挿し木
2月下旬、甘い匂いが薄れていくなか僕は君を見つけた。いつも無表情で他人に心を開かない君。そんな君を僕は咲かせてみたいと思った。
橘 キリュウ。高校2年生。青春真っただ中。僕は生徒会役員として忙しい日々を過ごしていた。
「橘ー!聞いてくれよー…また女の子に振られてさー…」
このいくら女性に振られても懲りない阿呆は五十嵐 タクト。なかなかイケている顔をしているがその中身は爽やかな外見とは反対の嫉妬しまくりの男。恐らく、振られる理由はその見た目とのギャップにショックを受けるからだろう。それが良いと言う女性に出会わない限りは無理だろう。
「…今失礼なことを考えているだろ?」
「さぁ?どうでしょう。」
ひでぇよぉと叫ぶ彼を横目に僕はカタカタとパソコンを叩く。
「というか、ここは生徒会室。部外者は立ち入り禁止だぞ」
冷たいなーとブツブツ文句言うを彼を無視し外の景色に目を向ける。
(こんな時間から登校するやつなんていたか…?)
時刻は午後12時。真っ白な雪道をとぼとぼと嫌そうに歩く人影を見つけた。
(あのリボンの色は同じ2年生…?)
僕はこの生徒会室で過ごすようになって、もうすぐ一年。だが一度もこんな時間に登校する人など見かけたことはなかった。
「あの女の子を知っているか?」
そう問われ嬉しそうにタクトは窓をのぞき込むと答えた。
「あぁ!久々にみたなぁ…桜井だよ。桜井 ミナ」
なんだか聞き覚えのあるような無いようなな名前だ。あまりピンとこない僕に対し、タクトは続けた。
「クラスメイトだぞ?」
そう言われクラスの風景を思い出す。
「あぁ。いつも一人でいる茶髪の人か。」
「あの派手な見た目を忘れるなんて…もっと他人に興味を持ったらどうだ?お前は生徒会の王子様ー♡なんて女子に騒がれてるだろ?」
そう言われ僕は呆れてしまった。何が生徒会の王子様だ。騒がれる身にもなってほしい。鬱陶しいったらありゃしない。全員、他人へのマウントのために僕を彼氏にしようとしているのが顔から滲み出ている。僕の周りからの評価、見た目だけに執着し、中身については一切触れようとしない者ばかりだ。
そんなことを思いながら不愉快な気分になっていると、タクトが口を開いた。
「桜井…停学終わったんだな。」
見ないと思っていたら停学だったのかと。他人に興味を持たなすぎる自分に…というか生徒会として学校内の事、ましてやクラスの事を把握していないことを反省しながらタクトに理由を尋ねた。
タクトは半分呆れながら答えた。
「うちのクラスでよく騒いでいる女子グループがいるだろう?その人たちが転校して今はいない生徒をいじめていたらしい。その様子を見かけた桜井がキレてその集団を蹴散らしたんだとさ。そしたら騒ぎを聞きつけた先生が桜井を取り押さえて暴力沙汰になったから停学させられてたんだとさ。」
「なぜその生徒は助けてもらったと言わなかったんだ?」
「言ったさ。だから停学で済んだんだ。普通なら教師も殴っていたんだから退学だってあり得た。」
確かに暴力はいけない。だが、目には目を歯には歯をという言葉もあるくらいだ。根本的に見れば間違ったことはしていない。手段を間違えただけだ。そんな話をタクトとしていると不意に目があってしまった。ミナの瞳は光のない真っ暗な闇のようだが、その中に力強く輝く光を見つけてしまった。この世のすべてを恨んだような、何かを誓ったような覚悟の強い光。その光を宿した瞳から僕は目を背けれなかった。その後もずっと忘れられず根付くように永遠に僕の頭から離れなかった。