初めての模擬戦
学園も二日目となると大分落ち着きを取り戻して来たようだ。
初日のように騒ぎになれば、グレイも落ち着かない所だが騒ぎ立てて話しかけて来るものはいなかった。だがそれとは別に今日は色々と視線が絡みつく。
見られている。
昨日とは別の意味で戸惑う。そこへグラリオがやってきた。
「よう、グレイおはよう。昨日はよくも置き去りにしてくれたな」
「おはよう、グラリオ。レティの前であんなことを言うのが悪い」
「ばっか、美少女のパンツだぞ! そしてあの恥じらった顔を見れただけで俺は幸せだ!」
「そっ…そうか」
何やら力説が始まったが。流しておこう。
「それより色々と視線を感じるんだが?」
「そりゃそうだろう。昨日あれだけの事をしておいて目立たない訳がないだろう。二人とも暫くは噂の的だな」
「レティもか?」
「レティちゃんの場合は美人というのが強いだろうな、ほれ、見てるのは男ばっかりだろ?」
よく見ると男ばかりだ、話しかけようと蹈鞴を踏んでいるように見える。
「美人だとそうなのか」
「当たり前だろ、お前大丈夫か?」
グレイは奴隷島での生活で一般的な生き方をしてきていない。
甘えの無い生活が同年代よりも落ち着いた風にみせているかもしれないが、人間関係や男女の機微といった方面では周りよりも未熟だろう。
「ありがとう、参考になった」
「あ? あぁ、変なやつだな」
そうグラリオは席に戻っていく。
武術の授業になりグラウンドへと行く。
「それでは二人一組を作るように」
そう教師が言うと一斉に皆ペアを作っていく。すでに決まった相手がいるのだろう。
するとぽつんと一人孤立してしまう。
「なんだお前あぶれたのか? 噂の転入生。それじゃああいつと組め」
教師は赤い髪をした少女を指さす。
分かりましたと言って少女の前に立つ。
「グレイだ、あぶれてしまったのだが良ければペアを組んでくれないか?」
そういうと赤毛の少女は頷く。
「アイシャ」
少女の名前だろう。
あまり話しをするタイプではないようだ。
「それでは今からニ対二での模擬訓練を行う。順次呼ばれたペアは前に来るように」
アイシャと隣あって模擬戦を見ていく。アイシャは話しかける事もなくただただ模擬戦の様子を見ている。
「――アイシャ、グレイペア前へ」
呼ばれたのに気がついて前へ出る。
相対するペアの顔が引きつっている。グレイは模擬戦は初めてだ。だからアイシャは相当強いのだろうか。
「アイシャを恐れているのか?」
アイシャは首を振る。
「違う、貴方の背中の剣が問題」
グレイの背中にはレイスから貰ったプロミネンスがつるされている。模擬戦なので周りに木製のカバーを取り付けてはあるが現在175センチ程のグレイが170センチ程ある重そうな剣を背負っているのだから存在感はあるだろう。
「振れるの?」
「問題ない、丁度いい重さだ」
「そ……そう」
アイシャはやや引いた目をしている。多少目立つとは思っていたグレイだが引かれるとまでは思っていなかった。
見ると周りのペアも皆グレイの剣を見てるようだった。
やや居心地が悪いものの聞いておく。
「前衛、後衛、どちらにする?」
「そんな武器を持っているなら前衛でしょ? でも私も前の方が得意だから一人ずつ相手にする」
互いの戦い方も分からないのだから連携等望めるべくもない。それが無難であろう。
「分かった、それじゃあ俺は右のポールアクスを持ったを相手する」
重量系武器を持った相手はグレイの方が良いだろうと思う。
「それでいい」
取り決めが終わる頃開始を促される。魔法は使わずに武器だけで戦うルールだ。
「初め!」
ゆっくりと大剣を抜刀すると脇構えを取る。レイスからの教えで自分から攻めるのは禁止されている。落ち着いて周りを見る戦い方を覚えるように言われているからだ。
アイシャはもう一人の短剣を持った相手に対峙している。どうやら上手くお互いの敵が分かれたようだ。短剣で大剣を防ぎたくはないだろうから順当と言える。
ポールアクスを担いだ生徒がこちら駆けてきた。
生徒が振りかぶり上段から袈裟切りへ。
余裕を持って躱し、ポールアクスが地に着くと同時柄を踏み抜く。
そのまま大剣を横薙ぎに振り払い首筋てピタリと止めた。
あっけない。
そう思わずには居られないが成す術も無く生徒は降参。
こんなものなのだろうかと思う。
早々に決着がついた為、グレイはアイシャを見る。
鎌の柄を上手く使っているのだろう、柄で突き、手を滑らせ持ち位置を変えつつ鎌を薙ぐ。上手く懐に入れない短剣使いはじりじりと追い詰められ、やがて転ばされ鎌の刃を突きつけられていた。
戦った二人よりもアイシャの動きは良い。敵対した二人を基準にすればアイシャはかなり強い方なのだろう。
互いに礼を言って観戦列へと戻ると。アイシャが声をかけてくる。
「お疲れ様」
「あぁ、こちらこそありがとう、強いんだな」
「貴方に言われたくない。戦いにもなってなかった」
こちらを見ていたようだ。それだけ余裕があったのだろう。
「それはともかく助かった、一人あぶれていたからな」
「私も、一人だったから助かった。ありがとう」
「そうなのか?」
「私はいつも一人だから……」
少し悲しそうな顔の気がする。グレイの感性だから当てにはならないが。
「そうか、それならこれから昼飯だし一緒にどうだ。同じ女のレティも居るからな。話しやすいだろう」
「えっ?」
少し迷っていたようだが頷く。
「迷惑じゃなければ」
「構わん、行こう」
アイシャを連れたグレイを見たレティが銀髪の悪魔と化したのは言うまでもなかった。




