現れた王子様
そういえば、琥珀君のプレイを何度か試みたことがあったけれどいまだにハッピーエンドにはたどり着けていないのを思い出してしまった。
今回の選択肢は、琥珀君を追いかけずに翡翠君を選んだ。
って事は、翡翠君との甘々エンドにならないかと少し心配もある。
「ごちそうさまでした」
「あっ、はい」
「どうしたの?ぼんやりしてた?」
「あっ、いえ、全然、大丈夫です」
「大丈夫って顔してないけどね」
わーー、イケメン。
本当に綺麗。
画面越しにも綺麗だけど、生は本当にすごい。
「どうした?」
「い、いえ。ケーキ、美味しかったです」
「よかった」
またもやキラースマイル。
これに胸を打たれない女子はいない。
「あっ、そろそろ帰らなきゃ」
「そ、そうですか」
「うん。七瀬ちゃんに呼ばれてるから、ごめんね」
七瀬ちゃん……。
わたラブ史上最悪な恋のライバルだ。
やっぱり翡翠君は、七瀬ちゃんと出掛けるんだね。
「また一緒にケーキ食べようね」
「はい。あのーー、今日は?」
「あーー、琥珀が一緒に住んでる相手がどんな子か気になっただけだよ」
あっ、お母さんだ。
翡翠君と琥珀君の母親はかなり厳しい人物。
息子のルームシェアの相手を気にするのは当然だ。
特に、こんなイケメン二人を産んだならなおさら。
「深刻そうな顔しなくて大丈夫だよ!女の子と住んでるのは内緒にしとくから」
翡翠君は、唇に人差し指を当ててシッーという仕草をする。
「よ、よろしくお願いします」
「うん」
ポンポンと頭を叩いてから撫でる。
あーー、本当に王子様。
「じゃあ、また来るね。あずきちゃん」
「はい、お気をつけて」
玄関まで翡翠君を見送った。
ケーキを食べたからハートの消費はなしで、頭ポンポン何かされちゃうなんて。
これはコレクション写真に入っているだろう。
ーービー、ビー、ビー
えっ?また?
【ハプニング発生】の文字が浮かんでいる。
嘘!
これって、七瀬ちゃんかお母さんがやってくるパターン?
って事は、琥珀君との同棲。
いや、ルームシェアも解消ってこと。
今日始まったモードなのに、それはいやーー。
どうにか回避できない?
どうする?
どうする?
ーービー、ビー、ビー
ヤバい。
インターホンなるに決まってる。
絶対出ない。
無視する。
決めた!
それでいこう。
ーーガチャ
まさかの合鍵持ってるパターン?
想像してなかったーー。
「お前、兄貴にデレデレしてんなよ!」
ーーえっ?
ハプニングは琥珀君。
って、どっかで見てたってこと?
扉の外に居たってこと?
「昨日つけようって言ったカメラ。使えるな!」
カ、カメラーー。
防犯カメラか何かがついてたってこと?
「お前がつけるって聞かなかったんだからな!俺が勝手につけたわけじゃねーから」
「そっか」
「何だよ、その返事」
琥珀君は冷たいけれど、智とは違うのがわかる。
何か、愛のある冷たさなんだよね。
「俺の分のケーキあるの?」
「あっ、うん。あるよ」
琥珀君を追いかけてキッチンに一緒にいく。
間取りは、2LDKでリビングは広めだ。
「待ってね、今用意するから」
冷蔵庫に手をかけた瞬間だった。
「誰にでもいい顔すんなよ」
まっ、まさかのバックハグ。
きたーーーーーー。
ヤバい。
胸がドキドキする。
ヤバい。
顔が暑い。
「さっさとケーキ出せよ」
「あっ、うん」
って、何なんだよ!
琥珀君は、私からすぐに離れる。
そうだった。
琥珀君の攻略は難しいんだ。
ケーキを取り出してお皿に乗せる。
ケトルでお湯を沸かして、コーヒーをいれる。
琥珀君を攻略するために、購入したアイテム。
琥珀君は、インスタントコーヒーは大嫌い。
サイフォンを購入することができなかった時は、一発で琥珀君との関係が終わったのだ。
このアルコールランプを思わせるおしゃれなデザインがいいらしい。
まあ、琥珀君とは終わったけれど。
別のキャラクターとハッピーエンドになれるから。
わたラブは、やめられないんだよねーー。
「お待たせ」
「どうも!」
翡翠君に似て、琥珀君もやはり素敵だ。
横顔のカッコ良さを拝めるのは、ゲームの世界ならではだ。
「やっぱり、美春のケーキはうまいな!」
「でしょ、でしょ!!」
「何で、お前が喜んでんだよ。作ったやつでもないくせに」
「それは……その1ファンとしてだよーー」
【選択肢を選びました】
えっ?
えっ?
えっ?
今のも?
まじでいってる?
今のは、どう考えたって普通の会話でしょ?
あーー。
そっかあーー。
他のキャラクターだと普通の会話でも、シークレットの台詞が多い琥珀君は【選択肢】になってしまうんだ。
盲点だった。
ーーガックシ。
「ハハハ、落ち込むことじゃないだろう」
初めて見た!!!
琥珀君のこんな笑顔。
こんな風に笑うんだ。
私だけにこんな風に笑うんだ。
【アルバムに追加されました】
この表示も初めてでてきた。
表示設定をしますって画面にはいがついている。
んっ?
今、思ったんだけど。
これって、誰かが操作してたりする?
まあ、そんなの気にしなくていっか。
「片付けるね」
「いや、ちょっと座ったら」
「あっ、うん」
琥珀君と向かい合わせに座る。
角砂糖はいれずに牛乳を少し。
それが、琥珀君流のコーヒーの飲み方だ。
甘いものを食べない時は、ブラックコーヒーなのも知っている。
「兄貴と何話したの?」
「気になるんだ」
「そりゃあ、まあな」
言葉に少し刺があるように感じるけれど。
本当は、めちゃくちゃ優しいのが琥珀君だ。
さてさて、琥珀君との初めてのハッピーエンドを掴むために頑張りますかーー。