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才能と努力

 前提条件として『霞刃(かすみやいば)』は中級自然魔法なので『自然魔法LV1』のスキルを持っていないと習得することが出来ない。


 俺はその事を思い出して、涼子に確認を取った。


「涼子って『自然魔法LV1』は持ってる?」

「馬鹿にするなよ? お前に『獣の目』を教えたのは私だろ? あれも『霞刃』と同じ中級自然魔法だぞ」


 涼子は物凄く嫌そうな顔で答えた。言われてみればそうだった。


 『自然魔法LV1』を持っているとなると、俺が台所で初めて『魔力刃(まりょくやいば)』を使おうとした時よりは条件が緩くなるはずだ。


「俺は『自然魔法LV1』を持っていないんだが、健之助はどうやって習得したんだ?」


 俺が話を進めようとしたところで、蓮さんから横槍が入った。


「ええっと、再現してみましょうか?」

「ああ」


 あの時の俺を再現出来れば、蓮さんも『自然魔法LV1』を習得出来るのではないだろうか?


「まず、両足から体内魔力を地面へ流して道を作る。蓮さんも一緒にやってみてください」

「分かった」


 蓮さんは俺と同じように竹刀を構えると、自然魔法を使うために体内魔力を操作した。


「そして道を作ったら、足の裏から痺れるような魔力が体内へ入って来ますよね?」

「は?」


 蓮さんが怪訝そうに俺を見る。

 その顔を見て、俺は自分が不可思議な事を言っているのだろうと理解した。


 だが、俺は実際に痺れるような自然魔力を感じている。俺に魔力操作を教えてくれた料理人の明乃さんが面白い感じ方だと言っていたので、みんなは別の感じ方で自然魔力を捉えているのかもしれない。


「弥生さん、自然魔力が足裏から入ってくる感覚って、どんな感じですか?」

「え? えっと……何だかザラザラした魔力かな?」

「ザラザラ?」

「うん。自然魔力って私の身体からしたら異物でしょ? 初めて体内へ入れた時は、傷口に砂が入ったみたいな嫌な感じがしたのを覚えているよ。慣れるのに苦労したんだ」


 やはり、俺とは全く感じ方が違うようだ。


 ちょうどいいので、この場で『霞刃』が使える人の意見を全て聞いておこうと思い、楓さんへ視線を向けた。

 楓さんは視線だけで求められている内容を察したのか、口を開く。


「突風にあった時みたいな感じ。地面から身体が浮くかと思った」

「物凄い勢いがあったってことですか?」

「うん。でも健之助。自然魔力の感じ方が違うのは『霞刃』とは関係ないよ」

「そうなんですか?」

「昔、伊吹と夕陽と検証したから。弥生は伊吹と感じ方が同じだね。私と蓮は違うけど、男女の違いなのかも」


 楓さんが検証済みなのだとしたら、この感じ方の違いは気にしなくてもいいだろう。

 俺は気を取り直して話を進める。


「それなら気にせず話を進めますね。蓮さん、足裏から身体に入って来た自然魔力をドンドンと身体の中へ受け入れてください。ちょっとずつじゃなくて、道を広げて一気に流れ込む感じで」

「一気に流れ込む……」

「そうすると、最初に感じていた軽い違和感程度じゃなくて、強烈な力が身体に押し寄せて来ませんか?」

「あ、ああ。何だか暖かいな?」

「そしたらその自然魔力を竹刀に流し込んで魔力を纏わせ、巨大な刀にするんです」


 蓮さんは必死に自然魔力を操作しているようだが、一向に彼の竹刀には霞が現れない。


「蓮さん、次のレベルアップまでどのくらいです?」

「ん? ちょっと待て」


 蓮さんは竹刀を右手だけで持つと、左手で空中を触ってステータスを確認した。


「……あと80は必要みたいだな」

「う~ん。じゃあ、調整が必要か」

「調整?」

「経験値の調整です。俺は『魔力刃』を作ろうとしていた時に偶然レベルアップしたので。そうしたら『自然魔法LV1』が習得出来て、結果として『霞刃』が使えるようになりました」


 俺が自分の体験を説明すると、涼子が首を傾げる。


「健之助、それはおかしくないか? 自然魔力を操作したくらいでは経験値は入らないだろう?」

「え、そうなのか?」


 俺と涼子が顔を見合わせる。

 彼女が嘘を言っているようには見えないが、俺も嘘は付いていない。


 すると蓮さんが小さく舌打ちした音が聞こえて来た。


「呪いを受けない女には分からないだろ。お前たちだってレベルが10前後だった時はそれで経験値が入っていたはずだ」

「……ああ、なるほど。俺の当時のレベルは11だったから、魔力の操作で経験値が入ったのか」


 レベルが上がると経験値が入り辛くなるという話だったが、当然のようにレベルが20を越えている女のサムライたちは、自分がレベル10前後だった幼少期の記憶が薄れているのだと思う。


 これで分かったのは、俺と同じ条件で『自然魔法LV1』を習得するにはレベルが低くないといけないということだ。


「蓮さんのレベルはいくつですか?」

「10から15の辺りを行ったり来たりしている。今は12だ」

「それなら、俺と同じやり方が出来るんじゃないですか?」

「……経験値の調整がかなり面倒だが、やってみる価値はあるな」


 蓮さんは小さく頷くと、少し離れたところで竹刀を振り始めたので、経験値の調整を行っているのだと分かる。


 蓮さんが離れると、涼子が小さく息を吐いた。


「……や、やり辛い男だ」

「俺と変わらないだろ?」

「いや、お前は明確に私より下だから気を遣わなくて良いが、彼は違う」

「楓さんの弟だからか。でもそれだったら楓さんと同じように接すれば良いだけじゃないのか?」


 涼子は隣に立っている楓さんを気にするようにチラリと見た後で俺の袖をグイっと引っ張って楓さんから離れる。


 聞かれたくない話をするのだろうと思い、俺は小声で尋ねた。


「な、何だよ?」

「お前は知らないかも知れないが、貝塚家は七々扇(ななおうぎ)家よりも家格が上なんだ」

「えっ、そうなの?」

「日ノ本が統一されるより前は国だった領地を持っている家だからな。石高の違いはあるが、弥生様の一振(ひとふり)家と同格だ」

「国? てことは、涼子や弥生さんってお姫様か?」


 弥生さんが一振家の家格は上の方だとは言っていたが、そこまで上だったとは思わなかった。富豪の娘くらいに思っていたら、小国の姫だったとは。


「領地へ戻ればそう呼ばれることもある。健之助に分かりやすい言い方をすると、貴族だからな。貝塚家は辺境伯くらいだと思うぞ」


 俺が外国育ちだと思っている涼子は、伝わりやすいように外国の爵位で教えてくれたのだが、世界史を取っていない俺にはピンとこない。


 辺境伯って伯爵の事だよな?

 伯爵っていうと貴族の真ん中くらいだったっけ?


「参考までに、松葉家と七々扇家はどのくらいなんだ?」

「松葉家は公爵、七々扇家は……男爵くらいだろう」


 松葉家は予想通りだったが、七々扇家は予想を下回っていた。男爵というと貴族の中では一番下のはずだ。


「あと一応、お前は騎士ってことになる」

「騎士? 騎士って外国のサムライの事だよな?」

「たまにそういう勘違いをしている外国人がいるが、お前もか」


 涼子は呆れたように騎士とサムライについて教えてくれる。


 日ノ本でいうサムライとは、外国でいう貴族の身分を持った者の中で鬼討伐を行える資格を持つ者のことらしい。


 そして外国の騎士とは、平民の兵士の中で優れた力を持っていると認められた者に与えられる名誉爵位で、対外的には貴族として扱われる立場の者だという。


「俺って貴族と同等の扱いを受けていたのか……」

「男のお前がサムライを名乗れるなど、普通では有り得ないほどの名誉なんだからな?」


 思えば、一振家では料理以外の家事はしていないし、風呂は銭湯だが毎日入っている。食事は白米でおかずもある。そもそもお金に全く困っていない。


 前の世界の生活水準から考えたら下がっているのだが、この国の町人たちと比べるとかなり良い暮らしをさせてもらっていると言えるだろう。


「弥生さんに感謝しなくちゃな……」


 全員の家格が何となく分かったところで話を整理してみると、涼子がやり辛いと言った意味が分かって来た。


「つまり涼子は楓さんより家格が上だけど、楓さん個人は実力から考えて自分よりも上の立場として接しているってことか?」

「そうなるな。だからこそ、楓様の弟をどの程度まで敬えば良いのか分からず、やり辛いんだ」


 家格も実力も自分より下の男にどこまで敬意を払うのかってことか。

 涼子の苦悩を理解して納得した俺は、彼女と共に楓さんと弥生さんの元へと戻る。


「あ、戻って来た」

「ヒソヒソ話、終わった?」


 堂々と内緒話をしていた俺たちを黙って待ってくれていたことに感謝しつつ、俺は二人に『霞刃』を習得した時の事を聞いてみた。


 すると二人から、『魔力刃』を使って稽古していた時という回答が返ってくる。


「その時にレベルアップはしました?」

「たぶん」

「私はしたよ」

「それなら、『魔力刃』を使っている時にレベルアップすれば習得できそうだな」

「いや、健之助。それはおかしいぞ」


 涼子が納得いかなそうに眉をひそめる。


「それならどうして、中級鬼を討伐した時に私は『霞刃』を習得できなかったんだ? お前と弥生様にお膳立てしてもらった自覚はあるが、最後に首を斬ったのは私だし、その時に『魔力刃』を使っていたぞ?」


 涼子の主張を聞いて、俺は再び考え込んだ。


 確かに、『魔力刃』を使おうとしただけの俺や、『魔力刃』で稽古をしていただけの弥生さんや楓さんが習得出来た魔法を、中級鬼と死闘を繰り広げた涼子が習得できないのはおかしい。


 何かまだ別の条件がありそうだ。


「やっぱり、才能の差だと思う」

「楓さん、それを言ったら元も子もないですけど……」

「でも事実。例えば『毒耐性』のスキルは弱い毒を食べ物に少し混ぜて食べる事で習得できるスキルだけど、その人の才能によって食べなきゃいけない毒の量が変わる。才能が無いと何度も毒を食べてお腹を壊すのを繰り返す地獄の作業だって聞いた」

「それはマジで地獄ですね……」


 この国の人たちはそんな苦行を乗り越えてスキルを習得しているのか。『毒耐性』というスキルは普通に有用そうだが、条件のハードルが高すぎて挑戦する気にもならない。


 涼子には才能が無いから習得できないと言われているように聞こえるので可哀そうだが、俺は楓さんの話を聞いて逆に希望が湧いて来た。


「楓さん、才能が無いと何度も挑戦しないといけないそうですけど、最終的に習得できない人っていたんですか?」


 俺の質問に弥生さんは首を振って答えた。


 どんなに才能が無くても、可能性が0%というわけではないらしい。


「涼子、一回でダメでも、二回、三回とやっていけばいつか習得できるはずだ」

「お前な……中級鬼はそうそう出会わないだろう?」

「中級鬼ならな? けど、たぶんそれは条件を勘違いしている」

「どういうことだ?」

「涼子が前回レベルアップしたのは中級鬼を倒したからだ。つまり、『魔力刃』を使ったからレベルアップしたわけじゃない」


 そもそも、俺は鬼を倒してレベルアップしていないので、『霞刃』の習得条件に『鬼魔法』を使う事が入っているのは確かだが、鬼を倒さなくてはいけないわけでは無い。


「さらに言えば、俺は『魔力刃』が使えなかったのに習得したんだぞ? 『霞刃』の習得条件はもっと緩いはずだ」

「条件が緩いのに今まで私は習得出来なったのか?」

「涼子は『鬼魔法』に苦手意識がある分、それに頼らずに稽古や討伐をしてきただろ? 楓さんの言うように才能が無い人は何回も挑戦しないと習得できないなら、涼子はもっと『鬼魔法』を使いまくらないと駄目なんだと思う」

「使いまくる?」

「そうだ。良い事を思い付いたから、今日から今から言う特訓内容を実践してくれ」


 これは本当に思い付きだが、たぶんサムライの誰も試したことが無いと思う。


 滅茶苦茶キツイはずだが、もしこれを本当にやり遂げたなら、魔法の才能が無い涼子でも『霞刃』を習得できる可能性が上がる気がする。


「これから一日中、『身体強化』を使って過ごしてくれ」

レベル10から15は日ノ本の男にしてはかなり高い方です。


涼子が例えで出した貴族の爵位ですが、彼女はリンドラム帝国基準で話していて、大公、公爵、辺境伯、伯爵、子爵、男爵、騎士の順番が正解です。

健之助は公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵の順番だと思っているので、微妙に認識がズレています。


ちなみに経験値関係の裏設定は、この世界の登場人物では正解に辿り着けないと思うので、そのうち活動報告で書こうと思います。

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