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自己紹介

 普段は入る許可のない七々扇(ななおうぎ)邸の奥の座敷に異色のメンバーが集められた。


 日ノ本の七々扇家に生まれた男性であるにも関わらず、袴姿で誰よりも偉そうにふんぞり返っている七々扇蓮さん。

 蓮さんにエラと呼ばれている、彼の家来らしき桃髪桃翼のふわふわ女性。

 エラさんと同様に蓮さんの隣に座っている無表情の黒髪女性。

 そして蓮さんと向かい合うように座っているのが、ハーフエルフのララミアさんと俺だ。


 どうして俺が呼ばれたのか全く心当たりが無いが、それをこれからララミアさんが説明してくれるという。


 俺は様々な疑問を一旦自分の中へと押し込めると、ララミアさんの話に耳を傾けた。


「私が江戸城に滞在しているのは健之助君も知っていると思いますが、あそこにいると城に勤めている女性たちから様々な情報を得ることが出来ます。あまり政治に関わるような深い内容は知らされませんが、噂話のような信憑性の薄いものなら簡単に手に入るんです。そこで私は去年の夏頃に半魔人族(はんまじんぞく)の女性が日ノ本へ入国しているらしいという情報を得ました」

「半……魔人族?」


 魔人族なら分かるが、半魔人族とはどういった種族の事なのだろう?

 言葉通りに受け取るなら、魔人族の血を半分引いている者。つまり別種族とのハーフということだろう。


「魔人族と人族(ひとぞく)とのハーフのことです。ちなみに私は半亜人族(はんあじんぞく)ですね。人族は他種族と子孫を作りやすいですから」


 俺は半魔人族の意味が分かって納得すると共に、半魔人族という存在の歪さに気が付いた。


 魔人族は魔力の低い種族を見下しており、人族とは敵対関係にあるはずだ。それなのに半魔人族というハーフが存在するのは普通ではない。


 俺の疑問をよそに、ララミアさんは話題を戻して続きを話していく。


「そして最近、江戸で笠を被っている外国人女性が目撃されています。半魔人族には角がありますから、それを隠しているのではないかと思い、私は江戸の町で笠を被った女性を探しました。大通りで聞き込みをしていたところ、エラさんに声を掛けられてここに連れて来られたのです」


 いくつか質問したいことはあるが、ララミアさんの事情は分かった。


 だが、俺がここへ呼ばれた理由には繋がらなかったし、ララミアさんがエラさんに連れて来られた理由も分からない。


 俺たち二人の視線がエラさんへ向かう。


「わ、私は、大通りで聞き込みをしていたララミアさんから事情を聞いて蓮様に報告したんです。そしたら、面白そうだから連れて来いと言われて、再び町へ戻ってララミアさんをお連れしました」

「面白そう?」


 自分が連れて来られた理由が予想外のもので、ララミアさんはキョトンとして目を瞬いた。


「半魔人族の女なんて滅多に見られるもんじゃないからな」

「な、なるほど……」


 蓮さんの楽しそうな表情と真っ直ぐな目から、彼は本当に興味だけで話に首を突っ込んでいるのだと分かる。


 ララミアさんはやや呆れているが自分が連れて来られた理由に納得したようだ。


「あの、じゃあ結局、俺はなんで連れて来られたんですか?」

「信頼できる奴じゃないと、仲間に入れたくないからな」

「え? な、何の仲間です?」

「江戸にいるらしい半魔人族の女を探す仲間だ。今は過保護な姉上もいないし、チャンスなんだよ」


 いつの間にか蓮さんの信頼を得て、仲間に勧誘されていたようだ。


 以前は家来になれという話だったので断ったが、人探しの仲間くらいなら協力するのもやぶさかではない。


 それに、この場には伊吹さんが『未来視の魔眼』で見たという面々がほとんど揃っている。俺がこの人たちと江戸の町を歩く未来は確定していると言ってもいい。


「分かりました。俺も半魔人族には多少興味がありますし、協力します」

「何!? お前、半魔人族の女にも手を出す気か?」

「ええっ? そ、そういう意味じゃありませんよ。少し聞きたいことがあるだけです」

「そうか。ならいい」


 俺はいまだに蓮さん中では女たらしのイメージなのだろう。楓さんの冗談がここまで後を引くとは思わなかった。


「あの、半魔人族探しに協力してくれるのなら、自己紹介をしませんか?」


 話が落ち着いたところで、ララミアさんが素晴らしい提案をしてくれた。これから仲間として動くのなら、お互いの名前くらいはちゃんと知っておきたい。


「私はララミア・プレオベールと言います」

「萩原健之助です」

「七々扇蓮だ。お前たちが半魔人族の女の情報を持ってくることを期待しているぞ」


 ララミアさんと俺の名乗りを聞いて、蓮さんは満足そうに頷きながら名乗る。


「蓮さんは一緒に町へ行かないんですか?」

「面倒だからな。俺は半魔人族の女に会いたいだけだ。見つかったら向かうから知らせろよ。その代わり、俺の家来を貸してやる」

「わ、分かりました」


 どうやら蓮さん本人は一緒に探してはくれないらしい。彼に背中を軽く叩かれたエラさんが口を開く。


「エラ・サマーヘイズです。見ての通り飛行種の半獣人族なので空から探すことも出来ます。よろしくお願いします」

「……トラリド国の方ですか?」


 ララミアさんが尋ねると、エラさんは軽く頷いた。


「小さい頃に日ノ本へ旅行に来た際に鬼に襲われて、親を亡くしたんです。それからは蓮様の家来として住まわせて貰っています」

「家来……使用人という意味ですよね? 恋人ではないんですか?」


 ララミアさんにはエラさんが家来では無く恋人に見えたらしい。実際、堂々と蓮さんの隣に座っているので、家来という雰囲気はあまりない。


 エマさんは少し頬を染めながら、チラリと蓮さんを見つつ答えた。


「こ、恋人に見えますか?」

「ちっ、馬鹿を言うな。誰がこんな奴を恋人にするか。こいつは俺の家来だ」


 蓮さんに恋人関係を否定され、エマさんはがっくりと肩を落とす。考えていることがとても分かりやすい女性だ。

 しかし、家来と言いつつも隣に座らせているので、蓮さんにとって大切な女性であることは変わらないのだと思う。


 隣に座ると言えば、もう一人の黒髪女性が何者なのかは気になるところだ。


 俺が視線を向けていることに気付いたのか、蓮さんが紹介してくれる。


「彼女とは最近知り合ってな。姉上がいない間、もしもの時のためにと母上が俺の護衛として雇ったんだ」

「ミレーヌと言います。よろしくお願いします」


 ミレーヌさんは蓮さんやエラさんとは違って袴ではなく着流し姿なのだが、どうやら千奈さんに雇われた護衛らしい。


 外国人だと思うので、一般魔法で戦う魔法使いタイプなのかもしれない。


「ミレーヌは訳あって半魔人族を追っているらしくてな。路銀稼ぎで用心棒の仕事をしながら江戸まで来たそうなんだ」

「えっ? てことは、今回の半魔人族って……」

「ああ。ミレーヌが追いかけている奴の可能性が高い」

「なんだ。じゃあ、ミレーヌさんの為に情報を集めていたら、ララミアさんと目的が一致したってわけですか」

「エラが勝手にやったことだ。俺は面白そうだと思ったからお前らを集めたと言っただろ。エラとミレーヌを貸してやるから、江戸中を探してこい」


 蓮さんって、もしかしてツンデレなのだろうか?


 言葉遣いは荒いし、誰に対しても不遜だが、少なくともエラさんとミレーヌさんの事は気にかけているように見える。手元に置いた女性には甘いタイプの俺様キャラみたいで少し面白い。


「ミレーヌさんまで連れて行ったら、蓮さんの護衛はどうするんですか?」

「日中は屋敷にサムライがいくらでもいるから大丈夫だ。夜までには戻るだろ」

「分かりました。じゃあ、夕方を目途に捜索へ行ってみます」


 俺はララミアさん、エラさん、ミレーヌさんを連れて退出する。


 庭で魔法の訓練を続けていた伊吹さんへ声を掛けた後で外へ出ると、隣を歩くララミアさんが親し気に話しかけてくる。


「健之助君、このメンバーってもしかしなくても、あれよね?」

「ですね。後は弥生さんと茶屋の少年でしたっけ?」

「そのはずよ。弥生さんは稽古中かしら?」

「いえ、昨日の夜から西門の見張り番だったので、今は家で寝ていると思います」

「だとすると、今日は全員揃わなさそうね」


 俺たちの会話を聞いて、事情を知らないエラさんが首を傾げている。

 セリーヌさんも知らないはずだが、彼女は特に気にしていないようで無表情だ。


「あの~、夕方までそんなに時間があるわけじゃありませんけど、これからどこへ向かいますか?」

「あまり遠出も出来ないし、今日はすぐそこの大通りの店で聞き込みするだけにして、本格的に動くのは明日からでどうですか?」


 エラさんの質問に俺が答えると、みんなは同意するように頷く。


 空が色付くまでの間、大通りの店や町行く人に声を掛けて聞いてみたが、特に情報は得られなかった。


 伊吹さんの未来視によって俺たちに同行することが分かっている茶屋の少年が重要な鍵なのではとララミアさんが言い出したことで、明日は江戸城の東側にある町へ向かう約束をして帰路に付いた。

日ノ本以外の国出身のキャラが増えてきました。

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