事の始まり
レイスが起きると辺りはまだ薄暗かった。年寄りは朝が早い。ものランプの一つすらない奴隷の小屋は僅かな光りを映すのみ。
そして窓にガラス等という高価なものは無い、ただの穴、外の冷気が直接入り込みレイスの体温を下げるている。
――歳よりににはちと応えるの。
そう思いながら辺りを見渡す。
レティシアとグレイが眠る方を向くとレティシアが一人で眠って居る。
いつもグレイを抱き枕にしてるレティシアは眠りながらも手をわきわきと動かし枕であるグレイを探している。その動きは微笑ましいものがあるが大事な所はそこではない。
――グレイはどこにいったのじゃろう。
訓練の時に見たグレイの目を思い出し、レイスは胸騒ぎを覚え外に出る。
外に出るとが立ち去ろうとする少年の姿があった。
「まちなさい、何をするつもりじゃ?」
ピタリと足を止め、振り向くと。グレイが答えた。
「監視長を殺してくる、あいつを殺せば自由だ」
そういったグレイを見る、本気の目だ。止める事はできないだろう。
幸い監視の者はそう多くない、だが見つかれば首輪の魔法で締め付けられ何もできないまま命を落とすだろう。
グレイにはこの2年で教育を施して来た、無計画な訳ではないだろうが危険だ。
「どうするつもりじゃ?」
「物資を乗せた船がもうすぐ到着する。普段付けていない灯台に火が灯ってるのが証拠だ、いつも船が来る方角を見ていたらようやく見えて来た。荷揚げをする前に監視長を殺し首輪を外した後船を制圧する。そうすれば船旅の食料を確保できる。夜の闇に身を隠しながら脱出の機会を得られる今は絶好の機会だ、後は首輪が外れた事に気づいた奴隷が暴動を起こす可能性もある、そうなれば分が良くなるだろう」
「上手く行ったとして船の操縦は分かるのか?」
「分からない、けど学ぶ機会もない以上ぶっつけで試すしかない」
計画としてはちゃんと考えているだろう。ただ欠点が一つ……すべて一人で成そうとしている。
「わしも手伝おう、船の方は任せなさい。わしだってここを出たいのじゃからの」
少し考えた後グレイは頭を下げる。レイスの腕は知っている。ただグレイが失敗すればいくら船を占拠した所で失敗し命を落とすだろう。それが分かっての礼だった。
グレイが去った後すぐにレイスは奴隷が寝ている場所へと戻りレティシアを含む皆を起こし外へと連れ出す。
レティシアは、うみゅ等と良いながら目をごしごしと擦るとグレイがいない事に気づき一転不安そうな顔をする。
レイスはレティシアの頭を撫でて落ち着かせながら老人には似つかわしくない声量で皆に言う。
「皆の者! 脱出の機会は来た! これより船を襲い制圧した後、脱出する! 希望する者はついて参れ!」
そう行ってレティシアを連れて外へ出る。
その声を聴き、喜ぶ者、驚く者、戸惑う者、関心を示さない者。様々だがその場の200人程の内50人ほどが着いてきた。
これだけ居れば船を動かせるだろう。船の操縦には人手が必要。知識のないグレイには仕方が無いことだが土台一人では無理があったのだ。
船着き場が見える位置で身を伏せて隠れたレイスは船が碇を下ろすのを待っている。
傍に居るレティシアも危険だと言うことが分かっているのかおとなしくしている。
奴隷の一人がレイスに尋ねた。
「首輪があるのにどうやって船を襲うつもりだ?」
「そっちは直に取れる、首輪が取れ次第船を襲う」
「どうやって?」
「言えん、が取れるまでここで待つのだから取れなければ戻れば良いじゃろう」
たった一人の少年が一人で戦いに行った等と言えばすぐにでもこの者達は意見を変えるだろう。
だがいくら待っても首輪は外れない。荷を下ろし始めたのを見てレイスは早る気持ちを抑えつけながらジットこらえて待つ。
だが待てども待てども首輪が外れる様子はない。
荷物が下ろされて行く中失敗したか…と自身のすべてを継がせようと思っている孫…と思っている少年の顔を思い浮かべて無念の情が身を浸し始めた時突如音がする。
金属が割れる音がし首輪が砕け落ちる。
周りを見ればレティシアの首輪、他奴隷の首輪がつぎつぎと壊れて行く。
見つかれば死、その最も困難な役目を一人背負った少年の事を思いレイスは感激に打ち震える…が喜びを噛みしめている暇はない。
立ち上がったレイスは皆に言う。
「今から船を制圧する! わしが先に飛び込む、腕に覚えがあるものだけ後から来い、敵の落とした武器を拾い5人一組になって当たるのだ」
そう言い残し船へと飛び込んで行く。
飛び込んだレイスが敵をすぐさま屠り敵の数を減らせばこちらの武器が増える。
英雄的な強さを見せるレイスを相手に船を守る事はできず制圧されるまでそう時間はかからなかった。