⑥-1
「いやー、暑いな」
「ほんとにな。
夜なのにこの暑さとか日中の暑さが怖いわ」
「俺たちは受験生だから外に出てないのが救いだな」
「まあそれはそれで地獄なんだけどな」
俺たちは今受験勉強に追われている。
ネームバリューではなく自分のやりたいことができる大学が良いとは思いつつ、やはり偏差値の高い大学に入れれば鼻が高いし、自分の自信にもなる。それに、昨今の就職事情を見ればやはり学歴があるに越したことはない。というわけで俺たちは、もれなく夏休みだというのに朝から晩まで塾三昧だ。同じ塾に通う俺と翔は、塾が終わったあと近くの公園で話すことが日課となっていた。
「それにしても今日の数Ⅱ難しかったなー。
いきなり昔に習った公式使ってきてさ、そんなのありかよ!ってなった」
「あー、あれな。俺も分かんなかったわ。
数学ってそういうところあるよな」
「あと有機な!もう俺覚えられない・・・・」
「はは、あれは量しかないって。翔はちゃんと努力できるから覚えられるって」
「今はどんな励ましでも泣きそうになるわ、」
「ちょっ、俺の服で拭こうとするなよ」
「ごめんって、つい笑」
「ついってなんだよ、やめろ笑」
「あーあ去年は一緒に夏祭り行ってたのにな。
蓮、めっちゃ浴衣似合ってたよな。あの紺のやつ」
「似合ってるって言ってくれたのお前だけだよ」
「いいじゃん俺が言ってるだけでも。
めっちゃ楽しかったよなー」
「そうだな、楽しかった。
拓馬がりんご飴落として、翔がたこ焼き落として、勇人がコーラ落として、最後に俺がヨーヨーの水でびしょびしょになった時は一生分の落ちるを経験した気分たったけど」
「あったなそれ笑1番意味わからん時間だった。
俺浴衣濡らしたからめっちゃ怒られたし」
「俺もお母さんに大激怒されて、しばらくお弁当作ってもらえなかったわ」
「・・・また、来年も行こうな」
「おう。なんか勉強頑張る目標ができたわ」
「そんな楽しみにしてくれんの笑」
いいんだろ、俺にとっては大事なんだよ。お前と約束できることが、来年も一緒にいれるっていう可能性があることが嬉しいの。またお前が似合ってるってお世辞でも言ってくれるなら俺はあの紺の浴衣を着たいって思うんだよ。
「・・・月が綺麗だな」
「え、急に?まあ、たしかに笑
月が綺麗だとなんか元気出るな」
いいだろ、言いたくなったんだよ。
"俺はお前が好き"って。
別にお前は気づかなくて良いよ。
「よし、帰るか」
「そうだな、明日も頑張るぞーー!」