84話:素敵なお茶会を
いよいよ課外授業当日。
珍しい茶葉が手に入った。
落雁やごま団子もゲットした。
我が家のパティシエは、美味しいアーモンドクッキーとエッグタルトを用意してくれたのだ。さらにテーブルクロス、ティーセットなどもデパートメントストアでお茶に合わせたデザインのものを購入している。
つまり準備万端。
あとは会場でセッティングをすればいい!
ただ、今日は朝から登校する必要はなく、ホストの女子はティータイム開始の約一時間前に登校し、準備を進める。制服ではなく、ティーガウンで向かうことになっていた。
今回は明るいレモンイエローのティーガウンを選んでいる。金糸による刺繍と上質なレースがあしらわれた素敵なデザインだ。
ちなみに今朝もいつも通り、アレクとデューク、それにジュリアスも剣術の練習に参加している。狩りではとどめをさす際に剣を使うので、ジュリアスもちょっとした肩慣らしをしたかったのだろう。
よって朝食には花恋の攻略対象男子が勢揃いし、私達家族と食事を楽しんだ。
「なんだか一気に三人も息子ができたみたいで、嬉しいわ」
母親はご機嫌だった。
朝食の後、普段ならすぐに学校へ向かうが今日は違う。
アレク達は狩りの準備に追われ、いつもの登校時間より二時間遅れで屋敷を出ることになった。
ローズ色のドレスを着た私は見送りのため、エントランスに出ていた。
「ではクリスティ、先に出発するよ。できれば僕のチームで手に入れた鹿を、クリスティに贈ることができるといいのだけど」
白シャツに厚手のベストを着て、腕や胸を防護するためのガードを装備。
さらにライトブルーのマントとズボン、足には革のロングブーツ。
腰には剣を帯び、背には弓矢と、完璧な狩りの装備のアレクは、馬に乗る前、私に声をかけてくれた。
「そうね。そうなるといいわ。くれぐれも怪我のないように頑張ってください!」
「ありがとう、クリスティ」
スマートにアレクが馬に乗り、同じような装備のデュークやジュリアスも騎乗の人になった。デュークは薄いピンクのマントと同色のズボン、ジュリアスは白のマントに明るいグレーのズボンと、森の中へ入るため、暗い濃い色を避けた服装をしている。
「「「では行ってきます!」」」
三人が声を揃える。
「「「いってらっしゃいませ!」」」
両親と使用人と共に三人を見送った。
男子は一足先に学院の敷地内の森に入り、狩猟をスタートさせることになっている。なぜなら敷地内とはいえ、あの森林エリアは想像以上に広いので、狩りにも時間がかかるためだ。
私はというと、お茶会のマナー本に目を通し、完璧なお茶会のホストを目指す。
そして昼食の後、ティーガウンに着替えると、ティーセットや三段スタンド、スイーツなどを入れた木箱を馬車に乗せ、いよいよ出発だ。
「クリスティ、頑張ってね」
「気を付けるんだぞ、クリスティ」
両親に見送られ、屋敷を出発。
学院に着くと、そのまま庭園エリアまで馬車道を向かって行く。
広大な敷地には、馬車が通れるような道もちゃんと整備されていた。
馬車止めには既に沢山の馬車が止まり、荷下ろしをしている。
私も馬車を降りると、従者や同乗していたメイドと共に、まずは荷物を馬車から下ろす。そしてお茶会エリアへ運ぶ。そこからはセッティングがスタートだ。
今日は、初冬とは思えない程、陽射しが温かい。
念のための人数分のひざ掛けも用意したが、もしかしたらいらないかもしれなかった。
「スイーツ類は乾燥してしまうから、盛り付けはギリギリまで待ってね」
「かしこまりました。お嬢様」
順調に準備を進めていると、いずれかの令嬢のメイドから、憚るように声をかけられた。
「お父様がいらしているようですよ」
!?
今日、父親が学院に来るとは聞いていない!
もしやまた見守りに来ているの!?
お茶会の場には女生徒しかいない。
男子生徒が狩った鹿のご褒美の授与式があるが、その時は全生徒が集合する。
父親が心配するような、アレクと二人きりには絶対にならないのに!
でも過保護な父親であると分かっている。
今のこの状況は想定内と言えば、想定内。
とはいえ、前2度のループでは、父親の関心は私になかったのだ。
ここまで関心を持ってもらえるのは、奇跡に等しい。
ともかくそのメイドに御礼を言い、父親がいるという森の少し奥の方へ向かうことにした。
お茶会の準備をしている最中から感じているが、森林浴ができているおかげか、気分がいい。紅葉している木々も多いが、常緑樹もあり、そちらは艶やかな葉を茂らせている。
鼻歌をハミングし、辺りを見渡す。
この辺りに父親はいると聞いたのだけど……。
そこはキツツキのための木箱が設置されている場所で、ランドマークとして分かりやすい場所だった。
しばらく辺りを窺うが、父親は見つからない。
きっと隠れたのね。仕方ない。
そこでお茶会の会場に戻り、準備を再開させた。
「そろそろ招待客役の女生徒が来る時間だわ」
「そうですね、お嬢様。こちらの準備は完了です」
準備を手伝ってくれたメイドとそんな会話をしていると、ティーガウンを着た女生徒たちがぞろぞろ現れる。
「!」
真紅のティーガウンを着たポンネットの姿も見えた。
「アイゼン辺境伯令嬢、こんにちは! 今日はお茶会へご招待くださり、ありがとうございます!」
「アデラ! ようこそお越しくださいました」
お互いにカーテシーで挨拶をした。
チラッと見ると、マナーの外部講師もやって来ている。
次々に私の招待客となる女生徒が来て、挨拶タイムが続いていたが……。
招待客の生徒の登場で、ざわざわしているのとは違う喧騒を感じる。
「何かあったのですかね?」
アデラが首を傾げる。私も「何かしら?」と思いながら応じる。
「そうね。森の奥の方が騒然としているように思えるわ」
アデラや他の女生徒と共に心配していると……なんと父親が現れた!
やっぱりお父様、来ていたのね!
どうして、お父様、ここに!?
あ、もしかして。
狩猟で王太子が怪我をすると大変だからと、見守っていたのでは?
「クリスティ!」
父親はキョロキョロしていたが、私を見つけると副官などの部下を連れ、こちらへと駆けてくる。父親を見ると同時に副官を見ると、バツの悪そうな表情に変わった。
なるほど。
これはアレクの心配もしつつも、やはり私を心配してくれていたのね。
「お父様、どうしてここへ?」
「クリスティ、落ち着いて聞くんだ。鹿狩りでアクシデントが発生した。突然、狂暴化した鹿が現れ、同級生を庇ったアレク王太子殿下が怪我をされた」