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歩みゆくは魔王か英雄か  作者: mebius
魔王は壊し、英雄は護る
29/75

青年は暗躍する。

 篝火に照らされ二人の兵士が歩きながら話し込んで居る。

 大きな欠伸をし、緊張感もなさそうに。


 「なぁお前この間少尉に連れられてどこに行ってたんだ?」

 「牢屋だよ。それがよ、聞いてくれよ。この間の人魚どもを襲った時にべっぴんを捕まえて来ただろ?」


 そう言って応えた男が人の悪い笑みを浮かべている。


 「ああ、そういえば少佐がえらく気に入ってたな」

 「そうなんだよ。お手柄って事でよ、少佐と二人で味見よ」


 「あいつら美人が多いからな俺もおこぼれに預かりたいぜ上の連中はみんな捕らえたあいつらを抱いてるんだろう? 羨ましい話しだな」


 「まだ捕らえた人魚どもが沢山いるからな。次の村攻めで活躍すればできるんじゃね?」


 「こんな所じゃ何もすることないからな、女でも抱かないとやってられん、泣き叫ぶ女を無理矢理って言うのはいいよな」


 「だよなぁ~」


 終始下卑た話しをしながら男達が去って行く。

 光の届かない影の中グレイが身を潜ませているのに気づかないまま。


 


 グレイは歯を強く噛みしめ、手は硬く握られその手が震えている。

 割り切れる程成熟していないのだ。必死に身の内から食い破ろうとしてくる黒い獣を押さえつけるのに必死に、それでもグレイはじっと堪え情報を集めていた。


 だがその甲斐があってか、情報は手に入れた。仕事は増えてしまったが。


 ――捕らえられている亜人達がいる。


 帝国へと輸送し供物として捧げるつもりなのだろう。だがその為にまだ生かされている。扱いはひどい物があるかもしれないが。


 それはともかく捕らえられた者達が上の人間を知っているなら聞くのが良いだろう。

 そう考えグレイは牢屋へと向かう。

 

 牢屋の場所も情報を収集する内に耳に入って来た。砦の中心の建物。例え逃げ出せたとしても四方を取り囲みやすい配置にしてあるのだろう。


 周囲を警戒しながら牢屋がある地下へと降りていく。



 ――音がする。


 角を曲がった先の様から物音を感じ取ったグレイは壁背にしのぞき見る。

 その先にあるのは牢屋。


 薄暗いがじっと目を細め観察する。



 そこに広がる光景は。


 男が一人。そして男の下には組み敷かく形で身動ぎしない少女が一人。

 目は心を映さずその瞳はどこか遠くを見ている。


 男がそのまま少女の服へと手を――


 グレイはその時堪え切れない感情を感じた。そのまま感情が爆発するかの様に動く。目の前の光景を壊すべく、その為に。


 男は気づかない、ただ目の前にいる女性を見るばかり。

 

 グレイが疾風の如く駆けそのままの勢いで男の頭部を蹴り上げる。

 

 駆ける勢いとグレイの身体能力を余さず乗せた蹴りが男の首から鈍い音を立てさせる。首を切り落とすかのような蹴りを受け男が宙を舞うと男の頭部を鷲づかみにすると右手から電磁波を迸らせる。


 ――ライオット。


 骨が折れ既に絶命しているにも関わらず追い打ちを掛けるのはグレイがそれだけ怒っていたからだろう。


 既に蹴りにより首が折れ既に死に体の男は体をぴくりとも動かせる事も無く事切れる。一瞬の事だ、未だ少女の事を考えながら逝っただろう。兵士の行為に対しての「死」ならずいぶんと優しい結末だったろうか。


 ――うるさい。


 身の内から心臓がグレイを叩く。その音が耳まで響き不快だ。

 やがて深呼吸すると次第に気持ちも落ち着きしたようでグレイは少女を見る。


 未だ何が起こったか分からないのであろう少女は光の灯らない目でグレイを見ている。少女から目を逸らし辺りを見渡す。牢屋はそれなりの広さがある。

 人影が1……2……3……4っつ。

 皆女性で目には光がない。皆何が起こったのか分かっていないままその精気の無い目をグレイに向けている。

 その光景がグレイにどれだけ彼女達が汚されて来たかを物語っているようだった。


 「あの……」


 少女がぼそぼそと口を開く。


 「言うこと聞きますから……ぶたないでください。何でもしますから……」


 歯噛みする。


 「何もしない……」


 感情を押し殺す。


 「じゃあ私がすればいいですか?上手に――」


 言うな!


 「何もするな!」


 声が荒くなる。少女や周りの女性が体を強ばらせる。


 「大丈夫だ。もう何もしなくていい」

 

 努めて、優しく聞こえる様精一杯の声を搾る。そうしなければ彼女達が壊れてしまう。グレイはそう感じたのだろう。

 

 「え……?」


 「俺は里から来た、ここの指揮官を殺しに来たんだ」


 「…………」


 少女達は黙って聞いている。その光の無い目で何を思っているのか。


 「その後お前達を救い出して見せる」


 少女の瞳が僅かに揺れる。


 期待しては駄目だ。その目が告げているかのようだ。


 だが青年から手が伸び少女は抱きしめられる。

 少女がびくりと体を硬直し目を見開く。


 「もう我慢しなくていい」


 期待しては駄目だ。


 だが目から熱い物がこみ上げる。


 青年に押しつけられた胸を涙で濡らしてします。

 そして手が自然と青年の背中へ回る


 泣いては駄目だ。そう思っても止められない。



 少女は泣いた。

 青年の胸に顔を押しつけむせび泣くしかなかった。


 他の女性達にも波が伝わるように感情が伝播する。


 止めどなくあふれた想いが堰を切って流れ出す。

 それは胸の内で暴れる辛い感情を少しずつ洗い流していった。


 どれくらい経ったか、波が引くように徐々に落ち着きを取り戻していく。少女達の目は光を伴っている。


 「落ち着いたか?」


 青年が優しく告げて来た。


 「は……い」


 「俺はグレイだ」


 ――グレイさん


 少女の心に青年の名が浸透する。少女を人形から人に戻した青年の名前。


 「お前達に聞きたい。この砦の指揮官は誰か」


 そしてグレイは必要な事を尋ねだした。それに応えた女性が一人。


 「あの……」


 「知ってるか?」


 「ドリアティス准将と呼ばれていました」


 グレイは頷くと共に続けて質問した。


 「そうか、そいつだと分かりやすい特徴はないか?」


 「その……とても太った男で他に太った方は見たことないので……」


 「そうか」


 必要な情報だったとはいえ嫌な事を思い出させたのかもしれない。何しろ彼女達を汚し続けた男なのだから。


 情報を整理し、次の行動を考えるグレイへと不穏な音が届いた。


 警鐘の鳴る音。


 ――アイシャが見つかったのかもしれない。


 そう判断したグレイは少女達に告げる。最早優先すべき事を変えるべき時だった。手遅れになれば脱出は困難となる。既に難しくはあるのだが。


 「計画を変える。暗殺は諦める。すぐにお前達を連れて逃げる」


 「え?」


 「仲間が見つかったかもしれん。ここに人が来るとまずい。死体もあるしな」


 「そんな……」


 「なんとかする。だから慌てずに着いてきてくれ、いいな?」


 迷った様だが少女達は皆順に頷いていった。


 「行くぞ」


 


 ――アイシャ


 アイシャの無事を祈り少女達を連れグレイは走りだす。

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