琥珀君を攻略するには?
「歯磨きしたい」
「あっ、どうぞ」
琥珀君が洗面所に入ってきて。
私は、洗面所から出ようとする。
「おい」
おーー!!
パジャマの感想がきたーー。
「そのパジャマ」
うんうん。
「兄貴が好きそうなやつだな」
ーーえっ?
兄貴が好きそうなやつ……?
……?
…………?
………………?
……………………?
琥珀君の言葉に頭が真っ白になる。
【分岐点を選択しました】
ちょっとちょっとやり直し、やり直し。
わたラブの中で、洋服への感想は重要だ。
それを知ったのは、初めてわたラブをやり始めた時。
最初は、美春君とのハッピーエンドを目指そうとしていた。
初めて遊んだ時は、キャラクターごとに好きな洋服があるとは知らず。
自分の好きな洋服を着ていた。
美春君との初デートの日。
私の着ている服を見た美春君が「伊織が好きそうなデザインだね」と言ったのだ。
伊織君とは、美春君と一緒に働いている新米パティシエの後輩君。
そして【分岐点が選択されました】の後に✕と書かれ。
主人公が【これは美春君の好きな服じゃなかったんだ。次から気をつけよう】と話すのを見て。
現実世界と同じようにわたラブの彼達も洋服の好みがあるのがわかったのだ。
知らなかったせいで、美春君エンドは手に入らなかった。
何故なら、初めにもらったコインで買った洋服が伊織君好みだったからだ。
ちなみに、今回も✕とデカデカと表示されている。
そして【これは、琥珀君の好きな服じゃなかったんだ。次から気をつけよう】の文字が……。
じゃあ、やっぱり。
これは、翡翠君エンドに向かっているのか?
ーーって……。
まさかの琥珀君に引き寄せられる。
な……何?
「髪の毛濡れてる」
「あっ、うん。後で、大丈夫」
「大丈夫じゃないだろ。俺が乾かしてやるよ」
「えっ?」
琥珀君は、私を抱き締める。
うわーー。
また熱くなってきた。
「兄貴が好きな服を着るなよな!」
「……はい」
「お前の頭の中、俺でいっぱいにしろ」
わーー。
これだーー。
攻略法は出回っていないけれど。
キュンキュンした琥珀君の台詞をのせている人は多いのだ。
中でも、一位に輝いている台詞が「頭の中、俺でいっぱいにしろ」ってのらしいです。
確かに、いっぱいになることなんかあり得ないですよね。
ご飯の事、仕事の事、家庭の事、夢の事、友達の事……などなど。
生きていたらいろんな事を考えなくちゃいけない。
だから、頭の中いっぱいにするなんてあり得ないと思ってたけど。
「濡れてる」
「あっ、ごめんなさい」
「リビングで乾かしてやるよ」
「あっ、えっと、はい」
髪の毛から落ちた雫が琥珀君の肩を濡らしたようだった。
やっぱり、いいな。
学生時代みたいに何も考えずに、ただ好きな人の事を考えるだけの時間。
リビングに行ってソファーに座る。
このソファーって、どのキャラクターが好きだったかなーー。
琥珀君が、ドライヤーを持ってやってくる。
「あのさ、今週末ソファー見に行かない?」
「あっ、はい」
「よかったーー」
琥珀君の照れた笑顔。
もしかして、うまくいってる?
【アルバムに追加されました】
ーーおおっ!
やっぱり、うまくいってるんだ。
「そこ座れ」
「うん」
ソファー下に座ると琥珀君が丁寧に髪を乾かしてくれる。
ブォーーって大きな音で、何も聞こえない。
「琥珀君が好き……」
言ってもバレなくていいや。
「何か言った?」
「何でもないよ」
「そっかあ……。あっ、お前さ」
「何?」
「…………なのか?」
「なーにー、聞こえない」
「何でもない」
私ならワサワサって乾かしちゃうのに、琥珀君は丁寧にしてくれる。
何だかくすぐったくて心地いい。
そう言えば付き合ってる時に、よく智に髪の毛乾かしてもらったっけ。
心地よくて、ふわふわして幸せで。
そんな日々が一生続くってあの頃の私は信じていたんだよね。
ーーえっ?
目の前が真っ暗になった。
どうなってんの?
何で?