94話:これで決着です
このままヒロインが悪役令嬢の代わりに断頭台送りで終了――なのだろうか?
私はそうは思わない。
私が断罪回避のために動いたように。
ヒロインは自身の定めに従い、アレクの心を手に入れようとした。
例え二度の人生で、私を断頭台送りにしたきっかけが、ヒロインだったとしても。
三度目のループのこの世界で、私の代わりに消えてもらうことが正解とは思えなかった。
とはいえ、無傷で済むわけがない。
なんとか復活した私は、アレクのサポートを得て、テストを乗り越えた。
そのテスト結果が出て、ホリデーシーズンが始まる頃、階段事件の決着もつく。
ポンネットの父親であるフィーリス侯爵は、爵位を剥奪され、鉱山での強制労働を命じられた。
ヒロインであるポンネットもただの平民となり、無期懲役で監獄に収監されている。
辺境伯領内で起きた事件。
その裁きは、辺境伯である私の父親がつけることができた。
国王もアレクも、一族郎党断頭台送りにするべきだと父親に伝えている。
だが父親は私の意向を汲み、刑を決めてくれたのだ。
爵位の剥奪の権限は国王にあるため、刑の内容を伝え、国王が許可。
爵位を剥奪した。
ポンネットが収監された監獄は、ノースクロス連山の麓にあり、豪雪地帯で知られている。強制労働に就くわけではないが、寒さで震え、厳しい日々を過ごすことになるだろう。
この決着が新聞を賑わせた週末の日曜日。
アレクが屋敷を訪ねてくれた。
十二月とは思えない程、陽気が良かったので、庭園のガゼボにスイーツとお茶を用意し、アレクを案内した。
ライラック色のドレスを着て、髪には子どものアレクがプレゼントしてくれた碧い宝石の髪飾り。同じく碧い宝石のついたネックレスとイヤリングもつけている。
一方、スカイブルーのセットアップ姿のアレクは、席に着くと、しみじみと話し出した。
「でも本当に驚いたよ。まさかあのフィーリス嬢がこんな恐ろしいことをするとは。あんな危機的な状況だったのに、クリスティが無事だったのは奇跡だと思う」
そこで私はメイドに合図を送り、ティーカップに紅茶を淹れてもらう。
「しかしクリスティの父君には一生頭が上がらないな。あそこは僕がクリスティを助けたいところだった。それなのに僕は騎士に体を押さえられ、掴めなかった君のことを絶望的に見ていることしかできなかったのだから……。やはり僕はヒーローにはなれないな」
アレクがヒーローになれない理由。
それは悪役令嬢である私とラブラブだからだ。
もしもアレクが完璧ヒーローだったら……。
有無を言わさず、権力を使い、私と婚約していただろう。
そしてヒロインと出会い、間違いなく、恋に落ち、私を断罪した。
そう、断頭台送りにしたはずだ。
それこそが、ゲーム由来の完璧王太子のアレクだったはずなのだから。
三度目のループの人生。
生きたいと願い、母親が生きることを願い、父親に愛されたいと願った。
そのために断罪回避行動を赤ん坊から行ったのだ。
その結果、王太子攻略ルートは、本来の世界観から変わってしまった。
アレクが完璧王太子のはずなのに、どこかヒーローっぽくないのもそのせいだろう。
幼い頃、本来会うはずのない私と出会ってしまった。未熟だった時に私に会ったことで、アレクは私を尊敬し、恋に落ちてしまったのだ。
だからこそ、今がある。
私を大切に思うから、有無を言わさず婚約しようとはしなかった。
自分に私の気持ちが向いてから、婚約しようと歩み寄ってくれた。
しかも絶対に他の令嬢になびかないための、婚約契約書まで用意してくれたのだ。
そしてヒロインであるポンネットに出会っても、一切その決意が変わることはなかった。
私はヒーローっぽくない、でも私だけを溺愛してくれるアレクで十分。
それに……。
「私からしますと、アレク王太子殿下は十分にヒーローですよ。何よりも濁流渦巻く川に落ちたお父様を、見つけ出してくれました。それに常に私を支え、こうやって好きでいてくださるのです。十分ですよ」
ロイヤルミルクティーをゆっくり口へ運ぶ。
「クリスティ……」
見つめ合ったアレクの手が、私の手に重なる。
椅子は対面ではなく、隣り合うにように配置していた。
だからアレクと私の距離は近い。
離れた場所にメイドと護衛の騎士はいる。
それでも二人きりに限りなく近い。その上、距離が近いとなれば……。
何か動きがないか。
つい、目が泳いでしまう。
それを見て、アレクが笑い出す。
「二十歳までまだ時間がある。でも二十歳になったらすぐに結婚式を挙げよう。卒業したら、結婚式の準備だ。そうしている間に、あっという間に時間が流れる。結婚したらもう、何をしても邪魔をされないはずだから……」
アレクが私の髪をひと房つかみ、優しくキスをする。
ドキッとした時、ガサッと音がして、ドキンと心臓が飛び跳ねた。
「で、殿下! 結婚したからといって、人前でイチャイチャすることはなりません! 殿下は王太子という立場なのですから、そこは自覚いただいて――」
頭に葉っぱを載せた父親が登場しても、もはや驚くことはない。
アレクと私が二人きりの時。
離れた場所に護衛騎士、そして過保護な父親がどこかで見守っている。
それはもう私にとってはデフォルト。
アレクも慣れっこになっている。
むしろピンチの時に大活躍してくれるお父様が、私は本当に大好き!
それに……。
アレクと結婚したら、私は王都で暮らすことになる。
だが父親は母親と共に、アイゼン辺境伯領で暮らし続けるのだ。
つまり、二十歳になり、アレクと結婚すれば。
両親とは離れ離れになってしまう。
だから今だけは。
存分に過保護になってくださいね、お父様!
お読みいただき、ありがとうございました~!
乙女ゲームの悪役令嬢設定に縛られるクリスティの人生も、ここでようやくひと段落!
読者様がお楽しみいただけなら、幸いです☆彡
クリスティ、アレク。
過保護なお父様と優しいお母様。
デュークやジュリアス。
キートンとアデラ。
この物語で時に笑いを、涙を届けてくれた彼らに、また会いたいと思っていただけたら。
いいね!や感想、ページ下部の『☆☆☆☆☆』で評価をいただけると幸いです!
また彼らに会える日が来るかも……?
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