⑥-2
「ご飯できたよー」
「お、ありがとうー、
ハンバーグめっちゃうまそう」
俺はキッチンからコップ2つとお茶を持ってきて椅子に座った。翔はすでに自分の席について、サラダを取り分けている。
「今日はいつもと味変えてみた。テレビで美味しそうな味付けの特集やっててさ、それで作ったから」
「そうなんだ、・・・・はい、これくらいでいい?」
「うん、ありがとう」
「「いただきまーす」」
俺たちは手を合わせて食べ始めた。食べ始めは、お腹が空いていたのもあり2人とも無言だった。
「はー、美味しかった」
「え、もう食べたの」
「うん、おかわりある?」
「うん、まだあっちに残ってるよ、明日のお昼ご飯にしようと思って置いてある」
「食べていい?明日のお昼は自分で買うからさ!」
「ふふふ、いいよ。
そんなに美味しかったなら全部食べちゃっても。多めに作っちゃって明日に回そうと思っただけだから」
「よっしゃ!」
翔は意気揚々とお皿を持ってキッチンの方に向かった。これは、好きな料理ランキングに入ったかなー。いつものハンバーグよりも好きそうなのは若干癪に触るけど、美味しそうに食べてくれる方が嬉しい。このレシピは覚えておこう。
「「ごちそうさまでした」」
「お皿もっていくわ。
そっちのサラダはラップして置いておく?」
「うん、そうする。
あと1日くらいはもつだろうし」
翔はキッチンにお皿を持って行くと、代わりにラップを待って帰ってきた。俺はそれを受け取り、残ったおかずたちにラップをかけた。俺は片付けを、翔はお皿洗いを各々こなす。
翔のお皿洗いよりも早く終わった俺はリビングに向かいソファに座ってTVを付けた。
ちょうどTVでは、ストロベリームーンについてやっていた。天気予報によると、生憎今年は晴天とは言えず、見えなさそうだ。
「ほんと、蓮は月が好きだよなー」
洗い物を終えた翔が飲み物を持ってこっちに来た。
翔は俺の分を渡してくれる。
「ありがとう。まあね。なんか綺麗じゃん。
それに夜を照らしてくれるとなんか落ち着く」
翔は「今日のー月はーどうなのさー」とヘンテコな歌を歌いながら、ベランダの方に向かった。
どうやら綺麗に見えたようで、翔が「今日はよく見えるよ、蓮も見てよ」と俺を手招きしている。俺はベランダに出て、翔の隣で空を見上げた。
「そういえば高校の塾帰りもよく見上げてたよな。
ほら、高三の夏。公園で会ってた時」
「あー、そんなこともあったな笑」
「俺、あれがあったから勉強頑張れてた気がするわ。あの時にはもう蓮のこと意識してたし、それに蓮は毎回、翔ならできる!って励ましてくれたから」
「・・・ふうん、そうなんだ。
意識してたとか知らなかった」
「結構意識してたよ、割とアプローチもしてるつもりだったし。てか、言ったことなかったけ?」
「うん。いつも、その、たくさん今の好意は伝えてくれるけどさ。いつからとか知らなかった」
「蓮はいつからなの?」
「・・・・言わない。秘密」
「なんで、教えてよー。気になるじゃん」
「やだ。でも翔よりもずっと前だよ、絶対に。
ほら、中入るぞ。早くお風呂入っちゃわないと」
俺は、駄々をこねる翔を置いてベランダのドアを開けて中に入った。翔は「けちー」と言いながら、俺を追いかけるように小走りで中に入ってきた。俺は後ろを振り向き、翔を見上げる。翔は不思議な顔をして、「ん、何?言ってくれる気になったの?」と言った。俺はそれを無視して口を開いた。
「翔、今日も月が綺麗だな」
きっとこの言葉の本当の意味に翔は気づかないのだろう。・・・?翔がニヤニヤしている。
俺が不思議に思って聞こうとするとそれを遮って彼は、
「蓮、月はずっと綺麗だよ」
と言った。
・・・・・え?まって、もしかして。いや、そんなこと、嘘でしょ。
俺が混乱していると、翔の匂いがふわっと香った。上を見上げると、俺の身体に手を回した翔と目が合った。翔はまだニヤニヤしている。
「ふふふ、ちゃんと伝わってる?
蓮なら意味知っているよね」
俺はその言葉で完全に理解した。翔は"月が綺麗ですね"の意味を知っている。その上で、"月はずっと綺麗でしたよ = ずっと前から愛しています "と返してきたのだ。くそ、完全に油断した。翔は知らないと思っていたのに、どこで知ったんだよ。
「なあ、蓮。ちなみに、俺これ高一の時には知ってたよ。返し方は大学生になってから調べたから最近までは知らなかったけど」
高一のときには知ってた、?
え、じゃあまって。あの時の「月が綺麗だな」も伝わってたってこと・・・・?
「ほんと、あのときはびっくりしたよ。急に言うんだもん。あでもあのときには俺のこと結構好きだったってことだよね。だって、"愛してる"だもんね?」
「そっか、そっか」と言いながら、彼は嬉しそうに頷いている。恥ずかしすぎる、気づかれないと思って放った言葉だったのに。本人に伝わっているとか消えたすぎる。てか、なんで知ってたのにスルーしたんだよ!?俺はだんだん怒りが込み上げてきて、翔の腕から力を入れて逃れた。翔はそこまで強く抱きしめていたわけではなかったようですぐに手が離れた。
「趣味悪すぎ!気づいてたならなんであの時に返事してくれなかったんだよ」
「えー、だって普通に俺、告白したいタイプだし。
俺だってあの時我慢したんだからね?
意識してる人に告白されて、グッときて思わずハグしようかと思ったんだから。さすがに受験生でもあったし、蓮は気づかれたくなさそうだったから抑えたけど。
家に帰ってからも嬉しすぎてニヤニヤしてたら、気持ち悪いって母さんに言われたんだからな」
「そんなの知らねえし!最低!
俺先にお風呂入る!」
俺は嬉しさと恥ずかしさでとにかくこの場所から離れたかった。早歩きでお風呂場に向かおうとすると、翔に腕を掴まれた。
「待って、蓮。ねえ、今日はしよっか」
「は!?」
「だって、そんなに可愛いのはずるいよ、ダメだよ。ちなみに蓮に拒否権ないから。
蓮が俺をそういう気分にさせたの」
ここから見上げる翔の目には確かに欲望の色があった。これは、逃げられないやつだ。俺は観念して首を縦に振った。