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松葉組の見習い

 青天の霹靂とはまさにこのことで、ユニークスキルの詳細がバレたわけでもないのに、俺は夕陽さんの一声によって松葉組の見習いとして育てられることになってしまった。


 弥生さんを含む数名のサムライは反対していたが、夕陽さん、伊吹さん、楓さんの三人が口をそろえてサムライにした方が松葉組の為になると主張したため、俺の意思とは関係なしに見習いになることが決定されてしまったのだ。


 華火(はなび)さんに聞いたのだが、夕陽さん、伊吹さん、楓さんの三人は同い年の幼馴染で、松葉組に所属しているサムライであの三人の決定を覆せる者はいないらしい。


 俺は翌日から見習いとして松葉組へ入り、七々扇(ななおうぎ)邸の庭で幼い女の子に混ざって竹刀を振っている。


 非常に目立つのでせめて道場でやらせて欲しいのだが、あそこは一人前として認められたサムライしか入ることが出来ないらしい。


 竹刀など高校の授業で持ったきりだったが、記憶にある頃よりも竹刀の重さを感じずに振り回すことが出来るのは、俺がレベルアップしているからだろうか?


「健之助、おはよう」

「おはようございます。楓さん」


 無理やり見習いにされた不満をぶつけるように朝から竹刀を振っていたら、遅れて来た楓さんが近付いて来る。何だか眠そうな顔をしているので寝坊したのだろうか?


「袴も似合うね」

「そうですか? ありがとうございます」


 見習いになるということで、今日から俺の着物も着流しからサムライらしい袴へと変わった。何だか新選組になった気分がするので、そこだけは嬉しいポイントだったりする。


 ただ気になるのは、俺が着られる袴が一振家に既に用意されていた事だ。奉公人の女性に聞いたのだが、伊吹さんが数日前に指示を出していたらしい。こうなることを見越していたとしか思えず、俺は少しだけ彼女に対する警戒を強めていた。

 すると、楓さんが意味深な事を口にする。


「伊吹が準備していたから、すぐに見習いになれて良かったね」

「――えっ? やっぱり……伊吹さんは俺を見習いにしようと動いていたんですか?」

「あっ、これ、口止めされたんだった……どうしよう」


 どうしようと俺に言われても困るのだが、楓さんは嘘を付けなさそうなので逆に助かった。やはり伊吹さんは俺が見習いにされると想定していたようだ。


「こっち来て」


 楓さんは俺の手を取ると、七々扇邸の外に出る。


「今回は道場を占拠しないんですね」

「稽古場の事? 夕陽に怒られたから、もうやらない」


 怒られたのか。そしてサムライが訓練している道場は稽古場と呼ばれているらしい。道場という言葉は一般的ではないのだろうか?


「それよりも健之助。さっきの聞かなかったことにして。伊吹にも怒られる」

「良いですけど、どうせ聞かなかったことにするなら、もう少し詳しく教えてくださいよ」

「えっ…………教えたら健之助は何をしてくれるの?」


 楓さんは少し考えた後で見返りを要求してきた。おそらく俺がやった交渉を真似しているのだと思われる。


「俺に何かして欲しい事ありますか?」

「……寝坊して朝ごはん食べ損ねた。昼まで持たない」

「じゃあ何か作りましょうか?」


 俺が提案すると楓さんは目を輝かせて頷いた。


「うん。この前の昼に変な形のおにぎりがあった。華火と弥生が奪い合っていたけど、すごく美味しそうに見えた」


 あの二人、俺が握ったおにぎりを奪い合っていたのか。嬉しいけど少し恥ずかしい。


「じゃあ、話を聞いたらおにぎりを作るので、伊吹さんの事を教えてください」


 念のため七々扇邸から更に離れると、楓さんは伊吹さんについて話し始めた。


 なんと伊吹さんは『未来視の魔眼』というユニークスキルを持っているらしく、俺が松葉組の見習いになっている未来を見たのだという。それが分かっていたから、俺がいつ夕陽さんに見習いにすると言われても良いように袴や竹刀を事前に手配してくれていたらしい。


「待ってください。未来が見えるなら、楓さんが俺に情報を喋っちゃうのも見えるんじゃないですか?」

「見えないよ。伊吹が見えるのは未来の自分が見るものだけだし、未来の全てが見えるわけじゃないから」


 未来視というのも万能ではないらしい。ともあれ、不気味に思えていた謎が解けて少しだけ安心した。


 俺は楓さんと一緒に七々扇邸へ戻ると、彼女の為におにぎりを握った。遅めの朝食だというのに四つも欲しいと希望して来たのだから驚きだ。


 俺は縁側に座って美味しそうにおにぎりを食べている楓さんを見ながら竹刀を振っていたのだが、彼女が全てを平らげたタイミングで視界の左下にいつものアイコンが表示される。


『レベルアップ』

『スキル習得』


 またかと思いつつステータスを確認する。能力値はレベルアップで微増しているが、特出した変化はない。もしかしたら上昇量は一律なのかもしれない。

 問題は新しいスキルだ。レベルアップするたびに何かしらのスキルを習得しているがこれは普通なのだろうか?


・パッシブスキル:刀LV1

 刀を所持していると力、器用さ、素早さが10%上昇する。


 スキルの詳細を見たことで何となく分かって来たが、レベルアップ時に習得できるスキルは何の経験値でレベルアップしたのかが影響するようだ。

 俺はこれまで、料理をしていた時、魔法を使おうとした時、竹刀を振っていた時の3回レベルアップしたが、どれもその時に関係しているスキルを習得しているので間違いないだろう。


「どうかしたの?」


 俺が竹刀を振るのを止めてステータスを見ていたので楓さんが指に付いた塩を舐めながら近付いて来る。普通に行儀が悪いが、楓さんだから許せてしまうのは何故だろう。


 背の高い年上の美人サムライなのに、言動は好奇心旺盛な小学生みたいなせいで年下っぽい可愛らしさがある人だ。華火さんのように表情豊かでは無いが、目だけで感情を大きく表現できる珍しいタイプだと思う。


「レベルアップしただけですよ」

「何かスキルは習得出来た?」

「……『刀LV1』ってスキルです」


 俺の返事を聞くと、楓さんは目を輝かせて俺の手首を掴む。


「えっ」

「来て!」


 いや、来てじゃなくて。その手はさっきまで舐めていた手ですよね?


 俺は手を洗ってから触って欲しいと思いながら、稽古場へと連れていかれる。


「遅いぞ、楓。今日は私と稽古の予定だっただろう?」


 稽古場に入るや否や、夕陽さんの小言が飛んでくる。どうやら楓さんは松葉さんとの約束に寝坊したばかりか、自分の空腹を優先しておにぎりを呑気に食べていたらしい。自由過ぎる。


「ん? 健之助君じゃないか、また何かあったのかい?」


 稽古中だったサムライたち全員の視線を浴びながら、俺は夕陽さんの前まで連れていかれる。

 楓さんは俺を夕陽さんの前に立たせてから後ろに回って両肩を押さえた。


「健之助が『刀LV1』を覚えた」

「なっ!? 素振りを始めたのは今朝からだろう? いくらなんでも早すぎる」

「健之助は才能がある。私が鍛えるから刀をあげて」


 楓さんが俺に刀を渡すように要求すると、その場にいたサムライ全員が息を呑んだ。歴史や時代劇の知識がどこまでこの世界に当てはまるかは分からないが、帯刀を許すということは俺をサムライにするということだと思う。


 見習いになったのだから時が来ればサムライになるとは思っていたが、初日に素振りをしていただけでサムライになどされても、俺の方が困る。サムライなのだから鬼を討伐しろと言われても絶対に勝てないだろう。


「……楓が鍛えるのか?」

「うん。私が責任を持つ」


 楓さんが真剣な顔で頷くと、夕陽さんは先ほどまでとはうって変わって気の抜けた笑顔を浮かべた。


「分かったよ。楓がそこまで言うのなら、健之助君に刀を与えよう」

「ま、待ってくだ――」

「お待ちください!」


 勝手に話が進められると困るので、俺が異議を申し立てようとしたら、俺の言葉に被せるようにして一人のサムライが割り込んで来た。


 何度か見た覚えがある中学生くらいのサムライの女の子だ。気の強そうなつり目が俺を睨んでおり、彼女の指先が俺へと向けられた。


「こんな男が、私と同じサムライになるのですか? 私がサムライとして認められるために必死で稽古を積んでいたことを夕陽様はご存知でしょう? どうかお考え直しください」

「ふむ。まあ、それはそうだが……」


 夕陽さんが言い淀むと、間に割り込むようにして楓さんが立ちはだかる。その目は真っ直ぐにサムライの少女を見据えていた。


 俺に向けられている時とは正反対の、苛立ちに満ちた目に息を呑む。


「実力が無ければサムライになれないのは当たり前。涼子はもうサムライになれたのに、健之助の邪魔をするのはどうして?」

「そ、そいつは男です! 実力などあるはずがありません!」


 涼子と呼ばれたサムライは必死に訴えているが、楓さんの目は苛立たし気に細められたままだ。何一つ響いていないことが分かる。


 俺としては実力が不足しているのは間違いないのでサムライにしないで欲しいのだが、凍り付くようなこの場の空気で口を開く気にはなれない。


 そんな嫌な空気を破壊してくれたのは、稽古場の扉を開けて入って来た伊吹さんだった。


「……取り込み中ですか?」

「伊吹、実は――」

「――待ってください。状況説明の前にこれを」


 伊吹さんは現状を説明しようとした夕陽さんの言葉を遮ると、封筒のような物を差し出した。

 途端にその場の全員の顔付きが、気まずそうなものから真剣なサムライの顔へと変わる。


 夕陽さんが封筒を開けると中には手紙が入っており、彼女が内容を読み終えるまで全員が一言も喋らずに固唾を呑んで見守っている。


「北西の農村で鬼を見たという報告があったらしい。発見者は子供で証言に曖昧な部分があるらしいが、最低でも下級鬼が3匹はいるとのことだ」


 俺は鬼が出たと聞いて、北の川沿いで出合った一つ目の鬼を思い出す。下級鬼とはいえ、あれが三体もいるというのは恐怖でしかない。農村の人たちは今も鬼に怯えて過ごしている事だろう。


「討伐に向かうのは……」

「夕陽、私が行くよ」

「楓が行ってくれれば安心だが、ここは若手にも経験を積ませたい」


 夕陽さんは華火さんや弥生さんを見た後で、チラリと俺に視線を向けてニヤリと笑う。


「今回はサムライ三人と見習い一人の編成で行く。隊長は七々扇楓。若手に経験を積ませつつ、危なくなったら守ってやってくれ」

「分かった」

「隊員二人は貝塚涼子と一振(ひとふり)弥生。二人は鬼の討伐数が少なく実力が疑問視されている。出来る限り楓に頼らずに討伐に望みなさい」

「「はいっ!」」

「そして見習いだが……楓が見どころのありそうな子を一人選んで連れて行ってくれ」


 夕陽さんに決定権を委ねられた楓さんは目を輝かせて俺の前に進み出た。


 待ってくれ。いくら何でも急すぎる。俺はまだ見習いになったばかりだというのに、そんなことがあり得るのか?


 逃げ出したい気持ちでいっぱいの俺の目の前に楓さんの手が差し伸べられる。


「行こう、健之助」


 こういう時、無理だと正直に言える人は凄いと思う。

 俺はその場の空気に流されて、楓さんの手を取った。

見習い初日で実践投入が決定してしまいました。


次回は急いで江戸を出る準備を進めます。

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