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一般魔法

 俺が上級鬼を倒した魔法を見せるという事で、七々扇(ななおうぎ)邸の庭には多くのサムライと見習いが集結していた。


「健之助くん、がんばって」

「あ、ありがとう、奏ちゃん」


 俺は奏ちゃんから応援されつつ、竹刀を構える。

 両足から自然魔力を取り込むと、竹刀へと流し込んで霞の刀身を作り上げていく。


「これが普通の『霞刃(かすみやいば)』です。そして――」


 俺は体内魔力を操作して足裏の道を広げると、大量の自然魔力を『霞刃』へと追加する。ビリビリと痺れるような感覚が全身を通って手から放出されているが、昨日のような痛みはない。


 おそらく『電撃耐性LV2』のスキルを習得したおかげだろう。

 俺の『霞刃』が黄色く光り出し、稲妻が竹刀の周りを走り出してバチバチと音を立て始めた。


「――これが『雷の霞刃』です」

「健之助、手は大丈夫なのか?」


 涼子が心配そうな目を向けて来たので、俺は竹刀から左手を話して彼女に見せる。


「耐性スキルを習得したから、昨日ほど痛くないんだ。大丈夫だよ」

「そ、そうか」


 俺は数秒間『雷の霞刃』を維持した後で、自然魔力を大地へと返して魔法を解除する。

 ララミアさんへ視線を向けると、喜んでいるのか分からない難しい顔をしていた。


「ど、どうでした?」

「健之助君、今の魔法はどこから自然魔力を取り入れたのですか?」

「えっ? あ、足の裏からですけど?」

「なるほど、地脈から……完全に逆なのか……」


 ララミアさんは小さな声でブツブツと何か呟いた後で、俺へニッコリと笑顔を向けた。


「ありがとうございました。魔法の研究も捗りそうです」


 そういえば、ララミアさんは魔法の研究をしていると言っていたので、今の難しい顔は研究者としての顔なのだろう。

 俺の魔法に不満があったわけではなさそうなので安心した。


「では、次は私から皆さんに世界で最も有名な一般魔法をお教えします」

「一般魔法?」


 俺が首を傾げると、ララミアさんは嬉しそうに解説してくれる。魔法に関する話をするのが好きなようだ。


「日ノ本の皆さんからすれば、魔法と言えば自然魔法の事なのかもしれませんが、自然魔法とは世界的に見ると一部の国家でしか使われていない珍しい魔法です。逆に、最も一般的なのが自身の魔力を消費して使う魔法であり、他の魔法と区別するために一般魔法と呼ばれています」

「一般魔法と自然魔法の他にも魔法はあるんですか?」

「物凄く良い質問ですね! その二種類の他に知られているのは、精霊魔法と種族魔法ですが、これは自然魔法よりも更に希少かつ限定的な人々しか使えない魔法なので、詳しく知りたい場合は後日教えてあげますね」

「わ、分かりました」


 生き生きと喋るララミアさんはとても可愛らしいが、後日詳しく教わるのは止めておいた方が良いかも知れない。このテンションで朝から晩まで魔法講義をされそうな勢いだ。


「自然魔法も発動のために自身の魔力をごく少量使用していますので、皆さんもある程度は魔力の操作が出来ると思います。一般魔法はその魔力を5種類の属性へと変質させたうえで発動させるものになっています」

「……4種類じゃなくて5種類なのか」


 俺の小さな呟くが聞こえたのか、ララミアさんが目を見開いて俺に質問する。


「健之助君、どうして4種類だと思ったのですか?」

「え? えっと……」


 四大元素の話をしても伝わるとは思えない。いや、ララミアさんには伝わりそうだが、周囲のサムライたちからは何故そんなことを知っているのかと勘繰られそうだ。

 ここは慎重に言葉を選ぶ必要があるだろう。


「『霞刃』にも属性があって、炎と水、砂と風が対になっていそうだったので、一般魔法もそうなのかなって思って」

「なるほど、なるほど。ちなみに、健之助君の雷はどこに当てはまるのですか?」

「う~ん。炎か風の仲間だと思います」

「理由は?」

「雷は炎や風と同じで掴めないので」

「素晴らしい! 健之助君には教えたいことがいっぱいあります。研究者に向いていますね!」


 おお。何だか知らないが気に入られたようだ。

 テンションが爆上がりしているララミアさんとは対照的に、サムライたちはちょっと引き気味だ。


「話を戻しますが、一般魔法の属性は木、石、炎、水、獣の5種類になります。皆さんが覚えられると役立ちそうなものをお見せしますので、どの魔法から習得するかの参考にしてください。人によっては属性の得意不得意もあると思います」


 俺の予想とはだいぶ違った5属性だったので驚いていたら、ララミアさんが意気揚々と右手を突き出した。


「『緑の杖』」


 ララミアさんが魔法の名前を口にすると、地面から植物の杖が生み出される。見たこともない外国の魔法を目にして、サムライたちが軽く声を上げた。


 ララミアさんは地面に突き刺さったような状態の杖を手に取って引き抜くと、夕陽さんに手渡した。


「これが『木魔法(もくまほう)』で最も簡単かつ便利な魔法とされている『緑の杖』です」

「ふむ。無から植物を生み出すのか……しかし、この魔法が私たちの役に立ちますか?」

「夕陽さん。自然魔法で生み出した武器……たしか『霞刃』という名前でしたよね? あれはこうして手渡すことが出来ますか?」

「それは出来ません。『霞刃』は使用者の手を離れると自然魔力が大地に帰ってしまいますので」

「やはりそうですか。ですが、この魔法はこうして渡すことも出来ますし、放っておいても消える事がありません」

「消える事が無い? 永久にという意味ですか?」

「燃やしたり、何十年も放置して朽ち果てたりしないかぎりは、この世界に残り続けます。ようは、魔法で生み出した本物の植物の枝なのです。魔力消費は生み出した時だけなので、好きなだけ貯蔵できます。また、形もある程度自由に変化させられるのですよ?」


 ここまでの説明を聞いて、夕陽さんはあまりピンと来ていないのか、「薪としては使えるか……」などと的外れな事を呟いている。


 確かに、薪や松明など一般的な木材と同様に利用することも出来るだろう。だが、ララミアさんが言いたいのはそう言う事ではない。


 俺は少々じれったくなって、二人の会話に割り込んだ。


「ララミアさん、最初から別の形で作ってくれたら伝わりやすかったのではないですか?」

「あら? つまり健之助君は気付いたのですね?」

「どういうことだい、健之助君?」


 俺が声を掛けると、ララミアさんは待っていましたとばかりに目を輝かせた。


 この人、わざと回りくどいやり方をして、この魔法の有用性に気付く人が現れるのを待っていたのか。


 まんまと乗せられたことに腹を立てつつも、ここまで来たら説明しないわけにもいかないので、夕陽さんに説明する。


「形を自由に変化されられるという事は、武器の形に加工した状態で生み出せるという意味だと思います」

「武器? っ! ま、まさか」


 ララミアさんはニッコリと笑みを深めて頷くと、俺が手に持っていた竹刀を指差す。


「健之助君、その武器の名前は何と言うのですか?」

「これは竹刀ですけど、訓練用の武器です。実戦用は夕陽さんたちが腰に差しているやつで、刀と言います」


 俺が説明すると、夕陽さんが気をきかせて刀を抜いて見せてくれた。


「昨日はじっくり見る事が出来ませんでしたが、面白い形ですね。これを魔法で作るとなると、名前は――」

「ま、待ってください。名前を考えるなら、私たちに任せてください」


 夕陽さんは適当に名前を決めようとしたララミアさんを止めると、サムライたちで集まって会議を始める。刀の魔法なのでサムライである自分たちで決めたいようだ。


 俺も少し遠巻きに様子を伺っていたが、中学生から大学生くらいの年齢の女性たちが楽しそうに魔法名の案を出し合っている姿はちょっと面白かった。


 見習いや華火(はなび)さんたちは『妖魔切(ようまきり)』とか『妖刀緑丸(ようとうみどりまる)』など、彼女たちなりのカッコよさを重視した名前をドンドン上げているが、夕陽さんや伊吹さんは『魔力刀(まりょくがたな)』とか『魔木刀(まぼくがたな)』のような分かりやすい名前にしたいようだ。

 それなりの時間が経過した後で、夕陽さんが決まった名前を伝えに来た。


「――決まりました。名前は『緑の太刀』でお願いします」

「太刀ですか?」

「はい。数百年前まではこれよりも長い刀が主流で、太刀と呼ばれていました。私は太刀のような大きさにするつもりはありませんが、大きさは使う者が決めれば良いので、語感重視でそうなりました」

「そうですか。では……『緑の太刀』」


 ララミアさんが名前を唱えつつ魔力を操作すると、地面から一振りの木刀が生み出された。


 先ほどよりも大きな歓声があがり、木刀を地面から引き抜いたララミアさんは少しだけ得意そうに笑う。


「どうですか? 有用だと思うのですけど」

「素晴らしいです。そのものに切れ味はなくとも、私たちは『魔力刃(まりょくやいば)』や『霞刃』を使えば鬼を斬れます。そして刀の形をしているので、『刀』を所持することが条件のスキルも発動出来る。武器を鬼に破壊された時や、何らかの理由で手元に刀が無い時など、様々な局面で役立つと思います」


 俺は感激する夕陽さんの言葉を聞きながら、自分の『刀LV2』のスキルを確認する。


・パッシブスキル:刀LV2

 刀を所持していると力、器用さ、素早さが20%上昇する。刀の強度が大幅に上昇し、物理的な衝撃では破壊されなくなる。


 パッシブスキルは常に発動しているスキルの事だが、このスキルに関しては刀を所持している時にしか発動しないという条件がある。それがクリアできるのはかなり大きい。


 当然ながら、サムライたちは早く習得したいと息巻いているが、ララミアさんは彼女たちに待ったをかけた。


「一般魔法は木魔法だけではありません。次は夕陽さんが知りたがっていた『水魔法』をお見せします」


 ララミアさんは持っていた木刀を近くにいた奏ちゃんに渡すと、右手のひらを上に向けて広げる。


「『命の水』」


 彼女の手から少し上の辺りに、魔力によって水の玉が生み出された。これまでの魔法と違って空中に浮いているのが、いかにも魔法っぽくてワクワクする。


 ララミアさんは少しだけ考えるように辺りを見回すと、俺と目を合わせて微笑む。


「健之助君。治療したいので、ちょっと怪我してもらえますか?」


 笑顔で怪我をしろと言ってくるララミアさんに、俺は血の気が引いた。

次回もララミアに一般魔法を教わります。

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