
そう言ってグレイは部屋を出て行く。
「分かったお主も疲れておるからの、ゆっくりと休むがいい」
グレイは次の日の朝になるまで出てこなかった。
レティは目の前を歩くグレイを見ている。
砦から戻ったグレイはどこか淡々としていた。
近寄りがたい雰囲気を醸しだし、レティ達三人はグレイになかなか話し駆けられずにいた。
近寄れば壊れてしまいそうな。そんな気がする。
グレイがセレスの事を慮っているのは目に見えて分かった。境遇が似ているのだろうか、そんな心を砕いていた相手が人質にされているのだ。
人質。
レティ自身憤りを感じずには居られない。
グレイの場合はどうだろうか?やはり怒っているのだろうか?
レティには分からない。
いつものグレイの様子と少し違う気がするのだ。いつもなら目は鋭さを増し敵意をむき出しにしそうな物だ。
だが今のグレイはどこか大人しい。淡々としていると言えるだろう。
今グレイを除く三人はこうして三人砦までついて行っている。
グレイは砦の外までなら、そういって同行を許したのだ。
――死ぬつもりなのかな?
もしそうなら止めないと、そうレティは決意を胸にしている。
だがグレイに訪ねた所。
「何も言わず任せてくれ」
そう言われた。その声には力が籠もっていた。
一度言い出したら聞かない。それがグレイだ。
グレイの事をよく知っているレティはそうなったグレイを説得するのは難しいと分かっている。もしかしたらグレイならなんとかするかもしれない、そうは思うがレティの心中には不安が渦を巻く。
まるでグレイがどこかへ行ってしまう。そんな気がするのだ。
だがその想いは形にはならず声を掛けられないまま時間だけが過ぎていく。
目の前に砦の防壁が見えて来て歩みを止める。
グレイが穴を空けた門が見え中から多数の兵士が待ち構えているのがうっすらと見える。
「みんなはここで待っていてくれ。主犯にされているのは俺一人、つきあう必要はない」
そうグレイは告げると一人砦の中へと歩んでいった。
「一人の為にご丁寧な事だ」
そう独りごちる。
砦の中に入ったがグレイは輪になってグレイを取り巻く兵士達を見る。
数えるのも馬鹿らしい、そんな数である。
城壁にも兵士が配置され弓をつがえこちらを狙っている。
まさしく死地といった所だろう。
砦の中央へと誘導するように兵士の壁が立ち並び、その誘導のままにグレイは歩みを続ける。
実の所グレイに計算は無かった。
いささか投げやりといった心境とも言えるだろう。
里を助ける為とセレスがグレイ達の元へ訪れ、彼女に導かれるまま里へと来た。だがその里の長が裏切り、王族だった筈のセレスを人質に取り、赤の他人であるグレイを殺す事で里を守ろうとしている。
なんとも馬鹿らしい。そうグレイは思っていた。
グレイの頭の中に既に里の安否などない、あるのはただ一点、無邪気でまっすぐに里の事を考えグレイの事を慮っていたセレスを助ける事だけだ。
セレスはグレイ達を逃がす為にたった一人大軍の中身を投じていった。
それはどんな気持ちだったろうか?
セレスの身では無いグレイには分からぬ事だが、恐怖と天秤に掛けてなおその行動を取ったセレス、そんなセレスをのみ救いたい。
だからグレイはここまで来た。だが方法は結局ここに来るまで思いつかなかった。だが助けるためなら己の命すら捨て去ってもいいと、そうグレイは思う。
ゆっくりとした足取りでグレイが歩むと前には処刑台が見えてくる。
太った偉そうな男こいつがドリアティス准将だろう。他に裏切りもののガラン、そして……
柱に両手両足を鎖で縛り上げられたセレスだった。
グレイが処刑台に立つ三人を見ていると。太った男が告げてきた。
「お前がグレイか?」
「大丈夫かセレス?」
男を無視してセレスに話し掛ける。
「グレイ様……なぜ」
来たのですか?
「私を無視するな!」
男は一人話しを続ける。
「背中の大剣を捨て前に出てこい」
男がそう言うとグレイは大剣を引き抜き地面へと突き立てるとそのまま前に歩みでた。
「取り押さえろ」
兵士達がグレイの四肢を掴み地面へと押し倒される。まだどうすればいいのか分からない。
「処刑する前に良いものを見せてやろうと思ってな」
「ガランが言うにはこの女はお前を慕ってるそうじゃないか。ならお前の目の前でこの女を犯してやるのも一興かと思ってな」
「な!」
「えっ!」
グレイとセレスが驚き声を上げる。
(何を言ってやがる)
呆然として頭に入ってこない。犯すだと!?
男はそう告げるとセレスの服へと手を伸ばす。
――体の奥から音が聞こえる。
男の手が服を掴み。
――ドクン、ドクンと黒い獣が這い出てくる。
セレスの服を無残に引き破いた。
「いやぁああああああああああ!」
女の絶叫が遠くで聞こえる。
グレイの中から何かがはじけ飛んだ。




