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三人の戦い

 空中に銀色の金属が跳ね上がる。


 それは俺が思い描いていた未来とは全く違った光景だった。


 俺が右から、弥生さんが左から『霞刃(かすみやいば)』で押さえつけるように防御用の腕を使わせ、涼子が首を斬る。


 何の打ち合わせもしていなかったが、俺たちはその光景を思い描いて行動していたはずだ。事実、直前までは思ったとおりに事が進んでいたのだ。


 しかし、最後の最後で鬼は俺たちの予想を超えて来た。残っていた攻撃用の腕を交差させて涼子の攻撃を受けようとしたのだ。


 『霞刃』の使えない涼子では腕ごと首を斬ることは出来ない。彼女はすぐに意識を切り替え、首を守る腕を斬り落とそうと刀を振った。


 すると、防御目的に思えていた交差した腕が動き、カウンターの要領で涼子の刀へと手刀がぶつけられる。


 その手刀には霧のようなエネルギーが集まっており、涼子の刀を綺麗に受け止めた。


「か、『霞刃』!?」


 鬼の手刀は間違いなく本物の『霞刃』を纏っていた。


 涼子の『魔力刃(まりょくやいば)』と鬼の『霞刃』が激突し、彼女の刀が砕け散る。


「健之助、危ない!」


 折れて空中へと跳ね上がった涼子の刀が見えた瞬間、俺は何かに引っ張られて後ろへ移動させられた。


 直後、目の前を鬼の『霞刃』が通過する。


「いっ!?」


 気が付くと、真横に楓さんが立っている。


「健之助、気を抜かないで」

「えっ?」


 次の瞬間、俺目掛けて振り下ろされた『霞刃』を楓さんが刀で受け流して助けてくれた。


「どうする? ここからは、私に任せる? それともまだ戦える?」


 楓さんに問われて、俺は混乱しながらも場の状況を確認した。


 涼子は刀こそ折れているが怪我はしていないようだ。

 弥生さんは涼子を守るために立ち位置を変えていて、まだ戦えそうだと分かる。


 そして鬼は、攻撃用の腕に『霞刃』を纏って楓さんを攻撃している。正確には、尻餅を付いている俺を殺そうとしているのだろう。楓さんが全て捌いてくれているが、彼女がいなければ俺はとっくに死んでいるだろう。


 俺は立ちあがると脇に落ちていた刀を拾う。


「楓さんは、俺たちだけでまだあいつを倒せると思いますか?」

「私は倒せるかどうか聞いていない。戦えるかどうか聞いている。答えて」


 鬼の攻撃を完璧に捌きながら、楓さんは涼しい顔で俺たちへ答えを迫る。おそらくは、彼女の実力ならこの鬼を倒すこと自体は容易いに違いない。


 けれど、こんな命がけの状況で倒せるかどうか分からない相手と戦えると言えるほど、俺は戦闘経験を積んでいないし、サムライになるための訓練もしていない。


「た、戦えます! 例え刀が折れたとしても、私はまだ戦えます!」

「わ、私も……まだ戦えます!」


 俺が返事を決めかねていると、涼子と弥生さんが叫んだ。


 折れた刀で戦うと言っている涼子を前にして、刀も無事で怪我一つない俺が戦えないなど言えるわけがない。


 俺は刀を強く握ると、鬼へ向かって構える。


「健之助は?」

「……俺もまだ、戦えますよ」

「そう。じゃあ、よく見てて?」


 俺たち3人が戦えることを宣言すると、楓さんは鬼の攻撃を弾いた後で下段に構える。その場で空間を斬り上げるように刀を振り上げると、次の瞬間には鬼の防御用の右腕が斬り裂かれて宙を舞っていた。


 予想もしていなかった攻撃に鬼は絶叫を上げて体勢を崩す。


「これ以上は手を出さない。涼子――期待してるから」

「は、はい!」


 涼子が駆け出し、弥生さんがその後ろに続く。


 弥生さんは『霞刃』で鬼と互角に斬り合い、涼子は『身体強化』を使って鬼を翻弄するようにちょこまかと動き回ることで、隙を伺っているようだ。


「お、俺も――」


 二人に続こうとした途端、楓さんが肩に手を置いて俺を止める。


「健之助は、ここから援護」

「ここから? 『霞刃』を伸ばして、ですか?」

「それでもいい。けど、健之助なら私と同じことが出来る気がする」

「同じ事って……」


 先ほど楓さんが使った魔法を俺に習得しろということだろうか?


 俺の目には、先ほどの攻撃のほとんどが見えなかった。楓さんが刀を振り上げた瞬間に鬼の腕が吹き飛んだように見えたからだ。


 その結果から推測するに、あの攻撃は、『霞刃』を伸ばして斬るのではなく、『霞刃』を鬼目掛けて飛ばしているのではないかと思う。


 漫画などではよくある技だが、ぶっつけ本番で上手く出来るかは分からない。


「朝に練習していた通りにやれば大丈夫」

「練習? 素振りしかしていませんけど」

「初めてとは思えないくらい綺麗な素振りだった。あの通りにやってみて?」


 楓さんに促され、俺は上段で構えた。


 『霞刃』を刀に纏わせ、涼子と弥生さんが戦っている鬼を見据える。


 二人を巻き込む訳にはいかない。魔法が成功するか分からないが、成功した時を考えてタイミングを計る。


 狙うのは楓さんが防御用の腕を斬り落としてくれた右腕側。『霞刃』を手刀に纏っている攻撃用の腕を斬ることが出来れば、涼子と弥生さんの助けになるはずだ。


 俺がタイミングを計るのに手間取っていると、鬼が『霞刃』を使っている俺に気付いて向きを変える。


 俺を殺そうと振り上げられた手刀の『霞刃』が巨大化して刃が伸びていく。


「今だっ!」


 俺は鬼が大きく振りかぶった瞬間を見逃さず、鬼目掛けて刀を振り下ろした。


 刀を振る遠心力で魔力が飛ぶようにイメージして渾身の上段斬りを放つと、振り上げられていた鬼の腕が裂け、胴体から右足まで縦に真っ二つに割れた。


「そこっ!」


 弥生さんが俺に続くように横薙ぎに刀を振り、鬼の両足を脛辺りから切断する。


 両足を失ったことで、鬼の身体は背中から地面へと崩れ落ちる。鬼の背後に立っていた涼子は逃げる素振りを見せずに折れた刀を構えていた。


「これで……終わりだ!」


 自らの方向へ倒れ込んできた鬼の首目掛けて『魔力刃』を纏った刀を振ると、鬼の首が半分ほど切断されて血が吹き出した。


 鬼の巨体が大きな音を上げて地面に激突し、地面が揺れる。


 俺は仰向けに倒れている鬼の身体が動き出さないかしばらく見届けた後、大きく息を吐きだした。


「な、何とか倒せた……」


 すると、視界の左下に見覚えのあるアイコンが出現した。


『レベルアップ』

『スキル習得』

『魔法習得』


 ボスを倒してレベルアップなんてゲームみたいだが、今回はレベルアップして当然と言える状況だ。


 初めての実戦で小鬼を倒し、明らかに格上の鬼を三人がかりで討伐したのだ。素振りをしていただけでレベルアップした時とは比べ物にならないほどの経験値が入ったに違いない。


 俺はその場に座り込むと同時にステータスを確認する。


・名前:萩原健之助

・種族:人族

・性別:男

・年齢:17歳

・出身:日本

・経験値:1480

・レベル:15

・生命力:230/300

・体力:380/720

・力:39

・魔力:33

・精神力:45

・素早さ:39

・器用さ:78

・運:60

・種族スキル:多才

・ユニークスキル:レベルダウン無効

・パッシブスキル:刀LV1、自然魔法LV1、料理LV2

・アクティブスキル:両手持ちLV2、運搬LV2

・オートアクティブスキル:危機回避LV1、鑑定耐性LV3

・鬼魔法:身体強化、凪、霞刃、鎌鼬


 ちょっとこれはやり過ぎじゃないか?


 いくら中級鬼を倒したとは言っても、三人がかりだったというのにレベルが2つもあがっている上に、経験値の数字から考えてもあと少しでもう一回レベルアップしそうだ。


「健之助君、大丈夫?」

「情けないぞ、それでも松葉組の一員か?」


 座り込んでいた俺を心配するように弥生さんと涼子が駆け寄って来て手を差し出してくる。俺は二人の手を取って立ち上がった。


「怪我はしてないよね?」

「大丈夫です。レベルが上がったので、ちょっとステータスを見ていただけで」

「そっか。私もレベル上がったよ」

「私も上がった。中級鬼は初めて倒したが、経験値の量が段違いだったし、元々レベルが低いお前のレベルアップは当然だろうな」


 どうやら三人ともレベルアップしたようなので、俺のレベルアップも驚くようなことではないらしい。

 俺はふと気になって二人に質問する。


「そういえば、二人のレベルっていくつなんですか?」

「24だよ」

「36だ」


 二人はほとんど同時にレベルを答えた後で顔を見合わせる。


「り、涼子ちゃん、レベル高いんだね」

「い、いえ……私は魔法が苦手な分、基礎能力で頑張らないといけないので」


 弥生さんよりも『霞刃』が使えない涼子のレベルが高かったことで、二人の間に微妙な空気が流れた。


 気まずそうにしている二人に対して全く空気を読む気が無い楓さんが近付くと、自信満々に聞いてもいないことを教えてくれる。


「私のレベルは89だよ」


 さすがに冗談だと思いたかったが、楓さんの目は冗談を言っているようには見えなかった。


 俺たちは何と返せばいいのか分からず、三人そろって苦笑いを浮かべた。

レベルに関してですが、成人の平均が10、肉体労働系の職業に就いている人の平均が20、各国の軍人の平均が30くらいとなっています。松葉組の平均は35くらいです。


楓のレベルは彼女のユニークスキルによるところが大きいので、ちょっと規格外となっています。

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