【04】-3
「だーから、わざとじゃないんだってば。あいつらが中にいるなんて知らなかったもん、本当に。オレのせいじゃない」
凄む俺を前に、シシィは辟易するようにがっくりと頭を垂れた。半ば自棄っ腹に聞こえるその言い訳に、小さく息を吐いて、フィーが口を開く。
「確かに、ランプが落ちて蓋が開くまで、私も全く気配に気づけなかった。仔細は分からぬが、恐らく相当に強い術者によってあのランプに封じられておったのであろう。悪戯が過ぎる小精霊が人間の術者から封じられることは、まあ稀に有ることゆえ」
言いながら、叱るようにビー玉もどきを横目できつく一瞥し、フィーは疲れた声で続けた。
「偶然にもそれにシシィが触れたことで、掛けられた術が弱まり、蓋が外れたことで完全に解けてしまったのだろうが。まさかよりにもよって、火の童が封じられたものを皐月が持っていようとはなあ……」
知っていればもっと気をつけたものを。そう、悔いるように首を振り振り言うフィーに、シシィが味方を得たかのように一気に活気付く。
「なっ? オレのせいじゃないだろ? 元を糺せば、あんなランプをあんなところに置いてた人の子が悪いんだって」
俺はその、全くもって微かにも反省が見えない顔を、思いっきり睨み付けた。
「何が、『なっ?』だよ! 早い話、お前が触って落とさなかったら、何事もなかったんじゃねえか!」
やっぱり、あの部屋にシシィを入れたのは失敗だった。痛恨のミスだ。そんなものを知ってか知らずか、普通に部屋に置いていた皐月さんも皐月さんだけど。でも、シシィが何も考えずランプに触って、挙句落としたってことがこの事態の直接の原因なら、シシィにも間違いなく非はある。
青筋を浮き立たせながら、少なくとも後一言か二言は怒り文句をぶつけてやろうと口を開きかけた時、少し離れてこっちを見ていたビー玉もどきの青いのが、ぴょこんと跳ねたのが視界に入った。
「風の息子、怒られてる?」
その言葉に、赤と黄色も同じようにぴょこぴょこ跳ね出す。
「怒られてる?」
「怒られてる?」
「やーい。やーい。ざまあみろ」
「ざまあみろ」
「ざまあみろ」
確信は持てないけど、どうやら青いのが一番に喋っているらしい。赤と黄色は、それに同調して青の語尾を繰り返しているようだ。順々に飛び跳ねながら、小ばかにして囃し立てる三匹を目に、俺がそんな、ある意味暢気な推測をしている隙に、再びシシィが体からひゅうひゅうと、今度は竜巻状の風を発生しだす。
「本気で吹き消すぞ、クソ火ども!!」
血管が切れそうな勢いで喚くシシィが、本気で本物の竜巻を起こしそうな予感に、俺は慌てて止めに入った。
「だああああっ、やめろ、シシィ! 家が壊れる! そこの青赤黄色も、いちいち挑発すんな!」
本当に、考えなしの行動だった。焦りのあまり、自分が何に向かって話しかけているのか、何も考えていなかった。ふっとシシィの風が消えて、はっと気づいた時には、三匹のビー玉もどきの興味は完全に、シシィから俺に移っていた。
目玉らしきものはどこにもないけど、三匹全員からまじまじと凝視されているのを痛いくらい感じる。いつのまにか三匹は、ぴょこぴょこ跳ねる動作もすっかりやめて、じーっと俺を見ていた。それこそ固まったように身動き一つせず、ただただ、ずっと。冗談抜きで、三匹の視線で体に穴が開きそうだ。
なんで、こんなにも見つめられているのだろう。直接話しかけてしまったからか? 水のお姫様でも、風の息子さんでもない、ただの人間の俺が話しかけたのが、そんなにいけなかったか?
微塵も揺らぐことのない視線に、自然と冷や汗が浮かぶ。ビー玉もどきは勿論のこと、フィーもシシィも、何を考えているのか、黙ったまま動かない。いっそフィー達のほうを向きたいけど、見つめてくる視線が強すぎて、俺もまた動けない。
実際には、一分もなかったのかもしれない。だけど、少なくとも俺の中では軽く五分くらいには感じた。続く沈黙に、緊張の糸が限界まで張り詰めた時、唐突に、ビー玉もどきの多分青が、停止したまま、ぽつりと声を落とした。
「アオアカキイロ」
「…へっ?」
思わず聞き返す。ビー玉もどきの青は、それには一切構わず、急かすように言ってくる。
「アオアカキイロ。それ、なに?」
「なに?」
「なに?」
「何って言われても……。お前達のことだよ。見たまんま、青、赤、黄色」
戸惑いながらも、俺は頑張って答えた。素直に思ったまま、色順に三匹を指差しながら。と、不意に横からフィーが、無言で、俺の服の袖を引っ張った。まるで引き止めるかのようなその行動に、フィーのほうへ目を向けかけた時、またもや青が声を発した。
「おいら達の名前?」
「名前?」
「名前?」
三匹から次々に詰問するように言われて、内心焦る。
「え。名前っていうか、ただ適当に呼んだだけだけど」
勝手に色で呼んだのが気に障ったのだろうか? 仕返しに俺を燃やそうとしていたら、どうしよう。フィーは俺は心配ないと言っていたけど、そのフィーが今、俺の服を引っ張っているのが、やたら気になる。フィーがこんなふうに無言で俺の服を引っ張る時は大抵、何かを察知して、それを判断しかねている時だ。
おどおどしつつ、今度こそ視線をフィーに向けようとしたら、またもや青が唐突に言った。
「名前、呼ばれた」
「呼ばれた」
「呼ばれた」
どこか恍惚とした声で、ぽーっとしたように、赤と黄色も青の言葉を繰り返す。それを聞いたシシィが、はっとしたように大きな声をあげた。
「あっ! えっ? お前らまさか、まだ名なしだったの?」
「へ?」
訳が分からず、説明を求めてシシィに目をやった瞬間、ビー玉もどきが一斉に、花火のようにぱっと一瞬、それぞれ青赤黄色の光を四方八方に弾けさせた。
「もう名なしじゃない! アオ! ご主人様が名前くれた!」
「アカも! ご主人様が名前くれた!」
「キイロも! ご主人様が名前くれた!」
「名前くれた人がご主人様! もう名なしじゃない!」
「名なしじゃない!」
「名なしじゃない!」
一瞬とはいえ突然の光の花火に思わず、首を思いっきり竦ませて身構えた俺を余所に、三匹は踊るようにぐるぐる舞い上がりながら、歓喜に震える声を次々に響かせる。
本気で全く、展開についていけない。無駄に目をぐるぐるさせているうちに、気がつけば俺は、ぐるぐると狂喜乱舞する三匹に取り囲まれていた。
「えっ? なに? ちょっとフィー、これ何?」
自分が今置かれている状況のあまりの不明さに、逃げるべきなのか、じっとしているべきなのか、さっぱり分からない。パニックを起こしかけながら、フィーに助けを求めれば、フィーは哀れんでいるような、それでいて安堵したような、実に微妙な笑みを浮かべて、俺を見、言った。
「おめでとう、真生。今この時より、お主が、この童達の主人だ」
明けまして、おめでとうございます。
昨年中は、大変お世話になりました。
今年も何卒、よろしくお願い致します。
新しい年が皆様にとって、より良い一年となりますように。
2014年 元旦




