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基礎訓練

 俺たちが村の安全を確認して江戸に帰還してから十日が経った。


 俺は下級鬼一匹の単独討伐と中級鬼討伐の中核を担った事を評価され、今後の鬼討伐で楓さんの補助なしで戦えることが証明できれば一人前のサムライとして扱うと夕陽さんに宣言された。


 評価されたことは嬉しいのだが、俺の今後の人生が鬼討伐という危険と隣り合わせになってしまったことは少々不安でもある。


 俺と共に中級鬼を討伐したことで、弥生さんは目立った実績がない地味なサムライから大人しいがやる時はやるサムライとして注目されるようになった。


 一振(ひとふり)家というのは松葉組では松葉家に次ぐ家格らしいので、弥生さんは家格に実力と評価が追い付いてきたと喜んでいた。


 サムライの家格に関しては近代の歴史を教わっていない俺には分からないことが多く、いつか弥生さんに教わらないといけないと思っている。前の世界の江戸時代知識だけで話を合わせるのも限界があるからだ。


 最近知ったのは、江戸城には徳川とは違う名前の将軍が住んでいるという事と、西にある『京』という町には天皇陛下が住んでいるという事だ。


 そして日ノ本は日本の江戸時代とは違って鎖国しておらず、北西の大陸にある『リンドラム帝国』という国と貿易している。リンドラムはフランメギド魔王国の北に位置していて、今でこそ両国は和平を結んでいるらしいのだが、過去には全面戦争をしたこともあるという。種族に上下はないという方針で誕生した国とのことで、日ノ本とは昔から仲良くしてくれているらしい。


 また、国家間の付き合いではないらしいのだが、『トラリド』という遥か南にある島国からの商人や旅行者も日ノ本を訪れる事が多いと聞く。


 松葉組で稽古ばかりしているせいで俺はまだ見たことは無いのだが、トラリドからやってくるのは全員が空を飛ぶ事が出来る獣人族(じゅうじんぞく)らしい。俺はまだ幽霊以外に人族ではない人を見たことが無いが、獣人族はモフモフしていて可愛いイメージがあるので早く会ってみたいものだ。


「……空を飛ぶってことは、獣人というより鳥人じゃないか?」

「健之助くん、どうしたの?」

「いや、トラリドの獣人族に会ってみたいなって思っただけ」

「ふうん? 何を考えるのも自由だけど、稽古中は集中した方がいいよ?」

「ごめん」


 俺は見習い仲間の(かなで)ちゃんに注意され、即座に姿勢を正して素振りに集中する。素振りの重要性は身をもって経験済みだ。最も強力な一撃を正確に鬼に打ち込むためには、真剣に反復練習するのが一番。いざという時に練習通りの斬撃を放てるかどうかはこの素振りにかかっているのだ。


 奏ちゃんは松葉組の見習いの中で最年少だが、周囲が良く見えており、休憩のタイミングの指示や仲間たちへのアドバイスなど、とても10歳とは思えないほど優秀な子だ。


 年下の彼女が指示だしや注意を率先して行っているのに誰からも反発するような声があがらないのは、彼女の言い回しが上手いのと、ほんわかとした優しい人柄によるものだろう。


 奏ちゃんが最年少であることが良い方向に働き、年下の彼女が頑張っているのに自分が怠けるわけにはいかないという空気が見習いの間で出来上がっているのはとても良い傾向だと思う。


「健之助くん、そろそろ魔法の訓練に切り替えよう?」

「分かった」


 良い具合に汗をかいてきたところで、奏ちゃんの提案で素振りから魔法の訓練へと切り替える。

 見習い全員で輪になるように集まると、自分の魔力を地面へ流して道を作り、自然魔力を身体へ迎え入れる。


「じゃあ、いつものいくよ。『身体強化』!」

「一、二、三、四、五、六、七、八、九、十。『凪』!」


 十秒間『身体強化』を維持した後、『凪』に切り替えてまた十秒間維持する。そうしたらまた『身体強化』を十秒といった具合に交互に魔法を使用することで、体内に取り込んだ自然魔力のコントロールに慣れる訓練だ。


 これによって咄嗟に『身体強化』が使えるようになれば、鬼が予想外の攻撃をしてきても『身体強化』を使って即座に対応できるというわけだ。


 松葉組に昔から根付いている訓練らしいが、その効果は絶大であり、俺はこの一週間で自然魔力のコントロールにかなり慣れる事が出来た。今なら中級鬼と戦いになっても以前よりも機敏に動いて立ち回ることが出来ると思う。


 それと、これは奏ちゃんに教わったのだが、『自然魔法LV2』のスキルを持っていないと魔法の同時使用は出来ないらしい。


 俺は『霞刃(かすみやいば)』を使いながら『身体強化』も出来ていると思い込んでいたのだが、『霞刃』を使用した瞬間に『身体強化』は解除されているらしい。


「次いくよ、みんな構えて?」


 奏ちゃんの声掛けで全員が『身体強化』を維持したまま竹刀を構える。


「『魔力刃(まりょくやいば)』!」

「一、二、三、四、五、六、七、八、九、十。『身体強化』!」


 十秒ごとに『身体強化』と『魔力刃』を交互に使用して、即座に攻撃へ移れるように訓練する。


 この訓練をするにあたって、俺は『魔力刃』を習得した。『霞刃』では危ないし、中級魔法の訓練は一人前のサムライになってから行うものだからだ。


 奏ちゃん曰く、「基礎が出来ていないのに応用に手を出すのは愚か者のすること」とのことだ。


「ふう。ちょっと、休憩しよう?」


 奏ちゃんが疲れた顔で休憩を提案し、全員が竹で出来た水筒へと手を伸ばす。

 俺は水を一口飲んだ後で、自身のステータスから習得している魔法を確認する。


・鬼魔法:魔力刃

 下級自然魔法。武装型。自然魔力を武器の刃に纏わせて強化する。

・鬼魔法:身体強化

 中級自然魔法。強化型。自身の体力、力、素早さが40%上昇する。

・鬼魔法:凪

 中級自然魔法。強化型。気配や魔力を周囲と同化させて気付かれなくなる。アクティブスキルや他の魔法を使用すると解除される。気配や魔力を感知するLV1までのスキルを無効化する。

・鬼魔法:獣の目

 中級自然魔法。強化型。視力を強化し、夜間でも日中と変わらずに見えるようになる。

・鬼魔法:霞刃

 中級自然魔法。武装型。自然魔力を物理的な刃へと変質させる。

・鬼魔法:鎌鼬

 中級自然魔法。放射型。霞刃による斬撃を遠距離へ飛ばす。


 こうして並べて確認すると良く分かる。


 ステータス画面で魔法は下級から表示されるようになっているのだが、先日までは最初に表示されていた下級自然魔法が移動している。


 奏ちゃんたちと訓練をするようになって自然魔力のコントロールが上達したことで変化したのだと思うが、『身体強化』と『凪』が中級自然魔法にグレードアップしているのだ。


 俺はこの変化が普通の事なのか、異常なのかが分からず誰にも相談することが出来ないでいる。

 するとしたら弥生さんなのだが、最近は二人きりになるタイミングも少ないので中々難しい。


 昼時になると、稽古場からぞろぞろとサムライたちが現れる。夕陽さんや伊吹さんは書類仕事でいないこともあるが、それ以外のサムライたちの顔ぶれは変わらないので、そろそろ全員の顔は覚えられそうだ。


 俺の顔を見るや、華火(はなび)さんが首を傾げた。


「あれ、健之助は料理番じゃないの?」

「はい。どちらかというと見習いとしての修行に力を入れるように、夕陽さんに言われていますから」

「むう……惜しいけど、冬のことを考えたら仕方ないか」

「冬に何かあるんですか?」


 華火さんは驚いたように目を瞬かせた後で、「そういえば、健之助って外国育ちだったっけ」と思い出したように呟いてから、冬の説明をしてくれた。


 冬は西で大量の鬼が生まれる季節らしく、全国から実力のあるサムライたちが西の町へと移動するという。


 松葉組からは夕陽さん、楓さん、華火さんの3人、他の組からも3人ずつ西へ移動する予定なので、江戸から主力のサムライが12人もいなくなる。


 もしもこの状態で鬼に江戸を襲撃されると戦力的にはかなり厳しくなるらしい。夕陽さんは冬の戦力不足への対策として俺を戦力に数えたいのだろう。


「実際、江戸が襲撃されるような事ってあるんですか?」

「あるよ。私は江戸に攻めて来た上級鬼と戦ったことがあるけど、あれはもう人間と(いくさ)をしているのと変わらないよ。三人がかりで何とか勝ったけど、物凄く恐ろしい敵だった。近くの畑や農民を手下の鬼に襲わせることでサムライを江戸の外へおびき出してから攻めて来たんだ。あの時は夕陽様と楓様が討伐に出かけていたから本当に大変だったよ」


 囮を使って罠を張ってくるのか。先日の小鬼も面倒な配置で陣取っていたが、上級鬼ともなると話は違う。元々強い上に策まで弄してくるなら、俺の手に負える相手ではない気がする。


「せめて涼子が戦力になってくれたら良かったんだけど、この前の討伐だと活躍するどころか弥生や健之助に助けられていたって聞いて驚いたよ。他の組なら良いかもしれないけど、松葉組のサムライとしては未熟すぎるよね」


 華火さんはがっかりしたような顔で「せめて『霞刃』は使えるようになって欲しいよ」と呟くと、昼食を貰いに台所へと向かって行った。


 俺は視線を稽古場の入り口付近へと向けると、華火さんの言葉が聞こえて傷付いたのか、悔しそうな顔で俯いている涼子と、彼女を気遣うように隣に立つ弥生さんの姿が見えた。


 ここ数日、評価を上げた俺と弥生さんとは違って、涼子は著しく評価を下げていた。


 足りない魔法の才能を刀の腕とスキルLVで補うのにも限界があるのではないかという言葉は、俺の耳にすら入ってきているのだ。


 俺はハッキリ言って今の状況が気に食わない。


 涼子は討伐任務中とても頼もしかったし、弱いなどとは思わなかった。火力不足を補う刀の腕を持っていたし、どんな時でも冷静に状況判断が出来るメンタルもあった。


 とはいえ面と向かってサムライたちに涼子は弱くないと言っても信じてもらえないだろう。楓さんが俺と二人で一人前のサムライ一人分だと評価を下してしまったのも痛い。江戸最強にそう言われてしまったら、そうなのだろうと流されても不思議ではないのだ。


「……涼子、お願いがあるんだけど」

「お願い? 何だよ?」


 俺は真剣な顔で涼子に近付くと、深々と頭を下げる。


「俺に、稽古を付けてくれ!」

「は? な、何で私がそんなことしないといけないんだよ?」


 俺の狙い通り、周囲にいた人々の注目が俺たちに集まっていることが分かる。


 俺はあえて声を大きくして周りに聞こえるようにまくし立てた。


「言っただろ? 鬼と戦っている時の涼子はカッコよかったって。魔法にばかり頼らずに、刀で鬼と戦えるようになりたいんだ」

「いや……それは私が『霞刃』を使えないから、苦肉の策でやっているだけで」

「これは俺の尊敬する先輩の言葉なんだが――」

「はあ? こ、今度はなんだ?」

「――基礎が出来ていないのに応用に手を出すのは愚か者のすることだそうだ。俺には刀で戦うという基礎が出来ていない。だからサムライとしての基礎が完璧にできている涼子に稽古を付けて欲しいんだ!」


 俺が大声で頼み込むと、隣で話を聞いていた弥生さんが目を輝かせる。


「いいね、それ。私も魔法頼りの戦い方になっている時があるから気を付けなさいって、伊吹姉様(ねえさま)に注意されることがあるから、涼子ちゃんみたいに戦えるようになりたいって思っていたんだ」

「はあ? や、弥生様まで何を言うのですか?」

「涼子ちゃん、これからは私たち三人で特訓して、夕陽様や楓様に認めて貰えるように強くなろうね!」


 こうして俺と弥生さんと涼子は、周囲の評価を覆すための特訓をすることに決まったのだった。

尊敬する先輩とはもちろん奏ちゃんのことです。

涼子との会話は奏ちゃんも聞いていたので、健之助から先輩と思われていたことが分かって喜んでいます。


次回は3人で特訓します。

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