ステータスとスキル(後編)
「話を続けよう。基本的なステータスの話は終えたので、後はスキルを残すところだと思うが、汝はどのようなスキルを持っていた?」
「えっと……」
健之助はにこやかに質問してくる幽霊が努めて明るく振る舞っているのを感じつつ、彼女に言われるままに自身のステータスに視線を戻した。
「種族スキル、ユニークスキル、パッシブスキル、アクティブスキルっていうやつがそれぞれ一つずつあります」
「ほう、汝はユニークスキル持ちの人族か。希少だな」
「そうなんですか?」
「うむ。ユニークスキルは人族だけが一定確率で習得して産まれてくるもので、敵対していた魔人族からしてみれば、ユニークスキル持ちの人族は脅威だった。どれ、妾が見てやろう」
「見てやろうって……ステータス画面って他人にも見えているんですか?」
「普通は本人にしか見えないものだが、妾は他人のステータスを見ることが出来るスキルを持っているからな。どれどれ……ん?」
幽霊は他者のステータスを見る『鑑定』のスキルを発動すると、健之助のユニークスキルを見て思考をフリーズさせた。
「あの、どうしたんですか?」
「――っ、あ、ああ、すまぬ。その……驚くほど強力なスキルだったゆえ、目の錯覚かと疑ってしまった」
「『レベルダウン無効』ってスキルですよね? そんなに強力なんですか?」
「……スキルに触れて詳細を見てみるが良い」
幽霊に促されて、健之助は半透明で眼前に広がっているステータス画面から自分のユニークスキルをタッチしてみる。すると、もう一枚のウィンドウが開かれてスキルの詳細が表示された。
・ユニークスキル:レベルダウン無効
レベル及び経験値が減少するあらゆる事象に対して自動で発動する。レベル及び経験値の減少を無効にする。
「なんていうか、名前の通りの能力ですね」
「人族と敵対していた頃にいくつかのユニークスキルを見たことがあったが、これほどに強力なものは初めて見たぞ」
「……俺にはそこまで強力には思えないんですけど、もしかしてこの世界には相手のレベルを下げる魔法やスキルがあるとかですか?」
現代のゲームに当てはめて考えても、レベルが下がると言うのはとても強力なデバフ(能力の低下)だ。しかし、それ故にレベルダウン要素を実装しているゲームは少ない。あったとしても戦闘中に一時的にレベルダウンする程度のものだ。
「レベルを下げる魔法はあるが――まあ一般的ではないな。使用できる者は世界規模で考えてもかなり少数だろう。だが、それよりも身近にレベルダウン要素は存在する」
「身近なレベルダウン要素……?」
「汝は日々を大した運動もせずに寝て過ごしていたら、身体はどうなると思う?」
「そりゃあ、筋力が衰えて――あ」
健之助はレベルというゲーム的な言葉に騙されていたが、この世界も前の世界と同じ現実であり、ある程度の一般常識は共通している。
身体は動かさなければ衰えて筋力を失っていくし、運動もせずに大量に食事を取っていれば脂肪が蓄積して肥満にもなる。そういった運動能力の低下はこの世界でも確かに存在し、ステータス上ではレベルダウンとして認識されていた。
「日々の鍛錬を怠れば肉体は衰えてレベルが下がる。それはこの世界では当たり前だが、汝の世界でも当たり前のことではないのか?」
「俺の世界でも常識です。というか、それを踏まえると、このスキルって……」
「気付いたか? 汝のスキルには『あらゆる事象』と記載されている。これはつまり、怠惰な日常をおくる事による筋力や体力の低下だけでなく、老化によるレベルダウンすら無効にする力があると言えるだろう」
健之助は脳裏によぎっていた可能性を女性の幽霊によって言語化されたことで、心臓の鼓動が普段よりも強くなったのを感じた。
「それは――不老不死ってことですか?」
「どうだろうな? 見た目は一般的な人族と同様に老いるかもしれぬが、運動能力は若い頃と変わらずに過ごせるはずだ。その場合、老衰で死ぬことが無いので寿命の長さがどうなるかは分らぬぞ」
「と、とんでもないスキルじゃないですか!」
「最初からそう言っているだろう。しかも、そのスキルのおかげで汝は鍛錬を続ければ永久的に強くなり、いずれは世界一強い人族になるだろう」
レベルは上がれば上がるだけ経験値が入り辛くなるうえに、一定期間レベルアップが無い場合は強制的にレベルダウンする世界の仕組みが存在する。そのせいで日々の鍛錬を欠かさない武人達ですらレベルは一定のラインで止まってしまう。健之助のユニークスキルは世の武人達が見れば垂涎のスキルに他ならなかった。
「世界一って……」
健之助は幽霊の冗談だと笑いたかったが、自身のユニークスキルの効果を読めば読むほど、その可能性が秘められている事を理解できてしまうので、笑い飛ばすことすら出来なくなった。
「汝のスキルは他人に見られると余計ないざこざを呼ぶ可能性がある。街道に出て人に出会う前に、『鑑定耐性』のスキルを習得した方が良いだろう」
幽霊は健之助の今後を考えて、真剣な面持ちで提案した。
健之助はスキルの名称からその効果を察した上で、首を傾げる。
「名前からして有用そうですけど、どうやって習得するんですか?」
「スキルはその種類によって習得方法が違うのだが、耐性と名の付く自動発動系スキルは該当する脅威に晒されることで習得できる」
健之助は他者にステータスを見られない為に、『鑑定耐性』のスキルを習得したい。つまり、『鑑定』の脅威に何度も晒される必要がある。そしてそれは非常に簡単に達成できる状態にあった。
幽霊は健之助がすぐに条件を理解したのを察し、軽く口角を上げる。
「気付いたな? 『鑑定』を持つ妾がいれば、『鑑定耐性』を習得するなど簡単な事だ。すぐに習得させてやるから、しばし待て」
「お、お願いします」
幽霊は眼前に展開されていた健之助のステータス画面を消すと、再び彼に『鑑定』のスキルを使用してステータスを表示。そしてそれをまた消すといった作業を数十回繰り返すと、健之助が声を上げた。
「な、なんか出ました!」
健之助の視界左下に『スキル習得』という名称のアイコンが表示されたので、彼は素早くそれに触れてウィンドウを開く。そこには新しく習得したスキルが表示されていた。
・オートアクティブスキル:鑑定耐性LV1
鑑定LV1を感知して自動で発動する。その効果を無効にする。
「『鑑定LV1』を無効って書いてありますけど、これで大丈夫ですか?」
「まだだな。ユニークスキルを見るのは最高LVである『鑑定LV3』だ。それを無効にするのだから、耐性スキルもLV3へ到達する必要がある」
そう言って幽霊は健之助に対して『鑑定』を継続する。耐性系スキルは習得方法が単純な代わりに、相当な回数をこなさないとLVが上がらない。健之助は才能があるのか比較的LV1を習得するのは早かったが、LV3に到達するのは容易ではなく、開始から1時間ほど経過したところでやっと習得出来たほどだった。
「……ふう、やっとLV3に到達したようだな」
「お、お疲れ様です。ありがとうございました」
幽霊は長時間の鑑定作業から解放されて安堵の息を吐いた。すると健之助が自身のステータス画面に表示されている『鑑定耐性LV3』を眺めながら質問する。
「さっきLV3が最高LVって言ってましたけど、どのスキルもそうなんですか?」
「スキルは全てLV3が最高LVだな。一応教えておくと、たとえLV1だとしても習得しているのはそれなりに凄い事で、LV2なら堂々と他人に自慢できる。LV3は逆に秘匿する者が多いな」
健之助はLV3で秘匿する者が多いというのは、ユニークスキルを秘匿するために鑑定耐性を習得した今の状況と似たようなものだろうと考えた。どの世界、どの時代でも凄すぎる能力は得られる恩恵以上に余計なマイナス要因を引き込みやすいものだ。
「さて、これで最低限の準備は整ったか」
「準備?」
「汝がこの国の人族に保護される準備だ。あまりにも常識知らずの状態では鬼が化けているとか、無用な誤解を招くからな」
健之助はなるほどと頷くと共に、ここまでとても親切に教えてくれた幽霊と別れることを考えて不安に駆られる。早急に人里へ降りて寝泊まりできる場所と食事くらいは確保しなければまずいということは分かるのだが、全く常識の違う世界に上手く溶け込める自信が彼にはなかった。
「あの、出来ればもう少し色々教わりたいんですけど……」
「妾とて今の汝の状態が万全だとは言い難い。だが、これ以上ここに留まると日が暮れてしまう。その前に街道に出て人族と合流した方がよい。幸い汝は男だし、見てくれも……まあ、悪い方ではない。鬼に襲われ、命からがら逃げてきたと言えば助けて貰えるだろう」
幽霊が健之助の性別や外見に触れたので、彼は発言の意図が分からず首を傾げた。
「男だと、女よりも助けて貰いやすいんですか?」
普通に考えれば女性の方が助けて貰いやすいと思うのだが、幽霊の言い方は明らかに男の方が有利だという言い方だった。
「む? そうか、言い忘れておった。この国は1000年ほど前からとある事情で男女の力関係が逆転しているのだ」
「な、何ですかそれ?」
「文字通りの意味だ。この国では女の方が圧倒的に強く、男は弱い。鬼と戦うサムライは女で、男は守られる対象なのだ。汝は常識もなければ鬼との戦闘経験も皆無であろう? 魔法も使えぬし戦力としては期待できない。女に守ってもらわねばならないと考えた時に、男であることと、見てくれが悪くはないことは、保護される際に有利に働くだろう」
健之助は突然もたらされた新たな情報に頭を殴られたような衝撃を受けつつ、幽霊から自身の容姿に対する評価に苦笑いを浮かべた。
見てくれが悪くはないと言ってくれてはいるが、健之助は自身の容姿にあまり自信が無い。イケメンと評されるような美形では決してなく、悪くないというだけで良くもない。加えて、健之助は同級生の男子と比べても背が低く、高校に入学した辺りから成長もほとんど止まってしまったので、これから伸びることも期待できない。自分の容姿を武器に強い女性に取り入って守ってもらえるとは思えなかった。
「そう不安そうな顔をするな。この国のサムライは男に殊更甘い事で有名だ。設定としては、そうだな……」
幽霊は少し悩むように唇に手を当てて考えた後、ニヤリと企むような笑みを浮かべた。
「汝は日ノ本出身の男児だが、幼少期に魔人族に攫われて奴隷として過ごしていた。ある時、魔人族の隙を見て脱走し、日ノ本行きの船の貨物室に転がり込んだ。勢いで日ノ本へ密入国したまでは良いものの、そこからどうしたら良いか分からずに当てのない旅を続けていると、山中でひっそりと暮らしている老婆に出会い、サムライに助けを求めることを勧められた。という感じでどうだろうか?」
「ど、どうだろうかって言われても。そんな話信じて貰えますか?」
「人族と魔人族の確執は根深い。魔人族に奴隷にされていた男と聞けば、サムライ共は我先にと手を差し伸べてくれるはずだ」
健之助は幽霊の提案に不安を覚えつつも、自分には他に選択肢がほとんどないことを思い出し、半分諦める様な気持ちで頷いた。
「とりあえず、やれるだけやってみます」
健之助は幽霊と別れると、鬼に出会わないように祈りながら山を降りて街道へ向かった。
健之助のユニークスキルはとんでもなく有能なものでしたが、あればそれだけで無敵というようなスキルではないので、レベルが上がるまでは普通に弱いです。




