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【冬の特別更新】幸せの証

 冬。


 恋人たちにとって、冬は二人の距離を縮める絶好の機会だった。


「今日は冷えるね」

「うん。もう吐く息が真っ白」


 そう言いながら「寒い~」と両手に息を吹きかけると、「じゃあ、温めてあげる」と彼氏が微笑む。「えっ」と驚く彼女の手を彼氏がとり、二人は恋人つなぎ。からの――。


 彼氏のコートのポケットには、二人のつないだ手。

 ぽかぽかと温かくなるのは手だけではない。

 頬が熱い。心もほかほか。


 見つめ合い、二人は幸せな笑顔にあふれる……。


「アレク」


 緑豊かな辺境伯領であるが、冬になるとノースクロス連山の麓は雪が降り積もる。

 今日はそこでソリをするために、森の中を徒歩で移動している最中だった。


 厚手のウールのドレスを着て、毛皮のフード付きケープを羽織り、足元はムートンのブーツ。歩く度にボフボフと音を立てながら、雪が残る道を進む。そこで私は隣を歩くアレクに呼びかけたのだ。すると彼はすぐにその澄んだ碧眼をこちらへ向けてくれる。


「どうかした、クリスティ?」


 真っ白なコートに紺碧色のマントを羽織ったアレクは、素敵な笑顔と共に私を見た。


「……今日は特に冷えていると思わない?」


 私はそう言いながら、これまでケープの中に隠していた手を、ここぞとばかりに登場させる。しかもあえて手袋をつけていない手の平をこすりあわせ、寒さアピールを行う。一方のアレクは……。


「そうだね。それにここは王都より気温が低い気がするよ。……あれ? クリスティ、手袋は!?」

「それが馬車から降りる時、置いて来てしまったみたいなの……」

「! それは大変だ。これからソリをするのに、手袋がないと冷えてしまうよ」


 彼はソリを引く従者に、手袋を取りに行くよう頼む。そして自身がソリを引くと告げると――。


「僕の手袋をつけて、クリスティ」

「アレク……! でもそうしたらアレクの手が冷えてしまうわ。ソリも引くのだし。片方だけ、借りてもいい?」

「片方……?」

「そう。左手だけ、借りたいの」

「僕はクリスティより体温も高いから、遠慮せず、両方使って」

「アレクはいつかもそんなことを言って、私に上着を貸してくれたけれど……なんだかんだでその後、体調を崩したでしょう?」

「! あれは……」


 そんな会話をしていると、気を使った護衛騎士がソリを引くと申し出て、さらにみんなが手袋を差し出そうとする。これには私よりもアレクが反応した。


「いざという時、手がかじかんで剣を抜けませんでした……では困るから、みんなは手袋をつけておくように」


 そう言い、自身の左手の手袋を外し、私に渡してくれる。


「クリスティ、本当に片方だけでいいの?」


 心配そうに私を見るアレクに、笑顔で答える。


「いいの。だって右手は――」


 私の右手は、アレクの左手と恋人つなぎをすればいい……そう思い、手を伸ばした瞬間。


「殿下、クリスティ! 二人の手が冷えるのは由々しき事態です!」

「お、お父様!?」

「でもこうすれば無問題です! さあ、ソリをしに行きましょう!」


 今日は辺境伯邸で母親と一緒にのんびりと過ごすと言っていたのに!


 想定外で登場した、グレーのコートに黒のマント姿のお父様は、私とアレクの間に入り、自身の右手でアレクを、左手で私と手をつなぐ。


 アレクと手をつなぐお父様、絵面が変なことになっているのですが!? BL好きにはたまらない組み合わせ……?ってそうではないわ!


「お、お父様……!」

「さあ、立ち止まると冷える。出発しよう!」


 冬。


 恋人たちが距離を縮めるこの季節。

 私はアレクと手をつなごうと画策したけれど……。

 まさかのお父様が登場してしまう。


 その結果、お父様を真ん中に、三人で仲良く手をつなぎ、森の中を歩く事態になっている!


 というか、お父様と手をつなぐなんて……子どもの時以来だわ!


 何をしているのかと思いつつも、子どもの頃はあんなに大きく感じた父親の手が、今はちょうどいいぐらいであることに、自分の成長を感じる。


 私も大人になったのね。


 そう思うのと同時に。


 でも変わらないのは父親の手の温かさだ。


 この温かさを知ることが出来たのは、三度目のループ。二度の転生では、この手の温かさを感じることなく、私は生を終えていたのだ。


 お父様の手の温かさ。それは……私にとっての幸せの(あかし)でもある。


 思わず、握りしめる手に力がこもると――。


「クリスティ、どうした、冷えるのか?」

「大丈夫ですよ、お父様」

「いや、ソリをする前に体を温める必要がある!」


 そこでお父様が合図をすると、あれよあれよという間にお父様の部下が焚火を用意し、持参していたコーンポタージュを温め、私に飲ませてくれたのだ!


「……師匠はすごいな。まるでこうなることを予見していたかのようだ」

「ソリに行く時、コーンポタージュを持参するのはお父様にとってはいつものことで……確かにこれを飲むとお腹からぽかぽかになり、手足も温かくなるの。でも私も今回、ココアを飲めるよう、用意してきているのよ」

「なるほど。さすがこの地の寒さに、師匠もクリスティも慣れているね」


 そうこうしていると、手袋を取りに行っていた従者も戻って来て――。


「じゃあ、クリスティ、ソリを楽しもう!」

「はい!」


 冬。


 恋人との距離も縮まるが、過保護なお父様との距離が縮まるのも――悪くはないわ!


 風はひんやりだが、心はぽかぽかになる、冬晴れの一日になった。


お読みいただき、ありがとうございます~

読者様へ一番星キラリからのバレンタイン更新です☆彡

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