満開
目を覚ました彼女は自分の半身が麻痺したことにショックを受けていたが、生きていてよかったと前を向いていた。やっぱり僕の惚れた彼女は強い人だ。彼女がリハビリを頑張ったおかげで桜が満開になる季節に退院できた。退院祝いもかねて彼女を花見に誘ってみた。桜がきれいな川辺でまったりお弁当でもどうかって。そしたら彼女は嬉しそうに瞳を輝かせまるで満開の桜を咲かせたようだった。あぁ、やっと彼女を咲かせれた。そんなことに満足した僕はデートの日まで浮き足だっていた。周りが見えなくなるほどに。
花見の日彼女は真っ白なワンピースに杖をついて玄関を開けてくれた。自分は死神だと自嘲していた彼女の姿はなく、両親の形見の指を首からぶら下げた天使のようだった。眩しいほどの笑顔を見せる彼女は満開の桜にはしゃいでいた。落ちてくる花びらを手でつかみ嬉しそうにする彼女を見ているだけで僕の心は満たされた。川辺にレジャーシートを広げお弁当を食べてまったりし、そろそろ日も暮れたから帰ろうとした。その時だった。突然目の前にタクトが現れた。
「どうしたんだ?」
そう問いかけるとタクトはポッケからナイフを取り出しこちらに向けてきた。鋭くこちらを睨みつけるタクトを落ち着かせようと声をかけミナを僕の後ろに隠した。
「物騒なものをしまってくれないか?」
言い聞かせるように声をかけたが、意味はなかった。タクトは息を荒げ、怒りに満ちた声で叫んだ。
「いつもお前は!!そうやって涼しい顔をして!なんでもこなして…!俺からすべて奪っていく…!あの子だってそうだった!!」
あの子という言葉に反応してミナは僕の横に出てきた。
「あの子って私が助けた子のこと?でも、思い出すからで振られたんじゃ…」
「違う…本当はリュウキに惚れたからで前々から別れを切り出されていた…お前はそうやっていつも俺のものを奪っていく。」
「僕は何もしていない。僕が今までもこれからも口説いた女性はミナ。ただ一人だ。とんだお門違いな怒りをぶつけないでくれないか。」
「そう…お前はいつもそうやって涼しい顔をしてるよな。いつまで涼しい顔していられるか楽しみだな…!」
そういうとタクトはナイフを構えてこちらに走ってきた。防げるものは何もない。アイツの狙いは僕だ。ならミナに被害は及ばない。だが、今ここで僕が刺されたらきっとミナは悲しむ。まずは手でナイフを止めよう。そう考え動き出そうとした瞬間。ナイフは僕に届かず、ミナの身体を突き刺して止まった。
「どうして…!僕なんかを庇ったんだ…」
彼女は消えそうな声で答えた。
「私は母さんの子だから。最期に託させて。」
彼女は赤く染まった手を自身の首元に伸ばし、両親の指輪を取り出し僕に渡しそのまま僕の顔を愛おしそうに触れた。彼女の瞳の桜はそのまま散り、二度と咲かせることはなかった。
そこから気が付くと周りは赤いサイレンで照らされ救急隊員が駆け付けたが、彼女はすでに息絶えていた。タクトは力なく地面に座り込み、そのままパトカーに乗せられていった。タクトはずっと、小さく違うんだ。違うんだ。ごめんなさい。と繰り返していた。僕もケガがないことを確認すると事情聴取のためパトカーに乗った。
気が付くと彼女が託した指輪は僕の首にぶら下がり、彼女は小さな箱に入っていた。
小さな箱の前で僕は彼女に話しかけていた。
「君は楽しかったかい。そっちでは体は自由に動かせているかな。アイツは少年院に入ってしまったよ。僕は君みたいに強くないから一生許すことはできない。君のいない世界はこんなにも色褪せているんだね…」
彼女の葬式を終え、僕は彼女と過ごした川辺にいた。桜は散り始め幻想的な風景が橋から見下ろせた。
「君は怒るかな。」
そう呟いた僕は桜颪の中へ飛び降りた。




