【コミカライズ決定お祝い更新】あの味を……
寒さが深まるこの日。
辺境伯邸の紅葉した木々を眺めていると、私はふと、前世の懐かしい記憶が蘇ってしまう。
「ああ、石焼き芋を食べたいわ」と。
銀杏の葉を思わせる明るい黄色のデイドレスを着て、見た目は完璧な貴族令嬢なのに。頭の中で思い浮かべるは石焼き芋。
もしも石焼き芋を食べたいなんてこの姿で思っているとバレたら、百年の恋も冷めそうね。
それでも石焼き芋を食べたくなるには理由がある。
なぜならこの世界で、特に私のいる場所でサツマイモを入手することは……不可能に近い。そもそもこの大陸でサツマイモを栽培するのが難しいのだ。
食べられないと思うと、無性に食べたい気持ちが募る。
「石焼き芋を食べたいけれど、夢のまた夢ね」
「クリスティ、イシヤキイモとは何?」
「ア、アレク!」
まさかすぐ近くにアレクがいるとは思わず、休日の昼下がり、紅葉した庭の木々を眺めながら「石焼き芋が食べたい!」と言ってしまったが……。
(芋が食べたいなんて! 乙女が言う言葉ではないわ!)
改めてそう思ったが、この世界、石焼き芋なんて、誰も知らない。恥ずかしがる必要はないとすぐに気付く。
「石焼き芋は、サツマイモ……スイートポテトのことよ。異国の野菜で、土から採れるものだから、アレクは知らないと思うけれど……」
落ち着いた声音でそう答えると、秋空のような爽やかなスーツ姿のアレクは「ああ」という表情で答える。
「スイートポテト? 王宮の温室で栽培していたよ。珍しい作物だと聞いている。表面が赤カブみたいな色をしていて、驚いた記憶があるけど……あれは食べられるの、クリスティ?」
これを聞いた瞬間。
夢のまた夢だと思っていた石焼き芋が食べられるかもしれない可能性に気づき、私は力強くアレクにお願いすることになる。
「アレク、そのスイートポテトをこの辺境伯領に届けて欲しいの! 難しい……かしら?」
うるうる上目遣いでアレクを見上げると、彼は金髪を揺らし、空よりも碧い瞳を輝かせる。
「クリスティがそんなふうにおねだりなんて……とても珍しいことだ。スイートポテト、王宮の温室にあるもの、全てここへ届けさせよう!」
こうして私はまさかのこの世界で、スイートポテトことサツマイモを手にいれることになった。
◇
木箱の中で藁に包まれ到着したサツマイモ……スイートポテトを見た父親は私に尋ねる。
「どこか土の香りも残るこれをクリスティは食べたいのかい?」
「はい! 王宮の温室からアレクが取り寄せてくれたもので、その……地中に生えているものですが、実は火を通すとホクホクになり、大変美味なんですよ、お父様!」
「……父さんはこのスイートポテトを初めて見たが、クリスティは……見たところではない。食べたことがあるのかい?」
これには「しまったーっ!」と思う。食べたことがあるが、それは前世でのこと。そこで苦し気に「そ、その、ぶ、文献で……図書館の文献で、そんなふうに書かれていたんですっ!」と答えることになる。
「師匠。僕も文献で見たことがあります。東方の国々で食べられているそうですよ」
そう言ってアレクは見事なウィンクをする。
アレク……! ナイス、アシスト!
もう心の中でアレクに大感謝することになる。しかも父親は「なるほど」と、納得してくれたのだ!
こうして私はついに石焼き芋を作って食べる機会を持つことになる。
「クリスティ、本当にこれを食べるの?」
母親にも聞かれたが「はい! ちゃんと洗いますし、皮を剥いていただくので、大丈夫ですよ!」と説得し、料理人に頼み、フライパンに石を敷き詰めてもらう。
「石を温め、じっくりと火を通します」
火が通るのに三十分から一時間はかかるので、その間はお茶を飲み待機となる。その時間を使い、私は文献で見たということで、サツマイモを使った美味しいレシピを沢山紹介。地中のものと、食べないのは勿体ないことを思いっきりアピールする。
「話を聞くと、スイートポテトのフリットが美味しそうだな。なんというかビールにも合いそうな気がする」
お父様、それは正解です!と私は心の中で拍手喝采!
サツマイモの天ぷらは最高たわ! そのままでもいいし、天つゆでも塩を軽くふっても、どちらでもいけてしまう。
「僕はスイートポテトで作るクロケットが気になるかな。揚げ立てをぜひ食べて見たくなる」
アレク、それまた絶品よ!と心の中で大絶賛!
サツマイモのコロッケは、ほんのり甘くてソースと絡むとしょっぱさも加わり、実に美味しいのだ。
「私はスイートポテトのスイーツが気になるわ。お砂糖たっぷりで甘そうね」
母親のハートをつかんだのは、まんまスイートポテト!
たっぷりのバターと砂糖で作るスイートポテトは……普通にこの世界で受け入れられると思う。
「今回は量が限られているので、石焼き芋ですが、来年は……フリット、クロケット、スイーツ、挑戦したいですね!」
と私が〆たところで石焼き芋が完成した。
アツアツを軍手を使い、皮を剥き、父親、母親、アレクの前に置かれたお皿に盛りつけてもらう。
さすがに手掴みを勧めることはできないので、ナイフとフォークで実にお上品に石焼き芋を召し上がってもらったが……。
「なんと! 見た目の黄金色からして、魅惑的だったが、食べて見るとこの旨さ! 驚いた」とお父様!
「とっても甘いわ! もうこれだけでスイーツみたいだわ」とお母様!
「これは……王宮の温室で育てていると知っていたのに……これまで食べていなかったことを後悔するしかないな」とアレク。
つまりはみんな、石焼き芋を気に入ってくれたのだ!
「殿下、このスイートポテトの種を分けていただくことは?」
「師匠、スイートポテトは種ではなく、つる(茎)で育てるそうです。スイートポテトをそのまま地中に埋めると、つるが出るので、それでどんどん増やせるかと」
両親が気に入ることで辺境伯邸の温室でも、なんとサツマイモが育てられることになったのだ……!
「クリスティ、温室だから、春にはまた、スイートポテトを食べられるよ」
ニコニコ笑顔でアレクにそう言われ、私は……。
来年の春は「花より団子」ならぬ、「花よりサツマイモ」になりそうね!と微笑むのだった。
お読みいただき、ありがとうございます~!
読者様の応援のおかげで本作、紙書籍&電子のコミカライズ化決定しました☆彡
本当に、本当に、ありがとうございます!














