第一章 一〜十話 軌跡を辿る
第一話 海離とはこういう男――留守中はご注意を
朝四時に起きて店に向かう、店長が来る前に店の掃除を終わらせる、店長が来たら二人で市場に行き今日の食材を買い溜める、店に戻り仕込みを行い、朝7時に海と鳥の入ったロゴの簾をかけて開店する、この日常を送る男の名前は鳥島 海離、海の上の小さな国に一人で暮らしている青年だ、彼の父は彼が生まれて数年後に国を出て国を出て顔も覚えていない、母は彼が10歳になる前に父を追って国を出る、数年後、母は死亡したと伝わる、だがこの国には優しくオープンな性格の人が多く一人でも周りの支えがあって生活できていた。
今は冬、標高が低く国を囲む石壁のおかげで海風はないおかげでまだ暖かい
「海離君、鮭の干し裂きを一つとコマ酒一つ」
コマ酒とはこの国で取れるとうもろこしを発酵させて作った酒のことである。
「また朝から酒ですか?また息子にドヤられますよ」
「大丈夫だ、娘に本屋のことは任せてるし婿は今頃船の上だ」
「全くうちは飲み屋じゃないんですよ」
「いいじゃねえか、この小さい国に飲食店なんか三店舗しかないもんでよ」
この国は大陸のすぐ近くの孤島にできており、小さくのどかで平和な国である、文明の進化は進んではいるが、遅く、特に食文化に関しては遅い、この国の飲食店は城壁の門のすぐにある居酒屋か、国の中央付近にある貴族御用達の食堂か、港のすぐにあるこの定食屋しかない、ここからだと門に近い居酒屋はそこそこ遠い。
「ちょっとお父さん」
若い女の声だ、この目の前の男の娘だろう
「お前店はどうした!?」
飲んだくれは驚いていうと女は
「またあそこの店で飲んだくれてるって聞いたから今日はそのまま叱りに来たの、お父さんももう年だしほっとくわけにはいかないのよ」
ごもっともだ、でもうちの大事な客なんでこれからも足を運んでほしいものだ。
その女が飲んだくれを連れ帰り、そのまま日は暮れ今日の営業が終わる頃、この国の国兵(警察、軍人のような物)が店を訪ねてきた
「お客さんかい?すまんが今日はもう閉めるんだ」
そう店長がいうと偉そうに国兵は
「そこの海離という男の家が空き巣にあった、今から家宅捜査に協力してほしい」
「なっ?!」
今この国では空き巣の事件が多い、ただの空き巣ならいいものの、不気味な書き置きをするというのだ、国兵もその書き置きは読めないそうだ。
海離は港から歩いて20分ほどの場所のアパートに住んでおり、店長に許可をもらい国兵とアパートへ向かった、海離の部屋の窓ガラスは割れており金品はほとんど持ってかれていて貯蔵庫の食材までなくなっていた。
「今日の朝8時ごろに発見された、現状は見ての通りだが、何か君の私物で紛失証のあるものはあるかい?」
この国にはさまざまな法律があるがその中で紛失物保険というものがある、これはこれだけはなくなってはいけない、困る物一つ一つに保険がつき、もしその紛失証が付いたものがなくなった場合、国の税金からそれが賠償、または捜索される。
「私の金庫の中の母の書き置きだけです」
海離は悲しみながらも冷静に説明した、この書き置きは海離の母が家を出る前に書いたもので、この家で勇逸紛失証が付いたもので海離の宝だった。
国兵は次に一枚の書き置きを渡すと同時に海離に聞いた
「君は貝に理由の理で貝理と読むのか?この紙はそれだけしか解読できなかったのだが?」
海離はその書き置きを一度だけ見た、漢字で「貝理」と書かれているところ以外は読めないがその字だけは読めた。
「いいえ、違います、海に離れるで海離です」
「今この国では空き巣事件が多く起こっておりその多くはこのような書き置きが多く残されている、そして今回この貝理という字だけは解読できた、私たち国兵はこの空き巣の犯人を探っている、何か知っていることがあったら教えてほしい」
海離がこの事件について知っておることは無かった、だがこの貝理という二文字に関しては見覚えがあった、だがそれをどこで見たのかは覚えていない、市場で貝を購入した時かと思ったが、そんな鮮明に出てくるものでは無かった。
家が荒れてるため国兵が代わりの部屋を準備してくれた、港のすぐのところで職場は近くなったが、ベット、机、狭い貯蔵箱だけ、タダで泊めてくれるから文句は言えないが、本音をいうと刑務所の檻の中みたいなもんだ。
しばらくの間そこの部屋に泊まり、休みの日はの掃除をするという生活を続けている、そんなある休みの日、家の掃除をしていると、その家にまた国兵がきた、国兵の言い分だと空き巣の犯人は捕まったそうだ、正確には自白したそうだ、そしてその犯人はこの俺に会いたいそうだ。
第二話 空間を切り取り保存―
―今から放浪始めます
海離は国兵に国の城に連れて行かれた、ここは幼い頃捨てられて一人だった頃拾われてきた時に一度来たことがあった、国兵にそのまま城の地下に連れて行かれ、その空き巣の犯人にあった、身長は170前半だろうか?猫背だからもう少し高いかもしれない、髪は頂点の部分が少しなくなっていてボサボサだった、ガタイは俺と同じぐらいだろうか?それにこいつの顔には、なぜか見覚えがあった。
「こいつが空き巣の犯人だ、金品はもうその辺のごろつきに売り捌いちまったらしい、さぁ面会時間は10分だ」
国兵がそういうと空き巣犯はその少ない歯をうまく使って喋り出した。
「確かによく似てるなぁ、特に目元だぁ、目元...あぁでも耳は違うなぁ、その耳たぶがほとんどない耳は母さんによく似てるなぁ」
俺は不気味だと思った、恐怖もしていた、それでも俺は聞き返した。
「お前は何者だ、なぜ俺の母のことを知っている、母は昔この国から出て行ったはずだ、それと面会の目的はなんだ?」
この二つの質問には答えてくれなかった、だが代わりに一枚の紙と昔話を聞いた。俺はこの紙はなんだと聞いたら、男は「裏」と一言言った。俺はゆっくり裏面を見た。
「これは…母さん……?!」
かなり昔のことで自信があるわけではないが、母の顔だと思った、もうほとんど忘れてしまうとこだった。だがこの紙に描かれた母の写真はあまりにも絵がうますぎる、まるでその空間をそのまま切り取ったようだ。
「おー?かなり昔のことなのによく覚えてるなぁ、これは遠くの国で俺がとったものだ、いつになってもこいつはうつくしぃぃ」
この男は何を言っているのだろうか?そう思うと男は話を続けた。
「はぁ、この年で長旅をしてまで戻ってきた甲斐があったなぁ、最後にお前の顔を見れてよかった。」
「は?どいうことだ!?あんたは俺のなんだ!?長旅ってどこからきたんだ?!」
この質問には国兵が答えた
「調べだところ、こいつは他国の貿易船に潜伏してこの国に侵入したそうだ、それからは橋の下や林に身をひそめて空き巣を続けて生活していたらしい。」
こいつは他国のものだった、その後も何度も男について質問した、途中で男はガラスの破片を取り首につけた。
「は?お前何するつもりだ!?おいっ!?何してる?!質問に答えてくれ!」
ガラスの破片はもう男の首から血が出るほどめり込んでいた、国兵にも頼み牢を開けてもらおうとしたが。
「自殺を止める義理はない、国税をこいつのために消費し続けるのも勿体無いし、俺は鍵を持っていない。」
俺は焦っていたこれまでの人生で冷静に判断し続けてきたがこの時ばかりは焦らずにはいられなかった、人が死のうとしてるのだ。
「その写真は南に遠くの黒い林の国でとったものだぁ ぅ、俺はそこからきたんだ船なら一年ほどでつくだろぉ、母さんに会いたいなら行くがいいさぁ」
南の国?黒い林?どこの国のことだろうか?
「なぁお前はなんだ!?せめて名前を!??」
俺がそう言っと男は首のガラスの破片を引き切り致命傷を負った、その状態で男は言った
「ブランツェだ、俺はブランツェ……お前の…父の名…だ」
その日の一週間後、店長に休暇をもらい今日は父の埋葬に来てる、この国では罪人は焼却処分され残った骨と石を組み立てて墓を作る、罪人にできた墓を使う必要はないというのだ、だが父の墓には俺が金を出して少しだけ飾り立ててあげた、母の好きな花もそえてあげた、この花はこの島の砂浜に強く根を張り、青色の花びらに先端が空色で濃い黄色の雌蕊を持つ、これは週に一回砂浜から取ってきて家の花瓶に添えてる、そういえば空き巣の後に花瓶の花だけは傷ひとつついていなかった。
それからしばらくして国に旅人が来た、色々な国で料理を学び、必ずその国にレシピをひとつ伝えて去っていくらしい、旅人が国を訪れて2日後、うちの店に旅人が来た、旅人はうちの自慢料理のくじらの海丸蒸しを注文した、俺はくじら肉を開けた貝類と共にワカメで巻きつけて、それを大鍋で蒸してステーキにして貝の出汁と海葡萄の摺物を混ぜてソースにしてかけてウェイターに運ばせた、これは俺が店長に提案してきたレシピの中で最も評価がよかった自慢の料理だ、ただでさえ高い塩、醤油などの調味料を使わず、代わりに高価なくじら肉を使った料理だ、旅人は一口目は少し拒絶していたが、食べたそばからペースアップしてあっという間に食べ終わった、旅人はウェイターに皿を下げるのを断り自分で厨房まで持ってきた、旅人は黒いジーンズに丈夫そうな靴、上も黒色の同じ材質のシャツを着ていた、顔はかなり若い俺とおないどしぐらいか?そう思っていると旅人は料理を褒めちぎった後店長に
「できたら厨房を使わせて欲しい、俺の自慢の料理を食べて欲しい」
今日はそこまで店は忙しくなく、逆に少し余裕がある
店長は邪魔しないなら一品作ってもいいと言い旅人を厨房に入れた、旅人は袖をまくりエプロンをつけて調理を開始した、まず旅人は自前の小鍋の5分目まで水を入れて生ゴミで捨てるはずだった鳥骨、白菜、人参、の切り残り、旅人特製の醤油と塩胡椒を入れて煮た、そのうちにじゃがいもを生のまま粉砕器とすり鉢で粉状にしてそこに水、卵を入れてよくこねてそれを薄く伸ばし細い棒状に切っていったそれは高熱のお湯でさっと茹で、それを先ほど出汁をとった汁を濾したものに入れた、所要時間は30分と少しほどで、店で出すには時間のかかり過ぎだった、だが初めて見る料理だった。
「これは私の国では「うどん」というもので麺を使う料理なんです」
「うどん?麺?」
この国にはうどんや麺といった文化がない、我々国民からしたら、旅人の料理は不可解極まりなかった、我々が不気味がってると旅人は
「ぜひ食べてみてください、最初は怖いという人も多いですが、美味しいですよ、この国の箸というものがありますよね?それで挟んで口に運び空気と一緒に胃で吸うのです、肺で吸うと息が詰まりますので注意してください」
最初に店長が食べた、ハフハフと熱そうにした後に汗をかきながらも食べ始めた、続くように私も食べた、なんとも不思議な感覚だった、うちでは捨てるばっかだった食材から出汁を作り、じゃがいもを卵と水からチュルチュルとした麺たるものを作り出した、それにこの旅人は腕が立つ、技術、判断力共にレベルが高い、店長はそのレベルの高さを見抜き、今日の経営を手伝ってもらうことにした。
今日の営業が終わり締め作業の前の休憩で俺が母の絵を見ていると、
「美しぃ女性ですね?」
旅人が母の絵を見てきた
「この写真はどこでとったんですか?この国には写真やカメラといった文化は見られないのですが」
旅人は聞いてきた、俺は旅人に写真とカメラについて聞くと旅人は
「詳しくわわからないんですが特殊な材質の紙に光の強弱で焼いて絵を作るそうです、それがカメラという機械の仕組みで、完成した絵がそれになりますね」
旅人は丁寧に説明してくれた、どうやらこれは母が亡くなる前に撮ってもらったものなのだろう、確かに綺麗な女性だ、空き巣犯の父を見て気づいたが、俺は父似らしい、だから母の美しい顔立ちは遺伝しなかった。
「それにこの服見たことあると思ったら、アルディラの服か、この首元に花をつける服はアルディラの風習ですね、ここラム酒が美味しいんですよ」
「えっ?今なんて!?」
俺が飛びつくように聞くと
「だからここラム酒が美味しいんですよ、あれここの国にもラム酒の輸入はありますよね?」
「違うその前!」
旅人は困惑していた、割と静かめな俺がこんなに焦っているように見えるのだからそりゃぁそうだ
「えーと、アルディラの服のことですか?確かだいぶ前で6年と少し前に訪れました、アルディラはその前の年の時に女性の身分の差を首元につけた花で表すという法律ができてました、それまでは首元に花をつける文化などなかったそうです」
俺は困惑していた、俺が物心もつかない頃に亡くなったと伝わっていた母の写真に僅か3年前にできた花が写っているというのだ。
「その国はどこに!?」
「えーと、昔のことなので詳しくわ覚えてないですがほとんど大陸の逆側だと思いますその国の海から真っ直ぐ離れていったので多分間違いないと思います……多分」
「おいっ、何やってる締め作業やるぞ」
店長が話に入ってきた、店長は少し怒り気味だった、だが話を聞くと俺に聞いてきた
「母親に…会いたいのか?」
「もちろん!今までまともに話したことすらないんです、それになんで俺を置いていったのか?!聞きたいことがいっぱいです」
店長は言った
「会いに行くのか?」
「はい!!!!」
俺は旅に出るのを決心した
第三話 旅には危険がつきものです―
―始まりと終わりの海
俺は旅に出るのを決心した。
まずはその日の締め作業を終わらせて、旅人にいろいろ
質問をした。
「その国からわどのような旅順で来たんだ?」
「えっと、そのまま黒い林を抜けて、ワード民族が住む広い草原を通って崖の上の国に行ったよ、そのまま…南だったかな?いや夕日の感じだと北だね、そこの国の夕日は見てきた中で一番綺麗だった、ずっと真すぐ北に道があるから一月ほど真っ直ぐ歩けば巨大な水の国がある、海とも思えるほど大きな池だったそこから」
「なるほど、ちなみにずっと歩きでずっと旅をしてるのか?馬や馬車は使わないのか?」
俺は気になって聞いてしまった、旅人は
「確かに馬は便利だけど速いと何が大切なものを見落としてしまうかもしれない、見たこともない物や文化を見て覚えてそれを母国に持ち帰って、それを子供達に教えてあげたい、世界はこの国だけじゃない、この国だけで人生を終わらせるのは勿体無いと教えてあげたい」
俺はなんて素敵な人なのだと思った、旅とはなんの便利もなく、気まぐれにやれば危険は多く、準備をし過ぎれば荷物は多く足を遅くする、それなのにこの人は自分の国の子供達のために、それも一人で旅をしている尊敬できる。
ある程度話を聞いた後俺は掃除中の家に戻り旅の準備をすることにした、店長と話した結果、期限は来週の今日までに準備を終わらせて、木曜日の朝に国を出ることになった。
まず旅人が教えてくれた必要なものを揃えることにした、明日は休みだから家で一番大きいバックを持って買い出しに行く、ついでにお世話になった人たちに挨拶に周りことにした。
後日俺はまず本屋の飲んだくれに頼み事をしにいった
「地図?なくはないがそんな詳しいものはないぞ、せめて国の位置と名前だけだ」
「それだけで十分だありがとう、来週の水曜日にまたうちの店に来てくれ、最後に俺の奢りでご馳走したい、家族全員呼んでもらっても構わない」
「わかったよ、まさかお前さんまで旅に出るとはね……悲しいよ、母さん見つけたらまた戻ってきてくれ、昔みたいに読み聞かせしてやるよ」
今は飲んでくれと呼ばれるほどのだらしない男だったが、昔は休みのたびに家にきていろんな本を読み聞かせてくれた、この人に俺は読み書きを教えてもらったんだ。
「ありがとう」
俺はそう一言言い飲んだくれ…いやお世話になった本屋の店主にハグをした。
「じゃあまた来週会おう!」
そう一言言い俺は次に修理屋に行った
「やぁ、噂になってるよ、旅に出るんだって?」
この修理屋は俺の包丁や鍋、掃除中の家の花瓶や窓ガラス、金庫から何までの修理をしてもらった、うちの店にも週一で来てくれていた、いわば常連さんだ
「あぁ、ほんとに今までありがとう、今修理に出してるやつで鍋以外全部あげるよ、そのまま使ってくれるか売ってくれてもいい」
「そうかい、じゃあ好きにさせてもらうよ、あとその鍋だけど」
そういうと店主は薄鍋(中華鍋の小さめのもの)を取り出した
「あの小鍋もう相当使ってるだろ持ち手の布はもう取れてるし、へこんでる、これ新しく作ってみたんだ、是非使ってくれ、俺の自信作でそこらの薄鍋より作りはいいぞ」
店主は薄鍋をプレゼントしてくれた、見たところうちの店の薄鍋より出来がいい、ほんとにありがたい。
「また来週のいつもの日に来てくださいご馳走しますよ」
「申し訳ないね、もちろんただなんだろう」
「はい、好きだった鯖飯作って待ってますね」
そういうと店主と俺はハグをした。
「じゃあまた来週」
「うんまた来週」
そう言い返して俺は時間をかけて歩き、城門近くの居酒屋にきた。
「やぁ」
「ヤァ、キタカイ」
ここの居酒屋の店主は元は外国人でこの国に料理の文化の発展のためにやってきた、かなり遠くから来た人で言葉が違う、だかもうかなり経つので言葉に迷いがなく、イントネーションが少し変なだけだった。
「お久しぶりです、半年ぶりですかね?」
半年前は逆にこっち店に来ていただいたことがあった、本当は店長が行くべきだったが今回のこともあり、俺が行くことになった
「ソウダ、半年ブリニナルナ、噂でキイテル、旅にデルノカ」
「はい」
「ナラモウアウコトモナイナ」
「えっ?」
俺は驚いたこんなことを言われるとは思わなかった。
「旅ニ危険はツキモノダ、オレモ旅ヲシテルナカデ何人モワカレルコトニナッテシマッタ、イクラ母ノタメトイッテモ、死のカクゴはシテオケヨ」
「……やっぱり不器用ですね」
俺は笑いかけて言った
「あなたが一番面倒を見てくれていましたね、2日に一回は家にきて料理を作ってくれていましたね、あなたの作るものはなんでも好きだった、あなたのお陰で俺はここまでの料理人になれたんです、本当に、私を産んでくれた母と同じくらい感謝しています。」
そういうと店主は隠していた泣き顔をこっちに向けて
「ゼッタイ……っ…生きてカエッテキテクレ…スビッ……イクラでもマッテイテヤルカラ」
「はい勿論です……」
その後店主と俺はハグをした。
側から見たら56と27のハグだ気持ち悪い、でもこの時はそんなこと関係なかった、父が息子を抱き抱えるように優しい腕に包まれた中で俺も泣いてしまった。その日は店主は店を閉めて日が跨ぐまで二人で酒を注ぎあった。
後日の朝、店主は馬車を呼んでくれた
「そんな、高かったでしょうに」
「オマエに金をツカッテ後悔ハナイ、旅にデルマデマイニチ来てモいいぞ」
「さすがにそんなわけにはいきませんよ、では」
その日は午前中だけ休みをもらい、来週の月曜日まで働き火曜日に休みをもらった、この日は旅人と共に細かいものを買いに市場へ行った。
「非常食なら干し肉がいい、長くて半年は持つし旅の中では貴重なタンパク源だ、あとビタミン、食物繊維なんかは錠剤がいいんだが、この国にはない、危険だが外で採取しよう。」
旅人は本来先週の金曜日には国を出るはずだったが、俺が旅に出るタイミングにわざわざ合わせてくれたのだ。
必要なもの全てを買い揃えて荷物を家に置いてきた、その後旅人は俺に弓矢を購入させた、おそらく国の外の動物の狩りだろう。干し肉があるのに必要あるのかと聞くと旅人は外は危険だからな、とだけ伝えた。
そして後日の朝 俺はいつもの、そして最後になる日常を送っていた。
「このようにお前と朝の準備をするのも、ひとまずは終わりだな」
店長は言った、俺はいつもやっていたことだっていうのにその一つ一つを噛み締めて行なっていた。そしてその日の夜、たくさんの人々がこの店に来てくれた。
アパートの大家さんに、港の魚屋、本屋の家族に、修理屋の店主、居酒屋の店主は少し後に来るらしい、今日も仕事のようだが締め作業を他の社員に任せてきてくれるそうだ。
そして色々な人と話した
「昔はあんなにちっちゃかったのにねー、立派になって、絶対母さん見つけてくるんだぞ」
「今度からこの店に来てもお前の顔が見えないと思うと悲しいよ、他国で料理を学んできたら……ここで作って見せてくれ…クズッ」
「ほらほら飲め飲め!国外じゃあまともに酒なんて飲めねぇからなぁ、な!飲んだくれ」
「うるせぇ今この瞬間はお前も変わんねぇよ、絶対戻ってきてくれよ、頼まれてた地図はちゃんと持ってるか?」
「俺は国兵として今までお前を見てきたが…ヒック、こんなに立派になるなんて思わなかったよ……」
「コレガサイゴニナルナンテ俺は認めナイカラナ…ヒック、必ず戻っテコイ…ズビッ、ソシテ母さんとオレとお前のサンニンデ酒をノモウ」
本当にたくさん話した、酒を飲む暇がないほどに、改めてこの国のことを思うとやっぱり悲しい、俺の育った国だ、俺を育ててくれた国だ、父さんも母さんもこんな気持ちだったのかな?
夜12時、みんな家に帰って寝てるだろう、俺はこの国で最後の夜だと思って……いや、また戻ってくる、この景色をまた見にくる。
朝6時、俺は荷物を全て持って城門の前にいた、城門は開いていて、長い橋が真っ直ぐ伸びている朝日はまだ上がってきていない。
みんな泣いて見送ってくれた、みんなが「必ず戻ってきてくれ」「母さんを見つけるんだぞ」「また飯を作ってくれ」と、そして最後に店長が俺の前に来た、今までで一度も見たことのないくしゃくしゃの泣き顔だった。
「ズッ……本当にまた会えると信じてるからな、」
「はい……ズッ」
俺も感極まって涙が出てきた。
そうすると店長は一度深呼吸をして進めた
「お前はもう…一人で厨房に立てる…俺がいなくても……ズッ、やっていける」
そういうと店長はさらに涙を流した、そして一つの前掛けを俺に差し出した、
「お前はもう一人前だ……ズ…認める、だが料理を人に振る舞う時は……この前掛けをつけるんだ、お前はいつになっても俺の一番弟子だ」
俺と店長は今までで一番強く長いハグをした
「必ず戻ってこい」
「はい」
「お前ならできる」
「……はい」
「いつまでもお前を待ってる」
「……ズビッ、はい!」
俺と店長は袖で涙を拭った、その後俺は旅人と城門をくぐった、城門は開いたままで俺たち二人に手を振り続けてくれた。
俺の瞳には絶景が広がっていた、朝日が綺麗だった、海に太陽の光が反射して、波打つたびに海がキラキラと光っていた。この季節は息が白くなる。
俺はこの景色を目に焼き付けながら橋を渡った。
気づいたら土の道を踏んでいた。
「またいつか」
俺は小声でそう言って頭を橋の向こうの国に下げた
またこの国に戻ってくる時は母さんと一緒に戻ってくる
必ず母さんを見つけ出す。
第四話 今日から旅人の自分―
―旅人の別れは川の如く
旅人と歩いていた、後ろを振り返ると海に浮かぶ国が見えるそして上がりきった太陽と青い海、その景色はただ美しく、もう懐かしい。
「これで君も旅人だな」
旅人はそう言った確かにそうだ、彼のことを旅人と呼ぶのは失礼だな
「改めて、俺はエッグ・ビー、ビーって呼んでくれていいよ」
「じゃあ俺も改めて、鳥島 海離、旅人だ」
そして真っ直ぐの固められだけの土道を歩いて行った、ビーは今後の俺の旅順を教えてくれた。
「まずこのまま真っ直ぐ一日ほど歩き続けると分かれ道になる、俺はそこまでだ、そこから海離は右に行く、多分その日のうちに国はつけると思う、そこなら馬も安価で買えるし待遇によっては馬術も教えてもらえる。」
俺が次に向かう国は旅人を多く出している国で、国のお偉いさんが元旅人のこともあり旅を国民に勧めているらしい。そういうわけで他の旅人への配慮もできているそうだ。 ビーはその国で武術と旅医学を学んだそうだ。
「あの国なら今までの旅に出た国民のこともデータとして残ってるし、今まで訪れた旅人の話も聞けるかもしれない、そういえば朝から何も食ってないな、少し歩くと石畳のひらけたところがあるはずだ、そこで朝飯…いやこの時間帯はもう昼飯だな」
しばらく歩くとその石畳が現れた。そこでビーは火の起こし方、水の殺菌と沸騰法、洗剤を使わない器具の洗い方、ついでに弓矢の使い方を教えてくれた。
「かなりセンスあるなぁ、はじめてでそこまでできるなら問題ないだろぅ」
俺はセンスがあるようでそんなに教えてくれなかった
「そういえばこれはなんのためにやるのだ?肉なら干し肉を持ってるし山菜や果物を摂る時は必要ないよな?」
俺はずっと疑問だった、こんなものは狩にしか使わないが俺は一週間の間毎日肉が食えるぐらいは持ってる、ビーは少し貯めてから言った
「それは強奪対策だ、ここは国外、法はない、なら旅を始めてすぐのやつなんかいいかもだ……はぁ、それは人に向けるものだ」
俺の認識は甘かった、確かにそうだ、今までの常識は通じない、それが普通なのだと、教えられた、だが疑問だった。
「なぜ強奪するんだ?相手も旅に出ているのなら気持ちは理解し合えるはずだ、それに旅人はみんな優しいじゃあないか」
俺が今まで会ったことのある旅人はビーさん遠含めて3人、3人とも国を訪れた旅人だった、その人たちは観光目的で、感謝や謝罪、身振り手振りが丁寧で国の文化に対して剣心的だった。
「じゃああんたの父はどうなんだ」
「あっ」
確かに、俺の父さんは旅人となり国に帰ってきてからも仕事もせず空き巣をして生計を立てていた。
「でもそんな人…滅多にいないなだろう俺の父さんはあんなだったが、最後に母のことも教えてくれたそれに」
俺が旅人に少しやけになって話していると
「なぜ人は旅に出ると思う」
質問に質問で返された、少しイラッとしたがビーの次の話で納得させられてしまった。
「旅をしている人間のほとんどは国外追放か国外逃亡、それか旅人同士の間にできたどこの国にも属さない人だ」
確かにそうだ、今回俺は母のために旅に出たが、このような理由もなく旅に出ようと思うだろうか、外の世界への憧れなら少し外に出て疲れたら帰ってくればいいだろうし
「国外での危険のほとんどは人間関係だ、旅人同士が殺し合いをしたところで困る国はない、ただ国の外のかんけいない人が一人減るだけだ」
納得させられてしまった、残虐だ、地獄だと言いたかったが否定のしようがない。
「そうだな、なれるよ……」
少しの沈黙の後、遅くなったが食事の準備を始めた、
近くの川の水を煮沸し殺菌したらそこに塩、豆味噌、干し肉を割いたもの、ジャガイモの皮を剥き適度な大きさに切り分け、皮を粉々にして一緒に煮込んだ、最後に刻みネギを散らして、干し肉の味噌汁の完成だ。
「うん、うまい、明日の昼以降海離の飯を食えないと思うと寂しいよ」
「嬉しいことを言ってくれるね、後でレシピを書いてあげるよ」
2人で食事をし、そのあと片付けをして出発しようとすると
「しゃがめ!」
ビーが叫んだ、俺は即座にその場にしゃがみ込んだ、その瞬間頭上を黒い鉄球のようなものが通過した
「ビー!今のはいったい?!」
「さっきも言っただろう油断するな!盗賊だ!」
林の藪の中からひとりの男が出てきた、弓矢に似たような武器を持っていたがそれで飛ばすのは矢ではなく黒い鉄球だった、縦ではなく横向きに持っていた
「お前、1人か?」
ビーは聞いた、確かに2人相手に1人で挑むのは愚策だ、
「そう見えるか?」
男がそういうと、薮の後ろから鉄球が二つ飛んできた、
俺は間一髪で交わしたがビーの腕に直撃した
「ガッ!」
バキ、という鈍い音とともにビーは声を上げた、
俺はすぐにビーの元に駆け寄りビーの腕の処置をしようとしたが、
「おっと動くな、そいつの処置はさせてやるが金品全部出してからだ」
俺は動けなかった、だが一つだけ逃げる方法を思い浮かんだ
「さぁ、早くするだよ、このダボ」
そう言われた瞬間俺はすぐそこにあった水の入った鍋を蹴りたおした、それによって下の火に水がかかり暑い水蒸気が出て盗賊の顔付近を通過した
「あっつ!てめぇ、ふざけんなよ!」
盗賊が身を翻して交わしたがその隙にビーと海離はその場を走って逃げた、ある程度走ったあと森を出る寸前で止まり海離はビーの腕の処置をした。
「なんで1人で逃げない、俺を連れたところで足手纏いだ」
「うるさい!君はじっとしてろ、でも解決策は思いついた、でもこれが終わったらビーは俺の国に帰るんだ、また処置してもらえるはずだ、」
「でも1人でなんとかなるわけ、最低でも3人はいるぞ」
「だから大丈夫だ」
ビーはかなり心配していた、自分の腕の心配をして欲しいものだ、本当に優しい人なのだと思った
「言っただろう、解決策は浮かんだ」
少しの沈黙の後盗賊の3人はビー海離が走っていった方向に足音を消して警戒しながら歩いていた
「俺を探してるんだろ」
森の奥から声が聞こえた、盗賊の1人が言い返す
「そうだ!お前だけはあのまま逃げれたはずなのになぜ残った!旅に出たばかりの初心者らしいな!」
話しながら近づいていった、声の方向で位置がわかってきていた。盗賊は大声で
「お前はまだ弓矢は使えるのか!?国で習っていたならわかるがあの国では貴族以外が教わることはないはずだ!」
「そうだよ!君の思惑通り俺は弓矢を使えない!だからそれ相応の戦い方をさせてもらう」
盗賊は旅人の初心者の場所を特定した、目の前の木の裏だ、だが木が太いため裏側の旅人は見えない
「じゃあやってみろよ」
そういうと盗賊は木の裏に素早く動いて、弓を旅人の足元を狙うが
「はぁ!?」
そこに旅人はいなかった、次の瞬間上から鍋で叩かれた、そこにいたのは海離ではなくビーだった、ビーは足で木の枝に捕まりぶら下がっていたのだ、そこに盗賊の1人が鉄球を打ち込んだがビーは身を上に持ち上げて回避した、鉄球を打った盗賊がもう一弾打つ準備をしていると、そこに矢が一本飛んできた、矢は盗賊の足の甲に直撃し地面と盗賊を縫いつけた、それと同時に盗賊の1人は逃げ出してしまった。
「海離!追いかけるぞ!」
そうビーが叫ぶと森から少し離れた一本松から海離が出てきた、少し顔色が悪そうだった。
「初めて人を撃った… 人の体を突き抜ける音を聞いた… 痛がって苦しむ人の声を聞いた… う、吐きそうだ」
ビーと海離が盗賊の1人を追いかけていった、そして鍋で殴られた盗賊が目を覚ましているのに気づかなかった、俺とビーは逃げた盗賊を追いかけていて、足を絡ませてこけた盗賊を追い詰めた。
「ひっ!やめて!やめて!もう大人しくするから出せるものは出すから!!」
かなり必死だった。俺は
「わかってる!殺すつもりはない」
そう言った瞬間後ろから鉄球が飛んできた運良くここにいる3人には当たらなかった。
「はぁ、クソ、まだ頭がクラクラする、おいっ!何泣きべそ書いてんだ立ちやがれこのダボが!」
この口の聞き方だとこの盗賊がリーダーっぽい、盗賊のリーダーがそういうと目の前で泣いている盗賊は立ち上がり弓の準備をし始めた、その瞬間ビーが俺が構えていた弓矢を盗賊のリーダーの方に引っ張って向けて無理やり矢を打たせた、矢は見事に盗賊のリーダーの心臓を中心に捉えて命中した、その後足で泣きべそをかいている盗賊の顎を蹴り上げた。
「あぐっ!」ぶち!
舌の切れる音が聞こえた
いきなりのことで俺は呆然としていたがビーが
「なに突っ立ってんだ、俺の腕の包帯巻き直してくれ」
俺はその言葉で我に帰りビーの腕の包帯を巻き直し始めた、俺は
「ここまでする必要があったのか?」
そう聞くとビーは
「もともと俺はこいつらから逃げてあなたの国に来たんだ10日以上滞在したから流石に諦めたかと思ったがまさか待ち伏せていたとはな」
「なんでもっと早く言ってくれなかったんだ」
俺は淡々と感情に出さずに言った
「言うタイミングがなかったから」
「そんなことはない、旅に出てすぐに時間はあったはずだ」
「君に危害を加えたくなかった、すまない……君の言うとおり一度国に帰るよ君は1人で行ったと伝えとくよ」
俺はどうすればいいかわからなかったが現状の答えは、ビーは俺の母国で治療を受けて俺は1人で次の国に向かう、それが解決策だろう。
「わかった、でも君1人で戻って俺がいなかったら国の人たちは心配するだろうだから」
そう言って俺はバックの手帳を取り出して紙を一枚千切りそこにこう書いた。
「俺は1人で旅を進めることにしたよ、ビーをこの怪我で連れていけないからね、だから気にしなくていいよ、家の残りの金銭はビーの治療費に充ててくれ、貝理より」
ビーは不思議そうに答えた
「これで信用してもらえるか?これじゃあ俺が人の金を取るように捉えられるかもしれない」
俺は折れたビーの腕に手を添えていった
「大丈夫だ、俺の筆跡は店長が誰よりも見慣れてるだろうし、門番なら最後の俺の名前さえ見れば理解してくれるさ」
その後ビーは言った
「あぁ、わかった伝えとくよ、これからは1人で頑張れよ、また同じ目にあったら生きてられるとは思えない」
「大丈夫頑張るよ」
「あぁ、死なないでくれ、この世界で君みたいな善人は少ないからね」
「うん……ありがとう」
俺は少し泣きそうだった、あなたみたいな善人にこんなことを言われると心から嬉しくなる。
その後元の道に戻り、短い期間だったが思い出話をした
そして夕方になっていた
「もう日が落ちる、行かなきゃ」
「じゃあ俺も国に戻るよ、さよな」
「バイバイ!」
ビーは驚いた、突然自分の言葉を遮られたからだ
「さよならよりバイバイの方がいいだろ、また会おう」
ビーはその場に立ち尽くして俺は振り向いて歩み始めた
「あぁ!バイバイまた会おう!!」
その日のうちに森を越えた、今になってビーに聴きたかったことが頭をよぎる、最後に見せたあの強さはなんだ、料理はどこで勉強したか、母国はどこか、だけどもういな一ヶ月も一緒にいなかったがいい思い出だ。
少し寒かった 息が白くなる だけどその寒さも吹き飛ぶ景色が今目の前にある。
海のように広い野原に波のような山、その山の間に沈んでいく日。雲は一つもなく太陽の光が俺を含めて全てを橙色に染める、さぁこれからは1人だ、でも大丈夫、旅への覚悟はもうできた、さぁ進もう。
第五話 退屈の楽しみ方―
―初めての他国
あの後一夜を森の端で過ごした、晩飯はパンに干し肉を挟んだものだった。今は何もない広い草原の野原の固められた土の道を歩いている、木の一本もない退屈な時間だった。
「暇だー!!」
海離は何度もこう叫んでいた、昨日の怒涛の1日と比べるとかなり暇だった、だが海離にとって苦ではなかった。
この変わらない野原を楽しんでいたのだ。
「ぎゅるるる」
海離のお腹がなった、
「お腹すいた、朝飯はやっぱり食べよう」
少し歩くと開けた土の道にでた、それ以外景色は変わらないが。そこで海離は持っていた折れて重なった棒を分解して組み立てて鍋置きにして、森から少し拝借した木の枝を集めて火をつけた、店では炭で焼いていたのでいつもより時間がかかった。そこに薄鍋をおいて持ってきた瓶から油を少量入れた。そこに干し肉を小さく割いたものと森の山菜を入れて炒め、全体に火が通ったら豆味噌を入れて少し炒めた、そのちょったした主菜をパンで挟んで食べた
「うまい、店長の飯が食いたい。」
かなり退屈に当てられていたせいか独り言が増えていた。海離は新鮮な肉が食べたいと思っていた時、横に茶色い毛皮の小さい生き物がいた。
「わぁ!えっ!何?!何こいつ?!」
この動物は頭上から耳が生えておりその耳は長く上に向かって伸びていた、黒い目玉に黒い鼻、そしてぴょんぴょんと跳ねながら海離の周りを動き回っていた。
周りを見渡すと合計六匹いた
「襲ってこない?肉食じゃあないのか?」
そう言って一匹を抱き抱えてみたが体温が高く可愛らしかった、抱き心地は最高だった。
「可愛いなぁ、次の国まで連れて行こうかなぁ」
そう言っていると後ろからカリカリと言う音が聞こえた。振り向くとカバンからはみ出た山菜に噛みついていた。
「わっ!?えっ?ちょっとやめてよ」
抱き抱えていた茶色の小動物を下ろして山菜を齧っている方を抱き抱えて止めた。
「ダメだよ、これは僕のご飯だ、ん?」
よく見るとこの小動物だけ他より痩せ細っていた
目を見てみると片目が失明していて白く濁っていた。
周りの小動物を観察すると類似したような子はいないそれに少し距離を取られているようだ。おそらく目が濁っていることで受け入れてもらえなかったが食事にありつくために追いかけていたようだ。
「かわいそうに、次の国まで連れていってやるよビー曰く今日中には着くだろうし」
そういうと海離は荷物をまとめて痩せ細った小動物以外を追い払った、やけにあっけなかったため周りの小動物からしたらいてもいなくてもよかったのだろう、かわいそうに。俺はバックを背負い腕で小動物を抱えて歩いた。山菜を渡してみたらそれに夢中で噛みついていた。
「連れて行くなら名前がいるよなぁ……」
歩きながら考えることにした。昔お隣さんが犬を飼っていてその名前を思い出した。その犬は今は歳でいなくなってしまったので代わりにと思いこの名前をつけることにした。
「君の名前はノージだ名前に意味はない、僕がその名前に意味を作ってあげるよ」
ノージは特にリアクションは取っていなかったずっと山菜に噛みついていた。日が落ち始めて空が赤くなり始める時ちょっとした野原の凹凸の山を乗り越えると
「よかった晩飯を作る手間が省けた」
国が見えた、正直着くのは日が落ち切ってからだろうが一日中歩いてへとへとだった俺は一刻も早く国に付きたかった、その国は高さ10メートルほどの大きなレンガで壁を築いており視界にギリギリ納まらないほど横に長かった。
「俺の国よりずっと広いなぁ、ねっ、ノージ」
ノージは山菜を丸々一つ食べ終えていた。
「えっ?結構大きいの渡したんだけど」
どう考えても体の大きさに見合わなかったのに完食していた、見た目の割に大食いなのか?
日が落ち切ってから少し経った頃、海離とノージは城壁にたどり着いていたそこにあったのは国兵の姿ではなく一つの看板だったそこには
「受付は日が出ている間のみになります、夜に到着してしまった場合ここから城門を右に向かって行くと宿泊できる場所がございますのでそちらをご利用ください。」
海離はがっかりした、そしてノージのお腹がなった
「ノージはどれだけ食いしん坊なんだ」
国璧を右に伝って行くと本当に小さな宿泊施設があった、壁にくっついており二階建てで数十部屋あった外には井戸とキャンプ用の切り株や軽い調理場が作られていた。
「晩飯は自分で……か」
海離はショックだった、部屋の方はベット一つがギリギリ入るほどの広さしかなかったが、昨日は野宿だったのでまだマシだった、海離は荷物を部屋に置きノージを連れて調理場に来た、まずおいてあった小鍋に持ってきていたにんじんの半分を切り入れて残りの半分をノージに分け与えた、がっつき具合を見て昼の山菜より美味しいらしい。
俺はその鍋に少量の油を入れて塩を入れて炒めた、にんじんの色が濃くなってきたら水を半分まで加えて煮込み中でにんじんをすりつぶした。そこに干し肉とじゃがいもを入れて、調理場においてあった調味料からスパイスを調合した。黒胡椒と塩程度だが。しばらく煮込んで完成したのがにんじんベースのシチューだった。完成して後ろの椅子に座って食べた。ふとノージをみるとにんじんの下半分がなくなっていた。
「マジでめちゃくちゃ食べるなノージ」
その日は荷物をまとめてベットでノージと共に眠った。
「久々のベット、じっくり楽しまないとな」
後日の早朝、海離はノージに昨日のにんじんの葉を軽く炒めたものを食べさせて自分は昨日の残りのシチューにパンをちぎって入れて食べた。
その後荷物とノージを持って門扉に向かった。
「やぁ旅人さんお待たせしてしまってすいません」
この国の国兵らしい人が出てきた。赤いズボンに赤い服そこに青いラインが通った服に黒い高い帽子をかぶっていた。
「こんにちは、いえいえベットがあっただけありがたいです。」
「では早速入国手続きをの方をさせていただきますね、て言ってもただのアンケート的なものですが。」
「アンケート?」
「あぁ、ただの質問に少し答えてもらうだけですよ。」
そう国兵がいうと門扉の前の椅子に座らせられ一枚の紙を渡された、その紙にはいろいろな質問が書いてあった。
質問は、名前、年齢、性別、荷物、人数、旅の目的、現在の旅の期間、旅の途中であった絶景、旅の感想などだった。そこそこ長かったため、途中でノージは寝てしまった。質問を答え終わり紙を国兵に渡して、入国許可をもらった。最後にノージについて聞かれた。
「あぁ、旅の途中で拾ったんです、見た目のこともあり群れに馴染めていなくてひとりぼっちだったので連れてきました」
「お優しいんですね、ペット持ち込み可能のホテルの方を手配させていただきますね」
「そこまでしてくれるんですか?ありがとうございます。」
そう話した後門扉は開き中に招かれた。初めての他国との関わりのため滞在期間は未定にしてもらった。入ってすぐに馬車が待っていてそれに乗ってホテルまで連れて行かれた。
「なんで高待遇なんだ」
関心するついでに街並みを見ていた。
建物のほとんどはレンガを多く使った石造りのものが多く、ほとんどの建物が二階建てだった。母国はほとんどが一階建てで貴族の住む中心地のみ栄ている感じだったが、ここでは全てがそのような街並みだった。そうこうしている間にホテルに辿り着き部屋に招かれた。部屋には広々とした白いベッドに小さな暖炉、木で作られた小さい丸い机に立派な背もたれの椅子、壁に板を横向きにつけた棚でそこには花瓶が置かれていた。そして部屋の隅には低い柵に囲まれた人工的な草原が置かれていた。荷物を棚においてノージをその人工芝に乗せるとすぐに飛び出してしまった。
「狭いところは嫌いか…でもトイレはここでしてもらうぞ部屋が汚れると申し訳ないからな。」
この部屋の玄関のすぐ右側には小さな部屋がありそこにはトイレと水道というものだった。水道とは捻るだけで水が出てくるもので井戸まで行かなくていいのは相当楽だった。海離は昼手前まで休憩した後、手帳、えんぴつ、母親の写真、そしてノージを連れて情報収集のため国を回った。まずもう一度壁門の国兵の元に行き、母親の写真を見せてこのような人を見たことがあるか聞いた。国兵は
「すいません、このような人は見たことがありませんし、私がここに派遣されたのはつい最近のことなのでよくわからないです。その方は旅人ですか?」
「はい、私の母親です、アンケートの通りこの人を探して旅をしているんです。」
「なぁるほどぉ……同じ旅人ならお城の役員に聞くのが手っ取り早いでしょう。この国は旅人に依頼を出すことがあるのですが、依頼金でお金のやり取りが起こるため、その時に使う依頼表というのを制作します、それには旅人の個人名や顔写真があるはずですのでまだ保存されていれば何か手掛かりになるかもしれません。」
国兵は丁寧に教えてくれた。
「ありがとうございます、ではそちらの方へ伺ってみますね。」
そう言って俺は国兵に簡単な地図を書いてもらいその「お城」に向かった。もうお昼時でお腹が空いたので見かけた飲食店に足を運んだ。カフェリアと書いてあった。
ドアを開けると鈴の音が聞こえて中は暖かかった。
「いらっしゃいまっせー、奥席にどうぞー」
少し適当な接客を受けて席についた。店員が水とタオルを持ってきて注文を聞かれた。メニューにはチキンステーキのトマトソース仕立て、目玉焼きパン、海鮮ドレッシングサラダなどがあった。海離はチキンステーキのトマトソースに安いが大きめのパン、卵ドレッシングサラダを注文した。10数分待つと料理が出てきた。どれも歯応えがあり非常に美味だった。
「あんちゃん、旅人だろう、うちはお客さんが常連さんばかりだからすぐわかったよ」
いきなりそう聞かれた、聞いてきたのはぽっちゃりとしたこの店の店長だそうだ。俺のことは噂になっているようだ。
「はい、俺は旅人です、何かようですか?」
「いや、ただ興味が出ただけだよ、後でデザートをサービスしといてあげるよ」
「ご親切にありがとうございます」
「あんちゃん丁寧な口ぶりだね、旅人でそんな人なかなかいないよ」
「いやいや、それほどでも」
「実は俺も元旅人でね国を回って最終的にこの国に落ち着いたんだ、今じゃ孫もいる」
カウンター席の角から子供がこちらをみてるのが見えた、このおっちゃんとは目元が似ていた。
「あんちゃんはなんで旅に?できたら俺から話してやろうか?俺は旅の話は大好きなんだ、できたらそこのウサギのことも教えて欲しい」
「ウサギ?とはなんですか?」
ノージのことを聞かれたノージはおっちゃんにウサギと呼ばれていた。
「ん?うさぎってのは…うさぎだぞ?そこの動物の種類のことだ、ほら犬とか猫とか牛とか、その辺と同じだよ」
「なるほど俺の海の上の国じゃあ見られなかったので」
「そーかい、あんちゃん海の国から来てんのか、なんだここから一番近いとこか?」
「はい、そこからきました、あっ、ありがとうございます」
このタイミングでデザートが出てきた、簡単なフルーツの盛り合わせだった。りんごが多いさすが陸の国だ。
「へぇー、じゃあ旅も初心者か」
「はい、何もわからないですね」
海離はフルーツを食べながら答えた。
「そりゃぁこれから大変だね?なぜ旅に出たんだ?あの国には国外通報の法律はなかったはずだ」
いきなりすごいことを聞かれた、だがそれが旅人に対する目線なんだろう。
「いえ、そんな物騒な法律はありません、今は人を探してまして」
そう言って俺は母親の写真を見せて旅に出た経緯を説明した、おっちゃんは
「この写真の女性は本当…にあんちゃんの母親なんだな、間違い無いんだな」
こう言った、感極まっていて少し涙目だった。
「おそらく、というより父親の話が本当ならそうです。」
「そぉかぁ、あんちゃんが君がそうなんだね」
おっちゃんは涙を我慢していたがついに涙がこぼれてきた。正直少し引いた
「この人はね、俺の命の恩人なんだ、俺が国の外の野原で盗賊と交戦して重傷で動けなかった時、手を差し伸べてくれたんだ、そしてこの国に連れてきてもらったんだ、母国を追い出されてひとりぼっちでずっと死に場所を探す旅をしていた俺のことを助けてくれたんだ」
「そぉ……なんですね、そんな心優しい方だったんですね」
「あぁ、本当に…いい人だ、君の母親は」
おっちゃんは涙を拭ってこっちを見た、俺は一つ質問をした。
「あのぉ?君があのとは?」
「あぁ、そうだね、実は君の母親は俺と知り合った時子供を1人孕っていたんだ、君の父親と思われる人も一緒だったよ」
「俺の話をしていたんですね」
「いやその時はしてない」
「えっ?」
俺は驚いた
「それから9年ぐらい経って俺がこの国に落ち着いて、移民してから店を構えようとする頃、またあんたの母親が入国してきたんだ」
なんと俺の母親はこの国に戻ってきていたのだ。
「また訪れていたんですね、母はその時、何か言い残していましたか?」
おっちゃんはためてから
「あぁ、言ってたよ君のことをずっと言っていた。可愛い可愛いって」
「そうですか、それは良かった。」
「本当に申し訳ないって言ってたよ」
「えっ」
俺は涙が溢れてきた。
「あんちゃんのことを、ずーーーっと褒めちぎってたよ、可愛可愛っていつも母ちゃんって呼んでくれて、嬉しくて、でもずっと一緒にはいられないってわかってて、いざ別れるとはち切れそうなほど辛いって、言ってたよ」
「ズッ…僕は愛されていたんですね」
「あぁ、母さん探してんなら伝えて欲しい事がある」
「はい、任せてください」
「店は大繁盛だあんたのおかげでな、いつか食べにきてくれ、金はいらないって」
「はい任せてください」
そう話していると外から
「ドンッ!ドッ!ドンッ!」
という太鼓の大きな音が聞こえた。
「おっと、始まったな、あんちゃんも見ていくといいよ」
「これは…、祭りですか?」
「記念日だよ、ある英雄のな」
第六話 予見の女神様―
―好きな理由はなくてもいい
「ドンッ!ドッ!ドンッ!ドッド!ドンッ!」
太鼓が鳴っていた。音楽を奏でている楽器は太鼓だけで他は歌声だった。その集団は国の中心に向かって大回りに、まとまって歩いていた。海離はおっちゃんと外に出て眺めていた。
「これはなんの記念日なんですか?」
「ある英雄がこの国を作り直してくれた日らしい、この国に初めて訪れた時に聞いたんだが、ある女が
「この世には海にも陸にも天高くにも人は存在し幸せを感じている、だがその幸せを人種・環境の違いだけで共感しようとしないのはどうも勿体無い」と言ったんだ、もちろん口先だけじゃない、その後彼女は長いことこの国に在住した、そして政権が変わるタイミングで内乱が起こった時彼女は関係のない人々を国の端の田舎へ、そして女でありながら戦争に参加してその時の王の首を取った。それで名を挙げて国の新しい政権を作り出し幾つも法律を作り、いらない法律を消していった。この記念日はその女が王を討ち取った日なんだよ」
「そうなんですね、すごい話です、それでその女性の名前は……」
「名前は、カイリ・クレンツェ、あんたと同じ名前だな、もしかしたらお前の母さんはこの名前をあんちゃんににつけたのかもな」
「だとしたら光栄ですね」
そのあと少し雑談をしてから店長に感謝を伝えて国の中央区の城に向かった、しばらく歩いたところでノージが手の中で寝てしまった。
少し経ったあと中央の城に着いた、白塗りの大きな壁に頭が完全に上に向いてしまうほど高い建物を見ていた。
「えっ…と、この場合どうやって入ればいいのだろう」
そう迷っていると大きな扉が開き中から国壁の前にいた男と同じ格好の男が出てきた、国壁の男よりガタイがよく大きかった。
「旅人様ですね、話は伺っております、どうぞ中へ、今は国王閣下が不在ですので王女の前に案内します。」
低い声でそう言われて中に入った。しばらく長い廊下を歩いたあと階段を二階分上がったところの正面の部屋に案内された。すると兵士がドアを叩き
「王女様、旅人様がいらしております、お話よろしいでしょうか」
「良いぞ、入れ」
中から透き通るようでそれでも明るい声で言われた、中に入ると透明なカーテンの着いた大きなベットにホテルのものよりはるかに高そうな机と椅子、低く横に長い棚、巨大なオルゴールに装飾の多いラジオが置いてあった。そしてそこにいたのはドレス…など着ていない、緩い半ズボンの緑のカーボンパンツに白のダボダボのシャツ、透けて黒のタンクトップの下着が見える
「王女様!来客が来る時ぐらいドレスを着てください!!品位はないのですか!!」
「良いだろうこれぐらい、はよう席を開けんか、紅茶でも入れてこい、あとクッキーも忘れるな」
「わかりましたよ、戻ってくるまでにドレスを着ておいてください!」
「わかっておる、君が鳥島海離くんだね話は聞いている、それに色々話したいこともあるんだ」
「はいそれで」
「母親のことだろう」
俺は話を遮られてしまった
「そうですね、もうそんなことまで知ってるんですね、情報伝達の高さがお見受けられます。」
「いや違う、実際に来ている情報は旅人が来たというだけだ。」
「…はい?」
その瞬間窓から風が吹き王女様の髪が靡いた
「予見だよ、私の婆さんのカイリ・クレンツェのね」
「…あなたの名前は」
「私の名前はエレン・クレンツェあんたと旅をすることになる」
「…………はぁ!?」
「どうなされましたか!!!」
俺が大声で叫んだあとに兵士が入ってきた。
「大丈夫だ、紅茶とクッキーは?」
「もちろんお持ちしましたが、ドレスを着るまで渡すことはできません」
「え〜、わかったよドアを向いて待っていてくれ」
そういうとエレンは着替え始めた、俺は正面を向いていたので慌ててドアの方に向かい兵士と並んで後ろを向いた
「あのぉ、あれが王女か?なんというか気品というものが備わってないようですが」
「失礼なことを聞くな、でも事実だ何もいうつもりはない、ちなみに振り向くなよ王女様はその容姿のせいかファンがとてつもなく多い、下着を見たなんて言ったらそいつらが血眼になって殺しに来ると思え」
「わかりましたよ」
確かに容姿は素晴らしく綺麗だ、艶のある光を反射する金色の髪、宝石のような蒼い瞳、絵に描いたような肌と顔立ち、綺麗なピンク色の唇、ウエストが細く抜群のスタイル、先ほどの適当な服を着ていてもそこらの女性より美しい。数分後
「おい、着たぞ…もうこっち向いていいから」
振り向いた、先ほどと髪型も顔も変わらず美しいが純白のドレスのせいかその美しさが際立っている。
「すごく、美しいですね、ここまで…とは」
俺は少し感動していた。国璧に囲まれない国外で絶景を見つけた時のようだ。
「あぁ、お気遣い感謝する、兵士よ」
「はい、女王様」
「我はこの旅人に話がある、頼む席を開けてくれないか?」
「かしこまりました、旅人様どうか粗相のないように、と言っても女王様に嫌がれてしまうので軽くお願いします」
兵士に最後だけ耳元で小さな声で言われた。
「わかりました、そしてお話というのは」
兵士が紅茶とクッキーをおいたあと、部屋を出て、俺と女王様は一つの机を挟んで超高そうな椅子に座った。その瞬間女王様は
「ちょっと待って…ぷはっ!、いやぁ息苦しいねぇ、このドレスは」
ドレスを上から脱ぎ始めた、最初は驚いたが中は先ほどのシャツだった。
「わっ!えぇっ!!」
「ワハハハ!、何を驚いているのだ流石に自分から見せようとはせぬ、」
確かにそうだ、ドレスを着るとさらにスタイルがいいように見えたがそんなことせずともスタイル抜群だった。シャツがダボダボのため最初は分かりにくかったのだ。
「ははは、そうですね、ところでその…予見というのは?」
「あぁ、そうだったねその話をしようか、ちなみにカイリ・クレンツェという名前を知っているかな?」
「はい、街を散策中国民の方から話を聞きました、今日の祭りはその人が国の政権を倒した日の祝いなんですよね?」
「よく知っているな、そのカイリ・クレンツェが私の婆さんなんだ、婆さんの予見はかなり少なく見たいものは見えないと聞いた、ただある予見が今目の前で的中している。」
「えっ?…もしかしてわたしのことですか??」
驚いた、一国の英雄が俺のことを知っているとは
「予見をそのまま伝えると、「世代を超えた我が血族よ、準備せよ近い未来わたしが死んですぐの刻、小さな使役と共に我と同じ名をもつ青年が現れる、其奴に尽くすのだ、其奴は弱いが愛するに値する死んでも死んだ後も愛を捧げよ、本当にかっこいい漢だから」だ、わたしもよくわからん、あんたのことを見てもちょっと顔立ちがいいぐらいにしか思わん」
「はは、ありがとう…ございます、実話ですよね?」
「そりゃあもちろん婆さんの言っていたことはね、でも私は実際に知っているわけじゃない、他にも色々聞いているけど聞くかい?」
「もちろん、僕の未来について教えてください」
「あっ、いや君の未来のことはあまり伝えられてない。」
「……ん?」
「君に対する予見はどちらかというと頼み事のようなものが多いんだ、君についての予言は、君が来るってことと、二つだけ、一つは「夏の始まりの日、彼女は空に舞う」二つ目は「同じ瞳に映る同じ人」だね、正直意味はわからないが頭に入れておいた方がいいだろう。」
「…………わかりました、それで頼み事というのは?」
「ああ、そうだった、少し待ってくれ」
そういうと席から立ち上がり低い棚から古く少し厚い本を取り出した。
「これに全て書いてある、わたしも最初だけ目を通したが意味がわからない、婆さんの予見は今日この日以降のことしか伝わっていないのだ、だが君のこと、つまり海離君にしか伝わらないことがあるかもしれない、婆さんの予見は今までの予見の少なさから信じてるものはかなり少なく、国民のほとんどは予見のことすら知らない、この予見に確証が欲しい、だから読んでみて欲しい」
「…………はい」
俺はほとんど信じていなかった、ノージは手元でまだ寝ているのでおろそうとしたら
「預かるよ私のベットで寝かせてあげよう、わたしも動物は好きでね可愛がらせてくれよ」
「わかりました、ですが片目のこともありますので優しくお願いします」
「もちろん、わかっている」
そうして王女様、エレンにノージを寝たままわたし俺は本を読み始めた。
この本は不思議だった、一番最初のページには目次などではなく注意ごとが書いてあった。内容は
「これを読んでくれる親族へ、この本は先祖代々受け継いで欲しい、もし紙の時代が終わってもこの本を持っていて欲しい、もしこの国が滅びるのならこの本は海の孤島の国に渡して欲しい、もし海離さんに届くことがないとわかったのならこの本は燃やして欲しい、そして必ずこれ以降のことについて読まないでいただきたい」
最初の1ページはこれからの親族に伝える内容だった、次のページを開くと俺に対することが書かれていた。
「海離さんへ、この本を手にしてくれたことに感謝します、私はカイリ・クレンツェです、あなたと同じ名前のことには意味があります、ですがそれはお教えすることはできません、この世界のルールというやつです、ですがあなたに頼まれて欲しいことがあります、それについてなんですがタイミングというものがありまして…読み続けていくと途中で西暦、月、日が記入してあります、どうかその続きはその日になってから読んで欲しいのです、どうか間違えてでも読まないようにお願いします。」
そう書いてあった、正直かなり奇妙だ、俺のことを知る方法はいくらでもある、俺の国に訪れればわかることだし、名前だけなら俺の親がここに訪れているなら何か聞いているかもしれない。
「あぁ、その日の次は読まない方がいい」
「えっ?」
エレンが話しかけてきた。
「以前私の母親がその日にちの先を読んでしまって依頼見つかっていない、行方不明になってしまったんだ。総力を上げて国中探したが見つからなかった、死体さえも……他にも掃除中にたまたま読んでしまったメイドや執事、叔母さまも含めて全員行方不明になってしまっている、もしその本に書かれていることが本当なら、それはこの世界のルールを破ったことによる罰という噂がある、私の親族間ではね、国民達は昔の政権の人間の怨念だと思っている、私たち王家の人間とそれに関わった人間しか被害を受けていないからな」
なるほど、とりあえず俺も読むのは止しておこう、それにノージは目を覚ましていたがエレンの腕の中にいた、俺が抱えている時よりのびのびとしている、胸がある分広いのだろう、そういえばまだ気がかりなことがある
「そういえば、私と旅に出ると言っていましたね?どういうことですか?それも予見ですか?」
エレンは少し溜めてから言った。
「あぁ、おそらく予見だろう私が物心つく前から婆さんに言われていたらしい、国王の父が私の名前を命名した時に予見で私の未来が見えたと言っていた…昔、私がまだ11の頃に婆さん亡くなってしまった。老衰だった、最後の最後まであんたのことを言ってたよ、エレンは海離と旅に出る、お願いってね」
興味本位であれど申し訳ないことを聞いたと思った。
「そんな顔するな、歳はどうしようもないもんさ」
エレンはなごましてくれた
「婆さんは死ぬ直前、こんなことも言っていた「どうかあの人を 愛してあげて…これじゃあ、解離がどうしても可哀想すぎるから」とね」
「そうですか、わたしも自分の未来は知りませんが、一度国外に身を置いたため覚悟はして来てる、それに関係のない人、ましてや一国の王女様を国外に連れ出すようなことはしませんよ」
「あぁ、その問題はない」
「…………ん?」
「私は行く気満々だよなんなら準備はできてる」
「………ん?え!?」
「だけどあんたが弓矢や歩きで旅をするとなるともう少し後になる、あんたには弓矢より銃、歩きより馬ださっさと習得してもらうよ」
「はぁ?!?!」
驚いて立ち上がった、さっきも言った通り俺はエレンを旅に連れていくつもりはない、そもそもいきなり旅に同行しますってのが無理難題だ、俺とエレンは少し口論した後、俺の旅が終わったらエレンは国に戻って王女に戻る、という条件で許可した、その後エレンは奥の部屋のクローゼットから青色のジーンズにベルトをして、上はさっきの白のシャツの上から、母国でも輸入船に乗っていて輸入品にあるピンクの厚いセーターを着て髪を括って後ろで球にして、サングラス、口元を隠す柔らかい紙をつけた、サングラスとマスクで顔は見えないがそれでも美しい、あと普通にバレる気がする。
そして俺とエレンは窓から紐を垂らし紐をつたって城の外に出た、ノージはエレンが持っていた赤い少し大きい手提げに入れた、ある程度歩くと街に出た、エレンと一緒に街に行くとバレないかヒヤヒヤしたが幸いにも祭り中で注目は集まらなかった。その時俺は本来の目的を思い出した。
「そういえば、私は城には母の情報を調べに来たのですが、お願いできますか?」
「わかった、城に戻ったら兵士に任せる、それにここは城の外だ、いつまで敬語を使っている?別に気を遣わなくていい」
「わかった」
「あっけないな!」
そう話しながら歩いているとお腹のなる音がした
「……何を見ている私じゃあないぞ」
エレンが言った
「えっ、俺でもないが」
「「…………」」
2人でバックのノージを見た
「そういや俺が飯食ってる時お前なんも食ってなかったな」
ノージはキョトンとした顔をしていたが驚いているのは俺らだ、準備の前にエレンが夜隠れてよく行くというバーに行きエレンとノージの腹拵えをした、エレンは卵のサンドイッチ、ノージはバーの店主さんがキャベツの葉を少量の塩で少し炒めたものを出してくれた、ノージは食べ終わると自分でバックに戻り眠り始めた、俺はエレンがサンドイッチを食べるところを見ていた
「…ん?何を見ている?」
「あっいや、うまそうだなと」
ほっぺたにマヨネーズが付いていたので拭ってあげた、拭って気づいたのだが、エレンは化粧をしていない、それなのに子供のような肌に宝石のような目に長く艶のあるまつ毛本当に美しい、俺は正直一目惚れしていた、ていうかこんなにも美しくて、陽気で、行動力もあって、誰にでもそして自分さえも公平だと考えて接してくれる人はなかなか居ない、惚れないわけがない。
「いやぁおいしかった!マスター、お手洗いを借りるよ」
「わかりました、そちらです」
「もうわかるよぉ、何回きてると思ってるの」
そう言ってエレンはトイレに行った、俺は何か飲むかと思い注文しようとすると、マスターに問われた
「あんちゃん王女様のこと好きだろ」
「…………はあぁ!?」
「いやぁ無理はない、あの容姿だ、それに好きなのはすぐわかったよ、見過ぎだよあんちゃんそれにその目は惚れてる目だ」
「す、好きで何が悪いんだよ!」
恥ずかしかった、何せ人を好きになったのは初めてだったから
「いいんだよ、好きに理由を求めるのならそれは本当に好きじゃない、なんとなく好き、なんか好き、理由がないから好き、それで愛せるなら十分なんだよ」
マスターの言葉は俺の心に響いた、確かに、あの人可愛いな、あの人性格いいなとなって最終的に、いい子だな好きだ、となると思っていたがエレンに関しては根本的に違う、マスターの言う通り理由はないが好きだ
「戻ったよ、そろそろ行くか」
「あぁ」
エレンと海離がノージの入ったバックを持って店を出たその後すぐバーのマスターはつぶやいた
「よく似た二人組だねぇ、特にあんちゃんは、恋に不器用なとこもそっくりだ…もしかして……まぁいいか」
第七話 地獄の修行―
―みんながヒーローでみんなが脇役
しばらく歩いて少し森の中へ行くと木造のデッキハウスが見えた、デッキハウスのベランダには椅子と机が出ておりそこには、白い髪、それも白髪ではなく先天性のものに簡単な薄茶色の厚い上着、濃い茶色のズボンにスリッパを履いていた、正直寒そうだ、エレンは声が届くとこにつくなり「おじさーん!!」と叫んだ。
「おぉ、エレンか、また城を抜け出して来たな、ここにいるのがバレたら俺がドヤられるんだ早めに退散してくれよ」
優しく返された、おじさんは立ち上がった、身長は俺と同じぐらいで服の上からでもわかる筋骨隆々の体つき、そして威圧感を感じた。
「こっちのガキは誰だ、まさか彼氏か?わしは認めんぞ」
「違うよおじさん、この人は予言の…」
「あぁ君がそうなのか、でなんのようだ」
「実はこの人銃がまともに使えなくて、見ての通りひょろひょろなの、だから国を出るその日までにある程度の修行して欲しくて」
「なぜ俺に頼む、城にはもっといい兵士がいるだろう、引退した俺には向いてない」
「でも暇でしょ、私に銃教えてくれたのもおじさんだから信用してる」
「…はぁ、わかったよ、おいガキ名前は、なぜ旅をする」
まだガキ扱いされてる、おじさんを見ていると気がついたことがある、俺の国で見て来た国兵やこの国の兵士とは根本的に違う、真ん中に一本でかい釘が刺さってるみたいに安定感があって、体格はそこまで俺と変わらないのに他と比べても圧倒的に存在感がやばい、直感的に強いと思った。
「俺の名前は海離…です、えっと昔いなくなった母さんが生きてるのを知ったので母さんを探すために旅に出たました、まだ旅は3日目です」
「そうか、わしも引退した身だ、教えられることは少ない、エレン、俺はこいつに何を教えればいい、勉学か?武術か?」
「えっとぉ、馬術、銃術、武術の三つを教えてあげて欲しいの」
「わかった引き受けた」
俺があまり喋らないうちに話がどんどん進んでいった、旅の準備と聞いたのでエレンの旅荷物や俺の荷物の補充だと思っていた、なのに気づいたら俺が修行する話になっていた
「それにあんた国外にいたんだろ、よくここまで来れたな運がいい」
「あっ、いやぁ実は途中まで同行していてくれた旅人がいて、助けてくれたんだ」
「あぁビーのことか」
「えっ?」
おじさんはビーのことを知っているようだった
「ビーは何度かうちの国に訪れてんだ、この国には他国につながる道が多いからな、俺はビーに武術をメインに教えていた、まだ生きてたのか、銃も使わずによくやるなぁ、まぁ立ち話もなんだ、上がれ、エレンはどうする」
「私は一度城に戻るよ、旅に出る用の馬と補充品、おじさんと同じ銃も準備しとくよ」
「わかった、」
「あのぉ、いろいろ教えていただくのはありがたいのだが、「銃」とはなんだ?」
「「え?」」
俺は銃なるものを知らなかった、エレンとおじさんから説明を受けると、銃とは火薬と言う火をつけると爆ぜる砂の力で鉛玉をとてつもなく早くそして遠くまで飛ばす機械だそうで、人に当てると簡単に貫くらしい、おっかない物だな。
「ということでわしはあんたに銃と武術、馬術を教えることになったよろしく」
エレンはその後、城の荷物はまかせろ、全てまとめておくといいと最後に言い修行の期限を教えてくれた
「20日以内?そんなにすぐに覚えれるかなぁ」
「あんたならできる、それに私もおじさんに銃教えてもらったけど4日で習得できたから問題ないと思うよ、じゃ」
エレンはそう言うとそそくさと帰っていった、ノージをお願いしようと思ったが手遅れだった。その日は軽く周りの説明を受けた後、武術、銃、馬を一通り軽くやった後就寝した。
次の日からは地獄だった。朝5時に叩き起こされ森の周りを走らされた、その後おじさん…師匠が作ってくれたパンと目玉焼きを食べた、ノージは畑に置かれて勝手に人参に齧り付いてた、俺はその後銃の練習をした10メートルほど先の木に赤いインクで円が何重にも書かれておりそこに打ち続けた、ずっと立って引き金を引けるだけで楽だと思うが反動が腕にきて相当きつい、銃の口径が広く威力も高いものを使っているそうだ、あと銃声が大きいため耳栓をするのだが、その耳栓すら突き抜けてくるので耳も痛い。
中心の黒い点に一回でも当たれば終わりなのだが、かなり難易度が高い、師匠も定期的に教えてはくれるがうまくいかない、たまたま当たったらなぜか怒られた
「たまたまじゃない狙って当てろ!」
「はぁい!!!!」
昼前になったら強制的に終わり昼食の時間だ、約4時間銃を握っていたので手が痛い、昼食を師匠は作ってくれず、逆に自分の分も作れと言って来た、俺はニンジンをぶつ切りにして師匠の小屋の鶏肉と一緒に塩胡椒で炒めた、
ノージは残りのニンジンを食べていた。食事が終わると休憩と言って来たがいきなり殴りかかって来た。
「ふおぁあ!!あぶなぁい!!!」
「そうだよけろ呑気に休憩できると思うな」
「いや、休憩って知ってる?!」
その後数十分の間一方的に殴られ続けた
「ほらほら、こんな老耄に圧倒されてどうする、殴り返さんと終わらんぞ」
「いや、聞いてないし!?」
その一瞬後俺は隙を見て拳を振るったが逆にその腕を掴まれて投げ飛ばされた
「うをわぁ!!」
「甘いわぁ!!!」
その後しばらくして終わった、どれくらいの時間が経ったかはわからない
「起きんか、いつまで寝とる?」
「……ん?」
俺は気を失っていたそうだ、最後に投げ飛ばされた時頭をぶつけたのが問題だったそうだ
「早く起きろ次は馬だ」
「………夢…じゃねえ」
地獄だと思ったがそのあとは馬の騎乗方法や扱い方の本を渡されて読んでいただけだった。しばらくして師匠は晩飯を作ってくれた、森のきのこにじゃがいも、ニンジン、ほうれん草を使い牛の乳とそれを発酵させたチーズを使ったシチューだった。うまい
次の日も、その次の日もまたその次の日も来週までそんな生活が続いた、そして10日後、エレンが様子を見に来た。
「エーレーンーー!!!!助けて殺される!!」
「どうしたの海離、大丈夫だよおじさんは優しいから」
「あれの何が優しいのだ!?下手したら過労死するぞ!!」
「人間そんなやわじゃないわ、さっさと走り込みいってこい」
「クソオォォー!!」
俺はそう叫んでから走っていった。
「どう?おじさん、海離間に合いそう?」
エレンはそう聞いた、どうやら旅の準備はほとんど整っているそうで、もうエレンが国の外に怪しまれずに出る方法を探すだけだった。
「あぁ、問題ない何一つとしてもな、あいつ飲み込み早いんだよ、あと成長も早い、日に日に走り込みの時間も少なくなってるし銃の成長も悪くない、特に武術に関しては天才的だ、ナイフを持たせたら10分の1ぐらいの確率で負けるやもしれん」
「そんなにすごいんだ…ビーさんとどれくらい違う?」
「ビーはやってる期間が違う、それにもうわしはビーに敵わんかもしれん、だが海離には俺にもビーにもないものを持ってる」
「何それ?ていうかビーさんでも流石におじさんには勝てないでしょ」
「そうだな、それで海離の話だが、あいつにあるのは圧倒的な度胸と根性だ、武術稽古をしてる時に一度だけ顎を殴られるのをわかってそれを犠牲にして殴りかかって来た、多分あまり恐れてないのだな、ある意味一番怖いやつで一番早死にする、エレンは旅に出た後も海離のことを見てやってほしい」
「そりゃあもちろんよ」
そしてしばらくすると海離は戻って来た。
「あっ、朝飯忘れとった」
海離は初めて自分から師匠に殴りかかったが簡単に制圧された。
「…………作るか」
海離は妥協した。
それからさらに11日たった、師匠が海離に馬術を教えるのをすっぽかしており少し遅れてしまったことで1日多く滞在した。
そして今日、まだエレンと共に国外に出る方法が浮かんでいなかった。海離は旅に出る準備はできている、そして一つの問題ができた、それはエレンが国外に出ようとしていることが国中にバレてしまったのだ、どうやら海離が修行していた森にエレンが向かっていくのを見ていた1人のファンがみんなにバラしたのだ。城の者含め国の政治に関わっている一部の人間はエレンが予見では旅に出ることは把握しており、バレなければすぐにでも国外に出れたはずなのだ。
「ごめん、私の不注意だ、何か代案を考えないと」
城には師匠を含めて政治に関わる数人とエレンと俺が会議をしていた。現状は国民の役7割がエレンの旅を否定しており、この国の二つの壁門にバリケードを貼っている状態だ、この国は多数決で多くのことを決断して来たことから、その人の決断でさえも多数決で決めて来た風習があったりと法律が有耶無耶のところが多いのだ。この会議の議題はエレンを国外に連れていく方法を練るはずだったが気づいたらエレンは本当に旅に出るべきなのかと言う議題になってしまっていた。
「王女様!目を覚ましてください!いくら祖母の予見があるとはいえあなたは一国の王女様なのです!!こんな旅人についていくのが正しいとは思えません!!!」
俺は会議室の隅で聞いていたがそんなことはお構いなしだった。結局その日のうちに決断することはできず次の日に持ち越しになってしまった。その日の夜、俺は黙ってエレンの部屋に向かった。部屋に向かう廊下で国兵にバレてしまった、その国兵はエレンが旅に出ることに対して反対だった。初めて城を案内してくれた国兵だった。
「行くがいいさ、何か案があるならな、夜のうちに行くつもりか?国民が交代制でバリケードをみはっているそうだが……正直俺は諦めるべきだと思っている、今もまだ揺らいではいるが方法が見つからない限り無理だ」
俺はエレンと話すつもりだったが話したところで現状が変わらないのはわかっていた。
「君は王女様について来てほしいのか?君はもう十分強くなったじゃないか」
俺は少し考えたが答えは変わらなかった。
「確かに俺は十分強くなったかもしれない…1人でも旅に出れる、まぁノージはいるがでも…俺はエレンが好きだ、旅に同行してくれるのは非常にありがたいし嬉しい、俺はエレンを連れて行きたい、まぁエレンが嫌がるなら別だがな」
国兵は少し溜めてから言った。
「正直、王女様がいなくてもこの国は回る、王子様は婿養子として迎え入れる準備もできるし、最悪王子様だけでも問題はない」
「じゃあ連れていっても問題はないな」
「だが王女様が納得しない限りこの問題は無くならない!あんたが諦めるだけで済むんだ!!諦めてくれ!!!」
「エレンが行かないと言えばこの問題は最初からなかったんだ!!!エレンが旅に出ることを否定していないんだ!!!!俺はこの国の未来のためにエレンの好きなことをさせないのなら!俺は無理矢理にでもエレンを連れ出していくよ!!!別にエレンがいなくても国はまわるんだろぉ!じゃあ俺は連れていく!」
そう言い返して海離はエレンの部屋に向かった。国兵は何か言い返そうとしていたが自分で口を押さえて止めた。
海離がエレンの部屋の前に来ると話し声が聞こえた、エレンと王子様だろう、何か口喧嘩をしているそうだ。
「なぜ旅に出ようとする!僕はあなたのことを愛している!あの男よりも遥かに!そしてあなたは王女様だ簡単に出れるわけがない!!!」
ドアの隙間から見ると王子様は少し豊満で白と金色で塗られた豪勢な服を来て上から赤いマントを羽織っていた。エレンはと言うといつも通りの寒そうな短パンとシャツを着ていた。
「あんたが海離のことを貶さないでよ!おじさんの修行に2日もついていけなかったくせに!」
「俺は関係ないだろぉ!俺の方が頭もいいし礼儀だってできてる!」
「そもそもあんたみたいな根性なしと結婚なんて嫌なのよ!」
「君は先先代の王女の予言に縛られすぎている!きっと先先代が君を洗脳したんだ!!君の本当の幸せはあんな旅人となんかじゃあ築けない!!!」
「私は洗脳なんかされてない!!私は私の意思で生きたいと思ってるの!!!」
「それが洗脳なんだって言ってるんだよ!!」
「そもそも私は昔から旅に興味があったの!こんなとこに縛られないで外の世界を見たい!もっといろんな人と分け隔てなく公平な立場で話したいの!!」
「それは君の立場じゃ無理だ!」
「だからその立場が嫌だって言うの!」
しばらく海離はドアの隙間から覗きながら聴いていたが、口喧嘩が終わる気配はなかった。次の瞬間王子がエレンの胸ぐらを掴み気色の悪いことを言った。
「女が調子乗ってんじゃねぇよ!女が重宝されんのは子孫繁栄のためだけだろぉ!女がトップに立っていた時代は先先代で終わったんだよ!!お前は俺の妻になって俺はお前のファンたちにうらやましがられたいんだよぉ!!!」
その時俺は鳥肌が立った、流石に止めるためにドアを開けて止めにかかった瞬間エレンが叫んだ
「黙れよ!どでぶがよぉ!最初は私も旅に出るべきかうやむやだったけど、海離なら着いて行ってもいいって思ったの!あんたより海離の方が大好きなのぉ!」
「へ?」
俺は固まった
「えっ?海離なんでここに?!」
エレンがそういうと王子は俺に飛びついて来て叫んだ
「お前さぇいなければ、お前なんていなければぁ!!」
俺は即座に王子の腕を掴み腕を引きながら王子の腹に突撃した、それにより王子は俺の後ろに吹っ飛び頭を強打した
「…エレン…俺のこと……えっ?」
エレンと海離の間に少しの沈黙が流れた後エレンが
「………忘れて」
「えっ?」
「わすれてっ!」
そのあと王子が伸びてしまっていたのでとりあえず押し入れに王子を入れてから窓を開けてその前に並んで話した。
「…旅には出たいんだよ…ね?」
「うん、行きたい」
「でもどうする?ずっとここで止まりっぱなしじゃあ何もできない」
「…………一つだけ…一つだけ考えてた方法がある。」
「……えっ?」
俺は驚いた、そんな方法があるならすぐに実行すべきだがなぜやらなかったのか、すぐにでも国の政治関係の人たちに言えば良かったのではと思ったがエレンは言った。
「おじさんのところに行く、荷物は押し入れにある、海離のも、ノージはそこにいる」
ノージは布団の上で安眠していた。
「その…方法って何?」
「荷物を全部持っておじさんのところに行く、おじさんはわたしの婆さんと何かしら接点が多い、だから何か手伝ってくれるかもしれない、それに何か国に隠してることが多いみたいだし、個人的だけど現状信用できる数少ない人だから…でも本当にそれでいいの?おじさんは本当は国の政党側だったら?何もなかったら?…わたしはこの国で人生終わりたくない……」
「行こう」
「えっ?」
「行くしかない、それが希望でも絶望でも、実際に手にするまではどっちかわからない、ここで悩んでも仕方ないとりあえず行ってみよう、ダメだったらその時考えよう」
「…うん!」
俺とエレンは荷物を全て紐をうまく使って窓から下ろし窓から外に出た、そのまま2人で荷物を持って師匠のところまで走った、師匠の家に着くと家の後ろから師匠がランプを持って出て来た。
「お前たち…来たか」
「…?きたか?知っていたのか」
「あぁカイリ、と言っても亡くなってる方からの予見でな」
「じゃあなんで助けに来てくれなかったんだ?」
「あんたが持ってるその古臭い本と同じだよ、今日が読める日だったんだ。」
「なるほど、ありがとうございます、それでその予見とは?」
「…馬は準備してある、銃はこれを持って行け」
「……あり…がとうございます、あの、俺とエレンは師匠なら何か知ってるかもと思い伺ったのですが?」
エレンが少し病んでいたので代わりに俺が話を進めた、師匠は話してくれた。
「カイリの…まぁ遺言というやつだな、エレンが8歳になってすぐの頃初めてエレンのことを発表した、新しい国の3代目の王女としてな、でも国はどんどん男が政権を握るように変わっていった、その中で王女様は政権を握る王ではなくみんなのファンという認識に変わっていった、そのせいでエレンは発表されたことにより新しいアイドルとして捉えられていた、だからみんなアイドルがいなくなるのが嫌なんだ、それもどこともしれない旅人に連れて行かれるのがな、バカな話だ、最初のアイドルもどことも知らない男と一緒にきたんだ……あっ、すまない話がずれたな、そしてエレンがアイドルになることでカイリは、予見なのかわ知らんがエレンの未来を語った、これではエレンは簡単に国の外に出れなくなるかもしれない、だから俺をここに置いたんだろうな」
「ん?どういうことですかその最後の「ここにおいた」というのは?」
「カイリの最後の頼みだった、ここは森の中で国璧も近い、だからここである作業をしていたんだ」
師匠はそういうと国壁の側に俺たちを案内した、そこには国璧に灰色の布をかけて何かを隠しているようなものがあった。
「ここだ」
そう師匠がいうとその灰色の布を上げた、その先は…国の外だった。
「エレンのことが発表されてすぐ、カイリはここに俺の家を建ててくれた、そもそも俺にはああゆうでかい建物よりこじんまりした方がいい、そしてその後に俺に頼み事をして来た「ここに穴を空けて欲しい来たる未来のために、こういう地道なの得意でしょ」ってね、それからこの役割を続けて5年、穴は完璧に開いた、それから…4年後、今日、家にしれっと置いていった古い本に今日の日付とともに「その穴を使う時だ、感のいい君ならわかるだろ」それでこの穴の確信がついた、この騒動が起きてからこの穴の役割はある程度察しはついていたが確信がなかったから伝えることができなかった、すまない」
「いえ…こんなものを作っていただき感謝しています、この……それに」
「?、なんだ」
「こんな悩んだのに、なんかあっさり解決しちゃうなんてと思って」
「……人生そんな劇的なものじゃない、俺らは悲劇のヒーローでもアイドルでもない、ましてや世界を救う勇者でもないし、この大陸を納める王でもない、ただの人間だ…誰しもがおんなじことだ、ただ答えを探し続ける奴もいれば何も考えずにのらりくらりと放浪する奴もいる、まぁなんだ、人生楽しんだもん勝ちだという奴もいるがな、俺からすれば旅にも出ずに楽しむのは難しいと思うな、この世界、ほらほら行った行った、あんましんみりさせんな泣いちまうだろ、あとくさいこと言わせんなよ恥ずかしい」
そういうとエレンと俺をその壁から国の外に押し出した、そこでエレンが
「おじさん」
「ん?どうしたエレン」
「これじゃあおじさんが私たちを逃したことを国民が知ったら、おじさんがどうなるかわからない、もっと何かな…」
「エレン、心配するな、お前は優しすぎるんだよ、少しは自己中になったっていいんだ、世の中自己中のクソ野郎の方が多いんだ、それも無自覚な奴がな、だからお前も自己中に生きろ、おじさんのことはおじさんがやる、エレンのことはエレンがやる、海離のことは海離がやる、自由ってのはそういうことだ」
そういうと師匠は屈んでエレンの手を取った
「さぁ行け、馬は少し言ったところの一本木に紐で括り付けてある、そこに銃も銃弾も火薬も置いてある、あと、その俺の家に置いてあったカイリの本もある、迷わず進めよ」
師匠は修行中はとてつもなく厳しかったけどいつもその目には俺らのことを息子を可愛がるような父の目をしているように見えていた
「じゃあなほら行け」
そう言われて俺とエレンは少し進んだ。途中でエレンが何かいようとしたが、俺は
「うん、さよな」
「バイバイ!!」
「「??」」
遮るように答えた
「バイバイ!!こっちの方がまた会える気がしていいでしょう、また会いましょう師匠今度は母と一緒にきますよ」
そういうと俺とエレンは遠くに見える一本木に向かって歩いていった。
おじさんは
「ふぅ、これでよかったのかカイリ?あんたの孫娘は本当にいっちまったよ…いい男だな、俺もエレンの婿としては合格だと思うよ」
国で集めていた母の情報を書いたメモを見た、メモには東西南北と国の位置と国名、そして尋ねるべき人の名前が数人書かれている、海離は馬に荷物を積んで跨った、わたしはというと少し躊躇っていた、そこに海離が
「行こう、言っただろう、この先希望が絶望かは誰にもわからない、進まない限りはな」
そう言いながら馬から降りて私が馬に乗るのを手伝ってくれた、別に必要はないが何か心に感じていた。
海離の顔を見た
それと同時に日が登り始めた、海離の顔を照らした
「さぁ、行こう」
初めて見る暗い国外の景色が光の波で太陽の方から照らされていく、その時の海離はまるで王子が王女の手を取るようだった。
今この瞬間誰がなんと言おうと
海離は私のために行動してくれたヒーローだ
そう考えるのも自由だ
そうして海離と私は地図の示す国へ向かった。
まだ少し暗い方へ
暗いが、希望かもしれないその先へ
第八話 腹を満たせば幸せになる―
―さらに好きに
「ドドドドドドドドドド」
二匹の馬の足音が重なって音を立てていた。
馬を走らせて数時間、2人の馬は軽くステップを踏むように走っていた、時速30キロほどだった、両の馬には、首に紐をかけて両側に大きいポーチが置かれており馬の鞍には鞍とくっついている馬のお尻の上に来るように紐があり寝袋やバック、海離の馬にはノージが入ったバックも乗っていた、ノージは顔だけ出して風を感じていた。ノージは国に滞在している間にだいぶ膨れて、今では他のウサギと遜色ないぐらいの体型に戻っていた、エレンはまだ少し暗い顔をしていた、あまり国と国民のことを考えないようにしているようだった、海離はというとエレンを前に走らせて後ろを警戒していた、いつバレてもいつ追ってきてもおかしくない、しばらく走っているとエレンのペースが遅くなってきた、海離が並ぶように横に来て訪ねた。
「大丈夫かエレン、ペースが少し落ちてきてる」
「ごめん、お腹すいた…はぁ…力入んない」
「…よし少し行ったら飯にしよう、師匠が準備してくれた荷物に大量の食料があったから…えっと、あそこの橋まで行ったらその手前で飯を作ろう。」
しばらく行くと海離の家ほどの広さの川が流れており石の柱の上に木造の橋が建てられていた、そこでまず馬に持ってきた俵を食べさせてノージにはキャベツを川の水で洗って食べさせた。海離とエレンはまず鍋立ての棒を組み立てその下に火をつけた、鍋に油を引いて鍋から煙が出たタイミングで溶いた卵を入れ薄焼きにしそこに事前に炒めておいた鶏肉とノージの残りのキャベツににんじんを入れて卵で巻いてバターとともにパンで挟んで食べた。するとエレンが聞いた。
「…何気に海離が料理するとこ初めて見た、城の料理人にも負けないぐらい美味しいよこれ!」
ありがたい、褒められるのは嬉しい、それと気づいたことがあったので注意した。
「ありがとうエレン、料理は全体的に任せてほしい、好きだし、それと…にんじん、残しちゃダメだよ」
「ゔっ」
エレンは器用ににんじんだけ皿に残していた、あまり良くないと思った。
「これは…ノージに食べさせようと思って…ね別に嫌いとかじゃないから」
そう言いながら皿をノージの方に近づけていたが。
「ノージはもうお腹いっぱいだ」
そう答えるとエレンは皿を止めた、ノージがもう完食して「なんで残してるの?」というような顔をしていた。
「ぐゔぅ、くそう」
エレンが食べるのを躊躇っているとノージが皿を体で押してエレンの前に持ってきた
「いいよそんなお世辞はぁ」
エレンは仕方なく皿を取りフォークでニンジンを取って食べた
「んぐ、うっ、ん?」
「実はエレンがニンジンが嫌いって話を聞いてて、あえて入れたんだ、甘いのが好きって言ってたからにんじんだけ砂糖とバターで炒めてある、だからいつものニンジンより食べやすいと思うよ」
「うん!美味しい!これなら食べれる!」
そういうとエレンはガツガツと食べ始めた、ノージも安心したように寝ていた。
そのあと川の水を沸騰させそのお湯で器具を洗い馬に荷物を積んだ、食べたあとなので少しペースを落として進んでいた。
「そういえばこの子達の名前どうする?」
エレンが質問してきた。
「ん?」
「この馬二匹の名前、名前ある方が愛着湧くでしょ?」
「それは俺も考えたけど師匠がやめとけって」
「えっどうして?」
「馬は一部の国では貴重なんだ、だからいざって時に売るとかなりの金になるそうだ、愛着なんか湧いてしまったら、その時売れないからね」
「なるほどねぇ、おじさんらしい、でも名前ある方が呼びやすいでしょ、名前どうする?」
「いやでも付けたいんだな、いいよじゃあコーネ、とフタエゴなんでどう?」
「どういう意味?」
エレンが聞くと俺は少し脅すように言った。
「馬の肉の部位の名前」
「それだけはやめよう」
「でも」
「それだけはやめよう」
エレンに強く言われた、先ほどの食事で調子が良くなってきてるのかエレンの表情もさっきより明るくなってきてきた、しばらく行くと山岳地帯に入った、だが道は固められているので進みやすく馬の調子も良くそのまま進んだ、少ししてエレンが切り出した。
「ねぇ、馬の名前なんだけど…サクラとリンゴでどお?さっき見えた木の実の名前つけただけだけど」
確かにいいと思った、馬肉のことを桜肉というのはあえて黙っておこうと思った、知ったら傷つくだろうし
「うん、いいんじゃない、特にサクラは好きだなぁ、俺が乗ってる方の馬の名前にしていい?」
「うんいいよ!」
もし気づいてしまった時のためにエレンの乗ってる馬にはにはリンゴという名前をつけさせた。
「海離、ちなみにどこに向かってるの?」
「えっとぉ、あの国は旅人に仕事はさせるけど旅人のことを大して調べないそうだ、プライバシーも含めてね、けど、城の人に聞いたら俺の母親は赤い宝石を持ってきてそれを国で売って資金にしたって話を聞いた、赤い宝石と言えばこの国ってとこがしばらく行ったところにあるらしい」
「しばらくってどれぐらい?」
「5日ほどだって、元々その国とは貿易をしていたみたいだけど数年前に貿易がいきなりあっちから切られたんだって、って、エレンは王女様だから知ってるよね?」
「いや全然、初めて知った。」
「えっ?」
「私国の仕組みとかわかんないよ、昔から城の人にはダンスとか歌とか武芸とか、そっちの方しか教えてくれなかった。」
「おぅ、そっか」
やはりエレンは王女様と言えど、国民からこアイドル的な認識のせいで国を収めるというより、国のおもちゃのようになっていた、かわいそうに
しばらく行くと日が落ちてきた、低い山の山道を進み、その山道の折り返し地点に着いたとこでちょっとした洞窟があった。日ももう沈む頃なので洞窟の前の木に馬の紐をくくりつけて止めてノージもバックに入れたまま置いて、近くの川に水を汲みに行った。この川はそのまま山の下まで流れていた。その日はサクラとリンゴには俵、ノージにはにんじんの葉を軽く炒ったもの、エレンと海離は水を沸かしそこにキャベツにんじん、豚肉の薄切り、そしてあの国では輸入品の「米」というものを炊いておいた。米とは小麦やとうもろこしと同じ穀類でこれを主食として食べてる国もあるそうだ、師匠の修行中にしばかれながら勉強していた、茹で上がった豚肉やニンジンを醤油につけて食べていた。
「この食べ方いいね、簡単だし美味しい」
「俺の国との貿易国がね、この食べ方を強く勧めてきたんだ、俺の店では家族でくる客はだいたいこれを頼んでたよ、中には茹で汁に鶏の出汁を入れたり、大量のスパイスで辛くしてる人もいたなぁ」
「この旅が終わったら海離の国にも行きたいな、もしかしたら国に戻れなくなってお世話になるかもだし」
「うん、ん?わかった少し考えとくよ」
「うん!!」
そんな日が2日続きそしてその日の夜
この日は林の中の川の少し離れの大きい木の下にテントを立てて馬をいつも通り紐につなぎノージをバックに入れて川に水を取りにきていた。
「今日は初日の夜の鍋がいい!」
「そうだなぁ、昨日と今日で豚肉を使いすぎたから牛肉でやってみるか」
「うん!」
カサカサ…
草が生い茂っているところで音がした。
「しっ、何かいる」
「わかってる私も気づいてる」
それから音は大きくなっていき、場所がわかるほど近くなったところでそれは茂みから飛び出してきた。
「ぐがあぁぁぁぁぁ!!!」
「「狼!?」」
二匹飛び出してきていたので俺は持っていた鍋の水をかけ驚いた狼に向かって鍋を叩きつけた、まだ少し動いていたので鍋の峰で首をぶっ叩いた。エレンは水を汲んだ小鍋を落として銃で狼の腹を撃った、その後ろからもう一匹エレンに襲いかかった、エレンは銃を持ち替えて殴ろうとしたがその狼は一回り大きくリーチを読み違いエレンを押し倒して首に噛みつこうとした
「きゃあぁ!」
狼の口はエレンの首に届かなかった、海離が狼の首に腕を巻きつけて止めていた
「あんまり調子に乗んなよ犬っころが」
海離はそういうと狼の上顎と下顎を掴み左右に引っ張った。
「行こう!」
海離はそう言ってエレンの手を掴んでひっぱった
「多分ノージの方にいるかもしれない!馬も危ない!」
そう言ってエレンの手を引っ張って海離は走った。
キャンプ地に着くとそこには、紐がちぎれて動いていた馬とその上に乗ってるノージ、そして頭部に蹄の跡がある狼が三匹伸びていた。
「ん!?どゆこと!?」
ちぎれた紐を見ると紐は綺麗に切られていた。狼が噛みちぎるとは思えないし歯形が違うのでおそらく違うだろう、となると
「ノージが縄をちぎったのか?」
「ぷー」
おそらく耳のいいノージはいち早く危険を察知し1人では何もできないと察して馬の紐を噛みちぎって馬に助けを求めたのだ
「お前!すげぇな!!めちゃめちゃ賢いじゃん!!」
「海離、早く晩飯済ませちゃお水また組んでくるから」
「よしよしよしよし、ん?あぁそうだな、馬の紐を結び直したら行くよ。」
エレンは先に鍋二つを取りにいき川の水で洗ったあと水を汲んでいた、そこに海離もついて大きい方の鍋を持って戻った。いつも通り馬には俵、ノージには褒美としてニンジンをよく煮て柔らかくなったらそれから水気をよくとり塩と醤油をつけて棒を差し丸焼きにしてあげた。ノージはいつも以上にうまそうに食べていた。にんじんに顔を突っ込んで食べているので顔が汚れていた。海離とエレンは牛鍋を食べていた。
「エレン、今日は交代で寝よう」
「えっ?」
「また狼が襲ってきたら大変だ1時間おきに交代して見張ろう、ここは月明かりがさして林の中より見やすいしいざって時は起こしてくれればいい。」
「…うん、そうだね」
海離はエレンが少し悲しそうで何か言葉選び間違えたかなと思った。今日はエレンが先に寝て1時間ごとに交代することにした。2時間後エレンは自然と起きた、テントから顔を出して海離に聞いた。
「起こしてくれればよかったのに、月の位置的にもう2時間は経ってるよ」
「あぁわかってるよ、あまり寝付けてなさそうだったから寝かせてあげようと思って」
「…うん、ありがとう、いいから変わって、海離も寝ないと明日もたないよ」
「うん、ありがとう、おやすみ」
そう言って海離は寝た、エレンはテントの外で座って見張っていた、そこにテントで寝てたはずのノージが出てきた、テントの前の布の扉の前で堂々と座り耳を立たせていた。そしてエレンが少し笑いながら
「ははっ、何ぃ?見張りのつもり?今の見張りは私だよご主人様を守るのは自分だって言いたいの?かわいいねぇ」
「ぶー」
ノージは鳴き声で返した、プイッとあっちを向いてしまった、エレンは小声でノージに聞いた
「なに?海離のこと大好きなの?じゃあ…恋敵だ」
そういうとテントの中から海離の声がした
「あれっ?エレン!ノージそこにいる!?さっきまでここにいたのに!!」
「今テントの外にいるよ!私の横にいる」
「ありがとう!ノージ心配かけちゃダメだよ」
海離がノージのことを心配してるのを見てエレンは笑ってしまった。
「ははっ!」
そうしていきなりエレンは立ち上がって林の方に少し走った、ノージは疑問を浮かべたような表情をした。
「えっ?」
エレンは顔を手で覆って疑問を浮かべていた。
「私さっきなんて」
さっき自分で言っていた「恋敵」という単語を恥ずかしく思っていた、そして心配されたノージに嫉妬してしまった自分にも恥ずかしく思っていた。
エレンは人を好きになるのが初めてだった
「えぇ!?」
手で覆っていた顔は赤く染まっていた、そして戻ってきてノージを抱えて木にもたれかかり見張っていた。
4時間後
「ん?」
海離が目を覚ました。慌ててテントから顔を出すと木の下でノージを抱えて寝ているエレンがいた。
「はぁ、全くかわいいなぁ」
海離はそういうとエレン、ノージの順に抱えてテントに戻した。
「今日は夜更かしだな…よしっ」
そういうと海離は少し離れたところで火を起こした
エレンはテントの中で目を覚ましていた、海離に抱えられた時に目を覚ましていたのだ、エレンはまた顔を赤くしてしまった。
次の日、エレンが少し眠そうな顔で起きると言った
「あれ?起こしてくれればよかったのに」
日が上がってすぐだった。
「いやぁ次は気持ちよさそうに寝てたから寝かせてあげようと思った。」
「そう」
エレンはテントに顔を埋めて恥ずかしがっていた。
「何やってるの?」
エレンが問うと海離は
「多分馬のおかげで今日のうちに国に着くかもしれないからせっかくだからって思ってちょっと豪華にしてた」
「眠くないの?多分4時間ぐらいしか寝てないよ?」
「いいんだよ、師匠は割と寝かせてくれたから体力もまだあるし、働いてた頃はもっと遅くに寝てたし大丈夫だよ」
「そぉ?ありがとう、今日の朝ごはん何?」
「パンケーキだよ」
海離は森の中の果実を集めて夜のうちに砂糖と共に長い時間煮込んでジャムを作っていたのだ、そして今エレンの目の前でパンケーキを焼いている。
「好物…」
「ん?そうだよ、師匠がいつも言ってたんだ、城に行くたびにエレンにパンケーキを焼いてたって聞いたから作ってみたんだけどどうかな?」
エレンの目の前には2枚のパンケーキの上にバターと果実の赤と紫のジャムが乗っていた、すごく美味しそうだった、エレンは思わずパンケーキに飛びつきそれでも上品にナイフとフォークで食べた。
「ん!すごい美味しい!!特にこのジャム!私これ好きだなぁ、城の料理人とおじさんのよりも好きかも」
嬉しいことを言ってくれた、やっぱり料理を振る舞うのは俺にとってリラックスになる、自分の料理で笑顔になっている人を見ると俺も幸せになる。朝はサクラとリンゴには何も食べさせずノージにはとってきた果物を洗って食べさせた。ブルーベリーが好きなようだ。食事を終えたら海離はお湯を沸かしそれで食器類を全て洗った、エレンはテントを片付けていた。荷物をサクラとリンゴに積み込みノージも乗せて地図の方向へ進んだ。食事の後で少し遅めに行こうと思ったがエレンのペースが早かった。
「エレン、ペース早いよ!置いてかないで!」
「海離!」
「なにぃ?」
「今日のうちに国に着くんだよね?」
「うんそうだよ!」
「じゃあその国が見えるまでレースだ!負けたら晩飯準備する!」
初日と比べでエレンの調子は完全に戻っていて初めて会った頃の生気を感じる、いやそれ以上だ…
「いつもやってあげてるでしょ!ははっ!」
海離も調子に乗ってレースに参戦した2時間後、サクラもリンゴもエレンも海離もへとへとだった、ペースは落ちて馬も体温で少し煙が出ていた。
「はぁ…はぁ…はぁ…つかないね」
「はぁ…はぁ…今日中とは…はぁ…言ったけど思ったより遠いな」
「そうだね、あそこの山道の手前で休もう…はぁ」
ここから上り坂と記載されてる古い看板の前でエレンと海離は止まりそこで軽い食事をすることにした。
まず米を炊く、そのうちに砂糖、塩、森で取った果実を全て少量に取り鍋で煮込みながらヘラで潰す。米が炊けるまで潰し続けてペースト状にする、米が炊けたら米を叩いて伸ばして餅にする、時々水を少量入れて調整する。
できた餅にペーストにした果実を塗り網の上で焼く、もちが一部焦げ始めたら完成、海離は店長のことを思い出していた。
「うん、うまい、けど店長のも食べたいなぁ」
「店長?」
エレンが聞いてきた。
「うん、俺の料理の師匠、料理の腕はかなりすごかったよ、その辺の料理人とは決定的に違う、俺はそこで10年以上働いたけど叶う気がしない、一応もう1人でやっていけるってお墨付きはいただいたけど…多分あのレベルに辿り着くのは途方もない努力がいるだろうね」
「なるほど…恩人なんだね、名前は何ていうの?」
海離は口の中の餅を飲み込んだ後
「それが、最後まで教えてくれなかったんだ、初めて会った頃はテンチョーって名前だと思ってたらみんながそう呼んでるだけだった。何度か本名を聞いたけど墓場まで持って行くそうだし。」
「ふーん」
「でもいい人だよ、俺が旅に出る時は見たことないぐらい泣きじゃくってたし…就職してからは俺の親父みたいな存在だった、恋しいよ」
少ししんみりした空気になってしまった、エレンが励ますように言った。
「でもさ…今は私がいるよ?」
「…うんそうだな」
海離が笑顔で返した、嘘偽りのない無邪気な笑顔だった、海離とエレンは器具荷物を洗って片付けて馬に俵を食べさせた後また進み始めた。空が端っこだけ赤くなる頃、そこに国が見えた、その国に国璧は無く、下に超巨大な大穴が開いてそこに国があった。山の上から見ているので全貌がわかる。穴は浅いようにも見えるが遠くから見ているからだろう。
「海離」
「なに?」
「すごい景色だね」
「あぁ」
「見惚れちゃうね」
「…あぁ」
「ねぇ、できたら国に入る前にここで一泊しない?」
「どうして?」
エレンは少し恥ずかしそうに言った。
「2人で眺めていたい」
「うん、大賛成だ、今日は残りの豚肉を鍋にして、デザートでパンケーキをまた焼こう、ジャムもまだ残ってるよ」
「……うん!!」
「じゃあ準備だ!」
「そうだね海離!私もパンケーキ焼いてみたいから教えて」
「いいよ、じゃあ水を汲んでこようか」
「うん!」
海離とエレンは前の国にいた頃の暗さはどこにもなかった、むしろ前の国のことなんか忘れて幸せそうだった。
さぁ次の国はどんな国かな、エレンと海離は期待と少しの不安を持って大穴の国を見惚れていた。
第九話 家族みたいな国―
―優しい悪魔
「はい、2人と3匹です……はい、少し広めのホテルを希望します。」
海離とエレンは大穴の国の「ゴンドラ」という名前の乗り物の前にいた。ゴンドラというのは大人数や重い資材を軽々と上下に移動させる道具で、国璧の壁門の役割をしていた、そこで入国審査をしているところだった、その国の兵士らしき人は簡単な灰色の作業服だけだった、その兵士が小声で海離に何か聞いていた。
「あの女はあの国の王女様だよな?詮索するつもりはないが…なぜ一緒にいる、普通に羨ましい」
「えーと、話せば長くなりますが、まぁ彼女も旅に出たかったそうで、それで色々あって一緒に旅に出ることになりました。」
「へぇ、一応アイドルって話は聞いてたからなぁ、俺年1でわざわざあそこまで行ってたぐらいファンなのに」
「……なんか…すいません」
「ちくしょう」
兵士はそう言って俺の横っ腹に軽く突いてきた
エレンがまだと聞いてきたのでもうちょっと待ってといい、兵士がエレンのファンであることを伝えるとエレンが寄ってきて言った。
「ごめんね、私はもうあの国に戻らないかもだから、これで我慢して」
と言い兵士の両手を掴み握手をし上目遣いで兵士のことを見た、そこからはエレンのペースで話が進みすぐに入国できることになった、少しめんどくさいが、エレンのことで国王様と話すことになってしまった。ゴンドラに全員と荷物を乗せて下すときに兵士が海離にまた小声で何か言ってきた。
「俺はあの握手だけで十分だ、お前が幸せにしてやれよ」
「あぁ」
名前は聞かなかったが謎の友情が生まれていた。
ゴンドラは数分で下までついて下された。その街並みは素晴らしかった。まず穴の一番下は石の厚い壁が迷路のように張り巡らされており、その壁に同じ材質の石レンガや濃い茶色の木材が太い木材、太いロープで固定されており、なるべく多くの植物が飾り付けられているような景色が続いていた。街の人に街並みのことを聞くと、最初は壁沿いに建物が建てられただけだったけど人口が増えるにつれ上に伸びた結果このような作りになったそうだ、朝日が昇ってだいぶ経つのにそこは暗かったが橙色のランプがそこらじゅうに設置されておりレトロな雰囲気を醸し出していた。
「すごいお洒落だねぇ、ホテルもこんなとこがいいなぁ」
エレンがそういうと海離が答えた。
「兵士さんがなるべくいいホテルに招待してくれるそうだよ、だからまず下の町の村長さんの家に案内されてる、そこで色々手続きをすればいいとこに泊まれるそうだよ」
「じゃあすぐ行こう、早く地図の人に会わないとね」
「あぁ、そうだな」
実は前の国で準備した地図に師匠が尋ねてみるべき人の名前を記載してくれていた、その1人がこの国にいるそうなのだ、名前はマイク、マイクはこの国の管理局で働いているそうで、昔師匠に恩があったので師匠の名前を出せば大抵のことはしてくれるそうだ。
ある程度サクラとリンゴに乗って進み村長の家について話をすると、すぐにホテルに案内された。ホテルは大穴によってできた影がちょうどなくなる位置で一つの大きな石壁を一つ使ってできたホテルで馬を止める専用の一階の部屋を一室と、最上階、といっても4階だが、天窓があり大きなベットが三つあって赤いレンガでできた暖炉に石の地面に黒茶色の木製の壁にくっついて木の長椅子と机、荷物を置く用の大きな棚があった、玄関のすぐのところにはトイレとシャワーがあった。
「ちょっと豪華すぎやしないか?」
「こんなもんなんじゃない」
俺とエレンの育ちの違いが出た。俺は豪華だと思ったが、エレンは少し期待しすぎていたそうだ。あとノージの分までベッドがあることに驚いた。
サクラとリンゴを一階の部屋に置いて行き、いつものバックにノージを入れて国を観光ついでに回った。話を聞いて回っているとゴンドラで国の中央まで行けるそうだ、管理局は国の中央にあるそうだ、ということで俺とエレンはゴンドラが乗れる「駅」という場所に行きゴンドラに乗った。15分毎に駅に着き5分経ったら出発するそうだ、ゴンドラの中は端に椅子が前から並ぶように固定されており、布を重ねてリラックスして座れるようになっていた。俺とエレンは一番前の窓側に座り右の窓側にエレンを座らせた、ノージは俺の膝の上にいたが、出発すると同時に揺れたのが怖かったのか袋に顔を埋めた。このゴンドラは馬の駆け足ほどの速度でかなり楽だった。俺はこのゴンドラの原動力が気になってしかたなかった、俺とエレンは1時間弱このゴンドラに乗っていた、エレンはずっと外の景色を見ており、俺は途中で寝てしまったようだった、起きたときにはノージはエレンの膝で寝ていた。ゴンドラが国の中央について、ノージを連れて降りた。ゴンドラを降りて、木の板でできた道を少し進んだ、木の板は周りの石の壁から紐や太い柱で固定されておりその板の下を強い流れの川が流れていた、人なんかは簡単に飲み込まれそうな激流だった、少し進むとまた大きな穴があった、次は直径はあまり広くなくエレンの国の城ほどの広さでそこが暗くて見えないほど深かった、そこには巨大な水車が5個取り付けられており、ゴンドラを動かす原動力になっていた。
俺もエレンも声を失っていた、ノージも驚いているのか口が開いたままだった。そこに1人の兵士がきて話しかけてきた。
「あのぉ、感激してるとこ悪いのですが、旅人様御一行でしょうか?よろしければ国王様のお屋敷に案内させていただきます。」
兵士ではなく国王の召使だった。服装はあまり変わらないが胸元の勲章が違った。そのまま木の板の道を案内されると、この国で一番大きな川の中心の孤島のような場所に連れてこられた、そこにはエレンの国の城より少し小さいぐらいの大きさの木造の豪華な家が建てられていた、ドアが開き次はメイドらしき人が案内してくれた。装飾の激しいドアが並ぶ赤い絨毯の廊下を進み階段を昇ってまた進むと一際目立つドアの前に案内された。
「なんか既視感あるな」
海離が言った。
「なんのこと?」
「いやぁ」
ドアが開いた、中には国王様がいた。国王様は王様にしては若く、染められた金髪でオールバック、そして少し豊満だった。
「やぁ、君たちが旅人かい?よくきてくれたね、まぁそこに座りなさいな、そんな畏まらんでよい、あがれあがれ」
そう言われてエレンと俺は国王様の座っている少し高い椅子の前の低いソファに座った。そこでエレンが小声で俺に聞いてきた。
「王様だからって偉そうだね」
多分聞こえたらまずいであろうことを言った、聞こえていないことを願った。
「エレンも最初はあんな感じだったよ」
「私はもっとラフだったでしょ、別に着飾ってなかったし、あともっと距離感大事にしてる」
何に自信を持っているかは知らないが話は続いた
「話は聞いてるよ、入国審査の内容がそのまま伝わってきてるからね、そして聞きたいことも何個かあるし」
まぁ聞きたいことはおおかたわかっていた…そう思っていたら想像の斜めはるか上をいく質問をされた。
「単刀直入にいうと、エレンさん、あなた私の国に移住しませんか?王女としてではなくアイドルとしてどおだね」
いきなり切り出してきた、俺は止めようとしたがそこでエレンが自分で言った。
「そんなつもりはありません、私はもう一国の王女でもみんなのアイドルでもありません、今は旅人です、海離についてくことに決めています」
エレンが自分で言い切った、おそらく国を出た時の不安なんか自分の中でとっくに整理がついてこれからのことを考えてくれてるのだろう、俺は何故か感動した。
「そうか、残念だ、新しい家族として迎え入れたかったけどねぇ」
流石に少し気色悪かった。俺はどういうことですかと少し圧をかけて聞くと
「この国の国民は全員家族なんだ、そういう認識なだけでそんなキモい意味じゃないよ」
「「ん?」」
俺とエレンは困惑した。
「あぁ、ええと、まぁ色々あるんだ、他の国とは国民性が全く違うからね、国王になって思い知らされる毎日さ」
「は、はぁ」
「ハハッ、いやぁごめんごめん難しいよね、俺もわかんないもん」
国王様はなごました、俺がその国民性について聞いた。
「ハハ…、その国民全員家族というのは、血縁的なのですか?」
「そんなわけないじゃないか、だとしたらどうやってエレンさんはこの国の住民になるというのだ、ただの国民性だよ、国民全員が全員のことを家族だと思ってるようなものだよ、お腹がすけば食事は近くのみんなの分作る、洗濯物が出れば近くの人の分も洗う、何かトラブルがあればその場の全員で対応する、協調性の塊みたいな人しかいないよ、あと普通に身分関係なく接してるし俺も国王って肩書だけでそんな偉いわけじゃないよ」
その時後ろのドアが開き赤いエプロンをきた初老の女性が出てきた。
「ちょっと国王様!早く晩御飯決めてください!館の人全員分作らなきゃいけないんだから即断即決ですよ!国王でしょ?!…あら客人?取り込み中でした?」
「いやぁかまわん、晩御飯はハンバーグがいいな」
「昨日の夜もそうでしょ?!いくら好きだからって他の人のことも考えて!」
「……はい、スパゲッティがいいです」
「よろしい、客人も持ち帰りな!話が終わるまでに作ってといてあげるから!」
そう言ってこの館の料理人らしき人は部屋から出て行った。
「……まぁ、こういう感じだ、ある程度の敬語や丁寧語は一応あるが、ないようなもんだ………国王として最悪のことをいうが…、少しはいばりたい」
そういうとエレンが
「だからその態度なんですね」
「ちょ?!」
「まぁ、そうだな、すまない…威張ってい?」
「許す」
「よし」
「どこで共感してんの?」
ゴンドラの前にいた兵士と俺と同様、エレンと国王様も謎の友情が生まれていた。
「ところで、旅の目的はなんでしょうか?よければ力になります、エレンさんはもう王女様でもアイドルでもないのは事実ですが、この国ではあなたのことを知らない人はそんな少なくありません、ファンとして何か手伝えるのならば」
国王様はエレンのファンだった、少し複雑だが、地図の名前の人について尋ねた。
「あぁ、マイクね、もういないよ」
「え?」
「もう歳でね、ちょうど一月前に亡くなってしまってるよ」
「そうですか残念です」
「大丈夫だよ、マイクは生前管理局を会社として確立させて自分の名前を社名にしてる、地図がここにあるからこれを使うといい、気にするな何枚もある」
「ありがとうございます、とりあえずここに迎えばいいのですね」
「あぁ、そうだ、そこの職員に聞けば何かわかるだろう」
「はいありがとうございます!あと聞きたいことがいくつかあるのですが?」
「ん?何ようだ」
「この国のことについて色々教えてください、観光も含めていますので」
「……ハハッ!国王をガイドとして扱う気か?いいぞ話してやる、どうせ暇だ」
国王様が暇なのはどうかと思うが、話していただくのはありがたい、前の国である程度は調べたが興味のあることもあるし、5年前に貿易を止めた理由もできたら聞きたい。
「まぁ長話になる、資料室に来るといい」
そういうと国王様が直接資料室に案内してくれた、そこはドア以外の壁が本棚で埋まっており、ところどころに机と椅子が置かれていた、1人のメイドが掃除をしていた。
「入れ、ここなら知りたいことは全部わかるだろう街の図書館と比べたら少ないが、図鑑の内容や過去のことを知りたいならここ以上の場所はない」
そう言って本を3冊出した
「これがこの国ができてからの毎年の写真がある、こっちの赤いのはこの国の簡単な生い立ちが書かれている、そしてこの古臭いのが何十年も前に、ある旅人が置いて行った、本だ」
最後の本は俺とエレンには見覚えがあった
「その本の著者って「カイリ・クレンツェ」ですか?」
「おっ、よく知ってるね、もしかして前の国にも同じような本があったのかい?」
「私の婆さんです」
「……え?」
「その人革命が起きてからの初代女王です」
「…えぇ!」
そして国王にはエレンが旅に出た経緯とカイリ・クレンツェの予見のことを話した。国王様は他の本を何冊かとったあと、その本を開き説明してくれた。
「順を追って説明しますね、まずこの資料を見てください」
その本は石の図鑑だった、見せられたページには赤色の透明度の高い鉱石の写真とその説明が書かれていた。鉱石の写真には四角と丸があり、四角にはチェックが引いてあり丸には何も書かれていなかった。
「これは魂照鉱と言われています、これはその名の通り魂を照らす石なのです、簡単に説明すると、この石を通して人を見ると白く発光してるように見えます、その光は歳をとるにつれ弱くなっていき寿命で亡くなると全く光らなくなります。」
「は、はぁ」
俺とエレンはあまり信じていなかったがあまりに熱心に話されるので何も言えなかった。
「ですが別の要因で亡くなってしまった場合、病死や事故死、殺人に巻き込まれた人の場合は光は消えず、光の玉となりその体から抜け、空へ登っていくのです。」
エレンは途中で少し飽き始めたが、俺は何故か熱心に聞いていた。
「この鉱石は割と早くに発見されており、長い研究で解明されました、ですが数十年前この事例に当てはまらない人物がこの国にやってきたのです」
「それが、カイリ・クレンツェですか」
「その通り、最初はカイリ・クレンツェさんは普通に入国審査にも通りただの旅人だと思っていたが、出国する前にこの奇妙な本が見つかってしまい、急遽カイリ・クレンツェさんを呼び出し様々な質問やちょっとした実験もした」
「……その実験とは」
「その実験の中にはカイリ・クレンツェさんを魂照鉱で除くという実験もあった、カイリ・クレンツェさんは魂照鉱で除くと、赤く輝いていたのだ、石が赤いから通常は違うかもしれんが、普通は白い光だ、それに気づいた国民はひどく驚いた、カイリ・クレンツェさんはもう一日滞在してもらうことにして、細かく実験することになり次の日、置いていった本を読んだ科学者が行方不明になってしまったのだ」
途中でエレンも真面目に聞き始め、エレンも俺もただことではないことは理解していた、そしてカイリ・クレンツェの本の話は知っている。
「その出来事から本をカイリ・クレンツェさんに渡して早々に出国してもらおうとしたが、カイリ・クレンツェさんは国にどうしてもこの本を置いていきたいと話した、もちろん行方不明者が出てしまっている以上そんなものを置いていくことはできない、そうすると逆にカイリ・クレンツェはこの本をおいていけないのならこの国からは出ないと言った。私の王家の一族以外の国民はカイリ・クレンツェは我々を殺すつもりだ、呪うつもりだと言い、カイリ・クレンツェさんのことを悪魔だと言った、魂照鉱で赤く見えたことも悪魔だからそう映ったという話になり、国民の大多数がカイリ・クレンツェは呪われた本を持ってきた悪魔として言い伝えられてしまっている」
「……なるほど、それで?」
「カイリ・クレンツェさんは他にもう1人の旅人と共に行動していました、カイリ・クレンツェさんともう1人は本をこの国のどこかに隠し国を逃亡したのです」
そこで俺は疑問を持った
「この国を…逃亡ですか?この国は穴の下、登るとなってもかなりの労力ですし、1日で登れるとは思えないのですが。」
「その通りだ、カイリ・クレンツェさん含め2人の旅人を逃したのは我々王家の一族だからな」
「え?」
「カイリ・クレンツェさんは逃亡の手伝いをしないと、あの本の場所を教えない、それと本を見てしまったものどもと同じように呪い殺すぞと脅されたのだ、先祖様はその呪いを恐れ渋々エレン・クレンツェを国外に逃すため、ゴンドラを動かして夜のうちに国の外に出したのだ。」
俺とエレンは唖然としていた、と同時に疑問も何個か浮かんでいた。
「ええと、聞きたいことが何個かあるのですが」
「なんだ言ってみろ、まぁだいたいわかるが」
「まず、何故殺すという判断にならなかったのですか?完全に大量殺人犯ですよね?」
一応エレンの祖母ではあるがそんな人間だとそういう判断もするべきだと思った。
「あぁ、もちろんその案は出たしなんなら実行にも移した、だがそのエレン・クレンツェと共に旅をしていた男が問題だった。」
「ん?1人ですよね?」
「あぁ、だがその男は果てしなく強かったのだ、言い伝えでは100人近くの兵を殺さずに返り討ちにしてる、それも2日もの間絶え間なくかかっても無駄だった。」
「……その人は」
「名前は「ダイヤ」性はない」
「えっ?」
エレンが何か言いたげだった。
「どうしたのエレン何か聞き覚えが?」
俺が聞くとエレンは
「おじさん、おじさんの名前だ」
「えぇ!!」
「?、なんだダイヤを知っているのか?」
「はい、私に銃を教えてくれて、少し前まで海離の師匠でもありました、でも、婆さんと旅に出ていたなんて私初めて知りました……思い返すとおじさんは自分の話しをあまりしていなかったです。」
国王様はまた少し考えていた。そこに俺がもう一つの質問をした。
「あの、カイリ・クレンツェ「さん」とはどう言うことでしょうか?呪いで人を殺して、その上王家の一族を脅しています、何か尊敬でもしているのですか?」
「ん?あぁその話がまだだったな、カイリ・クレンツェさんとダイヤの逃亡に成功し、本の場所を教えてもらうとある場所を指したのだ」
「そこは?」
「今ではこの国のほとんどを占める輸出品であり、この国の顔と言っていいほどの知名度を手に入れた品、鉱石が大量にある洞穴の場所にのその本があったのだ、カイリ・クレンツェさんはそこに本と一緒に置き手紙もしていったのだ」
「……その内容とは」
「その手紙には「近い未来、この国は戦争で滅ぶでしょう、はるか西の科学の栄えた国によりこの地下洞窟は検出され、この洞窟の所有権を求めた戦争が始まります、今のうちにこの洞窟からあらゆる鉱石を採取し、あらゆる国と貿易関係になり、戦争を仕掛けられない状態にしてしまいなさい、失敗しないよう軍事力もあげなさい」とな、その通りにあらゆる鉱石を摂り研究をし、貿易をした、そして5年と少し前、予見通りはるか西の国がこの国に訪れ、地下洞窟を占領しようとしたが、予言により未来がわかっていた我々は今の今まで繋いできた貿易関係と築き上げた科学力を使い阻止した、それで5年前に貿易国を調整したのだ、君の国には悪いことをしたな、それより前はカイリ・クレンツェさんは呼び捨てで呼ばれていたが、それ以来、カイリ・クレンツェさんは国を救った「いい悪魔」として語り継がれたのだ」
「なるほど、でも救ったのですよね?何故悪魔と?」
「人を殺したのは事実だ、呪いを使用したのも確かだしな……それでこのカイリ・クレンツェさんの本なんだが。」
「はい」
「ぜひ、海離さんに持っていってほしい、もちろん呪いをかけようなどとは考えていない、手紙にはこの本を海離さんに渡してほしいとも書いてあった、最初の1ページまでは読んでも問題ないことがこちらでもわかっている、ぜひ読んでみてくれ、きっと遠い未来必要になるだろう。」
そう言われて俺は本を受け取り最初の1ページをみた。
「西暦◯◯◯年 8月 22日 16時 3分
ヴィザベルト王国 4丁目 白い建物に挟まれた暗闇に幼き魔女が現れる」
新しい予言だった。
第十話 最強の贈り物―
―辿る軌跡を選ぶ
「どうだね?何かわかったかね?」
国王様が聞いてきた。
「すいません、読んだ通りの意味でしか捉えられませんでした。」
「……そうか、まあいい先代も先先代も同じようなもんだ、知らないままでもいいだろう。」
海離は次のページを見た
「なっ?!何をしている!?もしそれで死んだら私は責任取れんぞ!」
「あっ、大丈夫です、ここに西暦と月と日が書いてあるでしょう、この日付になってから読めばなんの問題もありません、この本は…かなり先ですね、5年先です」
「そっ、そうか、いやぁ驚かさないでくれ」
そして海離はノージの入っているバックからエレンの国にあった、本を取り出した。
「見てください、実は前の国でもこのような本があったのです、この本は全て私に対することが書かれているそうです。」
そう言って読めるとこまで開き軽く説明するとエレンが何か気づいたように言った。
「ねぇ海離、ここから読めるよ」
「あっ、ほんとだ」
順にページをめくっていくと今日の日付が書いてあった、そしてその続きを読んでみることにした。
「私にも見せてくれよ」
国王様はそう言い隣の椅子に座った。
「海離さん、今頃大穴の国ですかね?この国にわたることはわかっていました、この国は正直に言うと遠回りになってしまいます、ですがあなたに渡してほしいものがいくつかありましてあえて伝えませんでした。もう一つ似たような本がこの国にはあるはずです、それを持って行きなさい、この本の事情を話せば持っていけるはずです、あともう一つどうしても持っていってほしいものがあります、マイクという男性をあたってみてください、あと次のページにこれからの進むべき旅順があります、理由をここで伝えることはできませんが、なるべく旅を急いでほしいのです」
そして、次のページには国の特徴と国名、そしてページにくっつくように地図が挟まっていた。
「またマイクか」
国王様が口を開いた。
「マイクさんはカイリ・クレンツェさんたちと面識があるのですか?」
俺が聞くと国王様は顔を顰めて答えた。
「いや、ないはずだ、そんな話聞いたこともない、あの本の研究をした時に面識のある民全員を聞いて調べ上げたが、そこにマイクはいなかった、隠していたのか?」
そう国王様が言うと、エレンが
「とにかく会ってみようよ、その、マイクさんにじゃなくて今のマイクさんの会社の社長さんとかに」
そういうと国王様は掃除をしていたメイドに一言言った。
メイドはすぐに掃除用具を片付け廊下に出ていった。
「今馬車を準備させてる、私は少し調べたいことが出来たから館に残る、館を出て全て右に曲がったところに馬車を準備させたから向かってくれ」
「ありがとうございます、その、調べるものとは?」
「もう一度カイリ・クレンツェさんとダイヤと関わった人を調べてみる、もしかしたら会っといた方がいい人がいるかもしれない。」
「わかりました、感謝します」
「じゃあね、王様」
「じゃあの、エレンさん」
そう言って俺とエレンは館から出て橋を長い木の橋を渡り街に出た、街に入ってすぐのところに強面の執事と馬車をつけた馬がいた。執事が
「話は聞いております、マイクへ向かうんですよね、案内いたします」
そういうと馬車に俺たちを乗せて運転席に乗り馬車を走らせた。20分ほどで一つの岩山の壁に到着し馬車を降りた、そこにはその岩山に穴をいくつか開けて木の装飾がしてあった、上の方に「マイク」と掘ってあった、執事はここまでですと一言いいそこに立ち尽くした。
「思ったより小さいね」
そうだ、研究施設を兼ねた会社と聞いていたのでかなり大きいと思っていたが正直そこまで大きいわけじゃなかった。見えるものすべでが大岩なのでそう言うしかないが、そんなことを考えてからドアを開き中に入った。そこには一つの下に向かう階段とカウンター、そしてそこに店員がいた。店員が
「いらっしゃいませ、なんのご用でしょうか?」
俺はなんで言うか考えていなかったのでほとんど即興で答えた。
「えっと、国王様の勧めで観光に来ました。出来たら社長さんとも話してみたいです。」
「かしこまりました、観光でしたら今から遣いがきますのでその指示に従ってください、当研究所は危険な物も扱っておりますので十分ご注意ください」
そう言われて俺とエレンは少し待った、少しすると階段から白衣を着たポニーテールの女性が現れて下に案内された。階段を下っている時その女性は
「社長さんとの面談でしたら、ある程度見学した後に時間が設けられています、本当はこれから会議なのですが、お名前を伝えたところ慌てて時間を空けてくださいました、何かお知り合いですか?」
「はい、ちょっとした」
「?そう、ですか」
そう話していると地下に到着した。地下は壁も床も真っ白で床は足跡や煤汚れがあり、天井には無数のパイプが張り巡らされていた。社長さんはあと十分ほどで伺うらしくそれまで研究所内を回った。様々なものがあった。
魂照鉱とガラスを溶かして同時に固めることで作った。魂を除くレンズだったり、強い衝撃には硬くなり弱い衝撃にはやわらかくなり崩れる粉鉱石、電気を可視化してかつどんな物質よりも電気を通してどんな物質よりも電気が漏れ出ない電強石、溶岩湖付近で発見された熱耐性のある動物が作った溶爆鉱、中の溶岩は密度が高くある一定以上のかなり強い衝撃を与えると溶岩が漏れ小さい爆発を起こす、その動物は自分の縄張りをこれを使って守っているそうだ。そんなふうに色々見て回っているうちにあるものが目に留まった。
「この緑の胞子を被った花はなんですか?」
「あぁ、それはまだ未解明でまだ命名されていません、ですが勝手に虫花と読んでいます、数年前ある旅人がこの花を国に持ち込み、旅人含め多くの死者を出したため厳重管理されております、死因は判明されていませんが緑の胞子と関係していると私たちは踏んでいます。」
そう離した。他には簡単に解けるが以上な硬度を持つ石だったり、元の形にしかくっつかない磁石だったりと面白いものが多かった、しばらくするとボサボサの髪の赤い丸メガネをした細身の男性が話しかけてきた。
「ヤァ、一応ここの管理を任されてる、いわゆる社長だな、君たちのことを聞いてるよ来てくれ、伝えたいことが多いんだ。」
そう言い俺とエレンとノージを専用の研究室のような場所に案内した。
「とりあえずかけてくれ」
俺とエレンは壁にくっついた椅子と机に掛けた、社長さんはコーヒーを淹れてくれた
「話は聞いている、ここで社長に就任してからね、まぁ知ってると思うけどカイリ・クレンツェさんとダイヤさんがこの国に来て戦争を起こした、その上である置き土産もしていったのさ、君たちに向けてね、一通の手紙と」
そう言って社長さんは手元のアルミ製の大きなケースを開けた
「この銃だ」
そのケースの中には普通の銃の特徴に付け加え口径が非常に大きくサイズも他のものより大きかったが、一応ハンドガンだった、弾倉は存在せず本来リボルバーがある位置に四角い穴が空いていた、その後ろにハンマーがあった。この銃の横には五種類の大きな銃弾、そして黒い縁の赤いレンズだった。
「この銃は…なんとも不思議な作りですね、」
「そうだろう、僕もそう思う、この銃はダイヤさんが使っていたものでそれをこの国で少し改良したものだ、そしてこっちが手紙、あの本と同じで日付が書いてあってね、2日前から読めるようになったんだ、できたら読んでみてくれ」
そう言って社長さんは手紙をエレンと海離に読ませた、内容は
「正直こうして手紙を書くのは久しぶりだ、いきなりカイリが手紙を書いとけって言い出してな、俺が書くってのに内容を押し付けてきやがった、まぁカイリは今牢の中だからな、ということで代わりに伝える、まずその銃だ、これは俺の母国で使われている超強力兵器だ、途中加速する銃弾で最終的には大砲よりも強くなる、エレンがこれを置いていけというんでな、俺の愛銃だが、海離くんにあげるよ、そしてこの赤いレンズだ、あの本で次の道標はわかっているかもしれないがカイリが海離くんの今後のためと言って一緒に送るよ、そして最後に伝えたいことがある、それはカイリからではなく俺、ダイヤからだ、俺個人で聞きたいことだからこれは海離くんにしか伝わってほしくないできれば他の人がいるなら席を外してから裏を読んで欲しい、俺からの予見だ」
だった、確かに手紙が透けて裏の字は見えていた
「じゃあ僕は席を外すよ、この銃はさっき言った通りこの国で少し改良してある、その説明もしたいから読み終わったら隣の部屋に来てくれ、試射室になってるから」
「じゃあ私も行くね、ノージは私が預かるね」
「うんありがとう2人とも、読んだらすぐ行くよ」
そう海離がいうと2人とノージは隣の部屋に行き俺は1人その部屋でその手紙の裏を見た。
その内容は
「君は自分の名付け親を知っているか?君の名付け親がもし君と同じ名前なら、それを君が知っているなら、俺の母国、プラペストには近づくな、もしプラペストの民に会ってしまったのなら君は死んでしまうだろう」
と書いてあった、海離は自分の名前について少し考えたがわかることもなかったので考えるのをやめた、その手紙をこの国の予見の本に挟んで、隣の試射室に向かった、隣の部屋のドアが自動で開きそこに入った、そしてエレンに聞かれた。
「内容はなんだったの?」
「エレンには関係ないよ、今はね、でももしかしたら母さんに会えばわかるかもしれないから、今は内緒ね」
「わかった信じるよ」
そう話して俺は師匠の愛銃の使い方を社長さんから教えてもらった。
同時刻、王様の館の図書室で国王様は今までの旅人の訪問日、訪問日数、名前などの記入のある分厚い資料を読んでいた。
「……これは」
そこにはカイリ・クレンツェとダイヤの訪問期間が被っている旅人が1人いた、その名前は…
約6日前、海離とエレンが旅に出て少し経った頃
エレンの母国の壁の穴の前で師匠、もといダイヤがそこに立っていた。
「これは君が母さんを連れてくるまで死ねんぞわしは、海離くんは何も隠していないしのぉ、さて、久々に会いに行くか」
ダイヤは何か独り言を言っていた、そして林の家の少し離れの洞窟に向かった。
その8日後の昼、海離とエレンは穴の国の外に出るリフトに向かっていた、そこに国王様が1人で馬に乗ってきた、走ってきた。
「いやぁまにあった、海離くん、わかったことがあるからそれだけ伝えるよ」
3人は馬の足を止めて海離と国王様は馬から降りて話した、国王様は一つの布袋を海離に押し付けた、そして最初だけ小声で言った。
「まずこれ、宝石が入ってるからできたら旅の資金にでもしてくれ、大体どこの国でも高値で売れる、で、本題は、色々調べた結果、カイリ・クレンツェさんとダイヤがこの国に訪れ、戦争を起こす前に、もう1人の旅人がこの国に訪問していたことが分かった、その旅人は、無名だと名乗りこの国に訪れていた、そしてその旅人について調べているとあることが分かった、所持品確認の際に撮られた武器などの写真を見ていると、これが出てきた」
そう言い一つの写真を見せてきた
「話には聞いてる、マイクで海離さんがもらった銃と同じデザインのものだ、そしてその無名の旅人の旅目的なども確認するとこんなことが書かれていた」
見せつけてきた資料の指を刺すところにに書かれていた文はこうだ
「旅の目的― 海の国に帰るため」
そう書いてあった、俺はどういうことですかと国王様に聞くと国王様は答えた
「持ち物を見るにダイヤとその無名の旅人は同じ国の出身だと私は考えている、だが海の国に帰るという文を見るに、もしかしたら海離くんの国にその無名の旅人は訪れる、または移民しているかもしれない、君の国で誰か名前を隠しているようなひとはいなかったか?もしかしたら何か知っているかもしれない」
「えっ」
「それって…」
海離とエレンは驚いた、名前を隠している人といえば
海離はその人しか知らなかった、それは
「店…長……」
海離の料理の師匠であり就職してからは親のように慕っていた存在の店長が頭によぎった
「心当たりがあるんだな、ならそれでいい、それだけ伝えにきた」
海離が混乱しているところにもう一度国王様は言った
「まずは母親を探すべきだ、急ぐ旅になるのだろう、何せカイリ・クレンツェさんの予言だ間違いない、その店長さんに会うのはその後でいい、目的の順番を見誤るなよ」
そう国王様は言って海離とエレンがリフトに乗り出国するのを見送った、海離は黙り込み色々考え事をしているとリフトの下から国王様が大声で海離を読んで叫んだ
「海離くん!君はこれからあらゆる問題に立ち向かうことになるだろう!だが思い悩む必要はない!君が母さんを連れて戻ってくるのを信じてる!また会おう!海離くん!旅の話をまってるぞぉー!」
そう言っていた、リフトは上がり切り降りて、出国届を入国の時と同じ兵士に渡した、兵士は海離の顔を伺って聞いた。
「国王様と友達か?すごいな、俺みたいな平凡な人間とは大違いだな……何か考え事をしているのか」
「あぁ、ちょっとね、でももう大丈夫だ」
「そうか、よかったな、俺も旅の話を待ってるよ」
「あぁ、ありがとう」
そう話して握手をした、しばらく馬で進み林を抜け出すとエレンが聞いた
「ねぇ、次はどこへ向かうの」
「あぁ、母さんに会いに行こう、店長や師匠に話を聞くのはその後だ」
そう言ってポケットのチャックを開けて赤いレンズを取り出して空をのぞいた、海離とエレンが来た道と反対に白い塔のような光がレンズ越しに見えた
「今は旅を楽しもう」
そう言って光の塔に向かって海離とエレンはサクラとリンゴを走らせた。
広い草原を走っていた、太陽はちょうど真上で2人を照らしていた。
旅人の2人にはいくつかの目的があった、自分のために、期待してくれている人達のために。
この作品は読んでいただきありがとうございました!
今まで自己満足でノートに小説を書いていましたが、小説アプリのNolaを知り今回の「結び名 〜鳥島 海離〜」を書かせていただきました、小説の執筆は初心者ですし、文も好きですが得意とまでいかないのでどこか誤字脱字や文法のミスがあれは上から目線で教えてください(笑)
他にも一話づつ分ければいいのにそれを七話目で後悔したのでキリのいいところまで書かせていただきました。読みづらかったらすいません。
長編小説にすれば良かったのですが、早く読んでもらって感想が欲しかったので短編小説にして投稿させていただきます、もちろん次回作も書き進めていますので完成次第投稿させていただきます。
何卒よろしくお願いします。