半魔人族
半魔人族。
魔力の低い種族を見下す魔人族と奴らに見下されている人族の間に産まれた歪なハーフ種族。
魔人族特有の翼を持たないが、その代わりにユニークスキルを持つ者や、人族のようにアクティブスキルを複数習得している者もいると聞く。
現在の日ノ本ではフランメギド魔王国と関わりが無いことが分かれば半魔人族は入国を許されている。半魔人族の中には純血である魔人族から迫害された者や人族の親に育てられた者もいるからだ。
しかし、江戸で妖魔族について調べている半魔人族と聞けば、私たちサムライは入国を許された半魔人族といえども警戒しないわけにはいかなくなる。
江戸城には魔人族の上位種族的存在である妖魔族の骨が封印されており、日ノ本はいまだに妖魔族が創り出した鬼の脅威に晒されているのだ。半魔人族が妖魔族の復活を企てている可能性があると分かれば、即座に捉えて国外追放するだろう。
「弥生。今日はとても楽しそうに町を捜査していたように見えましたが、半魔人族には会えたのですか?」
夕食の場で伊吹姉様が真剣な顔で今日の報告を求めて来た。
町を歩いているところを様子を見に来た伊吹姉様に遠くから見られていたのは気付いていたが、姉様にはあれが楽しそうに見えていたらしい。
実際、ララミアさんや宗次郎君、健之助君辺りは楽しそうにしていたが、私やミレーヌさんはかなり真剣に聞き込みをしていたので、一緒くたにされるのは少々心外だ。
「目撃情報は得ましたが、本人には会えませんでした」
宗次郎君の案内で、本屋と神社を巡ったのだが、どちらも笠を被った外国人女性が訪れた話は聞けても、本人がどこにいるのか、どこへ向かったのかは分からなかった。
ララミアさんは嬉しそうに本を漁ったり、神社で歴史資料を見せてもらったりしていたが、あれは半魔人族の調査というよりは、彼女の魔法研究の一環だと思われるので、伊吹姉様に報告する必要はないだろう。
半魔人族と接触するのを目的としているミレーヌさんとエラさんとは引き続き協力していきたいと思う。
私がララミアさんを心の中で協力者の枠から除外していると、健之助君が恐る恐ると言った感じで伊吹姉様に声を掛けた。
「あの~、ずっと気になっていたんですけど、半魔人族ってどうして生まれたんですか?」
「半魔人族は魔人族と人族の子供、もしくはその子孫の事ですよ?」
「それは分かるんですけど、人族は魔人族と敵対しているじゃないですか。それなのに子供がいるのはおかしいと思ったんです。もしかして、みんながみんな敵対しているわけじゃなくて、日ノ本以外だと両種族が仲の良い国もあるんですか?」
健之助君の質問に伊吹姉様は即座に首を振った。
そんな国などあるわけがない。魔人族は私たちの事を同列の生き物だと思っていないのだから。
「魔人族はフランメギド魔王国にしかいない種族です。そして、フランメギドはリンドラム帝国と休戦しているだけなので、敵対関係にあることに変わりはありません」
「トラリドはどうなんですか?」
「トラリド国の主な国民は翼を持つ獣人族と半獣人族です。人族もいるらしいですが、トラリドは大陸から離れ過ぎていて船で行き来する事すら出来ない国ですから、敵対以前の問題ですね」
トラリドは日ノ本の遥か南にある大陸の国家で、日ノ本と季節が真逆だと聞いている。
私の中にある前世の知識から考えると、南半球にある国だと思うので、空を飛ぶ以外の方法で辿り着くのは不可能に近い。
この世界は前世の地球と違って海にも魔獣がいるので、船で長距離を航海するのはとても危険なのだ。
「あまり、男性の健之助君に聞かせる話ではないかも知れませんが、全く知識が無いのもどうかと思うので教えておきましょう」
伊吹姉様が箸と茶碗を置いたのを見て、健之助君もそれに習って食器を置くと、姿勢を正して伊吹姉様に向き直った。
私は知っているので食事を続けているが、これから話される内容を想像すると少し気まずいものがある。
「魔人族は全種族の中で最高の魔力を持つ上に、魔法に関するスキルLVも高い、とにかく魔法に特化した種族です。その代わり、力や素早さは低いのですが、翼で空を飛べるので戦いにおいてはあまり弱点とは言えません」
「空から強力な魔法を撃ってくるということですね」
健之助君の言葉に伊吹姉様は軽く頷く。
前世の地球からやってきた健之助君には制空権が敵にある状況が如何に不利なのかが分かるのだろう。彼の表情が一気に険しくなった。
「さらに、その寿命の長さは私たち人族とは比べ物になりません」
「寿命も違うんですか?」
「私たち人族の平均寿命は80年ほどだと言われていますが、魔人族はその10倍以上。平均して1000年ほど生きると言われています」
「1000年……」
私たちから想像もできない年月を生きることが出来る魔人族。奴らから見れば、私たちはすぐに死ぬ下等な生物らしい。
「しかし、そんな魔人族にも悩みはあります。それは異常なまでの妊娠率の低さです」
「…………でも寿命が1000年もあるのなら、そこまで気にならないんじゃないですか?」
「そうでもないですね。魔人族の女性は生涯で二人産めれば凄いと言われるくらいには妊娠しないのです」
「二人……それだと、人口は増えないですね」
「ええ。病死、戦死、不妊によって魔人族の人口は緩やかに減っています。それを解決するために一部の魔人族は人族や獣人族と子供を作るという選択を取りました」
「そんな理由で敵対している種族の人間と結婚するんですね」
健之助君が当たり前のように口にした結婚という言葉を聞いて伊吹姉様が珍しく目を見開いて驚いた後、言い辛そうに表情を歪めた。
前世の私ですら、彼のように純粋な心でこの話を聞けたかどうかは怪しいと思う。健之助君は本当に平和な世界で育ってきたのだと思いつつ、彼の勘違いを訂正しなければならない伊吹姉様を心の中で応援した。
「大変言いにくいのですが、魔人族は見下している人族や獣人族と結婚などしません。人族や獣人族からしても、魔人族と結婚など願い下げでしょう」
「えっ? で、でもそれだと……いや、まさかそんなわけが……」
さすがの健之助君も思い当たったのだろうが、自分の考えを否定するように目を伏せて顔をしかめた。
「君も以前はそうだったように、大昔から人族や獣人族は魔人族に奴隷にされてきました。君は労働力として従えられていたようですが、中には無理やり子供を作らされた者もいたということです」
伊吹姉様から真実が告げられ、健之助君は口を引き結んで俯いた。
日本の高校生にこの話題は結構辛いと思う。いや、この世界で生まれ育った私ですら、かなり嫌な話題だ。
黙って聞いているだけでも嫌だが、それを異性である健之助君に説明しなければならなかった伊吹姉様も、かなり苦々しい顔をしている。伊吹姉様のあんな顔は初めて見た。
しばらくの沈黙の後、健之助君は小さく呟くように伊吹姉様に質問した。
「……今でも、そういった被害者はいるんでしょうか?」
「さすがに無いでしょうね。今はフランメギド魔王国に半魔人族や獣魔人族がたくさんいますから、一族を絶やさないという目的だけなら、そちらと交わるでしょう」
「そうですか……」
健之助君の言葉を最後に、私たちは黙って食事を再開した。
まるで地獄のような沈黙の中で行われた食事は、健之助君のスキルで美味しくなっているはずの料理すら味が分からなくなるほどだった。
この話、絶対に食事中にするべきじゃなかったなぁ。
正直に言うと伏せておこうかとも思った設定だったのですが、健之助は絶対に気になって質問するだろうと思っていたので、伊吹に説明役になってもらいました。
次回も弥生視点で進みます。




