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絶世の美女と未来視の魔眼

 七々扇(ななおうぎ)邸に到着すると、話し合いの人数が多いからという理由で普段は立ち入らない大広間へ通された。


 七々扇家からは千奈さん、楓さん。松葉組から夕陽さん、伊吹さん、弥生さん、涼子、俺。そして外国の魔法使いらしき金髪碧眼の女性という8名が一堂に会している。


 気絶していた所を治療された俺と弥生さん、サムライではない千奈さんは魔法使いの女性と初対面だったので、最初に軽く自己紹介が交わされた。


「ララミア・プレオベールです。リンドラム帝国出身で、魔法の研究をしています」


 ララミアさんは前の世界でいうところの北欧系の顔立ちをしたお姉さんで、ハッキリって超絶美人だった。美人過ぎて恋愛対象からは逆に外れるのだが、見惚れるほどに顔が整っている。


 海外の芸能人でもここまでの美人は見たことが無い。


「ララミアさんが俺の手を治してくれたって聞きました。ありがとうございました」

「わ、私も、あんなに深く斬られたのに、生きていられるのはララミアさんのおかげです。ありがとうございました」


 俺と弥生さんが深々と頭を下げると、ララミアさんの慌てた声が聞こえて来た。


「そ、そんな頭を下げられたら、逆に困ります。私は私のやるべき事をしただけですから」


 顔を上げると、困った表情のララミアさんと目が合った。

 困った顔も綺麗だなあ。それしか感想が出て来ない。


「何かお礼がしたいんですけど、俺の魔法を見せる事はお礼になりますか?」

「魔法ですか? もしかして、日ノ本の自然魔法でしょうか?」

「はい。ちょうど昨日の戦いで新しい魔法を習得したんですけど、かなり珍しいものらしくて、お礼になるのなら、お見せしようかと」

「嬉しいです。ぜひ、この話し合いの後にでも見せてくださいね」


 ララミアさんがニコリと微笑むと、俺と一緒に弥生さんや涼子までもが息を呑んだ。女性でも驚くほどに美しい笑顔だったようだ。


「では、挨拶も済んだところで本題へ移ろうか」


 俺たちの会話が一段落したタイミングで夕陽さんが口を開く。


 ここは七々扇邸だが、最も家格が上である夕陽さんが話を進める役回りのようだ。千奈さんは黙って話を聞いている。


「涼子から報告を受けているが、改めて聞いておきたい。健之助君、貝塚家の屋敷に潜伏しようとしていた上級鬼を討ったのは君で間違いないかい?」

「トドメを刺したのは俺です。けど、弥生さんと涼子がいなければ勝てなかったと思います」

「……涼子の報告では、彼女が鬼の足止めを行い、君の『霞刃(かすみやいば)』で鬼を討ったと聞いているのだが、弥生は何をしたんだい?」


 夕陽さんが弥生さんへ視線を向けると、弥生さんは申し訳なさそうな顔で首を振った。


「私は何も出来ませんでした。最初から最後まで健之助君に守られっぱなしで、すぐにやられて戦えなくされたのに、鬼を討伐した際の経験値だけは貰えたので申し訳なく思っています」

「上級鬼は本来、私や楓、伊吹や華火(はなび)でなければ対処できない。弥生は余り思い詰めなくて良い」

「は、はい……」


 俺は弥生さんが何も出来なかった事を慰められているような会話が納得できず、少しだけ語気を強めて口を挟んだ。


「待ってください。弥生さんがいなければ俺は死んでいたはずです。弥生さんが最初に前に出て戦ってくれたおかげで、俺は上級鬼の実力を分析することが出来ました。涼子がいたから、俺の攻撃を鬼に当てることが出来ました。上級鬼に勝てたのは、俺たち三人が揃っていたからです。結果だけでなく、その過程も評価してください」


 俺が力強く主張すると、夕陽さんは目を瞬かせて驚いた後、フッと力を抜くように笑った。


「君の言う通りだな。涼子、弥生、健之助君。誰が欠けても上級鬼には勝てなかっただろう。君たちの命がけの行動を正しく評価し、上様には私から報告しておこう」

「ありがとうございます」


 俺は夕陽さんが認識を改めてくれたことに安堵して胸を撫で下ろす。


「健之助君が習得した新しい『霞刃』については後で確認するとして、次は楓だな」

「……私?」

「昨日は簡易的な報告しか受けていないからな。鬼の襲撃を聞いてからの行動を詳しく教えてくれ」


 楓さんは小さく頷くと、七々扇邸の裏庭から飛び出して行った後の行動を話し始める。


「『索敵』を使って鬼を探して倒していたら、怪我をしたサムライや町人を見たこともない魔法で治療しているララミアを見付けて、そこからは一緒に鬼を倒していた」

「ん? ララミアさんも戦闘に加わっていたのか?」

「うん。結構、強かった」


 夕陽さんは淡々と語る楓さんに顔をしかめつつ、ララミアさんに頭を下げる。


「怪我人の治療だけでなく、鬼討伐までさせてしまい申し訳ありません」

「だ、大丈夫ですよ。どの国にも魔獣はいますから、慣れています」


 ララミアさんからすれば、鬼も魔獣の一種になるようだ。


 魔法の研究をしていると言っていたので、治療だけでなく戦闘用の魔法も習得しているのだろう。楓さんが強いと評しているので、実力はサムライと大差ないのかもしれない。


「川近くにいた鬼を全滅させて江戸城へ向かう途中で、雷が落ちたみたいな音が近くの屋敷から聞こえてきたから確認に行ったら、血塗れで倒れている健之助と弥生を見付けた。ララミアに治療して貰って涼子と一緒に江戸城へ二人を運んだあと、松葉組以外のサムライたちと協力して江戸中の家を探し回って潜伏していた上級鬼を討伐。全部で3匹いたけど、かなり強かった。正直に言うと、健之助たちがあれと遭遇して生きているのは奇跡だと思う」


 どうやら、貝塚家の屋敷以外にも上級鬼は潜伏していたらしい。


 ただし、他の屋敷の住人は全員が殺されてしまっていたという。涼子の屋敷も弟と妹以外のほとんどの奉公人が殺されていたそうで、俺たちの到着が如何にギリギリのタイミングだったのかが分かる。


 救えなかった命もたくさんあったが、救えた命もあったことが嬉しい。無謀だとか奇跡だとか言われているけれど、死にかけながらも戦って良かったと思えた。


「ふむ。良く分かった。ありがとう楓」


 夕陽さんは楓さんからの報告を聞き終えると、眉を寄せて小さく息を吐いた。


「事前に他の組に襲撃がある可能性を教えていたのにこれだけの被害が出るとはな……」

「えっ? 事前に教えていたって、どういうことですか?」


 俺が反射的に尋ねると、夕陽さんは伊吹さんへ視線を向けた。


「健之助君は伊吹の能力について本人か、弥生辺りから聞いているか?」

「んえっ? あ、えっと……し、知らないです」

「……知っているような反応だな?」


 楓さんから聞いてはいるのだが、それは二人の秘密なので口が裂けても言えない。俺は首を振って否定する。


「し、知らないです。教えてもらえますか?」

「伊吹は『未来視の魔眼』というユニークスキルを持っている。その力を使うと、魔眼で見た相手の遠くない未来の姿が見えるんだ。条件として、未来の自分が見た相手の姿という内容に限定されるが、これはかなり有用なスキルだ」


 夕陽さんは即座に伊吹さんのユニークスキルについて教えてくれた。伊吹さんが顔色一つ変えていないので、ここにいる人たちには教えても問題ないということなのだろう。


「だが、反動が大きくてな。魔眼を使うと伊吹は体力と魔力を大幅に消耗してしまうので、使えて一日一回が限度なんだ。それ故に、伊吹には一週間に一回ほどの頻度で私の未来を見てもらっている。その結果、私が松葉組の面々と共に江戸城を守っている姿が見えたので、江戸が襲撃されるという事は最初から分かっていた」

「……襲撃自体は防げないものなんですか?」

「無理だ。魔眼で見えた未来を変えられたことは今まで一度もない。私たちに出来るのは襲撃に素早く対応する事だけだ」

「な、なるほど」


 それで他の組にも襲撃される未来を伝えていたというのに、ここまでの被害が出てしまった。具体的な日時が分からなかったにしても、もう少し何とか出来なかったのかと思ってしまうらしい。


 反省モードの夕陽さんに対して、ララミアさんが手を上げて発言を求めた。


「あの、ちょっと良いですか?」

「どうぞ」

「サムライの皆さんは、自然魔法で戦うのですよね?」

「ええ。鬼魔法という自然魔法の一種を使って戦っています」

「でしたら、自分自身の魔力は余っているはずです。リンドラムの魔法を習得出来れば、今回のような局面で少しでも被害者を減らせるのではないでしょうか?」


 ララミアさんの申し出に、夕陽さんは目を見開いて驚いた。


「そ、それは、ララミアさんの魔法を教えて頂けるこということでしょうか?」

「ええ。武装型や放射型の魔法はあまり必要ないかと思いますが、回復型と強化型はサムライの皆さんが覚えても有効に使えると思います。才能がありそうな方なら設置型や結界型の魔法も教えられます」


 ララミアさんの口から飛び出すワードに聞き覚えがあって、俺は自分のステータスから魔法の詳細を開いて確認する。


 鬼魔法の中では、『身体強化』や『凪』、『獣の目』が強化型、『魔力刃』や『霞刃』が武装型。『鎌鼬』が放射型だった。


「願ってもない事です。実は……回復魔法だけでも教えて頂けないかとお願いするつもりでした」

「部外者の私がいるのに随分と内部の話までされるので、同情を引いたうえでそういった交渉に持ち込まれるのだろうと思ってはいました」


 夕陽さんが「うっ」と言葉を詰まらせたところを見るに、ララミアさんの方が上手のようだ。


 全てを分かったうえで、今の提案をしてくれているのだと分かる。


「私の魔法を教えるに当たって、一つだけお願いを聞いて貰えませんか?」

「な、何でしょう?」

「伊吹さんの魔眼を、私に使って頂けないでしょうか?」


 俺たちの視線が伊吹さんに集まると、彼女は真剣な表情で頷いた。


「それで私たちにリンドラムの魔法を教えて頂けるのなら、喜んで」

「嬉しいです。では、さっそくお願いします」


 ララミアさんが誰もが見惚れるほどの綺麗な笑顔でお願いすると、伊吹さんは一度目を閉じて集中した後で、ゆっくりと目を開く。


 その瞳が日ノ本の一般的な茶色の瞳から、紫色へと変わっていた。


 伊吹さんはララミアさんを紫の瞳で数秒間眺めた後で、目を閉じて息を吐く。額からは汗が流れて、肩が上下しており、今の一瞬でかなり披露したのが分かる。


「どうでしたか?」

「……江戸の町を楽しそうに観光しているような姿が見えました。共に歩いている人が予想外でしたが」

「どなたと一緒にいたのですか?」


 伊吹さんの視線が俺に向かって動き、目が合った。


「へっ? お、俺ですか?」

「健之助君と弥生。それだけならまだ分かるのですが、どういうわけか楓の弟が連れ回している少女と、見たこともない外国の女性。後は、私の記憶が正しければ、茶屋で働いている少年が一緒でした」


 それは本当に意味が分からないメンバーだ。これから知り合う人たちなのだろうか?


「私はその面々と楽しそうに観光をしていたのですか?」

「私の魔眼では光景は映っても、会話は分かりません。ただ、楽しそうに見えたのは確かです」

「そうですか。楽しそうに見えたのなら良かったです。江戸に来たばかりで事件に巻き込まれたので、まだ江戸での楽しい思い出がありませんでした。健之助君と弥生さんとは仲良くなれそうで嬉しいです」


 ララミアさんが俺と弥生さんへ笑顔を向ける。


 命の恩人であるララミアさんには今のところ友好的なイメージしかないので、仲良くなれる未来が確定しているのは素直に嬉しい。


 自然魔法を見せて、外国の魔法を教わって、その後、江戸の観光に付き合うという流れまで想像したところで、七々扇邸での話し合いは終了した。


 次は、場所を庭へと移してララミアさんへのお礼も兼ねた俺の新魔法のお披露目だ。

未来視の魔眼はランダム性の強いユニークスキルでした。


次回、外国の魔法を教わります。

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