琥珀君を攻略するには?
「何かあった?」
お風呂から上がってきた琥珀君に声をかけられた。
「あっ、ううん。別に」
私は、とっさに嘘をつく。
でも、その画面が気になる。
だって順次ラインナップされていく芸能人の一覧に【渡瀬智】の名前が書かれていたからだ。
まさか。
この世界でも智に関わることになるとは……。
関わるといっても、みんなが想像している渡瀬智だから。
私と付き合っていた智ではないのはわかる。
「なあ」
「はい」
「お前さ」
「はい」
「俺以外のこと考えんなよ」
上半身裸にバスタオルを首に巻いたスタイルの琥珀君に引き寄せられる。
ーーおお!
琥珀君の匂いのボディソープ。
こないだコラボしていたやつだ。
アクアサボンの香りとかって書いてたかな。
琥珀君の体温に混ざって、いい香りがする。
「はい……」
「何、はいって答えてんの?」
「えっ?そっちが」
「俺のせいにするなよ」
琥珀君は私から離れると冷凍庫からアイスを取り出す。
何で、こんなツンデレなのよ。
他のキャラクターと違って、かなりドキドキする。
たぶん、わざとだ。
優しくして突き放して。
その繰り返しが何だかジェットコースターに乗っているようなのだ。
「風呂沸かす?」
「あっ、ううん。シャワーでいいかな」
「女って長風呂が好きだと思ってたわ」
「わ、私は苦手だから」
「そう。じゃあ、さっさと入ってきたら?」
「言われなくても、そうするわよ」
「何で怒ってんの?」
「怒ってなんかない」
自分の部屋に行って、パジャマと下着とバスタオルを取る。
琥珀君に怒ってないって言ったのは嘘だ。
何だか琥珀君の掌で踊らされているみたいで嫌だったのかな?
いや、違う。
やっぱり、この世界観が好きなんだ。
そんな私の大好きな世界に智が来るのが嫌だったのかな。
この世界を壊されたくない。
だから、アップデートされて欲しくない。
順次ラインナップ予定だから。
いつかわからないのも、モヤモヤする。
だけど、少しだけ嬉しい気持ちもある。
こんな有名なゲームのキャラクターになれたってのはすごい事だ。
でも。
私と結婚しながら不倫していたわけだし。
シャワーを捻る。
あの世界の私は何だったんだろう。
こっちじゃ、ツルスベの素肌に毛穴も見当たらないほど綺麗なわけだよ。
このゲームのいいところは、主人公の顔がほとんど映らないところだ。
操作しながら羨ましいと思っていた彼女は、イケメンキャラに愛されるだけの素質は持っている。
はぁーー。
睫毛がくるりんってしていて、目もパッチリした二重。
知らなかったけど。
めちゃくちゃ美人さんじゃん。
シャワーを浴びながら、全身鏡に映る自分の姿を見つめる。
手足も細くて長くて、体つきも華奢。
現実世界の私とは似ても似つかない。
中に入ったことによって手に入れたこんな華奢なウエストや肩。
現実世界なら、骨を削りさえしなければ手に入らない体じゃん。
この体なら、いろんなファッションを楽しめる。
あっ、あとで財布の中身を確認しよう。
琥珀君を振り向かせるアイテムの部屋着やパジャマや洋服を持っていなかった気がするんだよね。
シャワーから上がって、持ってきた服に着替える。
確か、これって……。
ーーコンコン
「はい」
「開けていい?」
「あっ、はい。大丈夫です」
洗面所のドアがゆっくり開く。
たぶん、琥珀君がパジャマを見て一言いってくれるはずだ。