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妖魔写し

 目が覚めた時、俺は一振(ひとふり)家の屋敷にいた。


 六畳ほどの座敷に敷いた布団から起き上がると、いつも通りの身支度を済ませてから朝食を作りに台所へ向かう。


 既に調理を始めていた料理人たちに遅れたことを謝罪しつつ手伝おうとしたところで、俺の顔を見た料理人が慌てて飛び出して行き、あれよあれよという間に俺は一振家三姉妹と向かい合う形で座布団の上に正座していた。


「健之助君、今の状況は理解していますか?」

「いえ、ちょっと良く分からないことが多いと言いますか……あまりにもいつも通りに目が覚めてしまったので、いつも通りの行動をしていたんですけど、俺の記憶では江戸に鬼が襲撃して来たはずなんです」


 俺は上級鬼と死闘を繰り広げて、打ち倒したところまでは覚えている。


 たぶんそこで意識を失ったのだと思うのだが、俺の身体にあるはずの傷が消えているせいで、あれは悪い夢だったのではと思えてしまう。


 自分の記憶に不安を抱えながら伊吹さんに確認を取ると、彼女は安心したように頷いた。


「その記憶は正しいですよ。昨日の昼過ぎに大規模な襲撃がありました。平然とした顔で料理をしようとしていたと聞いていたので、記憶喪失にでもなったのかと思いましたが、その心配は必要ないようですね」

「でも、おかしいんです。俺は両手に大怪我をしていたと思うんですけど、その傷がありません」


 俺が手のひらを見せると、伊吹さんは「どこから話しましょうか」と顎に手を当てて考えた後、彼女の視点で起きていたことを説明してくれる。


「江戸が襲撃を受けた際、私は華火(はなび)と共に江戸城の守りに就きました。途中で君と弥生、涼子さんの三人がやってきましたが、上様からのお達しで江戸城を離れられない私たちに出来る事はありません。楓と合流して各所に入り込んだ鬼を倒してくれることを願っているうちに、涼子さんの弟妹が江戸城へ逃げ込んできて、君たちの窮地を知らせてくれました」


 それでも伊吹さんたちは江戸城からサムライを動かすことを許されず、事態が終息するのを待つ事しか出来なかったという。江戸城に封印されている『鬼王(きおう)の骨』を奪われて鬼王が復活する危険性を考えれば、それ以外を見殺しにするのも仕方ないというのが将軍様の考えらしい。


「その後、楓と涼子さんに背負われる形で君と弥生が生きて江戸城へ帰って来た時は、私と華火も胸を撫で下ろしました」

「めちゃくちゃ心配したんだからね。後から聞いたけど、楓様と合流せずに上級鬼と戦ったんだって? 良く死ななかったよね。無謀にも程があるよ」


 上級鬼の強さを体験した今なら、自分たちがどれだけ無謀な事をしたのか理解できる。けれど、あそこで貝塚家に向かう選択をしていなかったら、涼子の弟と妹は殺されていた可能性が高かった。結果だけで言うなら、無謀だと言われても行って良かったと思う。


「弥生さんと俺の怪我が無くなっているのはどうしてですか? 怪我を治療する魔法でもあるのでしょうか?」

「それに関しては幸運としか言いようがありませんね。偶然、日ノ本を旅行していた外国の魔法使いが怪我人を治療して回っていたのです。楓が存在に気付いて各所に連れ回した結果、死にかけていた君と弥生は外国の魔法によって治療されたのです」

「外国には怪我を治す魔法があるんですね……ん? 弥生さんは分かりますけど、俺も死にかけていたんですか?」

「はい。両手からの出血が酷く、生命力が尽きる寸前だったと聞いています」

「ええっ!? マジですか……。その魔法使いの方はまだ江戸にいますか?」

「今は江戸城で歓待を受けていますよ。多くのサムライと江戸の民を救ってくれたことを上様が大変感激しておりましたから」

「し、城ですか。お礼を言いたかったんですけど……」


 俺は江戸城に入れる身分ではないので、命の恩人らしい魔法使いに直接お礼を言えるのは後になりそうだ。


七々扇(ななおうぎ)邸で行われる話し合いに参加してくださるそうなので、お礼はその時にでもお伝えすれば良いでしょう。彼女はこの国の魔法に興味があるらしく、君の新しい魔法を見せる事がお礼になると思いますよ」

「俺の……新しい魔法?」

「ええ。涼子さんから聞いています。『妖魔写し』となったのでしょう?」


 伊吹さんが確信を持っている目で俺を見つめて微笑んだ。その笑顔が全く笑っている様に見えなくて、俺の背筋が自然と伸びる。


 そういえば、レベルアップしてスキルや魔法をいくつか習得していたはずだ。それと、あの強力な『霞刃(かすみやいば)』も新しい魔法だろう。

 俺は自分のステータスを開いて確認する。


・名前:萩原健之助

・種族:人族

・性別:男

・年齢:17歳

・出身:日本

・経験値:2130

・レベル:22

・生命力:440

・体力:1056

・力:62

・魔力:52

・精神力:66

・素早さ:62

・器用さ:123

・運:88

・種族スキル:多才

・ユニークスキル:レベルダウン無効

・パッシブスキル:刀LV2、自然魔法LV2、料理LV2

・アクティブスキル:鑑定LV2、活性化LV2、運搬LV2、両手持ちLV2、魔力集中LV2

・オートアクティブスキル:危機回避LV1、電撃耐性LV2、威圧耐性LV1、鑑定耐性LV3

・鬼魔法:魔力刃、身体強化、凪、獣の目、霞刃、鎌鼬

・鬼神魔法:雷の霞刃、黄金の霞刃


「なっ、何だ、これ……!?」

「どうしたのですか?」

「いや、その、レベルが――というか、見たことのないスキルと魔法がたくさん増えていたので……」

「上級鬼を倒したのです。大量の経験値を得て一気にレベルが上がり、スキルを複数得るというのは不思議な事ではありません。ですが、魔法は違います。健之助君、何の魔法を得たのか教えてもらえますか?」


 伊吹さんは微笑むような笑顔だが、俺はその顔がたまらなく怖い。この人だけは本当にどういう感情で喋っているのか分からないのだ。


 俺は伊吹さんを信用しているが、信頼はしていない。ここで教える情報に気を付けなければ、夕陽さんや千奈さんに報告されて、面倒ごとに巻き込まれるだろう。


「えっと……き、『鬼神魔法(きしんまほう)』って書いてあります」


 俺の言葉を聞いて、伊吹さんの笑顔が濃くなり、華火さんは目を大きく見開いた。


「す、凄いよ、健之助! 男で『妖魔写し(ようまうつし)』に成れるなんて!」

「華火さん、『妖魔写し』って何ですか?」

「『鬼神魔法』を使える人族(ひとぞく)の事を昔からそう呼ぶんだ。まるで妖魔族(ようまぞく)のような強さの魔法を使えるから、『妖魔写し』って言うんだよ」


 妖魔族。つまり、鬼の生みの親ともいえる存在に近い強さの魔法か。

 幽霊が妖魔族にしか使えない魔法があると言っていたが、それに匹敵する力があるのだろうか?


「楓さんが黄緑色の『霞刃』を使っているのを見たんですが、あれも『鬼神魔法』ですか?」

「ええ。楓は『風の霞刃』とその派生魔法を使います。健之助君の『霞刃』は何ですか?」

「えっと……雷です」


 なんとなくだが『黄金の霞刃』は希少価値が高そうだったので、俺はそちらを秘匿して『雷の霞刃』だけを伝える。


 しかし、伊吹さんは俺の予想に反して物凄く驚いたように目を見開いた。

 伊吹さんがここまで感情を顔に出すとは思わず、俺の方まで驚いてしまった。


「そ、そんなに驚くような事ですか?」


 俺が尋ねると、伊吹さんは小さく咳払いをしてから、いつもの顔へと戻る。


「……『鬼神魔法』の『霞刃』にはいくつか属性があるのですが、雷は初めて聞きました。おそらく、歴史上初めてのことでしょう」

「ま、まじですか……」


 風があるなら雷もあるだろうと思ったのだが、そういうわけではなかったらしい。


「ちなみに、他にはどんな属性があるんですか?」

「楓が持つ『風』。夕陽と華火が持つ『炎』。涼子さんの姉が持つ『水』、そして私が持つ『砂』。一般的にはこの4つが知られています」


 どうやら松葉組の実力者は全員『妖魔写し』らしい。涼子のお姉さんだけは会った事がないが、別の組に属しているのだろうか?


「一般的じゃない属性があるんですか?」

「……過去に『光』の属性を持っていた将軍家の人間がいたそうです。今の上様は『妖魔写し』ではないので、この話は公の場でしてはいけませんよ」

「わ、分かりました」


 伊吹さんの言い方的に、『光の霞刃』の話を将軍の前ですると不興を買うことになりそうだ。俺が『妖魔写し』となった情報も与えない方が良いだろう。「男の癖に」と難癖を付けられたらたまったものではない。


「健之助、結構レベルが上がったんでしょ? 下がっちゃう前に、私と稽古しようよ」

「は、華火さんと……ですか? 相手にならないと思いますけど」

「大丈夫、大丈夫。手加減するからさ」

「華火、健之助君にはあなたとの稽古よりも、優先するべき事があります」


 嬉しそうに俺を稽古に誘う華火さんを伊吹さんが呆れた顔で止める。


「何かやらないといけないことがあるんですか?」

「言ったでしょう? 七々扇邸で話し合いがあると。君もそれに参加して貰いますよ」


 命の恩人である外国の魔法使いを交えた話し合いに参加できると分かり、気分が少しだけ上向いたが、先ほどから物静かな弥生さんが胃の辺りを押さえているのが気になる。体調が悪いのだろうか?

偉い人たちへの報告の前に一振家での状況説明シーンを入れたら長くなってしまったので分割しました。


次回こそ、七々扇邸で夕陽たちと話します。

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