脱出
目の前に迫り来る幾つもの火球が視界を覆う。
その炎の光を受け、冷徹な光を放つ氷の槍が降りそそぐ。
行く手には土が盛り上がり防壁と成し、空からは雨の用に矢が降り注ぐ。
それら全てを大剣で切り払い、あるいは魔法で打ち落とし。全てを防ぐ。
近づく兵士へナイフを投げると握ったワイヤーから雷が迸り兵士を焼く。
前を生かせる少女達の殿を勤めグレイは全ての攻撃を防ぎ、前を行く彼女達に立ちふさがる兵士にナイフを投げ一人少女達を護る。
建物は燃え、巻き上げる焔が辺りを明るく照らす。
炎に照らされ銀色の甲冑を赤く光らせる兵士達は尚も増え続けている。
暗殺は失敗、兵糧もどうだろうか。護る事を最優先にし、グレイは前を走る少女達を追う。砦からの脱出、グレイはその一点の為、駆ける。
だが手が足りない。グレイが集中しギリギリのラインでなんとか回っている状態だ。
「グレイ!!」
アイシャの声、こちらを見つけたアイシャが駆けつけてくる。
「何があった!?」
「後で説明する。今は脱出」
「ああ、少女達の前を頼む」
グレイ達へと魔法が矢が振り注いでくる。
「分かった」
これで手が空く。そう判断したグレイは腕に込めた魔力を使い重力を操作する。
重力の枷。
強力ではない、だが広範囲の重力が増加し兵士達の動きが鈍る。
動きの鈍る兵士達を置き去りにグレイも走りだす。
これで足止めができたと少女達の元へと走る。
「グレイ!」
アイシャ達が立ち止まっている。門は硬く閉ざされている。
グレイは走りながら魔力を剣に通す。
最大限にまで高まる魔力がプロミネンスから黒い靄を放ち。重力の歪みを発生させる。
グレイは駆けながら門へと向かって飛び上がると一閃
「はぁああああああああああっ!!」
重力を纏った大上段からの一撃が門を消失させる。
アイシャに先導を任せ、アイシャ、少女達、グレイの順に門を出る。
「走れ!」
だが少女達の速度が鈍る。少女達は全力疾走に近かった。既に体力の限界は近い。
グレイは最も体力が劣るであろう少女を抱きかかえ走りだす。
が、その分手塞がる。速度は増すがグレイが護る事は難しくなる。
だから走る。
ただ走る。
重力の枷から解法され、グレイ達を追う兵士達。
女性達の疲労も濃い、徐々に兵士達との距離が縮まるのは当然だった。
――駄目か。
このままでは直に追いつかれる。アイシャは前衛として必要だ、グレイは手が塞がっている。また手が足りない。
現状を打破する方法も思いつかないまま走り続けて居ると前方から女性がこちらへと向かってくるのが見える。
青い髪に三つ叉の槍を持った女性。セレスだ。
――何故こっちに来る?
「何してる!逃げろ!」
グレイが叫ぶ、だがセレスは足を止めない。
そのままセレスが走り、アイシャ、女性達、そしてグレイとすれ違う。
理由は一つだろう。兵士達の足止め。だが……
一人では無理だ!
「グレイ様はその子達を!私が足止めします!」
足を止めないままセレスが応え兵士達へと近づいて行く。
セレスが居なければ間違い無く追いつかれる。
「グレイ! 他に方法がない」
前を行くアイシャが叫ぶ。
歯を食いしばる。
「死ぬなよ!」
そう言うしかなかった。
「必ず!」
互いに別方向を走るグレイ達とセレス次第には距離を開け、
やがてセレスは兵士の波の飲まれ見えなくなった。
「巻いたか……」
グレイはかすかに見える城壁を見ながら呟く。
追っ手が来る様子は無い。だがグレイの声は暗い。
「アイシャ、みんなを頼む、俺はセレスの元へ――」
「――駄目」
何故だ。
口に出す前にアイシャが続ける。
「私が行く。斥候なら私もできる」
「だが」
「影を使える分私の方が上手くできる。」
そう、確かにグレイよりもアイシャの方が身を潜めるのに向いている。
「そう。それにその子グレイから離れたがらない」
アイシャはグレイに抱き留められている少女を指す。
少女はグレイの首へ手を回し抱きつく格好となっている。
下ろそうとしても首を振るのだ。
「それと私達の潜入はばれてた。兵糧に私、暗殺にグレイ、どちらが向かうかまで分かってるのは詳しすぎる」
アイシャから告げられる内容に驚く。
「もしかしたらその手がかりもつかめるかもしれない」
「…………」
少なくとも斥候に関してグレイよりもアイシャの方が適任だ。アイシャにできないのならグレイにもできない。そう思いグレイは首肯した。
「分かった、任せた」
「行ってくる」
任せて貰えた、その信頼にアイシャは喜色を浮かべる。
そうしてアイシャと別れ少女達を連れ里へと向かった。
里の者に少女達を引き渡すとグレイは一人空を見上げた。
作戦を決行してこのザマだ。少女達を助けられた事は僥倖には違いないが。
そこへレイス、レティが戻ってくる。
「何があったのじゃ?」
レイスとレティは砦のそれぞれ別方向の場所で待機していた。
セレスとともに三人だ
そしてグレイ達が出た門、そこはセレスが待機していた方角。
だからセレスが駆けつけた。
グレイこれまで起こった事を話す。
「裏切り者か」
「そんな」
レイスは納得したと言うように、レティは驚きで目を見開いている。
「ああ、だがそうとしか考えられない」
「これからどうするの?」
「一先ずアイシャが戻るのを待つしかない」
皆の表情は重い。作戦の内何一つ上手く言っていないのだから。
そのままどれくらいの時間がたっただろうか。
「グレイ……」
アイシャは戻ってきた……だがその姿。
「ごめん」
アイシャは血にまみれ顔を蒼白にこちらへ謝罪する。
「アイシャ!」
レティが叫び倒れそうになるアイシャの体を支える。
「ごめん……ごめんなさい」
行かせたのは俺だ、謝る必要なんてない。
「話しは後だ今は治療をしろ」
「ごめんなさい……ごめんなさい」
うわごとの様に呟くアイシャをレティが連れて行く。
二人を見ながら見るグレイの手は硬く結ばれている。
爪が食い込みグレイの拳から血が滴り落ちる。
「グレイ、落ち着くのじゃ幸い命に別状はなさそうじゃ」
「ああ……じいさん……アイシャを頼む。もし目が覚めたら事情を聞いてほしい」
「分かった。お主は…待つのじゃの」
「ああ……」
そういってレイスもアイシャの元へ。
そうしてグレイは一人待つ。
残る一人の仲間を。
だが何者も姿を現さず時間は経過する。アイシャが血まみれで戻ってきたのだ、可能性は薄い、そう知ってるにも関わらずグレイは待つ。
そうする内に星は消え、空が白み、太陽が顔を出す。
いくら待てども青い髪の少女は戻ってこなかった。




