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尋問

 肩に魔法の花を植え付けられた事でドロテーアは嘘のように大人しくなった。


 俺は拘束されているドロテーアの元へ駆け寄ると、隣に立つララミアさんへ尋ねる。


「ララミアさん。その魔法は?」

「『魔吸(まきゅう)の花』という魔法で、植え付けた相手から魔力を吸い取る花を生み出せるの」

「ああ……それで」


 魔力を吸い取られて魔法を使う事が出来なくなったので、ドロテーアには打つ手がないのだ。


 俺は茨に締め上げられて苦しそうにしながら、自分の肩に咲いている花を見つめているドロテーアに視線を向けた。


 完全に戦意を喪失しているように見える。半魔人族の戦闘手段は魔法しかないのだろう。


「『魔吸の花』は簡単に引き千切れる上に、使用者が触れた場所にしか生み出せないから扱いが難しいのだけど、一般魔法に頼りきりで身体の弱い魔人族にとっては使われたら世界の終わりくらいの気持ちになるらしいわ」


 ドロテーアは悔しさと恐怖が混じったような顔でララミアさんを睨んだ。


「し、死んだ方がマシだ……早く殺せ」

「私が人殺しなんてするわけないじゃない。これから聞くことに正直に答えたらその花を取ってあげるわ」

「信じられるものか!」

「信じなくても良いけど、その場合は花が付いた状態でフランメギドに送り返すわよ?」


 ドロテーアは目を見開いて驚いた後で、苦しそうに浅い呼吸を繰り返しながら俯いた。余程嫌な事だったのか、歯を食いしばって苦悩している。


「フランメギド魔王国では『魔吸の花』を付けられて魔力を0にされるのは今後の人生を左右するほどの汚点なのよ。花を付けられた状態で国へ送還なんてされたら、下手したら奴隷にまで落とされるかもしれないわね」

「……いい気味だ」


 ララミアさんの説明を聞いたミレーヌさんが苦しんでいるドロテーアを見下すような目で見ながら吐き捨てた。


 ドロテーアとミレーヌさんの立場は、完全に逆転したと言っていいだろう。


「それにしても酷いありさまね。これを元通りにするのは大変だわ」


 ララミアさんが神社の境内を見回しながら呟く。


 俺の自然魔法で弾け飛んだ植物と石。辺りに散らばっている刃の葉。元々植えてあった植物もドロテーアの魔法で燃えてしまった。


 本殿の方から青い顔をした神主さんらしき人物がエラさんと一緒に近付いてくるのが見える。一番の被害者は間違いなくあの人だな。


「弥生さん、エラさん。神社の被害に関しての対応は任せて良いですか?」

「う、うん。伊吹姉様に話してみるね」

「私も、蓮様と千奈様に掛け合います」


 ドロテーアに修繕費は負担させたいところだが、こいつがそこまでの金を持っているのかは分からない。


 フランメギド魔王国に戻ればそれなりの資金を持っていそうだが、今の彼女はリンドラム帝国へ亡命した身だ。ろくな資産もないだろう。


「忌々しい事だけど、彼女はリンドラム帝国からの旅行者という扱いになっているはずだから、私も帝国へ連絡を取るわ。この神社への賠償も帝国が責任を持ってくれるはずなので、そこは安心してください。巻き込んでしまって申し訳ありません」


 ララミアさんが神主さんに頭を下げる。

 本当はフランメギド魔王国からのスパイなのだが、それが証明できないのでリンドラム帝国が責任を取る形になりそうらしい。


「さてと……それじゃあ次は、尋問タイムかしら?」

「そうですね。まず聞きたいのは、宗次郎君の家で何をしていたのかです。彼は日ノ本の国民なので、サムライとして最初に確認させてください」


 俺が主張すると、ミレーヌさんは黙って頷いた。


 彼女からすれば早く組織や『飼い主』についての情報が欲しいだろうが、それは彼女の私的な目的だ。まずは明らかな犯罪行為である、民家への襲撃について聞いて、その後でじっくりと絞れば良いと思う。


「宗次郎君に何かあったの?」

「家の中で家族そろって眠らされていました。室内が植物まみれだったので、何かしらの魔法を使ったんだと思います」


 事情を知らないララミアさんへ説明すると、彼女は目を吊り上げて怒りを露わにし、ドロテーアを縛っている茨を動かした。


 棘が身体に食い込み、ドロテーアは痛みでうめき声をあげる。


「宗次郎君とは後で合流してお話する予定だったのだけど、やってくれたわね?」

「……ね、眠らせただけだ。危害は加えていない」

「へえ。面白い冗談だわ。魔法で強制的に眠らせるのが危害でなくて何だというの?」

「ぐぅ!?」


 茨の拘束が更に強まったのか、ドロテーアの身体のあちこちから血が滴り落ち始めた。

 俺は慌ててララミアさんの肩を掴む。


「ララミアさん、やりすぎです。出血多量で死なれたら困ります」

「……分かったわ。『命の水』」


 ララミアさんは生命力を回復させる魔法の水をドロテーアにかけて回復させると、茨の拘束を弱めた。


「俺が質問します。ドロテーア、お前はあの家で何をやっていた? 何の目的であんなことをしたんだ?」


 ドロテーアはララミアさんから俺へと視線を移して悔しそうに表情を歪めた後で、視線を落として答えた。


「彼がこの神社から借りていた書物を読むためだ……」

「そんな理由で魔法を使ったのか? 宗次郎君なら頼めば見せてくれたんじゃないか?」


 俺は宗次郎君とは知り合ったばかりだが、歴史好きの少年だという事は分かっている。


 初対面のララミアさんと仲良く話をしていたし、自分の趣味に関しては饒舌になる傾向があったので、よほど失礼な態度で迫らない限りは色々と教えてくれるし、良くしてくれるタイプの人物だ。


 魔法で眠らせてその間に書物を盗み見るという危険を犯す必要は全く無いと思う。


「……友人が次に借りる予定だと言って断られた」

「ああ。それはたぶん私の事ね。見せたいものがあるって言っていたから」


 なるほど。それは間が悪かったな。しかし、それにしても早計な気がする。ララミアさんの後で借りればここまでの問題にはならなかった。


 せっかくリンドラム帝国に信頼されて日ノ本へ入国出来ているのだから、こんな強硬な手段を使うのは焦り過ぎだとも思う。


「私は期限付きで日ノ本へ入国していた。明日には江戸を出ないといけなかったんだ」

「それで眠らせて部屋を漁ったのか。それほどの事をしてまで知りたかったのは何についてなんだ?」

「……妖魔族についてだ」


 だろうな。

 てっきり嘘を吐くか黙秘するかと思ったが、ドロテーアはあっさりと自白した。ララミアさんの脅しが効いているのだろう。


「あんたみたいな半魔人族が妖魔族について江戸で調べるという事が、どれだけ警戒されるか分かっているか?」

「分かっている。だからなるべく目立たないように情報を集めていた。もう少し期間が長ければあんな強硬な手段は取らなかった」

「それで、妖魔族について調べてどうするつもりだった? 『鬼王』の復活でも企んでいたか?」


 俺はサムライたちがまず初めに思い付く内容を直球で投げかけた。


 当然だが、ドロテーアは首を横に振った。


「私は妖魔族がどのようにして誕生するのか知りたかっただけだ。過去の妖魔族そのものに興味はない」

「えっ? どういうことだ?」

「妖魔族は半魔人族や獣魔人族として産まれるはずだった子供が突然変異した姿だ。だから私のような半魔人族でも、後天的に妖魔族になれる方法があるのではないかと思い、情報を集めていた」


 俺は予想していなかった回答に首を傾げ、ララミアさんを見る。この神社で妖魔族の魔法について調べていた彼女は、間接的に妖魔族自体にも詳しくなっているはずだと思ったからだ。


「ありえないとは言い切れないわね。けど、あなたは後天的に妖魔族になってどうする気なの?」

「どうするも何も、妖魔族になることが出来れば魔力が増えるだろう?」

「ああ……なるほどね」


 ララミアさんは納得して興味を失ったようにドロテーアから視線を外す。警戒はしているようだが、怖かった表情が普段の状態へと戻った。


「結局、半魔人族だろうと、フランメギド出身だと同じ価値観ってわけね」

「ララミアさん、何が分かったんですか?」

「フランメギドでは魔力が高ければ偉いし、低ければ虐げられるのよ。私と同じか少し低いくらいの魔力しか持たない半魔人族はフランメギドだと弱い立場なのよね。あなた、日ノ本へ入国出来たって事はリンドラム帝国の国民になったんでしょ? 帝国は魔力で差別しない国よ?」


 ララミアさんの問いにドロテーアは顔を背けて答えた。


「魔力は高ければ高いほど良い……それだけだ。国は関係ない」

「そう」


 ララミアさんは軽く息を吐くと、両手を軽く上げてお手上げだと示した。


「健之助君。これ以上は魔法で精神異常を起こして正気を失わせないと無理だと思うんだけど……やる?」

「い、いえ。さすがにそこまではいいです。弥生さんもいいですよね?」


 俺が返事を求めると、弥生さんはコクコクと頷いてみせた。


 ドロテーアの話がどこまで本当の事だったのかは分からないが、宗次郎君たちを魔法で眠らせたことなどを認めた事で、松葉組のサムライとしての尋問は終了している。


 後は話を伊吹さんや将軍様へ通して処遇を決める。小林家や神社への賠償は日ノ本国とリンドラム帝国のやり取りになると思うので、俺たちの出る幕ではないだろう。


 後はミレーヌさんの件だが、これは私的な内容になるので彼女に任せたい。


「ミレーヌさん。俺たちは声が聞こえない距離まで離れますので、彼女と一対一で話してください。終わったら、手を上げて呼んでくれたら戻りますから」

「良いの?」


 ミレーヌさんは目を瞬かせて首を傾げる。


 もしかして、俺たちが立ちあった状態で『飼い主』とやらの居場所を聞くつもりだったのだろうか?


 俺と弥生さんには特別に話をしてくれたが、自分が元奴隷だった等の内容を不特定多数の前で話したい人間などいない。流石の俺もそれくらいは分かるので、ミレーヌさんに危険が及ばない限りは一対一で話をさせてあげたい。


「個人的な内容だと思いますから。ララミアさんたちも良いですよね?」

「ええ。ミレーヌさんと個人的に因縁のある人なのよね? さすがに席を外させてもらうわ」


 ララミアさん、エラさん、神主さんが同意してくれたところで、俺は全員を引き連れて神社の本殿前まで移動した。ここならミレーヌさんの声は聞こえないので安心して監視できる。


「そうだ。弥生さんとエラさんは宗次郎君の家に先に行って貰えませんか? 彼らの状態も気になりますけど、小林家の方へ説明もお願いしたいです」

「それなら伊吹姉様にも来て欲しいな……」

「わ、私が空を飛んでいち早く伊吹様に報告して連れて行きます」

「助かるよ。じゃあ、私は先に小林邸へ向かうね」

「は、はい」


 エラさんが空を飛んで七々扇(ななおうぎ)邸の方へと飛んでいき、弥生さんが宗次郎君の家へと向かう。


 ララミアさんが魔法による睡眠の状態異常は叩くなどの痛みで治ると教えてくれたので、少々乱暴だが宗次郎君たちはじきに目を覚ますだろう。


 ドロテーアの証言と食い違いが無いか、弥生さんには確認もお願いしておいた。


 それからしばらくはドロテーアと話をしているミレーヌさんを遠くから眺めて過ごしたのだが、話が終わったと手を上げて教えてくれたミレーヌさんは、俺たちが近付くと軽く息を吐いて首を振って見せたので、『飼い主』に関する情報は手に入らなかった事が分かった。


 その後は松葉組、三岳組と江戸城勤務の者たちでドロテーアの処遇が話し合われ、最終的には将軍様によってリンドラム帝国へ強制送還が決まった。


 江戸から帝国行きの船が出ている北の港までは、可愛い弟たちに危害を加えられたと憤慨していた小林家の姉妹がドロテーアの監視をしつつ送り届けるらしい。


 ドロテーアの肩に植えられた魔力を吸い取る花は、リンドラム帝国に付いたら取っても良いということになったのだが、帝国の者たちがそれを許すかは分からないらしい。


 無事にドロテーアを乗せた船が日ノ本を出発したという知らせが届いた数日後。江戸には本格的な冬が訪れていた。

色々謎を残した形にはなりましたが、ひとまず江戸の安全は取り戻せました。


次回から冬の江戸です。

まったり会話が中心となる予定です。

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