83話:課外授業の準備
学院祭が終わり、次のテストまで時間がある。
ただ、この世界が貴族社会ゆえの、前世の高校生にはない授業がある。
それは秋の課外授業!
男子は狩り、女子は紅葉を愛でるという授業があるのだ。
学院の敷地内の森林エリアには、鹿が放たれる。
男子はその鹿を狩るのだ。
一方の女子は、同じく森林エリアの一角で、社交レッスンを兼ねたお茶会を行う。
お茶会を行う。
すなわちお茶会のホストとなる女生徒は、これぞという茶葉を選び、スイーツを用意し、会場をセッティングする。そしてお茶会に参加する女生徒をもてなす。
ホストも招待される側も、伝統的なマナーにのっとり、行動することができているか。外部から招待されたマナー教師が細部までチェックするのだ。
ちなみに男子生徒の鹿狩りは、チーム単位で行う。
時間制限もあるので、一つのチームで、一頭の鹿を狩ることができれば上々。そしてここで狩ることができた鹿は、お茶会のホストを務める令嬢へプレゼントされる仕組みになっていた。
なぜならお茶会で一番負担が大きいのは、ホストとなる女生徒。そこで狩猟狩りで男子生徒が獲得した獲物をプレゼントしてもらえるというご褒美があるというわけだ。
そして私はホストに選ばれている。
これぞという茶葉とスイーツを用意することになった。
「クリスティ。これから茶葉専門店に行くつもり?」
「どうするか考えたのだけど、まずはデパートメントストアに行こうと思うの。そこだと、茶葉専門店とはまた違う商品を確保するルートを持っているから、思いがけない掘り出し物の茶葉と出会えるかもしれないと思って」
茶葉の交易相手国はお決まりになっていた。安定供給を目指し、定番の茶葉が確実に手に入るのが、茶葉専門店だった。対するデパートメントストアでは、シルクやスパイスなど様々な商品を扱う。複数の交易ルートを持ち、そこから思いがけない発見もあった。
まだこの国の多くが飲んだことがない茶葉がいち早く手に入るとしたら、デパートメントストアだと私は思ったのだ。
そこでアレクと一緒に放課後、街にあるデパートメントストアへ向かうことにしたのだ。
「いらっしゃいませ、アイゼン辺境伯令嬢。そして……あっ、王太子殿下!」
デパートメントストアの担当者はアレクがいると分かると、顔色が変わる。すぐに支配人を呼び、「必要な物がございましたら、なんでもお申し付けくださいませ! そしてよければこちら、婚約祝いにどうぞ!」と、婚約記念で発売されたティーセット一式と焼き菓子の詰め合わせをプレゼントしてくれる。
「今日は、珍しい茶葉がないか探しに来ました。学院でお茶会の課外授業があるんです」
私が切り出すと、支配人は「!」となり、笑顔になる。
「アイゼン高等学院の学校行事は把握しております。我々の売り上げにも大きく関わりますから。ですがお茶会で当店を訪れていただくのは、アイゼン辺境伯令嬢が初めてです。なぜ私共に目をつけていただいたのでしょう」
そこで私は複数の交易ルートを持つことで、珍しい茶葉を発見しているのではないか。そこに期待して来たのだと打ち明ける。すると……。
「さすがアイゼン辺境伯令嬢です。実は……ございます! 当店で間もなくフェアを行う予定だった“東方フェア”で出すつもりだった茶葉があるんです!」
最近、東方からの輸入品が人気だった。そこで支配人は東方からの輸入品、シルク、茶器、陶磁器、絵画、壺などを集め、さらに茶葉についてもフェアで紹介するつもりでいた。
「こちらがまだ店頭に出していない茶葉です。ウラジロガシ茶です」
茶葉が入っている缶を開けると、乾燥した葉に樹木の欠片のようなものが混ざっている。
「試飲されますか?」
「ぜひお願いします!」
こうして出されたウラジロガシ茶は……。
これは紅茶ではなく、お茶だ!
まずはストレートで一口。
あっさり……うん! 後味に独特の風味があるわ!
私の表情を見て支配人はこんなことを教えてくれる。
「薄色ですが、これでも味がしっかり出ています。蜂蜜を加えることで、後味に感じるえぐみもおさまり、飲みやすいですよ」
「クリスティ、蜂蜜を入れてみたら?」
「ええ、そうするわ」
言われた通りに蜂蜜を加え、飲んでみると……飲みやすい!
深みのある香りもいいと思う。
「実はこのウラジロガシ茶に合うスイーツも合わせて販売を考えておりまして、今、ご用意させます」
支配人がそう言って用意してくれたのは……ごま団子、舶来品の落雁、アーモンドクッキー、エッグタルト。
「この落雁だけ、東方フェアのために用意したのですが、他は当店で通常販売しているものです。ただ、こういう組み合わせで提供したことはないので、斬新に感じていただけると思います。まずは召し上がってみてください」
試してみたが、ウラジロガシ茶に蜂蜜を入れるので、過度に甘すぎない落雁、アーモンドクッキー、エッグタルトはよく合う。ごま団子は珍しさもあり、特にいいと思った。
「クリスティ、感想は? その顔を見ると、決定、かな?」
アレクがサラリとブロンドの髪を揺らして尋ねる。
「ええ、これで決定だわ。ウラジロガシ茶とスイーツの数々。茶葉は勿論、舶来品の落雁、ごま団子は購入するわ。アーモンドクッキーとエッグタルトは、我が家のパティシエでも作れます。市販品ばかりではなく、自家製のスイーツも用意したいから……支配人、ごめんなさいね」
「いえいえ。当店ではすべてをプレゼントしたいぐらいです」
「それは困ります! きちんとお支払いします!」
こうしてお茶会の準備は万全だった。
これで問題なくお茶会をできると思ったのだけど……。






















































