【新春特別更新】みんなで迎えるニューイヤー
ニューイヤーは前世と同じでこの世界でも、とても特別なもの。
本来であれば、アレクは王都へ戻る必要があった。
ジュリアスも学院がホリデーシーズンの休暇に入ると、母国へ戻っている。
でもアレクは王都へ戻らず、この辺境伯領に残ってくれた。
それは……いずれ結婚したら王都でニューイヤーは何度でも迎えることになる。
だがこの地でニューイヤーを迎えることができるのは……。
何よりも父親の気持ちを汲んでくれたのだと思う。
こうして。
私達家族とアレクはニューイヤーをアイゼン辺境伯領で迎えたのだ!
カウントダウンイベントは、街の時計塔広場で行われた。
それは毎年のように参加しているが、領民全員大集合というぐらいで盛り上がる。
特に0時の鐘に向けてのカウントダウンは、皆で声をあわせ、その声が広場に響き渡り……鐘が鳴ると同時に拍手喝采で、近くにいる人とハグやチークキスでお祝い。
私もアレクとハグを……と思ったら、父親が私を先にハグ。
これには母親は「あらあら」と笑い、アレクは心得た表情で静観していた。
そして迎えた新年は、大晦日の夜更かしもあり、お昼前から行動開始。
空色のドレスに着替えると、ダイニングルームへ向かう。
そこには明るいグレーのスーツを着た父親、アイボリーのドレス姿の母親。
そして……セレストブルーのセットアップのアレク!
晴天で迎えたニューイヤーに、ピッタリの装いのアレクの姿に「眼福、眼福」と微笑んでしまう。
ということで着席して、豪華な食事スタート!と行きたいところなのですが。
使用人の半分もお休みなので、冷製料理が多くなってしまうのは、ニューイヤーでならでは。
それでも温かいスープがあれば十分!
夜は昼間より豪華になるので、そちらへ期待だ。
そんな食事の後、私はある物を用意していたので、それを披露する。
「クリスティ、これはもしや30日に僕を一人にして『内緒にして』と言って作っていたもの?」
ア、アレク、何気に子犬のような表情で“僕を一人にして”と可愛らしく抗議している。
そう、これをサプライズで用意したかったので、私と一緒に読書タイムを過ごせると思ったアレクの誘いを断ってしまったのだ。その時は一瞬悲しそうな顔をしたけど「分かったよ、クリスティ」と言っていたが。本心では私と一緒にいたくて、いたくて、たまらなかったのね……!
そう思うと何だかアレクが本当に子犬に見えてしまい、思いっきりぎゅっとして、「よし、よし」と言いたくなってしまう。
そこで父親の目線を感じ、慌てて咳払いをして説明する。
「これはですね、東方で有名な『おみくじ』というもので、文献で見つけて作ってみました。運勢を占うもので、大吉、吉、中吉、小吉、末吉、凶があって、一番ラッキーなのが大吉、一番悪いのが凶です。どれを引くかで、今年一年間の運勢を占います。ですが素人の私が作ったもの。どんな結果でもあまり気にせず、ゲーム感覚で楽しんでください。引いたおみくじには運気向上としてのアドバイスも書いてみたので、悪いくじでもめげずにまいりましょう!」
こうしてみんなが、壺の中に入れたおみくじを引く。
沢山作ったので、両親やアレク以外も、使用人のみんなも引いて「すごいわ! ダイキチが出ました!」「私はスエキチよ。でも今日、アーモンドを食べたら運気が上がるみたい」と大いに盛り上がってくれる。
「わたしはダイキチだった。運気向上は『二人きりのデートを楽しむ』」
「まあ、あなた。それならば私と、たまには二人きりデートしましょう!」
「! そんな子供たちの前で……」「デートしようと言っただけなのに」
本当はアレクに引いてもらいたい大吉を、父親がひいていた。でも大吉もいくつか作っているので、アレクは大吉をひいているかもしれない。
「アレクは何でしたか? 私は残念ながら中吉。でも好きな人とクッキーを食べると運気向上……アレク、私とクッキーを食べましょう」
「う、うん、そうだね。そうしよう。早速だけどクッキーを取りに行こうか」
両親はなんだか珍しくラブラブな雰囲気になっているので、アレクにエスコートされ、そのままダイニングルームを出て厨房へ向かう。
だがしかし。
私をエスコートして歩くアレクは、なんだか元気がない。
これはもしや……凶をひいてしまったのかしら!?
今回、楽しくゲーム感覚で盛り上がりたいと思ったので、大吉を沢山、凶は一枚しか用意していなかった。それをよりにもよってアレクが引いたなら……。
「アレク、もし凶を引いたなら、木に結わきつける方法があるの。それをすれば、悪運を自分から離すことができる……と一説では言われているらしいから」
「違うんだ、クリスティ。おみくじは『ダイキチ』だった」
!? それなのになぜ元気がないのかしら?
「『願望、早晩叶うも苦労多し』と書かれていたから……僕の一番の願いは、クリスティと結ばれることなのに。苦労が多く、叶わないって……」
「! アレク、違うわ。願望は叶うの! 苦労は……多い。実際、アレクは苦労しているわよね? 私のお父様がいろいろ心配するから。つまりお父様が心配することで、アレクは少し大変かもしれないけど、願いは叶うから、大丈夫よ!」
「なんだ、そうだったんだね。それを聞けて安心したよ。東方の運勢の表現は難しいね」
これには「あははは」と笑うしかない。
でも本当に。
これはアレクの言う通りだと思う。
大吉を引いているのに「病は快方に向かうも、油断禁物」とか「商売繁盛、ただし時を待て」と書かれていると、「油断禁物」「待て」に目がいってしまう。ポジティブなことが書かれているはずなのに、ネガティブなメッセージのように受け取ってしまうことが、あると思うのだ。
ついよくあるおみくじの文面を使ってしまったけど……。
アレクを混乱させてしまった。
でも。
アレクの一番の願い。それは私と結ばれることなんだ。
えへへへ。それは嬉しい。
思わずはにかみ笑いをすると、アレクが立ち止まり、「クリスティ」と私の名を呼ぶ。
見つめ合い、なんだかいい雰囲気になった瞬間。
「殿下、クリスティ!」
父親の声が聞こえてくる。
どうやら今年もお父様は私のこと、沢山心配してくれそうです!
お読みいただき、ありがとうございました~
おみくじあるあるで特別更新しちゃいました。
久しぶりに会えたお父様とお母様、アレク、そしてクリスティを読者様がお楽しみいただけたら幸いです♪
ちなみに久しぶりの更新なので、ページ下部の新作リンクバナーを見ていただくと、知らない作品も沢山あるかもしれません。良かったら年始のお休みで読んでみてくださいね☆彡