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歩みゆくは魔王か英雄か  作者: mebius
魔王は壊し、英雄は護る
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旅の一幕

 馬車が音を立てて揺れる。

 セレスティアの願いを聞いたグレイ達は次の日には食料を積み込み馬車でレイグラントを出た。馬車で一週間程の距離を移動する事になるのだが、セレスティアは徒歩で1月駆けて来たらしい。馬車を借りるだけのお金がなかったそうだ。


 今まで里を出た事が無かったそうだが、全く知らない外の世界へ一人旅をするとは芯の強いお嬢様だとグレイは思ったものだ。見た目はおっとりと落ち着いているが中身は里の為と必死なのだろう。


 「グレイ様、水です」


 「ありがとう」

 御者をするグレイへとセレスティアが水を差し出し隣に座る。


 「セレスティア、俺の事はグレイでいい。様は入らない」


 「あ……はい、いえ!恐れ多いです。グレイ様」


 「敬語も入らないんだけどな」


 「ごめんなさい。癖なんです。直した方がいいですか?」


 「いや、直す方が面倒なら必要ない。そのままでいい」


 「分かりました、あの……私の事はセレスと呼んでくださいますか?」


 「分かった」


 それ以上話すことも無く、ただ時が流れる、ゴトゴトと馬車が揺れる音は鳴り響き二人に沈黙が流れる。グレイは普段話しかけられれば話す、と言った方が多く口数が多い方では無い。セレスはグレイを前に緊張している為同じく無口となっていた。英雄を連れた一向のリーダーだと言うのだ、レイスの事を聞かされていたセレスには無理からぬ事だった。


 そんなおり、グラリオが無口な男は駄目だ、と話していたのを思い出し、口を開く。


 「なぁ?」


 「え……は……はい!」


 「どんな所なんだ? 里は」


 「は……はい、えーっとですね。海に面した村で海の幸がとてもおいしいんです! 村の人もみんな凄いいい人でみんなで海に入って漁をして。それでですね! 私達は水魔法で水の中で生活もできるのでそこにもちょっとした生活区があるんです!――――


 里の事を話すのが嬉しいのか笑みを浮かべセレスは話す。


「――――魚や他の生き物をみてるだけでとっても素敵なんです! それで……それで……」

 

 だがセレスの表情は徐々に暗くなる。

 セレスは思い出していた。その幸せな生活を壊しに来た軍を。

 凶刃に倒れる父の姿を。


 「だから……守りたいんです。 私の命に代えても」


 「そうか……」


 そういってグレイは頭を撫でる。


 セレスが村の様子を語り、暗い表情をする姿を見ると。グレイは魔法で体験した村での生活を思い出していた。そして次に思い出すのはあの光景、村を焼かれ家族が死ぬ。その光景を。


 徐々に黒い気持ちがわき出てくるがグレイは頭を振ってそれを消す。


 ――自分の事はどうでもいい、今は村を守る事を考えよう。今度こそ守れるように。


 そう強く想い手綱を強く握りしめる。


 そんなグレイの表情をセレスは見ていた。優しそうに、悲しそうに、そして何かを強く想ったその表情を。








 夜となり5人で野営する事となる。

 レイスが食事の用意をし、それをセレスとレティが手伝う。


 グレイは一人斥候に出てようとする時アイシャが着いてくると申し出る。

 それにアイシャがついてくる、バンパイアの影魔法に幻覚魔法。どちらも斥候には便利だろうとグレイは同意する。


 辺りを魔力探知で調べるが特に何もあるわけでもない。それならばとアイシャと二人で食事を豪華にする為に獲物を探している。


 「グレイ……」


 「どうした? 何か見つけたのか?」


 「あそこ、野ウサギを見つけた」


 「そうか、夕食が豪勢になるな」


 「お肉」


 とその時グレイは見てしまった。アイシャの目を……アイシャの目が恐ろしい……獲物を狙う目だ。口数が少なく表情もそんなに多くないアイシャだがその目が全てを物語っている……




 ニガサナイヨ………




 目が爛々と輝いている。吸血した状態でもここまで輝くだろうか……

 アイシャが鎌へと魔力を装填し、地面へ突き刺す。

 

 月から照らし出される光を遮るように地面へとすっと影が伸びていく。


 その影がウサギの足下の影とつながる。


 影が形を持ちトラバサミの様な形となると野ウサギの足を左右から一気に挟み込んだ! 突然身動きを止められた野ウサギが泣き叫ぶ!



 そこへにじり寄るアイシャ。

 つぶらな瞳を向け叫ぶ野ウサギ。


 「ぷぅ~ぷぅ~~!」

 「肉」

 「ぷぅ~ぷぅ~~!!!」

 「肉」

 「ぷぅ~ぷぅ~~ぷぅ~~!!!!」

 「お肉!」


 まさしく野ウサギは見た!

 鎌を手に自分へとにじり寄る赤髪の悪魔を!


 だがそこに彼(野ウサギ)を助ける者は無く。

 無残にその命を散らした。


 死の間際彼は最愛の妻ジャスミンを脳裏に思い浮かべたそうだ。




 後日グレイはアイシャの恐ろしいまでの食べっぷりとあの時の表情を思い出し。


 「怖かった」

 

 そう告げるのだった。





 夕食を終え交代で見張りを立てながら休む。この辺りも治安が良いとはいえ野党や魔物が出ない訳ではない。


 馬車の中で仮眠を取っていたグレイをレイスが起こす。

 交代の時間だ。

 グレイは馬車を出て薪の火を絶やさないように薪をくべ静寂の中星を見る。


 ごそごそと物音がし、馬車の方を見るとセレスがこちらへと向かって来る所だった。


 「眠れないのか?」


 「はい、色々考えてしまって」


 そういってセレスがグレイの横に座り。二人で薪の火を見る。


 夜の静けさ、はたまた星空か、薪の火か。それら全てか。感傷がグレイを襲う。


 実の所グレイとセレスの境遇は似ている。もう終わってしまった後、まだなんとかできる状況。その二つの違いはあるが。グレイがセレスの想いに自分を重ねてしまうのは無理からぬ事だった。


 「俺の村は幼い頃に滅んだ」


 だからだろう。グレイの口は自然と開いた。


 「え?」


 ありのままの気持ちを。


 「あの時何もできなかったからこそ、今度は守りたい」


 自分と同じ境遇の者を作らないように。


 「そうだったんですか……」


 あの時できなかった事を成す為に。


 「ああ、できる限りの事をする、セレスの命も村も守るさ」


 「ありがとうございます」


 そう言ってセレスの頬には朱が刺し俯き、グレイは再び星空を見る。




 そうして旅は続いていく。

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