表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/47

涼子と健之助

 松葉組に鬼討伐の依頼が届き、対応する隊が編成されると迅速に現場へ向かうために大急ぎで装備が整えられていく。


 見習いはサムライに連れられて現場へ赴くときのみ帯刀が許されているらしく、俺は松葉組から貸し出された刀を受け取った。


 俺の記憶では、武士は刀を大小二振り持っていた気がするのだが、この世界のサムライは一振りしか持たないようだ。


「おい」


 俺が腰に差した刀の抜き方と納刀の仕方を弥生さんに教わっていると、トゲのある高い声がぶっきらぼうに俺を呼んだ。


「一応、名乗っておく。貝塚涼子(かいづかりょうこ)だ」

「萩原健之助です」


 貝塚涼子と名乗ったサムライは、俺が楓さんと秘密を作った日からずっと睨みを利かせて来て、見習いやサムライにするのを最後まで反対していた中学生くらいのサムライだ。


 背がギリギリ俺よりも低く、可愛い顔立ちだが目付きが悪い。生意気な後輩という雰囲気がする子だが、身分的は俺より上なので対応に困る。


「えっと……貝塚さんって呼んで良いですか?」

「家名はやめろ。私は次女だし、家格を振りかざして偉ぶるつもりもない。私は実力で人を評価するし、されるのが当たり前だと思っているからだ」


 何だか物凄くブライドが高い子みたいだ。

 てっきり男の俺が評価されるのは気に入らないというタイプの子かと思っていたので、実力主義者だったと分かって驚いた。


「性別は関係ありますか?」

「性別に関しては与えられている役割が違うとは思っているが、上下はないと思っている。それと勘違いしないように言っておくが、いくら実力に差があっても、家格が上の者や年嵩の者への敬意は必要だと思っているぞ」


 つまり彼女の考え方からすると、俺は男なのに女の役割を担おうとしている変な奴ということか。男を下に見ている人だったら話が通じないので諦めるしかなかったが、意外とまともに話してくれる子のようで安心した。


「なら……涼子さんって呼んで良いですか?」

「楓様に対しても馴れ馴れしいと思っていたが、普通は『さん』ではなく『様』だろう」


 そう言われても、様付けで人を呼んだことなどないし、俺はさん付けで十分に敬意を払っているつもりなのだ。


「ですが、涼子さんの考え方だと男女に上下はないんですよね?」

「それはそうだが、楓様や私のようなサムライと見習いのお前では実力が違うだろう。見習いに身分を置いているのだから、実力が下のお前はサムライへもっと敬意を払うべきだ」

「俺を見習いだと認めてくれるんですか?」

「それは……あれだけの『霞刃(かすみやいば)』を見せられたら仕方ないだろう……」


 あれだけ反対していたというのに、俺がサムライの見習いであることは認めてくれていたらしい。

 そこで俺は、あることに気が付いた。


「あれ? 涼子さんっていくつですか?」

「16だが?」

「俺、17です」


 14歳くらいかと思っていたので16歳なのは意外だったが、俺よりは年下なのが確定した。

 彼女は俺が言いたいことが分かったのか、物凄く嫌そうに眉を寄せた。


「お、おい、お前まさか」

「家格で偉ぶる気が無くて、男女に上下はなくて、実力では涼子さんが上で、年齢は俺が上。これって――」

「健之助と涼子は対等ってこと?」


 俺たちの会話に楓さんがすっと入って来た。いつの間にか話を聞いていたようだ。


 これはチャンスだ。正直に言うと少しだけムカついていたし、楓さんが間に入ってくれるなら大きな問題にもならないだろう。


「俺の事は健之助って呼んで良いよ、涼子」


 俺が友好の証に手を差し出すと、涼子は悔しそうに顔を赤くして手を払った。


「ふ、ふふ、ふざけるな! み、見習いの癖に!」

「確かに俺は見習いだけど、涼子より一年は人生の先輩だぞ?」

「そ、それは……いや、そうだとしても、無礼だろう!」


 俺に掴みかかろうとする涼子を楓さんが素早く押さえてくれる。物凄い速さだ。


「か、楓様!?」

「普通なら涼子の言う通り。でも、涼子はさっき家格を振りかざさないと自分で言った。それとも涼子は、やっぱり年上に敬意を払わないの?」

「そっ……それは……」


 余程悔しかったのか、涼子の目が潤み、一筋の涙が零れた。


「あっ……!」


 涼子は涙を見られまいと慌てて拭ったが、今更遅い。


 俺と楓さんの悪ふざけで泣かせてしまった事は明白だ。少しやり過ぎたかもしれない。


「あの、涼子さん……冗談ですからね。すみませんでした」

「私もやり過ぎた。ごめん」


 俺と楓さんが謝ると、涼子は今まで見たことが無いほどに怖い顔で俺を睨んだ。


「……で良い」

「えっ?」

「涼子で良い! 私の事は涼子と呼べ、健之助!」

「いや、それはさすがに」

「お前が私に無礼なのは、私の実力を知らないからだ! 心の底では私の事を年下の小娘だと思っているから、そんな態度が取れるんだ!」


 それはそうだ。でも、ちょっとやりすぎたと反省したし、様付けは無理だが涼子さんと呼んで敬意を払っても良いとは思っている。


「くそっ! どいつもこいつも私が童顔だからっていつまでも子供扱いして! 絶対に許さないからな!」

「ち、ちょっと待て、何の話だ!?」

「ああ、そうさ。私は背が低くて童顔で子供体型だよ! 見習いだった期間が誰よりも長かったし、サムライになっても『霞刃』が出来ない落ちこぼれだ! でも、だからって、料理上手で、ちょっと見た目がいいからってチヤホヤされてるような男が! 伊吹様に守って貰って、夕陽様に気に入られて、楓様と秘密を共有だぁ? 挙句の果てに『霞刃』を習得して刀の才能もありそうだからサムライにする!? ふざけるなっ! どんだけ、恵まれてんだ、お前!」


 やばい、完全にブチギレてしまっている。

 俺は怒涛の勢いで自分の弱みすらぶちまけて怒鳴り散らす涼子を宥めるため、何とか彼女の息継ぎの間を見計らって口を挟む。


「わ、分かったよ、涼子。じゃあこうしよう!」

「……何だよ?」

「俺たちは今、対等なんだろう? じゃあ、次の討伐で鬼を多く倒した方が上って事にならないか?」

「討伐数で? お前やっぱり私を馬鹿にしてるだろ?」


 涼子の目がギロリと俺を睨む。

 その顔はそこまで怖くないのだが、彼女が次に何を大声で口走るか分からず、滅茶苦茶怖い。頼むからこれ以上変な事を言わないで欲しい。


 ここは松葉組の玄関前だ。涼子は怒りのせいで全く気付いていないようだが、さっきから少し離れたところで様々な人たちが野次馬のようにこちらを見物しているのだ。夕陽さんの姿もある。


「何だ、涼子。俺に負けるのが怖いのか?」

「そ、そんなわけあるか! 見ていろ、絶対に私が勝って、お前に涼子様と呼ばせてやるからな!」


 涼子は大声で啖呵を切ると、玄関で苦笑いを浮かべている弥生さんの隣へと移動する。


「何をしている、健之助。早く行くぞ」

「あ、ああ」

「たくっ、これだから見習いは……」


 俺は上手く涼子を乗せる事が出来て安堵しつつ、さっさと勝負に負けたいと思いながら後に続いた。

 隣には目を輝かせた楓さんが並んでいる。


「健之助、私は応援するからね」

「どっちをです?」

「当然、健之助」


 前を歩く涼子が分かりやすく舌打ちした。俺だけじゃなくて楓さんにも不敬な行為だったと思うのだが、楓さんは何も気にしていなさそうなので、俺からも言及はしない。


「楓さん、俺のレベルじゃ鬼を倒すのは無理ですよ」

「『霞刃』が使えるんだから大丈夫。下級鬼なんて瞬殺できる」


 涼子が聞きたくないとばかりに足を速めて、弥生さんがこちらをチラチラと振り返りながらも涼子に遅れないように追いかけた。


「健之助に足りないのは戦闘経験。本当に危なくなったら私が守るから、健之助は思う存分鬼と戦って良いよ」

「あ、ありがとうございます」


 俺は隣で任せてくれと胸を張る楓さんを見上げつつ、涼子に置いて行かれないように少しだけ足を速めた。

健之助の感覚で言えば、小生意気な年下にちょっと冗談を言ったらやりすぎて泣かせてしまっただけなのですが、涼子からすると下に見ていた男に馬鹿にされた挙句に、尊敬する先輩がその男の肩を持ったくらい悔しい出来事でした。


楓はお気に入りの健之助をサムライにしたいのに邪魔をする涼子が気に食わなくて意地悪を言った感じです。別に涼子の事が嫌いなわけではないので、泣かれて焦っています。


次回。鬼討伐が始まります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ