発根2
次の日、桜井は二時間目から来た。小林は桜井を認識しだがリュウキがいるため睨んで終わった。もちろん、桜井は気にしない。もはや見えていないような態度をしている。そんなやり取りをリュウキが見つめていると桜井と目が合った。初めて認識したあの時と同じ瞳を見たリュウキは胸が高鳴るのを認識した。
二時間目のチャイムが鳴る。彼女を観察していると、あることが分かった。
(昨日より髪の色が薄くなっている?)
桜井の茶色だった髪が金に近い色になっていた。若干のため教師は気づいていないのだろう。その時空気の流れに揺られ髪が揺れた。その中に真っ白な髪の毛が無数に混じっていることにリュウキは気づいた。若白髪…にしては量が多いような。なんて考えていると、目が合った。ニコッと笑いかけると桜井はごみを見るかのような眼を向けてきた。そんな目を向けられたことのないリュウキは妙にドキドキしてしまい視線を逸らしてしまった。
二時間目が終わりタクトが席にやってきた。
「桜井って美人なんだな。」と呟くとタクトは驚愕して「どうした…熱でもあるのか」と叫んでいる。そんなタクトに「俺だって男だ。女性を褒めることぐらいあるだろう?」というと「無い」と断言された。今まで褒めるほど魅力的な女性にあったことがないだけだ。と言い訳をすると
「まぁ確かに美人だ、と校内では陰で人気者だな。」
「なぜ陰でなんだ?」
「最近のあいつは目つきが悪いからな。口も悪いし。近寄りがたいんだろ。でも先生からの評価はいいんだぜ。昔からあいつはまじめだったからな。」
「…幼馴染なのか?」
そう問うと、タクトはあぁ…と悲しげに答えた。
その理由を聞こうとしたら三時間目のチャイムが鳴り、その後も聞こうとしたがタクトが話しづらそうにしたのでやめたが、気になって仕方がないという表情をしたらある条件をつけてきた。
「ミナと仲良くなれ。そして直接聞け。俺の口から言えることじゃない。」
普段のタクトからは見ない真剣な眼差しをしていた。
仲良くなる…か。難しい問題だな。彼女の眼は僕に敵対心マックスだ。だからこそ、野良猫を手名付けるようでとても楽しみだ。そんな表情を見たタクトの心には雲がかかった。
彼女と仲良くなるためにまずは彼女の好きなものを知ろうとした。彼女とは選択授業が同じ美術で自由席のためまずは隣に座って話そうとしてみた。案の定隣に座ると嫌そうな…というより殺意が滲み出ていたがそれもまたいい。彼女を見ているとグッズが目に入った。とあるバンドのグッズだ。これだ、と思い話しかけてみた。
「好きなのかい?」
そう聞くと彼女は嬉しそうに目を輝かせた。それはまるで桜が咲いたように輝いて見えた。あぁ…なるほど。普段の彼女の瞳はまるで夜桜のように妖艶なのだ。だがそこに月ではなく陽の光が差し込めば満開の桜が現われる。
ほしい。誰の目にも晒されることなく、独り占めしたい。全て僕のものにして、愛でたい。そんな思いが彼女に伝わったのかまたいつもの瞳に戻ってしまった。だがそれもまたいい。そんなことを考えながら授業を受けていると彼女の作品が目に入った。一つの作品なのになぜか重なっているように見える、感じる、そんな作品だ。女性の後ろ姿が描かれ、それはどことなく彼女に似ている。だが、彼女に似た何かであり彼女ではない。思わず聞いてしまった。
「これは…君のお母さんの後ろ姿なのかい?」
「お母さん」その言葉を認識したミナはカタカタと小さく震えだした。
大丈夫か、そう言いながら彼女の背中を擦ろうと触れようとした途端。
パンっ!手が振り払われ彼女は声を荒げた。
「触れないで、私に触れないで!」
そういうと彼女は息が荒くなり、だんだん早く、浅くなっていった。これは…まずい。過呼吸だ。
「落ち着け、ミナ!落ち着け!過呼吸になっている。ゆっくり…」
バタッと桜井は倒れてしまった。
「ミナ…!」そう息を荒げ走って保健室にやってきたタクトは僕を認識すると同時に掴みかかってきた。
「ミナと仲良くなれとは言ったさ。でも、ミナを傷つけろとは言ってない。何をした。」
「落ち着けタクト…!桜井が起きるだろ。」
タクトをなだめ、すまなかったと謝罪をするとタクトは俺もごめんと謝罪をし場を落ち着かせた。
「ミナは…母親を亡くしている。ある事件に巻き込まれたんだ。覚えているか。4年前の無差別事件。」
「あぁ。…まさかその時娘を守った母親が亡くなったって…」
「あぁ。ミナの母親だ。ミナは中二の頃、目の前で母親が殺されている。」
「それがトラウマで…か。」
だが、あの絵は…なぜ母親に自分を重ねているんだ?タクトに聞いてみたが、わからないの一言だった。タクトが言うには母親が亡くなる前まで真っ黒な綺麗な黒髪だったらしい。亡くなってしばらくしてから髪の色が抜け始めたそうだ。染めたのではなく過度なストレスによるものだそうだ。同時期に父親の姿を見なくなったそうだ。授業参観にも来てくれる父親だったのに、出勤以外で外に出なくなり顔もやつれていたそうだ。最愛を無くしたのだから無理はないと思う。
沈黙が続いたときミナが気だるそうに起き上がった。
「ミナ…!よかった。体は大丈夫か?」
「タクト…と君か。倒れたのはただの体調不良だ。」
そういうとミナは僕の瞳に夜桜を見せるが表情は悲しげだった。
「タクト。この人に変な条件を出したのは君だな?会話が聞こえてきたよ。」
「ごめん…リュウキが気になるって言ったから…」
誤るタクトの姿はまるで叱られた子犬のようだ。二人の関係を見ているとまるで姉弟だ。
「それで?橘。何が知りたい。そして何が目的だ。」
「僕はただ君という存在に興味を持っただけさ。」
何を言っているんだ?という彼女氏すら愛おしく感じる。
そう思うと彼女は身震いをし、タクトが寒いのか?と心配をし自販機で飲み物を買ってくると保健室を飛び出していった。
「…昔から変わらないな。君は…」
ミナの表情に愛おしさが見えてしまった。取られてなるものか。アイツには。絶対に。
雪の降るシンシンという音が響いていた時タクトが息をあげて戻ってきた。
「ちょうどいい。君たち今日晩御飯を食べに来ると言い。全てがわかるよ。」
そう言い残すとミナは保健室を去ってしまった。残された僕ら二人はきょとんとし時が止まってしまった。気が付いたら、学校が終わり、ミナの家の前にいた。